CFM「空中分解」 #1324の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(3)グリーン・アイ 大きな屋敷だった。大きいということを表現するのは骨が折れる。何メートルと言 っても人間には理解しずらい。 屋敷の正門から玄関までの距離は、アメラグの競技場を縦に二つほども並べたほど ある。そこには細長い泉水があり、ちょっとした川が流れている。 しかし、それは森や湖を擁する屋敷全体のほんの一部を紹介したに過ぎない。 ピーク城と呼ぶ方が相応しいピーク邸の主のアントン・ピーク氏は、PRM社(パ シィフィック・レアメタル)の社長である。 ピーク氏は、若い頃、おんぼろサルベージ潜水挺一隻から身を起こし、現在の地位 と財産を築いたのである。 現代でも稀少金属であるニッケル、コバルト、安価で良質の海底マンガン団塊など の採掘を行っているのが、PRM社である。 このPRM社が採掘権を所有するレアメタル鉱山は、太平洋全域に広がっていると 言われている。だが、鉱山の正確な位置は極秘事項になっており、PRM社のごく一 部の者しか知らないのだという。 おりしも、ピーク邸の玄関では二人の男女が執事とおぼしき男と話していた。 「何言ってんのよ! あたし達は、ご主人のアントン・ピークさんの依頼を受けて仕 事してんだよ。依頼された仕事を達成するための条件として、この屋敷内に立ち入る ことは勿論、ご子息の部屋だって入っていいってことになってるのよ! どうして門 前払いなのよ。説明してもらいたいわね!」 ノバァのハスキーな声がドスの効いたダミ声に変わりつつあった。まずい事態だ。 凶暴になったノバァは、僕の手に負えない。カズは心の中で呟いていた。 昔ながらの執事の服装である、白いシャツに黒のフォーマルスーツ、蝶ネクタイと いう五十過ぎの男は、ノバァのグレーの瞳がグリーンになっていく様を茫然と見つめ ていた。 英語では「グリーン・アイ」というのは怒っている場合の俗語だが、そのスラング がノバァにはぴったりと当てはまるのだ。 「大変申し訳ありません。ですが、私共の奥様からシェン様の部屋に誰も入れないよ うにと、きつく言われております。たとえ旦那様のご依頼を受けた方とはいえ、奥様 の見ず知らずの方を、お通しする訳にはいきません」 老執事はキッパリと断った。 背中に針金でも入っているようにピシッと背筋を延ばし、口髭を生やした彼は、執 事というよりもアーミーの准将と言っても通じる程、気迫があった。 カズやノバァごときチンピラに、ピーク家の床を踏ませる訳にはいかないという確 固たる決意が、老執事の言葉から伺える。恐らく彼は殺されても、二人を通すことは ないであろう。 「分かったわよ。それじゃ、奥さんにはお目通り願えるのかしら」 「奥様は、ここのところお身体の具合が良くなく、ふせっておいでです。どなたとも お会いになりません」 「それは、奥様の言葉? それともあなたの独断かしら?」 今や深い緑をたたえたノバァの瞳が、老執事を睨みつけていた。 ショッキングピンクのスリムパンツに包まれた形のいい足を軽く広げ、両手を腰に 当てて仁王立ちしているノバァも、気迫の点では老執事に負けてはいない。 しかし、老執事は白いブラウスを突き破りそうなノバァの胸にも、視線を奪われる ことなく応対した。 「奥様は人の不幸を食い物にする職業がお嫌いです」 「私達がそういう職業だとおっしゃるのですか?」 ノバァの口調が馬鹿丁寧になってきた。彼女の忍耐は既にレッドゾーンだった。 「申し訳ありませんが、今日のところはどうかお引取りください」 執事はノバァの問い詰めを無視した。ノバァの表情が堅くなった。 「何を言ってるんですか。僕達は、ご主人から依頼されたんですよ。息子を捜してく れってね。でも漸く見つけた息子さんに、もうちょっとで丸焼きにされるところだっ たんですよ。このまま、捜査を続けたら命が幾つあっても足りませんね」 ノバァが怒鳴る前にカズが抗議した。このままノバァに話させていると、収拾がつ かなくなることをカズはよく知っていた。 「捜査料金の値上げ交渉ですか?」と老執事。 「違いますよ。もうちょっと情報がないと仕事ができないんです。だからこうして話 を聞きに来たんじゃないですか。僕達は、慈善事業でやってるんじゃありません。我 々のやり方が気に入らないなら、降りてもいいんですよ」 「今度は、サボタージュですかな? 結構です。依頼は別の探偵社にしましょう」 「舐めんじゃないよ、このオジン! あたしを誰だと思ってるんだい!」 馬鹿執事め! 火に油を注いじまったじゃないか。カズは舌打ちした。 「その程度の低級な脅迫では私どもは驚きません。お引取りください」 驕@大きな扉はバタンと閉じた。再び、カズとノバァは外に取り残された。 ノバァの右手がブルブルと震え、腰のベルトに付けた小型のバレンタイン・レーザ ー銃を今にも抜きそうだった。 カズはとっさに、ノバァの腰に抱きついた。 「何すんのよ!」 ビタン! カズの頬にノバァの平手が飛んだ。 「いや、あの、その、とっても可愛いお尻なんで、つい・・・」 バキッ! ガン、ガン、ゴキッ、グシャ、ベシャ、ドシャッ、ピトン。 哀れカズは、二十段はあろうかという大理石の階段を、上から下まで足を使わずに 一気に降りる羽目になったのである。 「ノバァ、僕が運転するよ」 打ち身、捻挫、打撲傷で全身傷だらけのカズは、二人乗りのグレーのスポーツセダ ンに乗ろうとするノバァに話し掛けた。 「どうしてさ!」 「いや、その、ひょっとして考え事したいんじゃないかって・・・」 「いいよ、自分で運転する!」 ノバァはドアを開けると、きっぱりと言い切った。 カズは覚悟を決めると、助手席に乗り込んだ。真先に五点式シートベルトを付ける と、胸の前で十字を切った。 「何の真似だい、カズ」 イグニッションキーをひねったノバァが、真っ白な歯を剥き出していた。 「いや、車に乗る前には必ずお祈りしろってお袋によく言い聞かされたもんで・・」 「フーン」 ノバァが鼻先で笑うと、アクセルを床が抜けるほど踏み込んだ。 スーパーターボの回転数が一気に跳ね上がった。 「ワーーーーーーーーーーーーーーーッ・・・・・・・」 カズの悲鳴を残して車はダッシュした。 −−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−
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