CFM「空中分解」 #0857の修正
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南シナ海上の武士(2) 朝になると霧が視界を覆いつくしていた.残り少ない薪を燃やして,海岸と並行に 航行し船をを寄せられるところを探していたのだが,霧のせいもあってなかなか見つ けられず,密林地帯まで来てしまった. 「しょうがない.ここいらで上陸するかぁ.」 「どうだぁ−!」 船長の言葉を受けて滝野が,見張り台の二谷に叫んだ. 「いいんじゃ・・・・・・.ありゃぁ・・・なんだぁ?」 二谷は海面にちらちらゆらめく黒い影を霧の間から発見した.急いで望遠鏡の接眼 レンズを目にあて,正体を定かにしようとした. 「・・・・・・海草の群・・・・・・!おおぉい前方に海草の群だぁ!機関停止 しろぅ!からまるぞぅ!」 一方,下では・・・・・・. 「滝野君どこに露営したらいいと思うかね.」 「さぁ.船長,田熊殿だったら分かるかもしれませんぞ.彼は羽後の方に住んだこと があるゆえに,そういう知恵を案外持ち合わせているかもしれません.」 「よし.では呼んでくれ」 「分かりました.」 その間,対馬号はポコポコ機関を音鳴らながら,黒い海草に包まれようとしていた. 「おぅーい.絡まるぞう.釜焚きやめぇぃ!」 船体を,青青とした海草がゆらりゆらりと撫ぜ始めた. 「おーい.馬鹿野郎.わっかに絡まったら,動けなくなっちまうだろうが!!」 「船長 なんでしょうか.」 「うむ,どこに露営したら良いかだが・・・.」 「そうですね,あっあそこは!ほら,あと少しばっかし行った所に開けたところが・ ・・・・・霧で見えにくいですな.このままじゃ,霧の動きが変ったら隠れて見落と すかもしれません.」 「うむ.本発動で微速前進」 「微速前進!」 ボッボゴッボゴォッボゴッボッボボ・・・・・・. 力強く,蒸気機関本発動を開始した対馬号は海草の最も深いところへと急速に近つ きつつあった. 「バカヤロウゥ,船が壊れるぞう!!」 二谷は下の者に知らせようと,望遠鏡を取り,甲板めがけて投げつけた.くるり, くるりと回って望遠鏡は,下で仕事をしていた荒井を掠めてかすめて甲板上に散った. 「何しやがる 殺す気か!」 「それどころじゃない,船が壊れる,機関停止!!」 荒井は二谷の泣き叫ぶ声を聞き,たた事ではないと察して大声で叫んだ. 「機関停止!停止!!船長!!」 「何故だ,なにがあったんだ.」 小倉が荒井の袖を掴むような感じで言うとそれを振り払うかのように,大声で荒井 は答えた. 「何があったか知らぬが,船が壊れるだと!」 するとそこへ,船主で荷解きをしていた川谷が息をはずませ駆ってきた. 「大変だ,前方に深々と広がる海草がある.このままじゃ絡まって動けなくなります ぜ.」 「船長!」 「船長!!」 「船長!!!」 「よぉし,機関停止!,面舵一杯,そして船体が沖へ向いたならばその時点で微速で 離脱!!」 「わかりましたぁ」 その命令はすぐさま機関室に伝えられ,機関は停止した.しかしながら勢いは残り, ズンズンと海草の渦にのめり込んでいるようだった. 「舵はどうしたぁ!」 「これで面舵一杯でぇす!!」 グ・・・グゥグゥグッグッググググ・・・・・・・・・ 対馬号はゆっくりと右へ曲り始めた.しかしまだ微々たるものだ.このままでは渦 の中心にはまってしまうだろう. ブゥブォブワブワブワワワワ・・・ 急に帆がはためき,逆帆となって正面から吹き始てきた風をもろに受けた.そのお かげもあってか,速度はみるみるうちに弱まっていった. 「よぅし,風を利用しろ!左側のロープを緩くして,風を流させて沖へ船を向ける んだぁ!!」 「はいよぅ!」 甲板上にいた七人は,ロープを緩めるために駆けずり回った. 「もっと引っ張れ!馬鹿者!!」 三本目に取かかった時,風は除除に勢いを失っていた.船体はそのころから風によ って回頭し始めた. 「いけぇ!」 しだいに力を失ってゆく風とは反対に 対馬号は尻を軸に白波を立てて回頭して く. 「釜焚き始め!微速で脱出!!」 ボッボゴッボッボゴボゴボボボボボ・・・・・・ 黒煙を吹き始めた対馬号は,力強く海草の渦から脱しようと動き始めた.海草はな ごりを惜しむかのように,はたまた,こっちへおいでと誘惑しているかのように,黒 い手を揺らせていた. 三十分後,対馬号は海草群の外側に投錨した.そして,乗員には上陸命令が出され ボートに荷が積み込まれていくかたはら,船長が,ふと漏らした. 「こんなんで,よく生きてられたなぁ.」 .
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