CFM「空中分解」 #0936の修正
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(14) 罠 「止まれ!」 黒人人形が走り去った方向に、一人の男が拳銃を構えて仁王立ちになっていた。 その男の側にいた客の女性が悲鳴を上げる。 身長は一メートル程。人形の動きは敏捷だった。踵を返すと、数メートル引き返し、 別の出口に向かった。しかし、・・・。 「止まれ!」 そこにも別の男が拳銃を握って立っていた。 人形は再び、方向転換しようとした。だが、いつのまにか、ホールの中には拳銃を握 った十人くらいの男達がいた。彼らの服装はまちまちだった。 ホールは騒然としてきた。拳銃を持った男達が人形を取り囲もうというのだ。 僕は事態がよく飲み込めずにただ茫然と立っていた。 拳銃を持った男達が遂に人形を取り囲んだ。人形の逃げ場はない。 人形の額がピクピクと蠢いたように見えた。 こいつは人形なんかじゃない! 公園で見た<子供>と同じだ! 嫌な予感に襲われた。 その予感は当たった。ホール周囲の透明ショーケースのガラスの何枚かが割れた。そ のショーケースの中から、人形達が次々に飛び出してきた。 人形達の身長はやはり一メートル前後。子供のような背丈だが、身体のプロポーショ ンは大人。大人のミニチュア、<子供>達だ。 拳銃を持った男達に、フランス人形やNIHON人形、インディアン人形、人形とい う人形がホールの中に殺到した。 客達は大混乱となった。キャーキャーと悲鳴を上げ、逃げ惑う女性客、走っている人 形を捕まえようとして床に倒れる男性客。 人形達は忽ち、黒人の<子供>を囲んでいた拳銃を持った男達に襲い掛かった。 一人の男に数人の人形が襲い掛かっていた。多勢に無勢か。 しかし、人形に頭をポカポカ殴られている男というのも滑稽だ。数人の<子供>に腕 にぶら下がられ、遂には拳銃を取り上げられた男もいる。 ホールの客の数は約四百名。その客がてんでバラバラに逃げ出した。 「全員、床に伏せろ!」 レストランの呼び出し用スピーカーが怒鳴り声を張り上げていた。 しかし、大混乱と化したホールの中で、そんな言葉に耳を貸す者はいなかった。 パーン、パーンという銃声が響いた。その音にパニックは酷くなる一方だった。 透明の球体は、フロアから二メートル位の高さまで下りてきた。僕は、ホールから逃 げ出そうとする人の波を掻き分けて、階段を駆け下りていった。 リンが球体の中で拳を振るっていた。暴れるなって言ったのに・・・。 球体はユラユラと揺れながら下り続けている。ジョンの入った球体も下りて来る。 床から一メートル程まで下りた時、突然球体が縦に真っ二つに割れた。中にいたリン はあっという間に、割れた半球体の片割れと床に落っこちる。 僕は彼女と床の間に仰向けに足から滑り込んだ。その僕の腹の上にリンが落下した。 ムギュッ。お、お、重い! リンの奴、見掛けより重いんでやんの! リンのお尻が僕の腹の上に乗っている。僕はグウとも言えなかった。 「リ、リン、・・・。お、お、下りろ」 リンはノロノロと僕の上から下りたのだが、ふとした弾みでずっこけ、彼女の拳が鳩 尾に食い込んだ。 グフッ。息、息が、できな・・・い。 「あーら、カズ、そんな所で何、してるの?」 「・・・・・・・・」 その間にホールは蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。拳銃を持った男達も、 <子供>も客も区別が付かない。みんな、やたら走り廻っている。 「カズ、大丈夫?」 くりくり動く大きな目、ふっくらとして愛らしい唇、愛嬌のある顔で、彼女は倒れて いる僕を覗き込んだ。団子のように頭の後ろでまとめていたのを下ろしたツヤツヤした 長い髪が僕の顔をくすぐる。 大丈夫なもんか! 「ほら、しっかりしてよ。頼んないんだから。わたしがいないと何もできないんだから 、しょうがないわね。まったく」 こ、こ、こ、こ、この、馬鹿ーっ! と叫びたいのだが、鳩尾に食らったリンの拳が 効いていた。 「カズ、何があったんだい?」 CBががなる。ノバァだ。 「返事おしよ! カズ、カズったら、聞いてんの?」 うるへーっ。どいつもこいつも、どうしてこうなるの? 僕は一生懸命にやってんだ ぞ。ハードボイルドの私立探偵なのに・・・。肝心なところで、いつもこうだ。 リンに肩を借りて漸く立ち上がった。<子供>達は、まだ男達を襲っていた。 「リン、これから何が起こっても、慌てるんじゃないぞ。それと、あの球体の中の子供 を助けてくれ」 「わーい、凄いなーっ、ワクワクしちゃう!」 脳天気リンは健在だった。彼女はジョンを助けに行った。 僕はポケットから取り出したシートを喉と耳たぶに貼った。 「カーマイン、頼むぞ。音域を広げてくれ、四万ヘルツまで上げろ」 喉のシートマイクがCBに話し掛けなくても、僕の声を拾い、耳たぶのシートスピー カーがカーマインの声を伝える。 「カズ、キャッチしました。有意信号です。可聴範囲まで下げて、伝えます」 暫く間が空いた。 <よし、もういい、そこを立ち去れ。そいつらを殺してはならん。早く立ち去れ、グズ グズしていると奴らが来るぞ> その時、パーンという拳銃の音がして、<子供>が一人、ふっ飛ばされると床に倒れ た。床に倒れた<子供>は胸から血を流していた。 <子供>の一人がそれを見た。そいつは超音波の声を絞り出した。 <ルパがやられた。こいつがやった。殺せ! 殺すんだ。仲間の仇だ。殺せ!> <止めろ! 勝手なことをするな。早く、そこを立ち去れ!> まだ銃口から煙を棚引かせている銃を握った男に、<子供>達は襲いかかった。その 男は忽ち、目を抉られた。<子供>がぐっと引っ張った髪の毛に、血の付いた頭皮が剥 がれた。男は身の毛もよだつ絶叫を上げた。 <殺すな! やめろ、殺すんじゃない。何のために、メモリ・プレートを横取りしたの か分からん。止めろ!> その超音波の声の主の姿は想像できない。しかし、口調はどっかで聞いたような気が するんだけど・・・。 「カーマイン、スーパー・ソニック・ボイスはどこから出てる?」 「二階の張りだしです。カズさんの立っている位置から三時の方向です」 僕は二階を見上げた。それらしき男は見えない。いや、いた! そいつは、二階のロイヤルボックスの端の方にいた。他の客が我先に逃げ出している 最中、そいつは張りだしの手すりから身を乗り出して下のホールを見ている。サングラ スを掛け、グレーぽいシャツを着た、腹の大きな男だった。 「ノバァ、二階だ。二階のロイヤルボックスにサングラスを掛けた腹のでかい男がいる 。そいつが<救世主>だ。捕まえてくれ!」 「わかったわ。任せといて」 ノバァの頼もしい声が聞こえた。これで<救世主>は捕まるだろう。 <子供>達は血に飢えた狼のごとく、殺戮を始めた。犠牲者は忽ち十人を数えるに到 った。阿鼻叫喚のホールは地獄絵図となってしまった。 ここは脱出した方がいいだろう。リンを捜すと、彼女はジョンを球体から出したとこ ろだった。ジョンの手を引いて僕の方に走って来る。 そのリンとジョンに<子供>の一人が襲いかかった。 僕はその<子供>にタックルした。すると、数人の<子供>が僕を押さえ込んだ。も がいたが、多勢に無勢。みなギラギラと光る目で、正気な目ではなかった。両手両足を 四人の<子供>に押さえられ、身動きできない僕の頭を一人が押さえ、最後の一人がV サインのように広げた二本の指を僕の目に突っ込もうとしていた。 絶対絶命だった。目を固く閉じた。 <止めろ! その人は僕を助けてくれた。味方だ。僕らの敵ではない。止めるんだ!> その声は、<救世主>の声でも、<子供>達を操っている男の声でもなかった。 しかし、それはスーパー・ソニック・ボイスだった。 <その人を放せ! そして、無益な殺人を止めろ!> <子供>達の目から、急に殺意が消えていった。僕を押さえ付けていた六人の<子供 >は、僕を解放すると声の主を振り返った。 僕は上半身を床から起こした。<子供>達の視線の先にリンがいた。 リンはステージのマイクスタンドを手に<子供>達と対峙していた。身体を張って、 自分の背後にジョンを隠しているのだ。結構、様になった恰好だった。 リンが信じられない程、気丈な面を見せていた。好きになりそう・・・。 驚いたことに、彼女の背後にいるジョンの額がピクピクと動いていた。 <もう止めろ! 君らは凶悪な殺人鬼に成り下がったのか。我々は、未来を築くために この世に生を受けたのではないのか? 〔奴〕に操られていて、それでいいのか? 我 々は新しい人類だ。たとえ、人間に造られたとしても、我々は生きているんだ。同じ生 きているものを殺す権利は誰にもない> メイソンの忘れ形見のジョンは、五才の子供ではなく、<子供>だった。 彼は、新人類と自らを名乗った。そして、この殺人鬼達も・・・。 −−−−−−−−−−−−TO BE CONTINUED−−−−−−−−−−−−
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