CFM「空中分解」 #1023の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
時速300Km―――いいあらわすのは簡単だが、体感したものでなくては理解し 得ない恐怖を秘めたことばである。カーレースのゲームのように、次々と現れては消 えてゆくクルマを巧みにさけながら、Todayは大阪をめざしていた。 「まったく、あんたにつきあってるとロクなことがないわ!」 「おい、怒鳴るのはいいけど、ちゃんと前みててくれよ」 ツインターボのソアラがリアバンパーをかすめて後方にすっ飛んでいく。 (それにしても………あのロボットは何だったんだ?) 啓介は腕組みをして考えこんでいた。彼らの乗った車を待ちうけ、破壊しようとして いたのは間違いない。だが、その目的がわからなかった。 (まさか新手のスピード違反取り締まり装置じゃないだろうな) リポビタンDの効き目がうすれてきたのか、頭脳明晰だけが取り柄の啓介でも、そう やすやすとは答えをだすことができない。そればかりか睡魔さえおそってきた。 (う〜眠い………真紀と僕のドライブをだれかが妬んで?………バカな………。僕が 遅刻の新記録をつくるのを楽しみにしてるヤツか?………まさか、それだけのために、 あんな大がかりなモノをかつぎだすもんか) 琵琶湖を右手にみながら、車は京都にはいっていた。あと10分もしないうちに大 阪につくだろう。まったく………この軽自動車ときたら新幹線よりも速いのだ。 (大阪………?僕たちが大阪にいくことを快く思わないヤツがいるのか?………あれ だけのことをしてまで、僕と真紀の大阪行きを阻止する理由のある誰かが………) そのときだった! ピーッピーッピーッピーッ 啓介の思考に呼応するかのように、コンソールから警告音がひびきわたった。 「きゃあ!」 「どうしたっ!? こんどは走る金閣寺かっ?」 「わかんない………トレーラーを追い越したら、急に………」 真紀のゆびさす先を見ると、フロントガラスに赤い文字が点滅していた。 《 BONUS POINT 100,000 》 「あのなぁ………。ラムっ!!!」 極度の緊張状態からとかれた脱力感を全身に感じながら、あらんかぎりの力をこぶし に集めて、啓介はダッシュボードを殴りつけた。 「お前には、くだらんギャグまでプログラムされてるのかっ!」 「フタリトモ タイクツソウダッタカラ、チョットさーびすシタダケダッチャ」 まもなく11時になろうとしている。渋滞で名高いこの高速道路―――名神高速の 京都〜大阪間にも、車がその数をふやしつつあった。 「あ〜、もうっ! どうして、こう渋滞にばかりぶつかるのよ。今日は二度目よっ!」 真紀がなにか言いたげに、血走った眼で啓介をにらみつける。大阪に行く原因になっ た当人はそれに気づかず、ふたたび睡魔とたたかっていた。 (しかし、渋滞するなら飛行機にすりゃよかったな。まぁ、こいつも飛行機に劣らず 速いし、だいいち墜落する心配がないから、よしとするか………) 「きゃあ〜!」 「こんどはなんなんだ! ラムっ! いいかげんにしろよっ!」 ラムの度重なる『サービス』に啓介の怒りは頂点を極めた。 「ちがうのよ、露木クン! ま、前みてっ!」 Todayは空を飛んでいた。いや、正確には落下していた。放物線をえがいて……。 眠気が醒めたどころではない。啓介は、すぐにはことばがみつからなかった。 「飛んでる! やっぱりラ、ラムだろっ! いや、真紀ちゃん、きみか?」 「ちがうわよっ! 急にハンドルをとられて………空飛ぶのも今日は二回目よっ!」 「ウチデモナイッチャ。イクラ ウチガ『らむ』デモ、ソラハ トベナイッチャ」 「………」 着地のショックは意外にかるく、車はなにごともなかったかのように走りだした。 ともあれ、つくづく災難に見舞われるふたりである。いや、たまたま下の道路を走っ ていたためにクッションがわりにされたベンツこそ、いい迷惑だったかもしれない。 ルームミラーから下がる人形が笑っているのを、動転したふたりは気づかなかった。 大阪梅田―――いわゆるキタの繁華街からすこしはずれたところにある、薄汚れた ビルの2階に大阪支社はあった。10人ほどの社員が、啓介たちが入ってきたのにも 気づかぬほど忙しく立ち働いている。電話をかける者、書類の山を築いている者、フ ァクシミリから絶え間なく吐きだされる受信紙をチェックしつづける者の誰もが、自 分の仕事を処理するだけで手いっぱいのようだ。 「ほんで、コンパネとセメンはどないなった? アホ! 全部かきあつめるんじゃ!」 「50しかないんでっか? そこをなんとか回してもらえまへんやろか………」 啓介も真紀も、修羅場に踏み込んでしまったことを悟り、いくぶん後悔した。 (雰囲気に圧倒されている場合じゃない。はやく証明をもらって寝るんだ………) 「あ、すんまへんなぁ。今、ちょっとたてこんでまして。待っとってもらえますか」 「おいそがしいところすみませんが、じつは………」 「青木ぃ、運送屋の方はどないや? あ、お茶やったらそこにありますさかい」 せわしなく指示を出しながらも応対してくれるこの男が責任者らしい。そう見てとっ た啓介は、しつこくくいさがった。待っていたりすると寝てしまいそうなのだ。 「そうじゃなくて、タイムレコーダーがですね………」 「間に合うてま。セールスはおことわりだす」 やりとりをイライラしながら見ていた真紀は、小声で毒づいた。 「なにを手間取ってるのよ! もう、グズなんだから………。私が話すわよ」 (てやんでえ、こちとら生まれてこのかた22年間もグズやってるんでい!) 啓介は、反論できないばかりか、自らグズを認めてしまう自分がなさけなかった。 「そうじゃないんです。私たちは東京からきました。これを見てください。この赤い カードは、彼―――露木啓介さんのものなんですが、遅刻の………」 「赤いカード………丸井のかただっか? ちゅうのは冗談ですがな。いや〜、東京か ら来てくれはったんだっか。助かりますわ。いや、もういそがしゅうて………」 わざわざ大阪くんだりまでやってきて、仕事を手伝わなければならない謂れはない。 真紀は手早くいきさつを説明した。 「あきまへん。そんなもん証明したかて、本社があらへんのにどないします?」 「だって給料が………」 「その給料をだす会社がおまへんねや。もう、あきらめなはれ」 松村と名乗るその男―――名刺によると部長だった―――は、これから多くの物資 を東京におくりこむ算段で忙しいのだと語った。 「でも来るときに見たかぎりじゃ、都内は自衛隊がバリケード築いてましたよ」 「紀国屋文左衛門のみかん船を知りまへんか? 嵐のなかをあえて行くから儲かりま すねや、商売っちゅうもんは。………あぁ、それにしても、もうすこし早よ教えてく れはったらええのに………あのおかたは」 浪花の商人(あきんど)は健在である。啓介は、ことばじりを聞きとがめた。 「あぁ、あのおかたには、もう何日も前からわかってあったことだす。本社には連絡 いきまへんでしたか? おっと………ほな、これはなかったことに………」 「どういうことなんですか?! あのかたってのは誰なんですか?!」 松村はそれきり口を閉ざしてしまった。『あのかた』は単に予知しただけなのか、 あるいは東京を消滅させ、啓介の給料を永久にうばった張本人なのか………。 啓介は、どうしてもその人物を探さないことには、腹のむしがおさまらなかった。
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