CFM「空中分解」 #0937の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(15)逆 転 「カズ! 手伝ってよ。<救世主>が逃げる!」 耳たぶのシートスピーカーから、ノバァの応援を頼む声。しかし、この状況でリンを 放っておいて行っていいものだろうか? <子供>達と向かい合っているリンを見た。 「いいわよ」と、リン。 「えっ!?」 「行ってらっしゃい。大丈夫よ」 マイクスタンドを握り締めたリンがにっこりと微笑んだ。か、可愛い! んなこと言ってる場合じゃない。「頼む」と言って、僕はホールの階段を駆け登る。 ホールから脱出しようという人達でごった返している中、僕は人を掻き分けてソファ が並ぶウェイティング・ホールを通る。下りて来る人波に逆らって、二階のロイヤルボ ックスへの階段を駆け登った。 階段状のホールを見下ろす回廊に出た。既にロイヤルボックスの客は逃げていた。 「そっち、行ったわよ!」 見ると、ホールを挟んで向こう側の回廊をノバァが左の方に走っている。そのノバァ の更に左手を男が一人、走っている。 僕も左手に走り出した。円形のホールを見下ろす回廊は湾曲している。ノバァに追わ れて逃げる男は僕の方に近付いて来る。しかし、僕と男の間には下りの階段がある。 走るピッチを上げる。あんな、でかっ腹に負けてたまるか! ほんのタッチの差で僕が勝った。男は僕の三メートル手前でストップ。そして突然右 手の手すりを乗り越えると、階段ホールに飛び下りた。 アッと思った時には、男は下のテーブルをブッ壊し、尻餅をついていた。 ひらりと四メートル下のホールに飛び降りるもう一つの影。 ノバァである。思いきりのいいところは男以上だ。 男はそのまま、リンと対峙している<子供>達のいるホールの中心、ステージの方に 走って行った。走る男の周りには、何人もの人間が血塗れになって倒れている。その中 には、ついさっき、拳銃で撃たれた<子供>の残骸があった。大学病院のAICUで見 た<子供>と同じく、全身が腐敗したように溶けているのだ。 僕の頭の中で、バラバラだったジグソーパズルのピースが一つ一つ、確実に音を立て て、填まり始めた。 あの夜、僕らはリンのドジの御陰で、逃げ出した。レコーダを忘れたリンと現場に戻 って見た<あれ>。あの肉塊は、どこかの食堂の生ゴミじゃなかったんだ。あれは、< 子供>の死体。 恐らく、メイソンは<子供>に襲われた時、持っていた拳銃でその一人を撃ち殺した のだろう。確か、リンのメモリ・プレートにも、「惨殺された仲間が・・」というスー パー・ソニック・ボイスが記録されていた。 そう、<子供>は死ぬと、すぐに死体は腐敗してしまうのだ。 男は、<子供>達の真ん中に潜り込んだ。その男が追って来るノバァを指差した。 <お前達、あいつを、あの女を殺せ! あいつは、お前達の敵だ。あの女はお前達をや つらに渡そうとしている。あいつを殺せ!> スーパー・ソニック・ボイスだ。 「カーマイン、分析結果は?」 「人工的に合成された超音波音声ですね。音声にハム音が記録されています」 「分かった。こっちもやろう。奴の周波数スペクトルにセット。中継してくれよ」 「了解」 <やめろ! もう無駄なことだ。君らはもうすぐ、完全に市警察に包囲される。この店 の騒ぎは既に通報されているだろう。どこにも逃げることはできない!> 僕の超音波音声に、男は酷いショックを受けたようだ。スーパー・ソニック・ボイス で喋れるのは自分だけだと思っていたのだろう。 僕の声は、喉のシートマイクを通してカーマインに伝わる。カーマインはそれを<子 供>達の音声周波数に変調し、ステージの高帯域ツイーターから出力した。 <騙されるな! や、やつも敵だ。お前達を利用しようとしているのだ> <悪あがきはやめなさい。あんたはもうお終いよ。<救世主>なんて、気障な名前をつ けたって、所詮はチンピラなのよ> ノバァが<子供>達に囲まれている男を睨んでいた。 ノバァの奴もカーマインにねだって、僕と同じように超音波で喋ってる。 <私は<救世主>なんかじゃない。そんなものは知らん> <往生際が悪いよ! 覚悟おし! ノバァ探偵事務所を敵に回すなんざ、身の程知らず だよ。まったく> <みんな聞いてくれ、この人達の言うことは正しい。この男こそ、僕らを利用しようと したんだ> その声の調子から、リンの側にいるジョンだということが分かった。 僕は、ジョンが話している隙に、手すりを乗り越え、下のホールに飛び下りた。 <この男は、僕らを<施設>から逃がした。しかし、その目的は僕らを利用することだ ったんだ。僕らは<施設>で生まれた。正確に言うと、<製造>されたんだ。クローン 培養と、遺伝子操作により、全く新しい生命体として作られた。<施設>から逃げた後 、この男は僕達を養ってくれた。しかし、この男は君達をMD、マッド・ダストという 薬の常用中毒にしてしまった。MDの禁断症状では普通の人間は苦しみ回る。僕らにと っては、禁断症状は凶暴性を増すことになるんだ。僕らを薬漬けにした理由はそこにあ るんだ!> <嘘だ! そんなことは嘘だ!> 男はわめき散らすした。その時、<子供>達の輪の外にいたノバァが、<子供>達の 垣根をすりぬけ、その男に迫ると、掛けていたサングラスを取った! ホールの階段を下りていた僕は、アッ!と驚いた。 その顔は見たことのある顔だった。 「ハリソン先生!」 大学病院のAICUで、<子供>の死体の分析をしていた筈なのに。あのグローバル 先生と同期の先生だった。信じられない。 ノバァも驚いた様子だ。 またパズルのピースが填まった。あの夜、メイソンを張り込んでいる時に、あの裏通 りをよたっていた腹のでかい酔っぱらいは、このハリソン先生だったんだ! <お前達、こんな裏切り者の言うことを信じるのか。恩人の私を信じないのか> <ハリソンさん、僕はあなたの正体を知った。そして、二年前にあなたの元を脱出し、 メイソン一家に匿ってもらったんだ。しかし、僕はMDの禁断症状に襲われた。メイソ ン氏が不在の夜、僕はMDの禁断症状のために凶暴な殺人鬼と化し、恩人のメイソン一 家を惨殺したんだ。自分ではどうすることもできなかった> 恐ろしい話が語られている。僕もノバァも<子供>達もそれに聞き入っていた。 一人、リンだけが、訳が分からずにマイクスタンドを構えたままだった。 <MDを切らした仲間は、夜になるとダウンタウンに出没し、人を襲った。しかし、そ れもハリソンさん、あなたの計画の一貫だったんだ。一方、メイソン氏は僕のことを理 解し、一家を惨殺した僕を許してくれた。しかし、MDの禁断症状を緩めるためには、 MDを使った逆療法しか無かった。彼は、僕の治療用MDを入手するために、薬の売人 になったんだ。そのために、市警察まで辞めたんだ> ジグソーパズルのピースがまた一つ、パシッと填まった。ハザウェイ警部の依頼の答 えが今、得られたのだ。 <メイソンさんは、この二年間、あなたを調べ、そして遂に動かぬ証拠を掴んだ。僕達 の仲間を使ってあなたが、やろうとしていることだ。> <お前達は、未来の地球人だ。この地球はもう狭過ぎる。資源もエネルギーも食料も土 地も全て、不足しているのだ。『悪夢の日』の御陰で、地上の十パーセントは数百年は 人間の手の及ばない土地になった。我々人類は未来へ生き残らねばならん。省エネルギ ー、省スペースの新しい人類が必要なんだ。そうして<施設>が生み出したのがお前達 だ。お前達の身体はまだ生物としては完全ではない。しかし、お前達の子供達は間違い なく、新生命体となって地球に君臨するのだ。その日まで、お前達の存在を隠しておく つもりだった。お前達の存在はまだ知られたくなかったのだ。だから、メイソンにお前 達の正体を感付かれた時、私は奴を殺そうとした。お前達の力を借りたのだ。あの夜、 お前達の手を借りたのだ!> 「ハリソン、あんたが<救世主>なのかい?」と、ノバァ。 「<救世主>なぞ、私は知らん。なんのことを言ってるんだ」 「じゃあ、ハリソン先生、<施設>とはなに? この<子供>達の正体は? 誰がこ <子供>達を作り出したの?> 「それは、<施設>とは、・・・・グワッ!」 ハリソン先生の胸に大きな穴が開いた。彼は背中から腸を蒔き散らした。 床に倒れていた血塗れの男が、銃口から煙の出ている拳銃を握っていた。ハリソン先 生が倒れると、拳銃を握った男は満足そうに笑みを浮かべ、つっぷした。 「ハリソン!」 ノバァが駆け寄る。僕も、リンも駆け寄った。 「<施設>の連中だ。奴らが<子供>を取り返しに来た」 ハリソン先生が苦しそうに呻く。 「せっかく、君のメモリ・プレートを手に入れたのに・・・。カ・・ズ、君はコピーを 作った・・が、オリジナルも、・・・ホスト・コンピュータの記憶も消して・・きた。 <子供>の存在を証明する証拠はもう・・ない。そして、君らも・・・」 その時、ホールの到る所で爆発が起こった。炎の壁がホールに出現した。炎は忽ち、 天井のシャンデリアまで焦がす勢いになった。 −−−−−−−−−−−−TO BE CONCLUDEDED−−−−−−−−−−
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