CFM「空中分解」 #1120の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(2)博士の夢 「博士、何してるんですか?」 プールの水中スピーカーを調整していたヒトミに、リーが声を掛けた。 「その博士って呼ぶの、止めてくれない?」 「だって、博士でしょ。生物学の? 偉いんだから、もっと威張ったら?」 「博士ってのは、そんなに振り回すもんじゃないの。飾りみたいなもんなの。それに 博士ってのは、白髪のおじいさんみたいでしょ。私はまだ若いのよ。ねぇ、リー君、 私が幾つに見える?」 少年は突然の彼女の言葉に一瞬たじろいだ。 「いいんですか? 女の人の歳なんか話題にするのは気が進まないけど……」 「幾つに見える?」 「そうだなぁ。二十三才くらいかな。いくら上でも二十五才くらいかな?」 「下手なお世辞ね。博士号が貰えるのは、この国じゃ結構歳にならないと貰えないの よ。私は特例だけどね。それでも、修士過程が二年、博士課程が三年、もう歳が分か ったかな?」 「二十九!」 「あなた、足し算できないの? 二十七よ。それから、私を呼ぶなら、『ヒトミおね えさん』とか、『ヒトミさん』って呼んでくれない?」 「だから、ヒトミさんは好きなんだ。偉そうにしないから。それに美人だし、スタイ ルはいいし」 リーは男性には珍しく、笑うと笑くぼができる。背が高く、それに結構、顔立ちも 整っている。さぞかし、同年代の女の子達がうるさいことだろう。 「お世辞はいらないわよ。掃除は終わったの? イケスの餌まきは?」 「掃除は終わり。イケスはまだ時間がありまーす。ねえ、何してるんですか?」 「水中音響装置の調整よ。あなたやケン君が、イーやローともっとよく話ができるよ うにね」 「どういうこと?」 「スピーカーの音がもっと遠くまで出るようにして、遠くにいるイーとローにあなた 達の声が届くようにするの。それに遠くにいるイーとローの声がもっとよくマイクで 拾えるようにね」 「ねえ、ヒトミさんは何の研究をしてるんですか?」 「そうねえ、難しい質問ね」 「博士に難しいことがあるんですか?」 「また博士って言う。あるのよ、私にも分からないことが。人間の知ってることなん てほんの少ししかないのよ。海のことなんか何にも知らないんだもの。イーやロー達 の方がずっとずっと良く知ってるわ」 「それじゃ、海のいろんな話をイーやローから聞けばいいじゃないですか?」 「それよ!」 「えっ?」 「私のしてる研究は、イーやロー、それに海に住むいろんな魚や生き物に、海のこと を教えて貰うことなの」 「でも、イルカの言葉はピーとか、クワァ・クワァ・クワァとか、ケケケケケケケな んて鳴き声だけですよ。パソコンを使った水中音波でも、『来い』とか『行け』なん て、簡単なことしか話せない」 「今はね。でも、その内に研究センターのホストコンピュータが、もっとイルカの言 葉を覚えれば、海のいろんな話がイーやローから聞けると思うわ」 「本当にそんなこと、できるんですか?」 「絶対にできるわ。だって、私は博士ですもの」 「博士って呼ばれるの、嫌いなんでしょ?」 「他の人に呼ばれるのはね。自分で言うのは平気なの」 「勝手ですね」 「そうよ。私はイルカじゃなくて、人間だもの」 「???」 ★ ★ ★ 「た、た、大変だ。イケスが、イケスが!」 若い田代が、センターの事務所に飛び込んで来た。 ヒトミは丁度、所長に来期の予算申請のことで掛け合っている最中だった。 「騒々しいな。どうした? 半魚人でも出たか?」 もう五十に手が届く大野課長が、田代をからかった。 「所、所長! 大変です。イケスと海を遮っている網が破られて、イケスの小魚が大 半逃げ出してしまいました」 「何だと!」 事務所にいた数人の職員と所長、それにヒトミがイケスに急行した。 ゴムボートが、海とイケスの間のフェンスの近くに浮かんでいた。 海洋パークの数少ない女性職員の木村涼子が、派手なビキニ姿でそのゴムボートに 乗っていた。 「どうした?」 「今、ミッシェルが潜って、網を繕ってます。応急処置です」 涼子が答えた。 「どの程度やられている?」 「ミッシェルがこれを引き上げました」 涼子はゴムボートに積んであった網の残骸を見せた。 その網はズタズタで、何かに引き裂かれたようだった。かなりの力で食い破ったら しい。 ゴムボートの側に、金髪頭の男が浮上した。ミッシェル・モンタン、フランス海洋 財団からの派遣員である。三年の契約で来ているが、既に一年経っていた。 「みすたー・ニシダ。コレワ、カナリオオガタノ ドウブツノ シワザデスヨ」 「なんだろう? サメかな?」 大野が呟いた。 「イルカかも?」 涼子が口を出した。 馬鹿なこと、何を言ってるの、あの子は! ヒトミは、呆れた。フランス男性の尻 を追っ掛けている二十歳そこそこの娘の知識など、そんなものかもしれない。 「いるかワ、コンナコトワ シナイネ。コノアミノ、ヒキチギラレタブブンヲ、ミロ ヨ。コイツワ、ニクショクノ ハカ キバヲ、モツヤツダ」 涼子の意見にミッシェルは反対した。 「大野課長、とにかく沿岸警備隊にこのことを連絡してくれたまえ。サメの可能性も あるということでな。水泳海域に、予報を流して監視を強めるように」 「分かりました」 大野は、歳に似合わぬ敏捷な身のこなしで、事務所に走って行った。 「でも変だわ?」 「どうかしたのかね。ヒトミ」 所長が、ヒトミに尋ねた。 「サメがこんな網を破るなんて……。餌に困ってたのかしら?」 「ソウ、ヘンデス。ナニカオコル マエブレカモ……」 ミッシェルの予感は的中した。イーとロー、それにケンが帰って来なかったのだ。 −−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−
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