CFM「空中分解」 #1037の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
1988年6月12日午後3時。破滅型私小説作家として有名な酸性魚氏は 電話ボックスの中で、首をひねった。新幹線で大阪からやってくる新進作家の COTTEN SMITH氏への歓迎のメッセージを送ろうとしたら、「御指 定の連絡番号はただ今使われております。もう一度、別の連絡番号を押して下 さい」と、伝言ダイアルの女性オペレーターに言われたのである。 おかしいな、そんな筈はない、とブツブツ言いながら、酸性魚氏は、もう一 度伝言ダイアルの連絡番号を登録しようとした。まず、プッシュフォンで#8 300を押すと、「ピッ、という音の後で連絡番号を押して下さい」とオペレ ーターが言う。そこで、ピッの後で、あらかじめCOTTEN氏と相談して決 めていた188340という6桁の連絡番号を押した。やはりダメである。 酸性魚氏は頭をかかえた。COTTEN氏の上京に合わせて東京駅の近くの 喫茶店「銀の鈴」で開かれるAWCのお茶会には伝言ダイアルを利用して声で 参加することを約束していたのに、これでは約束が果たせないではないか。 「COTTEN氏は怒るだろうな。もう二度とAWCには近寄るな、と言われ るかもしれない。困ったなぁ」。 もともと酸性魚氏は、COTTEN氏とお茶会に参加するAWCの会員をす べて帝国ホテルのディナーに招待するつもりでいたのである。将来を嘱望され ている新進作家がわざわざ東京まで来てくれるのだから、それ位の礼をつくす のは当然である。しかし、不運なことに、酸性魚氏は2週間前の日本ダービー で大損をした。サラ金から借りた50万円をすっかりスッてしまい、帝国ホテ ルどころか、コーヒー代も出せなくなったのである。 それでやむを得ず、声だけの参加をすることにしたのであるが、どうやらそ れすらもあやしくなってきた。せっかく打ち合わせていた連絡番号が誰かに使 われているらしいのである。仕方がないので、酸性魚氏は、1番違いの188 341を連絡番号、1883を暗証番号にして30秒の短いメッセージを送っ た。COTTEN氏が気がついてくれることを祈りながら・・・。 「COTTENさん、東京へようこそ。私が酸性魚です。今日はお茶会に参 加したかったのですが、どうしても相談にのってほしい、と新井素子に泣きつ かれましたので、素子の面倒を見てやらなければなりません。夫にも言えない 悩みがあるらしいのです。COTTENさんにはまたお逢いする機会もある、 と思います。AWCの皆さんによろしく。さようなら」 同じ日の午後4時50分。COTTEN氏は、東京駅八重洲口の電話ボック スに入った。ひょっとしたら、酸性魚氏やその他のAWCのメンバーからの声 のメッセージがあるかもしれない、と思ったのである。COTTEN氏はイラ イラしていた。お茶会に集まる予定のメンバーのうちCOLOR氏とあるてみす氏がまだ現れないからである。COLOR氏は、あなざー待合場所に行き、あるてみす氏は意図的にすっぽかしたのかもしれなかった。 集まったのは、本多、秋本、KARDYの三氏だけだった。三人とも冴えな い感じの男で、COTTEN氏の好みのタイプではなかった。アホラシイ、こ んな連中と文学が語れるかよ。COTTEN氏は東京に来たことを後悔した。 さっさと大阪に帰った方がよさそうだ。 COTTEN氏は、まず#8301を押し、ピッという音の後で連絡番号を 押した。すると「暗証番号を押して下さい」とオペレーターが言う。暗証番号 は、1883という4桁の数字に決めている。しかし、1883を押しても、 メッセージにつながらない。「もう一度暗証番号を押して下さい」とオペレー ターが繰り返すだけである。COTTEN氏は受話器をたたきつけた。 喫茶店「銀の鈴」では、本多、秋本、KARDYの三氏がつまらなそうにコ ーヒーを飲んでいた。雰囲気はまったく盛り上がっていない。 本「酸性魚さんからのメッセージはありましたか」 C「ありません。きっとウソをついたのでしょう」 本「おかしいですね。そんな人ではないと思いましたが・・・」 秋「あの人の正体は何でしょうね。週休二日制の会社の窓際族か女学校の校長 先生のようなヒマな人だと、私は思いますが」 本「銀行マンかもしれませんよ。なにしろ「空中分解」のハードコピーをタダ で貰ったら、義理堅く掲載作品を全部マジメに批評するような人ですから」 秋「銀行マンが川崎競馬に行ったり、新井素子を読んだりするでしょうか」 本「人間には、変身願望という心理がありますからね。 C「あんな文学のわからない人の話はしないでください」 他「・・・ ・・・ ・・・・・・」 本「ここのコーヒーおいしくないですね」 他「・・・ ・・・ ・・・」 本「KARDYさん、あなたの名前の由来でも話してください」 K「・・・ ・・・いいです」 秋「あっ、でもそれ、お願いします」 C「僕そろそろ時間なんで」 他「・・・ ・・・ ・・・ ・・・」 C「僕そろそろ」 本「秋本さんも随分、大人しい方なんですね」 秋「ええ」 C「僕そろそろ・・・」 K「まだいいんじゃないですか」 本「そうですよ、まだ時間ありますよ」 他「・・・ ・・・ ・・・ ・・・」 秋「わたし、アイスコーヒーたのもうかと」 本「あっ、そうですね。アイスコーヒーだと美味しいですよ、きっと」 秋「そうですね」 K「COTTENさんもアイスコーヒー頼んだらいい」 C「・・・ ・・・でもそろそろ帰る時間だし・・・ ・・・ ・・・」 本「やはりここは、KARDYさんの名前の由来のことを」 秋「そうですよ。お願いします」 K「あとでフレッシュボイスに書きますから」 他「・・・ ・・・ ・・・」 C「僕、そろそろ時間なんで・・・」 その頃、コンピューター犯罪小説の作家Fon氏は、買ったばかりのオート バイの後にガールフレンドを乗せてさっそうと高速道路を飛ばしていた。ガー ルフレンドとのデートの連絡に酸性魚氏とCOTTEN氏の連絡番号を借用し たことに対する罪の意識はFon氏にはかけらもないのだった。 <Fin>
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