CFM「空中分解」 #0929の修正
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(9) 二つのメモリ・プレート 僕は市警察本部を訪れた。昨夜、ノバァと別れる時に前もって、正午に市警察本部の 別館で落ち合う約束をしていたのだ。 「おや、結構、元気そうじゃないの」 どうして、こう憎らしい台詞しか吐けないのかな。 可愛い顔して、しらっと言うだけに腹が立つ。 今日のノバァはライトブルーのぴったりしたショートパンツに、ピンクのシャツを着 ている。それに真っ赤なパンプスを履いていた。目立つ恰好するなって言ったのに、カ ラフルな服装だ。それでなくても、スタイルがいいのに目立ってしょうがない。 腹が減っては・・・ということで、二人で警察本部の別館ビルの展望レストランに入 った。ここなら、<救世主>に襲われることもないだろう、と思ったのだ。 レストランに入ると、予想通りノバァは食事に訪れた人々の目を集めた。彼女をエス コートする僕はちょっと気分がいい。 ゆっくり食事という程、時間がある訳ではない。<救世主>との取引時間まで、丁度 十二時間しかないのだ。ノバァも僕も簡単なランチを注文した。 レモンを絞ったアイスソーダの冷たいグラス。彼女はそのグラスの淵に魅力的な唇を 付けて僕をじっと見つめた。何も喋らないで見つめられると、ゾクッとする。 「なんか、分かった?」 そのぶっきらぼうな言葉で目が覚めた。 「ああ、メモリ・プレートの秘密は分かったよ」 ぶすっとして、僕はグローバル先生の突き止めた事実を手短に話した。 ノバァは首を振った。信じられないという気持ちはよく分かる。 「カズ、今度の事件を整理してみない?」 「うん、それじゃあ、記憶の新しいところから、昨夜の事件を思い出そう」 ノバァはソーダを口に含んだ。細くて健康的な小麦色の喉がコクリと動いた。 「僕がアンナの部屋を訪れた直後に、アンナの部屋に電話をしてきた男が<救世主>。 奴は僕がアンナの部屋に来るのを待っていた。どうしてだと思う?」 「リンでしょ?」 「うん、彼女はうちの事務所から、ノバァが手に入れたアンナ・マグレインのホログラ フィを手に入れた。あのホログラフィにはアンナの略歴や住所も載ってたから、リンが アンナの部屋を訪れるのは簡単だ。それからリンは部屋に入れたのかな? リンが持っ てったホログラフィは、部屋の中の電子ピアノの上に置いてあった。彼女はどうやって アンナの部屋に入ったんだろう。リンが部屋の鍵を開けられたとは思えない」 「簡単よ。アンナの部屋の鍵はリンが行った時には、既に開いてたのよ」 ノバァは、すぐに答えた。 「ということは、<救世主>が先に来ていた!」 「その通り」 「で、<救世主>はリンをさらった。なぜ?」 「問題は、<救世主>はアンナの部屋で何をしていたのかってことね」 「分かんないよ」 「<救世主>は、カズにテレコムを掛けてきた。『メモリ・プレートをよこせ!』って ね。でもどうして、あなたがリンから預かったメモリ・プレートを欲しがるのかしら? メモリ・プレートが欲しいなら、直接、カズに言えばいいのに。わざわざ、アンナの部 屋でリンを待ち伏せしてたのは、どうしてかしらね?」 ノバァは細いソーダグラスを手で持て遊んでいた。やけにしおらしい。そう言えば、 レストランに入ってから、いつもの口調とはうって変わっておとなしい。 ノバァの奴、恰好つけてるな。周りの視線を気にしてるんだ。 「あのメモリ・プレートには、メイソンが得体の知れない小人に殺されるシーンが映っ ていた。超音波の声と一緒にね。<救世主>にとって重要な情報なんだ」 「なぜ?」 「なぜって、他人に知られちゃまずいことだから」 「ということは、<救世主>がメイソンを殺したってこと?」 「そうじゃないのかな」 ランチが運ばれてきた。僕はチリソースのポークビーンズにフランクフルトにポテト にパン、グリーンサラダ。ノバァは海草と貝のシーフードサラダ。ドレッシングの替わ りにサワーヨーグルト。それだけ。結構、身体のラインを気にしている。 「<救世主>はアンナの部屋を銃撃で破壊したんでしょ。メイソンは銃で殺されたんじ ゃないわよ」 銃撃は正確だった。抱き合って転がるアンナと僕の周囲の床は蜂の巣になった。あれ はわざと外していたんだ。威すために・・・。鮮やかなプロの手並みだった。 「<救世主>はあの時、僕を殺す気はなかった。もし殺せば、メモリ・プレートのあり かが分からなくなる」 「それじゃあ、あのピックアップトラックのブレーキに細工したのはなぜ?」 うーむ、また壁にぶち当たった。 「おかしいじゃないの。だって、あんたを殺してしまうと、メモリ・プレートが手に入 らなくなるから、銃撃だって外したんでしょ。その<救世主>がどうしてブレーキに細 工するの。あのブレーキの細工は致命的だったわ。素人なら助からない。あたし達だか ら切り抜けられたのよ」 うむむむむ・・・。そうか! 「分かった!」 ノバァと僕は同時に叫んだ。周りのテーブルの客の視線が僕らに集まった。しかし、 二人ともそんなことには無頓着だった。 「敵は二組いるんだ。一組は<救世主>で、メモリ・プレートを欲しがっている」 「もう一組は誰だか分からないけど、狙っているのは・・・。あんたの命」 げっ! 「ど、どうしてさ」 「カズ、あんた、見たでしょ。メイソンとアンナが逢うところを」 「だけど、それがどうしてそんなに重要なんだい。直接、メイソンが殺されるのを目撃 した訳じゃない。リンのメモリ・プレートにしたって、ミノルタのレコードボタンをリ ンが押し込んだまま、落っことして偶然に記録されたんだ。撮りたくて撮ったんじゃな いもん」 ノバァは頬杖を付いた。 「カズ、あの夜、どうしてメイソンとアンナは『ベベ』で逢ったのかしら。いつだって アンナの部屋でもメイソンの部屋でも逢えたのに・・・。あの夜、どうして逢う必要が あったのかしら。二人はあの時、何してたのか覚えてないの?」 あの夜、僕とリンはメイソンを見張っていた。アンナはメイソンに逢いに来た。そし てメイソンは・・・。 そうか! 僕はなんて馬鹿なんだ! 畜生! 僕は大馬鹿だ。 「ノバァ、アンナはどこにいる? 彼女の所に連れてってよ」 「えっ?」 「昨日、狙われたのは僕じゃないんだ。ピックアップトラックに彼女が乗るようになっ たからなんだ。そうなんだ」 ノバァはフォークでつついたサラダを口に運ぶ途中だった。 「どうしたって言うの?」 「昨日、僕はアンナについて彼女の部屋に行った。でも、その前にリンが来た。そこで 待ちうけていた<救世主>にリンは捕まった。そこまではいいかい?」 ノバァはフォークをサラダボールに戻すと、コクンとうなずいた。 「<救世主>はリンにこんなふうに尋ねた。『メモリ・プレートを寄越せ』とね。だけ どリンは『無い』と答えた筈だ。あるいは『今、持ってない』と答えた。分かる?」 ノバァは首を横に振った。 「リンは、僕に預けたメモリ・プレートを思いだし、『無い』と答えた。<救世主>は 早まった。アンナに対して『メモリ・プレートを寄越せ』というべきだったんだ」 「何を言ってるのか、分からないわよ」 ノバァはキョトンとしていた。 「アンナの部屋で待ち伏せしていた<救世主>は、部屋に入って来たリンをアンナだと 思った。多分、部屋の電気が消えていて、相手の顔を確かめずにリンにメモリ・プレー トのことを尋ねたんだろう。リンは驚いた。こそ泥みたいに他人の部屋に忍び込んだ途 端に男が声を掛けてきたんだものね。あの子らしいよ。きっと怖がってキャーキャー いで喋っちまったんだろうな。『あのメモリ・プレートはカズ・コサックが持っている わ』ってね」 「ということは・・・」 「間違えたんだよ。<救世主>はこう尋ねるべきだったんだ。『メイソンから預かった メモリ・プレートを寄越せ』と。あの夜、メイソンと逢ったアンナは彼から何かの包み を受け取った。確かにメイソンが包みを持っていたのを僕は見た。その中身は多分、メ モリ・プレートだったんだ」 「メモリ・プレートは二つあったのね!」 「その通り。そして<救世主>に一歩出遅れたもう一組の奴らは、アンナがメモリ・プ レートを他の人間に渡してしまう前に始末しようとした。ピックアップトラックに先回 りし、ブレーキに細工した」 「つまり、狙われたのは、あんたじゃなくて、アンナ!」 「大変だ。アンナが危ない!」 僕はイスから立ち上がった。ノバァも慌てて立ち上がる。二人とも、血相変えて走り 出した。 レストランの支払いはしっかり、ハザウェイ警部にツケといた。
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