CFM「空中分解」 #1134の修正
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(13)6500万年の恨み きり揉みとなったヘリは再び強烈なエネルギーに曝されていた。 ヒトミ達の脳に、直接イメージが飛び込んできた。 それは見まいとしても駄目だった。頭の中にギリギリと食い込んだ。『黒い海』の 怒りに満ちたエネルギーとは異質のエネルギーだった。 無機質で、淡々と語るように、そのイメージは繰り広げられた。 ★ ★ ★ 星の無い、暗黒の亜空間に<それ>は漂っていた。 内部の異形の<存在>は、如何なる意味においても生物の範疇には入らなかった。 「算師ド・ルーよ。空間転移先はまだ確定せんのか?」 「操魔師イ・トゥー、この時空に我等が存在しておられるのもあと僅かだ。ダール・ ボンヌの時が来れば、我等はレ・ク・ターゥの元に戻らねばならん。それが定めだ」 「算師ともあろうものが、そのような弱気でどうする。査定師ゴール・ジャよ。どこ かに我等の存在が許される所があるのだろうか?」 「第20456次元に恒星系がある。惑星数は十一だ。第三惑星には炭素系生命らし きものが存在している。だが、実体化した時には問題だ。窒素、酸素、二酸化炭素、 アルゴン……。かなりの量の水もある。水蒸気が多い大気は我々にとって有害だ」 「大気の調整は可能かな?」 「いや、生態系は完熟している。環境を変えることは、ヌ・タの規約に違反する」 「ヌ・タの監視プログラムがこのような辺境まで届いているのだろうか?」 「プログラムの有無に関わらず、やるべきではない。我々の方を生態系に適合させる べきだろう。算師ド・ルー、その惑星に転移することは可能か?」 「それは可能だ。充分に到達できるだろう。しかし、そんな星で、ガンヌ・バムの救 援隊を待つつもりか?」 「止むを得まい。時が来るまで……」 ★ ★ ★ 青い惑星の成層圏の上層に揺らぎが起こると、<それ>が現れた。 直径十キロの真球に近い金属物体だった。 大気を震わせ、大気との摩擦で真っ赤に燃えながら、<それ>は突入して行った。 異形の<存在>達は驚愕していた。 「算師ド・ルーよ。どうしたというのだ?! 何が起こっているのだ?」 「査定師ゴール・ジャ、転移データが間違っていたぞ。実体化が遅すぎた。既に惑星 大気圏内に突入した。脱出できない」 「操魔師イ・トゥー、このままでは、地表に激突してしまうぞ!」 「何としてでも回避するのだ。ことは我等が問題だけではない。惑星生態系に大変動 を与えることになるぞ」 しかし、<それ>は、秒速三十キロという高速で突入していたのだ。 惑星は温暖で、陸には緑の植物が繁茂しており、その葉を食む生物の影も多い。 大地には巨大な生物達が闊歩していた。 小山のような巨体は、轟音を発して飛ぶ<それ>を追って太い筋肉が浮かび上がっ た首を動かしていた。 その顎は逞しく、鋭く巨大な歯が血塗れの口の中に並んでいた。 巨体に似合わず小さな手は、太い足に比べると随分貧弱に見える。 六千五百万年の後、それがティラノザウルス・レックスと呼ばれることになるなど とは、その生物も<それ>の乗員も知る筈がなかった。 更に惑星を半周した<それ>は、海に向かった。 「操魔師イ・トゥー、もうだめだ。停滞空間で我等だけを覆う。船は諦める」 「査定師ゴール・ジャよ。この惑星はもう終わりじゃな」 「操魔師イ・トゥー、算師ド・ルー、すまぬ。わしのために……」 「それは、わしらにではなく、この星に言うことだ」 「各自の停滞空間を作動させる。再び逢える日まで、さらばじゃ」 <それ>は三つの真球の空間を放出した。その内部の時空は外部と隔絶され、エン トロピーの変動もなく、永遠に隔離されている。 直径十キロの<それ>はついに海に落下した。 一兆トンの質量は、海に接触して二秒と経たない間に、海底岩盤を突き破り、地殻 に食い込んだ。 そして更に三秒後、<それ>は衝撃で爆発し、自らを構成していたイリジウムと海 底岩盤を溶かし、成層圏を越えて宇宙にまでばら蒔いた。 爆発の中心温度は摂氏一万八千度、太陽の表面温度の実に三倍である。 激突時の衝撃波は大気を揺るがし、強烈な熱を、海を陸を超えて全惑星上に運んだ。 メタセコイアやシダ類を始めとした陸上の植物という植物は、超高熱に一瞬にして 焼きつくし、真っ黒な煤となった。 惑星表面全てを覆う大火災により惑星大気は酸欠状態になり、大量の一酸化炭素が 発生し、毒の大気の中で、巨大な生物達は次々に倒れ、屍は火葬された。 一億数千万年もの間続いてきた恐竜全盛時代は、こうして幕を閉じたのである。 衝突で大気中に舞い上がった大量の海底岩盤と、全惑星の植物の屍である煤は、惑 星を覆い、太陽の光を隠した。 日中でも地上は月夜の十分の一の明るさしかなく、地表は暗黒に閉ざされた。 太陽熱を遮られた地表の気温は急激に下がり、内陸部は氷点下三十度以下になった。 酷寒の中で僅かに生き残った生物も死に絶え、地上は氷に覆われたのだ。 やがて、大量に大気中に舞い上がった海水は、水蒸気となって惑星を覆った。 太陽の熱を取り込むだけで逃がさないという水蒸気の『温室効果』のため、酷寒状 態にあった地上の氷は氷解した。 気温の上昇に伴って数カ月も降り続いた雨は、大気中を漂う煤を地表に、海に洗い 落とし、更に地表を覆った煤も海に押し流した。 惑星上の全ての海表面は煤に覆われ、黒く澱んでいた。 『温室効果』は海の温度を上昇させ、海面近くでは、酷寒にも耐え抜いた植物性プ ランクトンが、急激な温度上昇に死滅し、海底に降り積もった。 植物性プランクトンを失った海は、酸欠状態に陥り、魚が魚竜が死滅していった。 <それ>が落下して、惑星の僅か数公転周期の間に、地表と空、海底の生物は壊滅 的打撃を受けたのである。 ★ ★ ★ 空間の歪みで微かに分かる真球が、死の世界と化した惑星の大気中を漂っていた。 見えざる存在が、その真球をこじ開けようとしていた。 真球は、空間の歪みを一層歪ませ、死の世界に一瞬の光を与えると、停滞空間は消 滅し、異形の<存在>は実体化した。 「おおっ、来てくれたか。随分と待ったような気がするわ。ガンヌ・バムよ」 しかし、相手は応答しなかった。 「ガンム・バム? ではないのか?」 「我はヌ・タ監視プログラム。算師ド・ルーよ。汝をヌ・タ規約違反の重犯罪者とし て、ロン・アム・ジの執行を行う」 「まっ、まっ、待ってくれ。あれは、査定師ゴール・ジャの計算違いが招いたこと。 私には責任は無い」 「見苦しい。操魔師イ・トゥーは既に生態系の再建を始めた。ヌ・タ規約により、操 魔師イ・トゥーは、やがてこの惑星の一生命体として、ダール・ボンヌを迎えるのだ」 「わしは嫌だ! こんな辺境の地でダール・ボンヌを迎えたくない!」 異形の<存在>は、頑強に主張し続けた。 俺は悪くない! 悪いのはあいつだ! あの査定師ゴール・ジャなのだと……。 −−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−
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