CFM「空中分解」 #1076の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
今や経済は木星系を中心とした着実な発展を見せていた。地球と月は政治的な意味で した重用ではなかった。人々の故郷としての認識は教科書で暗記させられた知識の一部 でしかなく、本気で地球を故郷としている人は重力に耐えて住んでいる人々だけだった。 木星系がこのように発展したのはいうまでもなく、その資源の豊富さ故である。とは いっても、我々人類が利用できるのは大気圏から僅かに侵入した程度のところだけであ り、他は巨大な衛星を利用していた。人類は太陽系のあらゆる衛星に宇宙ステーション を設置し、開発を押し進めていた。 ブレイリーがパワー・ユニットの液体凝固式対光線フィルターから覗ける光景は素晴 らしいのではあるが、いささかくたびれた印象を与えていた。巨大な地球が視野のほと んどをしめている中、自分の足下に地球ステーションNo.32がただよっている。そ してその居住ブロックの回転から切り離されている宇宙港は地球光をステーションのド ラム缶が受けてしまっているためにすっかり影になっていた。そこには地球から上がっ てくるシャトルと、月へ向かうシャトルが忙しく出入りを繰り返していた。 ブレイリーはパワー・ユニットのバーニヤをふかした。僅かに加速する。この世界で は重さがないが、質量はある。よく、重力があるところで育った人間がその解放感で、 飛び回っているうちに自らの体重で病院行きということはよくあることである。だから いかに人がいい奴でも、慣れるまでには彼らには近付かないようにするものだった。ブ レイリーの着ているパワー・ユニットは、宇宙服に巨大な蟹のような手と数多くのバー ニアを付けたものであるから、慎重にしなければならなかった。何故なら600kgの 慣性で永遠なる旅立ちをしてしまうからである。彼はケープにあってからならいいが、 と笑った。 彼は今、梱包作業で流れてきてしまったコンテナ回収の最中であった。彼の勤める運 送屋に直々に依頼があったのだ。赤いコンテナだからすぐに発見できた。彼は用心深く 接近し、近くで制御バーニアによって慣性を止めた。そして、蟹の手の中にある細作業 用のマニュピレータを伸ばすとコンテナにあったでっぱりにロープをかけた。 何も、こんなことでいちいち運送屋に頼まなくてもいいのにな、彼はそう思った。 コンテナは赤く、黄色字で訳の分からない文字が書いてあった。多少、言葉が分かる ところもあったのだが、彼にはまったく分からない物体であった。 彼は用心深く、バーニアをふかしながら、ハッチへと戻っていった。 彼がその一日の重労働から解放されて家にかえると、ケープからのメールがきていた 面倒臭いながらも彼はそれを読むことにした。まぁ、何にしても嬉しいことだったのだ が。 『最愛なるブレイリーへ ブレイリー、まだ、貴方は危険な仕事をやっているのかしら。今、月のティコ大学に は貴方のような人が必要なのよ。こっちへ来てみない?対偶だって、まあ最初は落ちる かもしれないけれども、決して悪いものじゃないわ。むしろ、危険を考えたらずっとい いものよ。そりゃ、貴方にも色々と事情があるから私の勝手な構想でやるわけにもいか ないでしょうけれども、頭の隅においておいてね。 ………あ、ブレイリー、好きよ、貴方が。 ケープ ブレイリーは最近、彼女のメールもさすがに短くなってきたな、と思った。ケープと はまぁ、そういう仲なのであるが、1年前に彼女がステーションから月のティコ大学の 図書館のコンピューター教育係に天職してから、彼らにはかつてサターン5ロケットが 必死で辿り着いた距離が出来てしまったのだ。彼女のメールは数知れないがほとんどが ブレイリーの天職案内であった。 たまらんな、そうつぶやいた。 ケープは理想的な女だった。ブレイリーにとっては。 ただし、彼女は重力下で育ったのに対して彼は無重力の中を生きてきた。これが決定 的な障害であった。彼は宇宙ステーションの内部でさえ、無重力居住区に住んでいるく ないだったから月に住むなんてことは毛が逆立つ思いだったのである。 そういえば一寸前のメールで、地球1週間の旅に行こうとせがまれたことがある。ま ったく何を考えているのだか。月の6倍のところに行くなんて自殺行為だ。そうそう、 あそこに住んでいる人間はその重力のために顔が横長いという………まぁ、これは冗談 好きのラックの法螺だけれども。 何時になったら、この障害は取り除けるのであろうか……… 1週間に一遍はきていたメールも次第にこなくなってきた。こういったことは初めか ら予測されたことであったのでびっくりした事でも無かったが、やはり悲しかった。彼 としてはこのままズルズルしてしまう事は非常に嫌だったが、このままなんの接触もな く別れたほうが傷はつかないだろう、そんな勝手な解釈を立てて問題から逃避していた。 もともとこれは無理な話だったのだ。深海魚と普通の魚が一緒に住もうというのと同 じくらい滑稽だ。では何故、俺は彼女を選んだのであろうか……… ブレイリーの目には月が憎々しく思えたことであろう。 その日、コンテナの積み出しなどで結局帰ったのはステーション時間4:50だった もっともコクーンに入ってしまえば睡眠にはさしつかえないから睡眠が云々ということ の心配はいらない。 ブレイリーは倒れるように部屋に入った。(実際は倒れないのであるが)と、人影が あった。それはまったく信じられない光景であった。 「ブレイリー………」 「………ケープ!!」 ブレイリーは飛び付いた。僅かに遅くケープが地を蹴ったため、出だしは遅れて2人 はぶつかりあって彼女は押し戻される羽目になった。慣性はなおも残っていたがブレイ リーの巧みな足さばきによって彼らは位置を確保した。 「ずっと、連絡しなくてごめんなさいね。」 「ああ、いいんだ。こっちこそ、すまなかったよ。」 「ティコ大学のファンソン博士が地球にいらっしゃるのでその同行として行くことが決 まったのよ。そこでここに立ち寄る校庭になっていたから………おどろかそうと思って 。忙しいということもあったのだけれども………驚いた?」 「ああ、十分。」 「フフフ。」 「フッ………でも、君の顔を見れて嬉しいよ。本当に。」 「私もよ。友達にはね、パワー・ユニットの使い手の筋肉男がいるのよ!と自慢してい るのよ。」 「フッ………フフフ。」 ・ ・ ・ 『最愛なるケープ様へ この間、君が博士とたってから色々と考えてみたんだ。俺達はその……ピッタリいく んだ。ラックのように口がうまくないから奇麗にはいえないけれど。君が同じように感 じてくれているならば非常に嬉しいな。 でも、俺達の間には一つ壁があるね。これはお互い、時間をかけて一つ一つブロック を外してゆくとしよう。きっと解決できるはずだ。 きっと昔の人も−−−地球に全人類が住んでいた時代にも−−−色々な障害があった と思うんだ。同じ人間だもの、彼らにできたことが俺達に出来ないことはないよ。えて して初めのうちは色々とトラブルものだよ。 そう、同じ人間なのさ。住む環境が変わっても人間の根本は変わらないさ。 じゃ、また、連絡する。 ブレイリー PS:この疲れたステーションから眺める一度も行ったことのない故郷の光景はすば らしいんだ。ここで打ち明けるけれど、仕事をさぼってコーヒーを一杯やるのがたまら ないのさ!それがここから離れられない有力な理由なのさ!! FIN .
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