CFM「空中分解」 #0860の修正
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南シナ海上の武士(5) 夜 島の小屋に,十一人全員集まった.陸奥が何やら重大なことを聞いたらしいとい うのはもはや仲間の誰もが気付いており,それで小屋に集まり,話を聞こうという ものだった. 陸奥は未だそのことに怯びえいるらしく,刀でからだを支えながら震えはいっこ に止まる様子はなかった. 「陸奥君,話してくれ.」 「・・・・・・・・・.」 「船長もああ言ってんだ.言ってみろ.」 田熊が催促をかけると,陸奥の口が動き出した. 「田熊殿と私で,あの小屋に行き,ひとまず様子を見ようと・・・・・・・・・ そしたら・・・・・・・・・中から大声で話す二人の声が聞こえてきました.」 「それは私が保証する.」 「・・・・・・中の奴の話は・・・・・・神国日本を支配することだったのです・ ・・・・・・・・.」 「なに!」 「何処の馬の骨だ!輩だ!!」 「まぁまぁ待て.」田熊は押しとどめ,陸奥に話せと目くばせした. 「・・・・・・その方法は・・・・・・どうやら御禁制の阿片で・・・・・・幕府 ・民をふ抜けにして,国王となり日本を支配しようという事らしいのです・・・・」 「大樹様の幕府をたぶらかそうとは,何事かぁ!不届き至極の輩めが!!」 「よし,今から夜襲じゃぁ!」 「まぁまぁ待てよ.野多さん,滝野さん.今奴らをぶっ殺したって,手下って者が いるのだし,もう少し様子をみて・・・」 「なにぃ!荒井!!お前は大樹様より直々に恩を受けていないからそんな呑気な事 を!大樹様のおかげがあって,薩摩っぽも安泰なのじゃろうが!」 「何を言いやがる.諸藩の力添えが無くては長州もたたけん幕府がきいて呆れるよ .ただ戦う一本気じゃぁ馬鹿なんだよ.機会をつかんで・・・・.」 「ばっ,馬鹿とは何だ馬鹿とは.」 「島津公の顔に泥を塗ったんだぞ!! 「ふん.幕府あっての薩摩じゃろうが.」 「じゃあ,今回の合同練習は何だ!長州征伐が遅れているため,その間に薩摩と仲 ようなっておいて長州に機会を与えないためじゃろが!そんために,わしら,こげ な島にきてしまったのだぞぅ!!」 「なぁにを!」 薩摩藩士と直参旗本がパッと二つに分かれ,一触即発の状態となった.にらみ合 い,手は柄にかけ,いつでも相手を肉塊にしようと構えている・・・・・・・・・ 「やめんか!」 争いに取残されていた船長,陸奥,田熊のうち田熊が飛び出,自らの太刀,小刀 を両手に抜き,目にも止まらぬ早業で野多と荒井の首筋にひたりとあてた. 「ここで仲間割れをしてどうなる.三十人いなけりゃ満足に操れん船なのに,人数 を減らすようなことがあって良いのか.」 「・・・・・・・・・・」 「さらに言うぞ.どちらも主君の忠誠からきたものであるのだから,武士として立 派な事である.しかし,それゆえにここで死して帰還できないことがあろうならば, 薩州と幕府は不仲となり,それこそ多くの犠牲が出るであろう.我々の第一の目的 は国へ帰ることなのだ.分かったか!・・・分かったら,双方,心を沈め,座れ.」 薩・幕の両方の人々は,田熊を驚きの目で見入りながら,静々と腰を下ろした. 田熊は刀を鞘に納め,自分も腰を下ろした. 「よし,では船長の意見をうかがう.」 「その不届きな者に対する行動は,二つある.一つはそ奴らが我国へ攻め入る途中 の航路で,先回りし,迎え撃つ.もう一つは一刻も早く神国に帰還し,幕府等にこ のことを知らせ,諸藩・幕府の連合艦隊で迎え撃つというものだ.しかしながら, 後の考えだと,相手がいつ攻めてくるとしても,対馬号の出力,破損度などから考 えて,国に知らせに行かないうちに,奴らが上陸してしまうことになりかねん.」 「船長,奴は来週の金曜日に攻め入ると・・・・・・」 と陸奥は言った.それを船長はうなずいて受け,言葉を続けた. 「また,対馬号は連絡船でなく,軍艦であるのだから,奴らをシナの海で迎え撃つ ことにしたい!みな,一致団結して,悪を打ち破ることを望み,命令する.」 「おう!!」 ついに,日本より遥かシナの島で,薩・水・幕の囲いが消え,彼ら彼ら自身のた めに,そして幕末まで成し得なかった考え方”みんなのために”動きだした. 大阪城内・橋本伊豆守の御部屋 老中橋本伊豆守は,この程の薩州との談判に派遣される四人の顔をまじまじと見, そして四半刻が経ったかと思われた頃,おもむろに声を発した. 「その方達は,今回の海難の事はどう思われる.」 「はっ,いたわしゅう思われます.」代表者らしい佐藤が受けた.おそらく,今回 の談判の全権を委任させられる人物だろう. 「合同航海練習は,諸藩特に長習に対する軍事的な繋がりが薩州と,幕府の間に あるというを表わすものであった.君達はそう聞いたのでは?」 「おおせのとうりでございます.」 「うむ.それもある.近ごろはこともあろうに幕府の命もきかぬ藩もある.しかし」 と,言葉を区切り,もう一度平伏する四人を眺めた. 「しかし,それだけでない.いま日本で最も強力な軍隊と,西洋術を保持している ところはどこであるか.」 「幕府でございます.」 「そちの目は節穴か.この場に及んで建前などよい.わしも幕臣であるゆえそのよ うに言いたい.が,現実には目を向けなければならない.薩摩だ,薩州である.そ の答えは!しかし,その薩摩も蛤御門の変のときのようにいつまでもこっちのいう ことを聞いてくれるとは限るまい.まぁ,もっともそれが手に入れば問題は無いの だが・・・・・・」 「・・・・しっしかし御老中様,どのように・・・」 「薩人の利先見世ともおす者が確か,薩・幕の航海練習監視役であったそうだの. その者の判断が怠ったということで・・・・」 「ですが,当日海が荒れてくると,幕府がたの航海練習指揮の国弘一重殿に同人 はもうしたて止めたそうですが.」 「国弘は嫌疑をかけられたため,恥て腹を切った.その時,こう言ったそうだ. そのような届けは出ておらず,拙者は関係ない.ただ嵐のことを読みきれなかった のは不覚,と.」 「はっ.分かりました・・・・」 「書類などは,長崎奉行から取り寄せるがよい.」橋本伊豆守はさらに, 「今回の談判の目的は,”薩摩藩”を取ってくることにある.よいな.」 佐藤は下城の時事の重大さからか,冷や汗が出ていることに気付いた. 幕府もふ抜けばかりだと思っていたが,どうやらそうではなさそうだ.おそらく このために航海演習が計画されたのであろう.しかし,馬鹿の古狸が思い付くはず はない.とすると,着任早々の伊豆守の賭けか!そうか!伊豆守か! 佐藤はなにかしら拳に力が入っていくような気がした. .
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