CFM「空中分解」 #1112の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
【ナウシカのように】(後編) コスモパンダ ★ ★ ★ 十年ほど前から、男は山頂に立ち、遠吠えを始めた。 再びマスコミは「獣人の絶叫」という見出しで男を再デビューさせた。 山頂に登っている人々も、次第に男から遠ざかるようになった。 せっかく知り合いになった人々も、男から去って行った。 だが、男には見えるのだ。 恐怖に脅え、自分の股ぐらに頭を突っ込んだままの人の姿。泣き叫ぶ女性。必死で メモを書く男性。神や仏に祈る人。手を胸元できゅっと抱き締めた女性。子供を自分 の膝の上に抱き抱えた母親、父親。悔し涙を流す男。全てを清算し、最後を待つ人。 ガラスに顔と手を張りつけた人々の恐怖におののく顔、顔、顔。数十の窓にその顔が 浮かんでいた。 男には感じるのだった。 空に伸ばした両手に、確かに感じるのだった。 冷たいジュラルミンの感触が・・・。 そして、機械鳥は男の眼前で、大地との勝負に破れ、尾根に、谷に、沢に散ってい くのだった。 その光景を何回も、何回も見た。 その度に男は、両手を突き出して、絶叫するのだった。 「俺が、俺が、受け止めてやる!」 ★ ★ ★ もうすぐ、あの時刻だ。 だが、山頂には、男しかいなかった。 山は怒り、空は曇り、暴風は吹き荒れ、雨は情け容赦なく地面を叩いていた。 今年は誰も登ってはこれまい。この嵐では無理だろう。 男は一日前に登ったことに、感謝していた。 山頂に男は仁王立ちになった。 その時である。 辺りが静かになってきた。風や雨がおさまってきたようだった。 微かに人の声が聞こえてきた。 下から人が上がって来る気配だった。 男はほっとした。今年もここに人々が集う。 人影が幾つも幾つも登ってきた。たちまち、碑の前の広場は人で溢れた。 だが、その数はますます増えた。 過去、男が経験した登山の中で、最も人の多かった時でも200人程度だった。 だが、今、ここにいる人の数はもっと多い。300、いや400人はいるだろう。 これだけの人がどうやって登山してきたのか、男には不思議だった。 しかし、例によって男に近づく者はなかった。 そして、時間が来た。 ★ ★ ★ 男は目を凝らした。 「見えた!」誰かが叫んだ。 「おっ、見える!」「来た来た!」「よーし、やるぞーっ」 山頂の人々の間から声が、上がった。 男は、両手を高く上げ、大地に踏ん張って立った。 すると、山頂の人々、全員が同じように、両手を空に広げ、仁王立ちしていた。 いつものような520本のペンライトは登場しなかった。 男が遠吠えを始めると、山頂の人々の間からもうめき声が聞こえた。 「う〜〜〜」「うおーっ」「ワーッ」「くうーー」「クッソーッ!」「とりゃー」 千差万別の声だった。 男は、自分の手に機械鳥の冷たい肌を感じていた。 しかし、それはいつもの年とは違っていた。 その冷たい感触は、いつものように大地に向かおうとしていなかった。 何かに支えられるように、機械鳥はよたよたとしながら、宙に浮かんでいた。 男は、更に両手に力を込めた。 すると、どうだろう・・・。 今まで、下降していた機械鳥が次第に浮き上がっていくのだ。 男は満身の力を振り絞って両手を踏ん張った。 男の両眼は内圧のために、飛び出さんばかりだった。 額を、背中を、厚い胸板を汗が伝っていく。 首筋の血管が膨れ上がっている。 両手の筋肉は盛り上がり、ピクピクと動いていた。 「くっううぉぉぉぉぉおおおおおおおーーーーーーんっっっっっっ!」 男の叫びと共に、機械鳥は再び空に向かって行った。 そして、男は見た! 窓ガラス越しに手を振る乗客達の姿を! 操縦稈を目一杯引いているパイロット達! 毛布やタオルや救急酸素ボンベを持って走り回るスチュワーデス! 隣の人を介抱する人! 子供をあやす両親! 男も手を振っていた。 ★ ★ ★ 男は自分を見つめている夥しい数の目に気付いた。 山頂にいる人々全てが男を見つめていた。 その一人一人の目の優しいこと。暖かいこと。 みなの顔には笑みが浮かんでいた。 次の瞬間、あれだけいた山頂の人々が、忽然と消えた。 言葉ではない言葉で伝わってきた。 <もう、いいんですよ。私達は、やっと旅立てます> <辛い夏は終わりました> <みんな、忘れません> <これからは、自分のことを心配してください> <お元気で・・・> <ありがとう・・・> 機械鳥はゆうゆうと羽を広げ、旋回して、空の彼方に消えていった。 男は号泣した。 涙で曇った男の目には、あのアニメ映画のラストシーンが浮かんでいた。 それは、羽を付けた子供達が大空を自由に飛ぶ姿だった。 地上の呪縛から介抱された自由な子供達の姿だった。 男の長い長い登山は終わった。 −−−−−−−−−−−−−−( E N D )−−−−−−−−−−−−−−−
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