CFM「空中分解」 #1347の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(3) ヒーターとエアーポンプを奪われて、水槽の中は真冬の寒さと、酸欠状態で最悪 の環境になった。 もっと手っとり早い殺し方はいくらでもあったが、熱帯魚がだんだんと弱ってい く過程を残酷に観察できるこの方法を選んだ。 二日目の夜、熱帯魚たちは水槽の底の方でじっとして動かない。水温が下がった ので活動がにぶくなったのだろうか。 元気がないせいなのか、いつものきらきらした美しさはなかった。 (そうか、蛍光灯がついていないからだわ) 美佐子は蛍光灯のプラグをコンセントに差し込み、スイッチをいれた。水槽の上 部に取り付けられた蛍光灯が、二、三度瞬いてついた。 そして部屋の入口まで行って、壁のスイッチをきった。照明が消えて居間の中は 暗闇になった。その中で水槽だけが青白く浮かび上がる。 哲夫にこの熱帯魚の名前を尋ねたことがあった。哲夫は、ぶっきらぼうに、それ でも「ネオンテトラ」というその名前を教えてくれた。あまりにもぴったりのネー ミングに感心した覚えがある。 いま、体長4センチほどの小さな熱帯魚たちはその名前の通り、蛍光灯の光を反 射して青と赤の身体をきらめかせていた。 (死にかけていても、美しさは変わらないのね……) それは、残酷なつぶやきだった。 そして三日目の朝、小さな化身たちは腹を見せて、水面にぷかぷかと浮いていた。 美佐子は熱帯魚たちの正確な数を確認してから、その死骸を庭先に埋めた。 それからが忙しかった。外出着に着替えて、家を出る。街まで出て、熱帯魚の専 門店へ行く。店先のウインドーにはたくさんの水槽が並んでいる。 目指す水槽はすぐに見つかった。入口の一番手前だ。たぶん、最も安価でポピュ ラーな種類なのだろう。名前は書いてなかったが、美佐子には一目でわかった。何 しろ、特徴的な蛍光色の輝きをもった青と赤だ。 「あの、これ二十匹ください」 美佐子は店員を呼んでいった。 「はい。水槽や他の道具などはよろしいですか?」 店員は商売気を出して尋ねる。 「ううん、いいの。空いてる水槽があって、道具も全部揃ってるのよ。これと同じ のを飼ってたんだけど、なぜだか一度に全部死んじゃって……」 「どうしてでしょうねえ。この種類は比較的飼いやすいんですけどね」 店員はそう言いながら器用に熱帯魚をすくい上げ、水の入った丈夫そうなビニー ル袋に入れて行った。 美佐子は家に帰ると、さっそく買ってきた熱帯魚を水槽に放した。 居間の中の様子は昨日までとまったく変わりないように見えた。 だが確かに、昨日まで彼女を苦しめ続けた恭子の存在は、そこから消え失せてい た。 美佐子はやっと安心したように、ソファに座り込んだ。 翌日、スキーから帰ってきた哲夫は何も気が付かなかったようで、以前と変わり なく熱帯魚の世話をしていた。ただ、それ以来、妙にはしゃいでいるかと思うと急 にふさぎ込んだり、何かをじっと考えていることもあった。 そして、美佐子に 「ねえ、美佐子さんの一番大事な宝物はなあに?」 などと、唐突な質問をする。 いつも必要最低限の会話しかしない哲夫がこんな質問をしてくると、美佐子は妙 に戸惑ってしまうのだが、これも二人の間にあった壁をとっぱらった成果だとも思 えた。 「そう、お父さんと哲夫君。それからお腹の赤ちゃん」 美佐子はそう答えた。 「三つも答えちゃだめだよ。お父さんと僕と赤ちゃんと、その中では誰が一番大事 なの?」 「だって、三人とも……ああ、そうだわ。一つっていうのなら『私の家族』って答 えるわ。これならいいでしょう」 「もう、いいよ。どうせ赤ちゃんに決まってるんだから……」 そう、ふてくされたように言った哲夫をみたとき、美佐子はなんとなく胸の中が 暖かくなった。ひょっとしてこれはジェラシーなんだろうか。哲夫は赤ちゃんに対 してやきもちをやいているのかもしれない。 (これからは、何もかもうまく行くに違いないわ) 美佐子は自分に言い聞かせるように、心の中で呟いていた。
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