CFM「空中分解」 #0962の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
光陰矢の如しとは良く言ったものだ。 バレンタインデーだからといって特に何か起きる訳じゃあない。全ては極普通にあた りまえに進んでいく。当然でもあり考えてもみればちょっと愉快でもある。 世の男の子達の期待はともかく、さしあたってあたし達の楽しみは、チョコレート交 換。休み時間になるとおもむろにチョコを机の上に並べ、品評会を始め出す。 正直言って、あたしは今とてもそれどころじゃなかった。あのチョコ、結局カバンに いれて持って来てしまったのだ。つくづく自分の馬鹿さかげんにあきれてしまう。悩む ぐらいなら持ってこなければいいのに。そのおかげで恥しい話だけれど自分のカバンが 直視できないのだ。あのチョコがあそこに入っているんだなんて考えただけでも赤面し てしまう。胸がギュッと締めつけられる。 「キャー、これかわいいっ。」 「おいしそう、高かったんじゃないの?」 「あたし、これに決ーめたっと。」 「あ、ずるーい。」 黄色い声が教室中を所狭しと駆け巡る。男の子達のあきれた様な、それでいて頼りな 気で、かつ物欲しそうな視線が時々見てはいけない物を見るかの如くチラチラと飛んで くる。 やーい、いいだろう?! 欲しい? ふ〜んだ。あげないもんね〜。 少々やつあたり気味に心の中でつぶやく。 あげないもん・・・。 ふん、馬鹿みたい。 一人でつぶやいて一人でふてくされる。あたし、いったい何やってんだろ。 「あー奈美ずるーい。」 「ちょっと・・・これはないんでない?」 やはりみんなのに比べると、流石に”残り”で買っただけあって貧弱そのものだ。ま さかみんな本気で怒ってる訳じゃないだろうけど、やっぱりね・・・。自分でもひどい と思うもん。 「ごめーん。ちょっと事情あってさ、お金なくなっちゃったんだ・・・。ほんっとにご めん。」 「しょーがないわよねー。本命にあれだけお金かけたんだもの。」 おせっかいな事に美知がすかさず合の手を入れる。不参加宣言をした美知ではあった けれど、チョコなしのオブザーバー参加。おとなしくしてればいいものを、ばらしてし まうもんだからどうしようもない。みんなの集中砲火をあびてしまった。 「ヤダー、美知だけかと思ったら奈美もなのぉ?」 「いいなー、あたしも青春したいっ。」 「にくいわねー、この!」 「どーやって渡すの? ね?」 「ね、ね、誰にあげるの?」 「ねー誰?」 「奈美がねー。信じらんない。」 「教えなさいよっ。」 あたしの方こそ信じらんないわよっ! あー、うるさい、うるさい、うるさいっ。美 知の馬鹿! おしゃべり! おまけにみんなで、大声で騒ぐもんだからすっかりクラス 中の注目あびちゃってるじゃないの。頭に血が昇ってくのが文字どおり手に取る様にわ かる。まったく本当に穴があったら入りたいくらいだ。もう嫌、嫌! もう、絶対に嫌 だ。今日は授業が終ったらすぐに家に帰ってやる。帰ってフテ寝してやるんだ。 そうした所で何の解決にもならないのだけれど・・・。あたしは真っ赤になって立ち 尽くしつつ、固く心に決めたのだった。 神様はなんて残酷なのだろう。そんなあたしのささやかな願いさえもききとどけては くださらなかった。 六時間の授業が終るや否や美知はすかさずあたしをつかまえると、今度は渡すのにつ きあってくれとまで言い出した。何とか理由をつけて断ろうとしたのだけれど、これま た結局美知にていよく丸め込まれてしまった。 悲劇だ。 きっとこれからの人生もずっと美知に振り回され続けて生きていくんだわ。そんな考 えが頭を横切りげっそりとした。 「流石は奈美! ありがとう、恩にきるわ!」 喜ばれると事情はどうあれ悪い気はしない。(このノリでつきあわされちゃってんの よね、結局。)でも、ちょっと複雑な気分だ。 はぁ・・・引き受けた以上、やるっきゃない。自分を殺して美知に協力するあたしは なんて健気なのだろう。 で、渡すのにはさしあたって二つの方法がある。直接渡すのと、間接的に渡すという のがある訳だけど、やはりインパクトを中心に考えるなら直接渡すのが一番だろう。 「やーよー、そんなの。」 「どうして?」 「だって・・・恥しいじゃない。」 恥しいなら始めっからそんなこと考えんなっ、と心の中で悪態をつきつつ忍の一字で こらえる。 「ぢゃー、直接渡すのはパスとゆーことにして・・・やっぱり靴箱よねー。」 少女漫画の典型的パターンが頭の中をよぎる。ふたつきの靴箱、これしかない。 「あんなとこにぃ?」 「あんなとこってなによ。」 「だってぇ第一キタナイし・・・あんなとこに入れたんじゃ誰に持っていかれるやら・ ・・。」 あちゃー。 あたしは頭をかかえた。一介の公立中にお決まりのセオリーを持ち込もうとする方が どうかしている。古くさい木枠の靴入れ。もちろんふたなどついていない。おまけに掃 除が行き届いていないもんだから始終砂ボコリが舞っているのだ。 あたしの美意識は音をたてて崩れ去った。 「じゃ、彼のカバンの中なんかどうかしら。」 美知が突如思い出した様につぶやいた。 「だめだめ。」 あたしは激しく首を振る。 「理由はどうあれ、人のカバンの中を覗く女の子なんて、悪印象ナンバーワンの典型 よ。」 「うーん、そんなもんなのかぁ・・・。」 そこで感心してどうすんのよ。 「流石、奈美は詳しいわねー。感心しちゃうわー。」 頭イタ・・・。ああ、やっぱり振り切ってでも帰るべきだった。ゴネている内に教室 の中はあたしと美知だけになってしまっている。 おもわず、あっと声をあげた。まずい、肝心な事を忘れていた。 「美知ったら・・・こんなことやってて彼が帰っちゃったらどうすんのよーっ。」 「あーーっ!」 チョコが入ったカバンを掴む美知。慌てて教室を飛び出すと、あたしと美知は全速力 で笹川君の教室へ向かった。隣の隣のクラスとは言うものの、隣のクラスからは校舎が 別棟になっているので、これでなかなかけっこう距離がある。
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