CFM「空中分解」 #1106の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
【セピア・ネットワーク】 コスモパンダ 「次! ルイ・ハミルトン」 復員救護センターの中に野太い声がこだました。 センターの待合室はスペーススーツに身を固めた、むさ苦しい男女でごった返して いた。 第六次外惑星間抗争が漸く終結した。戦闘ボートやクルーザーで外惑星系に出てい た兵士達が帰ってきたのだ。更に復員兵士を出迎える家族や恋人達が加わり、喧噪も 凄い。 「ルイ、ルイ・ハミルトン」 拡声器がキンキンとがなっている。 「いなければ、後回しだぞ!」 「ここだ」 小柄だが筋肉質の男が係官の前に立った。 「リューイ、リューイ」 ツバの広い帽子を被った若い女性が、両手を振り回しながら人込みの中から出てき た。 肩で息をしている彼女は、小柄な男に呼び掛けた。 「リューイ」 しかし、彼は不思議そうにその女性を見つめるだけだ。 「リューイ? 私よ。覚えてないの?」 「無理だな。再生処置が終わるまで待ってくれ」と係官。 「再生処置?」 不安そうな彼女を残し、係官は小柄な男を別室に連れて行った。 椅子に座らせると、係官は事務的に尋ねた。 「君の登録しているネットワークは?」 「セピア・ネットワーク」 ポツリと答えた男の頭を大脳皮質ヘルメットが覆っていた。 ★ ★ ★ チチチ・・・。ピピピ・・・。 昨夜、開け放しておいた窓から朝日が差し込み、小鳥の声と心地好いそよ風がルイ を目覚めさせた。 今日は日曜だ。教会の日曜学校に行かなければならない。 よれよれのシャツに手を通し、半ズボンとボロボロだが履き慣れたスニーカーに素 足を突っ込む。そうそう、それにキャンパス地の薄汚れたショルダーバックを肩に掛 け、お気に入りの麦藁帽子を被ることも忘れなかった。 この帽子は大好きだった。これを被ると、まるで自分が「ハックルベリー」にでも なったような気がするのだ。 ルイの部屋の窓からは、延々と拡がる草原が見える。 草原は目で追っていくと、次第に空に向かって伸び始め、内側に湾曲した壁になり、 頭上の細長い太陽で終わっていた。 ここは、「オクラホマ・アイランド」。 直径10キロ、長さ50キロの円筒型スペースコロニーで、内部には二千人のスペ ースファーマー達が暮らしている。 二階の窓から、屋根に出る。 母さんに見つかると、またとっちめられるなと思いながら、ルイは屋根伝いに母屋 から台所の方に向かった。 台所の屋根の側には大きな樫の木があり、ルイはその木に難なく飛びつくと、スル スルと猿のように伝い下りた。 美味しそうなパンを焼く臭いが漂ってきた。 台所を覗いたが誰もいないので、ルイは勝手口から中に忍び込んだ。テーブルの上 の果物篭から、リンゴとオレンジを一個ずつ取ってバッグに詰めると、勝手口から逃 げ出した。 「ルイ、どこに行くの!」 やばい! 姉のマリーが二階の窓から、ネグリジェ姿のまま身を乗り出して叫んで いる。 マリーは、もう十四だというのに少しも胸が無く、そばかすだらけで、赤毛という 最悪の女の子だと、自分で嘆いていた。 それに比べると、マリーの友達のルーシー は金髪で背が高くて、胸だって大きくて、スタイル抜群。しかも美人だ。 「ルイ! 今日こそ、日曜学校に行かないと、母さんに怒られるわよ。夕飯抜きにな るわよ」 ルイはその姉にアッカンベーをすると、草原を駆けていった。 ★ ★ ★ 水面はキラキラと輝いていた。 川の流れは冷たくて気持ちが良かった。 ルイは手の中で踊る魚をポイと流れに返した。 水は澄んでいて、逃がした魚が身をくねらせて泳ぎ去る姿が見えた。 ルイは、岸に上がると、草の上にコロンと横になった。 空には、数羽のヒバリが輪を描いていた。その内の一羽がすーっと急降下すると、 草むらの中に消えた。 勿論、ルイはヒバリが降りた草むらに、ヒバリの巣が無いことは知っている。いつ も、ヒバリの巣を捜すのだが、親鳥は用心深く、決して巣を気取られるようなドジは 踏まなかった。 「あ〜あ〜」溜め息とも、あくびともつかぬ声を出し、ルイは寝転がったまま、背伸 びをした。 「リューイ」 頭の上の土手の道から声がした。 見上げると、花の付いたツバの広い帽子を被った背の高い少女が立っていた。 少し強い風が、白いスカートをヒラヒラと揺らしている。 ルーシーだった。 「何してるの。そっちへ行っていいかしら?」 ルイが「いいよ」と答える前に、彼女は土手を駆け下りた。 ルーシーは寝そべっ ているルイの側に腰を降ろした。白いスカートがフワッと草の上に広がった。 「リューイ、今日も日曜学校へ来なかったのね。神父さんが心配してたわよ。リュー イは病気かって」 ルーシーはルイのことをリューイと発音する。何度か注意したが、一向に直す気配 はない。この頃では、ルイも彼女が「リューイ」と呼んでくれるのが楽しみになって いた。 「日曜学校なんて面白くない」 「そんなことないわ。みんなと一緒にお話したり、歌を歌ったり、ピクニックに行く こともあるのよ。友達だって増えるわ」 「草原には、羊や馬がいる。兎だっている。川には魚や蛙、森にはリスや虫が一杯い る。みんな友達さ」 「ええ、そうね。でも、リューイ、人間のお友達とも付き合うことも必要よ。人間の お友達が増えたって、自然のお友達が減るもんでもないでしょ?」 ルーシーの顔が寝そべっているルイの顔に近付くと、ツバの広い帽子が、彼の顔に 影を作った。 ★ ★ ★ 「さよなら、ルイ」 「おーい、うすのろルイ、テリーは貰ったぜ」 頭上の街明かりがやけに綺麗なカーニバルの夜だった。 ポニーテールの良く似合うテリーを、漸くデートに誘って、町まで出たルイだった が・・・。 快活だが、派手なテリーは、柄の大きな大人びたハンスに憧れていた。その夜、パ ッタリ出会ったハンスに誘われたテリーは、二つ返事で彼と雑踏の中に消えて行った。 太鼓やトランペットやギターの煩い楽隊が、大通りを抜けて行く。数人の子供達が それを追っ掛けて行った。 ルイは、そんな騒ぎに背を向け、ジーンズショップのショーウインドゥに自分の顔 を写して見た。 ハンスに殴られた左目の周りが青黒く腫れ上がっていた。 「ルイ、何してんの?」 振り向くと、マリーが数人の女友達と立っていた。 彼女はルイの顔を見るなり、キャハハ・・と笑いだした。 「ルイ、あんた、また喧嘩に負けたのね。たまには勝ったらどうなの。男でしょ! みっともないったら、ありゃしない」 「ほっといてくれよ!」 姉のマリーの声に、ルイは腹立たしげに応えた。 「好きになさいな。でも、そんな顔じゃ、女の子は誰も構ってくれないわよ。さっさ と家に帰りなさいよ。キャハハ・・・」 ルイは、まだ笑っているマリーに背を向け ると、独り町外れに向かって歩き出した。 「リューイ」 その声を聞いた途端、ルイは走りだそうとした。しかし、肩を掴まれ、後ろを向か された。 「駄目よ、冷やさなきゃ。痣になるわ」 彼女は、水に濡らしたハンカチをルイの左目に当てた。 その冷たさが心地好かった。 夜なのに彼女は、またツバの広い帽子を被っていた。 ★ ★ ★ 復員センターの出口で、小柄な男は彼女の前に立った。 「ただいま、ルーシー」 彼女は男を両の腕でしっかりと抱き締めた。 宇宙に暮らすようになったというのに、人は兵士として刈り出され、虚空に飛び立 って行く。 兵士達は戦地に赴く前に記憶をネットワークに登録する。その後、自分の脳から記 憶を消され、戦闘機械になって行く。 無事生還した者の報酬は過去。 今、一人の男の過去と、一人の女の愛が戻った。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−END−−−−−−−−−−−−−−−−−
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