CFM「空中分解」 #1378の修正
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副題:「薄野物語」(後編) PART−4 [狭山良介の回想」 昔、愛し合ってる男と女がいた。 二人とも若かった。 だから、馬鹿な事も真剣に出来た。 お互いに同じ物を彫ったんだ。 (と、良介は二の腕の蛇の刺青を苦笑しながら見せた) 私は、シェフを目指していた。 なれると思っていた。 一流に。 フランスにも留学した。 当時は新進気鋭の料理人として、話題になったこともある。 が、それも一時の夢だとわかった。 あの日の事故・・・。 (良介は遠くを見る眼になった) あの日、私は急に彼女に会いたくなった。 (彼女とは、君のお母さんの事だよと、良介は言った) 彼女とは結婚するつもりだった。 (良介は、苦痛に充ちた顔になった) 夜。 激しい雨。 なんでそんな日を選んでしまったのか。 いまでもわからない。 「逢いたい」 「今日は、雨が降ってるから」 電話で彼女はそういった。 彼女を無理矢理説得し、私は彼女の住むマンションへ車を飛ばした。 老女が飛び出してきた。 どうして、そこにいたのか分からない。 急ブレ−キ。 老女を避ける。 思い切り私は頭をぶつけた。 幸いその時はなんでもなかったと思った。 ただ一つの後遺症を除いては。 マンションで彼女はカレ−ライスをつくってくれた。 シェフになるあなたには、口にあわないかも。 はにかみながら、彼女はそう言った。 ああ、何という事だ。 一口カレ−を食べた私は全身から血の気が引いた。 味が分からない! 匂いがしない! 味覚と、嗅覚を失っていたのだった。 料理人の命である、味覚と、嗅覚を。 PART−5 「その時以来、恭子さんには会っていない」 「・・・・」 「どうした、笑ってくれないのか。この哀れなシェフ崩れを」 「忘れられないのね、母を」 「いや、忘れていた。死んでしまう迄はね」 「母は忘れていなかったと思う。あなたのこと」 「どうしてそんな事分かる」 良介は、自嘲するような調子で言った。 「私、あなたの腕にある蛇の形の刺青を見たことがある。母の太股にね。幼い 頃、お風呂でこれな−にって母に言ったら、あなたが大きくなったら話してあ げるって。とても悲しそうだった」 「だから?」 「そんなに悲しいって事は、母の心の奥底にあなたがいたって事じゃないかし ら?」 「そういってくれるのは嬉しいが、つらくなる。」 良介は、スタンウェィから離れると、ソファに座っている理恵の方に向き直っ た。 「でも、私は高校生の君が思っているほど純粋じゃない。いろいろな女性と付 き合ってきたんだよ」 「忘れないで欲しいんです、母を」 「無理だ、と思う。今は悲しんでいるが、きっと忘れてしまう」 「いいんです。ずっとじゃなくて、出来るだけで」 「優しいんだな、君は。誰に対しても」 「お願いがあります」 「なんでもいってくれ」 理恵は、迷っていた。 「いいから、言ってくれ。出来ることなら何でもしよう」 「私の作ったカレ−ライスを明日食べて下さい」 「カレ−ライスを?」 「母に作り方を教わったカレ−ライスです」 「わかった、喜んで食べよう」 良介は、にっこりと笑った。 ** END OF STORY **
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