CFM「空中分解」 #1288の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
いよいよ、忘年会を兼ねて秋本氏の全快を祝う日がやってきた。参加者は、 秋本氏の作品の登場人物である。作者と作中の人物とが一緒になって忘年会を やるなどというふざけた話は、前代未聞であるが、秋本氏は既に昨年、「19 87年秋本作品総集篇」でそのふざけたことをやっている。今年も秋本氏が健 在であれば、自ら「1988年秋本作品総集篇」を執筆していたであろうが、 パソコン通信の世界から引退してしまったからにはそれも不可能。 と、誰もが思ったのであるが、天才は不可能を可能にする。死せる秋本は、 生ける山椒魚を走らせ、今年も無事忘年会が開催される運びとなった。但し、 出席者の数は昨年とあまり変わりない。新たに加わるのは、安子、美幸、聡子 という女性シリーズ三部作のヒロインたちだけである。 山椒魚が義理がたく、定刻の15分前に川崎の喫茶店「閑古鳥」に行くと、 既に三人の先客があった。三人とも女性で、お互いに顔みしりではないらしく、 それぞれが離れた席に座り、思いにふけっている。どうやら安子と美幸と聡子 のようであるが、作者ではないからはっきりそうだとは言いきれない。山椒魚 は、片隅の席に座ってさりげなく彼女たちを観察した。 アメリカ煙草VICEROYを吸い、紫色の煙をくゆらせているのはおそら く聡子だろう。ショートカットにした髪からはシャンプーのにおいがほのかに 漂ってくる。彼女の表情には輝きがある。男との愛が進行中で、その愛に不安 や倦怠の影がさしこんでいない幸せな時期にいるのだ。リズムをとるように手 を動かし、メロディを口ずさんでいるように見える。「幸せの中に不幸せがあ るなんて 幸せな連中にしか言えない贅沢 幸せの中に不幸せがあるなんて 幸せな連中にしか言えない快楽」。 買物篭を横に置いている家庭の主婦らしい女性は、美幸に違いない。髪が濡 れているのは、春雨の中を傘もささないで歩いたせいだろう。今は初冬だが、 美幸の思いは20年前の春、白と紫の藤の花が咲き誇っている円宗寺の境内を さまよっている。彼女もまた恋をしているのだ。その恋は、過ぎ去ってしまっ た過去の一点に向かっているが、相手の男が今、この瞬間、この喫茶店に現れ れば、現実の恋として再び燃え上がるだろう。女37歳、危険な年齢。 もう一人のOL風の女性は、落ち着きがない。やたらに煙草を吸いながら、 キョロキョロ店内を見回している。山椒魚の方にもチラと顔を向けたが、山椒 魚がそちらを見るとすぐ目をそらした。その横顔は、男からの誘いの言葉を待 っているが、あんなくたびれた中年男ではどうしょうもない、と言っているよ うに見える。すると、この女性は安子か。昨夜は、渋谷で遅くまで飲んだのに、 声をかけてくる男は一人もいなかったらしいが。 ドアが開いて、ようやく主役の秋本氏が姿を現した。秋本氏の後からはおな じみの作中人物たちがどやどやと入ってきて、靜かだった店内は、たちまち喧 騒の巣と変わる。ピーチク、パーチク、ワイワイ、ガヤガヤ、あまりの騒々し さに驚いた閑古鳥はあわてふためいてドアの外へ飛んでいってしまった。 「あー皆さん、お静かに! Be Silentですよお!。私、秋本は不 死鳥の如く蘇り、無事退院することが出来ました。今年もいろんなことがあり ましたが、本日は皆さんへのお礼をかねてささやかな忘年会を開きたいと思い ます」。 「ばかやろう! 引っ込め!」 「あ、そこの酔っぱらいさん、アルコールは控えて頂きたいのですが」。 「あんだとお。てめー30年後には文化勲章まで貰えるっていうじゃないか。 誰のおかげだと思ってるんだ。だいたい、俺のよお。聞いてくれよ。な、ねえ ちゃん。そうだろ。俺ってナメエがねえんだよ。名前がよお。そんなことって、 あ、ありかよ。よお、てめえ秋本お。きさまよくも!」。 「まあ、まあ、あなた」。 「あーこれは山本さん、あんたはいいよなあ。名前はあるし、家族もあるし。 でも貧乏なんだよな。奥さんはブクブク太っているし、娘は不良で息子は頭が 悪い、秋本の奴、まったくヒドイ設定をしやがって」。 「オレが不良だって。バッカじゃねぇの、オッサン。ここのヤツラも皆よお、 いい歳こいて」。 「敦子、あなたは黙っていればいいのっ」。 「なんだよ、晩飯が浮くというから来てやったんだぞ」。 「いいぞお、ねえちゃん! もっとやれ」。 「けっ! 酔っぱらいがー」。 「おおっ、そういえば糞がしたくなったなあ」。 「あーあー私のウンコはとても大きくて黒いと人に言われます」。 「おい、ミカ子。いつも同じことばかり言って馬鹿かお前」。 「だって、タカが京子さんと一緒なんだもの。別れたと言ったくせに」。 「今日はしょうがねえだろ。秋本さんのためだ」。 「あっタカったら。もう他の女に手を出そうとしてる」。 「お前はアイスティ、愛すてえ、と叫んでりやいいんだ」。 「まあっ!なんて云い草。悔しい!」。 「あああん。今のわたしじゃないよお。京子さんだよお」。 「み、皆さん。ちょっと、そう勝手にしゃべられると誰がセリフを云ってい るんだかわからなくなります。手をあげてから発言して頂けませんか」。 「まあ、その、なんやねえ、秋本さんの書かれるものは・・・」。 「あ、クエストさん、あなたもいらっしゃったのですか。どうも料理の数が 合わないと思った。ああ、キャビアをあんなに食べて。出てって下さい。そう いえばAWCの人もずいぶん紛れ込んでいるな。何もかも去年と同じだ。うさ ぎやあひるがチョロチョロしているのが違うだけだ。この1年、時間はとまっ ていたのだろうか」。 「秋本さん、お久しぶりです」。 「お、これは白石加代子さん。今日は一段とお美しいですね」。 「私、秋本さんと結婚することにしましたわ」。 「馬鹿な。作者と作中人物が結婚出来る訳がないじゃないか」。 「天才なんだから、それ位のことはできるでしょう」。 「私も秋本さんとなら結婚するぅ」。 「きゃあ私も」。 「あら私よ」。 「秋本の妻は私です」。 「秋本さーん」「結婚してぇ」「きゃあ!」「わああ」「助けてくれ!」。 突然、電気が消えた。客たちは、互いにぶつかり合い、もつれ合い、悲鳴と 怒号が渦巻いた。山椒魚は、混乱の隙をぬって、秋本氏を喫茶店の外へ誘導し て、タクシーに乗せた。秋本氏はいぶかしげな顔をしている。 「もう大丈夫ですよ、秋本さん。これから、ちょっと横浜までつきあってく れませんか。なに、船を見に行くだけのことです。手間はとりません」。(続)
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