CFM「空中分解」 #0968の修正
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そうだ、それでいい。 そのまま、歩いていくだけでいい。 余計な事を考えず に....。 「鬼門の門」を無理に通らずとも、連れていってやろうではないか、バ バ・チビルの所に。 芳岡たすくよ、邪魔者のババ・チビルと相差し違えるがいい。 務めを果たせ。 「影」はほくそえんでいた。 「影」は掘っていた。 「開通」は時間の問題である。 −−−−−−○−−−−−−−○−−−−−−−○−−−−−−−○−−−−−− 彼は、夢を見ていた。 甘く、そして気だるい夢を....。 「者ども、田中を目覚めさせる。 騒ぐな。」 実験室に戻ったババの第一声である。 「しかしババ様、今へたに彼を刺激しますと、何もかもオシャカですぞ。」 「誰が無理にたたき起こすと言うた。 それに田中の能力はケタ違いじゃ。 し かもある程度成熟段階にある。 もはや多少の事をしても、能力に影響はないじゃ ろうて。 第一、他の者ならもうとっくに目覚めとる頃じゃ。」 「しかし....。 せめて、アナライザが直るまでの間だけでも、お待ちを。」 機械をいじっていた男が懇願するように言ったが、無意味だった。 「黙っておれ。」 技術者達は顔を見合わせた。 何か、起こったのだろうか。 「もうアナライザは要らん。 外してしまえ。」 「....しかし、それではミスター芳岡達の様子をモニター出来なくなります。」 「田中本人から聞けばよいわ!」 −−−−−−○−−−−−−−○−−−−−−−○−−−−−−−○−−−−−− ジャンはどうやら死にそこねたか。 まあいい。 どうせ私が直接に手を下さず とも、炎に我が身を焼いてもだえ果てる運命なのだ。 それが誰にとっていい事な のか分からない。 私にさえ分からない。 光でできた形のない巨大な精神の集積体−−ある一部の人間に「影」と呼ばれて いる−−はそう思った。 木星が二番目の太陽だった頃、「影」は生まれた。 太陽光と木星光をまんべん なく浴びる地上に、ある種のあってはならない反応でも起こったのだろうか。 「意識」そのものが命を持ったのである。 そして「意識」は、生まれた事そのものが罪である事を、その瞬間に悟った。 しかし、すでに遅かった。 ....その日、人類の誕生にさきがけて、苦悩という言葉が生まれた。 木星は冷え、太陽のまわりを回りだした。 まもなく海に雷の雨が降り、実体を持ったもう一つの命が誕生した....。 「影」の栄養源は、心である。 まるで人間が生き物を食べるように、「影」は 心をむさぼった。 「影」は、海の中に生まれた「後輩」達から、次々と心を奪い 始めた。 が、後輩達は「影」に備わっていない能力、すなわち繁殖力を持ってい たので、根こそぎという訳にはいかなかった。 指の間から砂の粒が落ちるようにではあるが、あるわずかな種族は「影」の牙を 逃れ、心を持ったまま進化した。 そして今、「影」は辛くも逃げおおせたこのこ ざかしい後輩に追いつき、喉笛に噛みついたところであると言って良いだろう。 その証拠に、心無い人間の何と多いことか! そう遠くない時期、人類は我が身を絶滅に追いやると言われている。 それは、 「影」のせいなのだ。 「影」が暖かい心を奪いとり、この素晴らしい人間と呼ば れる種族の名誉を、泥まみれにしたのである。 何という事だろう! しかし、「影」は知ったのだ。 この息も絶えだえの獲物が、世界で唯一、最後 の獲物である事を。 心を持った最後の生物である事を。 「影」は落胆した。 失望した。 そして絶望した。 それでも「影」は心をむさぼり続ける。 食べるのをやめたら、終末を迎えるの は「影」の方なのだ。 「影」は心をむさぼり続ける。 最後の瞬間を少しでも未 来に延ばすために....。 何者をも恨みようのない、自業自得にさいなまれる「影」 の姿が、そこにあった。 そして、現代。 一人の女性がいる。 彼女は人間の心のメカニズムを系統化する研究に取り組ん でいた時、偶然「影」の存在に気付いたのだ。 彼女の名は、ババ・チビル。 −−−−−−○−−−−−−−○−−−−−−−○−−−−−−−○−−−−−− 先刻までの静かさが去り、部屋の中は急にせわしない雰囲気に包まれた。 横たわった画家志望の男に、栄養剤と各種の薬品が注意深く投与されていた。 頭部のコードは、今ではアナライザでなく脳波計に接続されている。 (今度こそは「影」に太刀打ち出来る「武器」が手に入るやも知れん。 日本に はひょうたんから駒という諺があるが、人の心を研究している内に、副産物でいろ んな機械が出来てしもうた。 心を読む解析機、隠された能力を増幅する機械、あ る程度心を加工する装置、スモークスクリーン、賢者の剣....。 だが、いかに機械の力を借りようと、結局は本人の潜在的な力がすべてを決定す るだろう。 田中にはそれがある。 問題は芳岡達だ。 門を抜けておらんとは言え、近くまで来おった様子じゃが、 どうしてやろうか。 まさか田中に及びはせんだろうが、自分らの力を悟る前に片 付ける必要があるやも知れん。 啓子をこちらで押さえている以上、少なくとも芳 岡は私を許さぬだろうし....。 ....田中を使うか。 当面は彼らの様子を覗かせる用途があるとしても、いずれ 「影」にケシかけてやらねばならん。 芳岡で力試しをさせるか。 それとも....。 技術者達が煩わしく動き回るのを眺めつつ、ババはさらに深い思索にふける。 つづく
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