CFM「空中分解」 #0844の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
文芸部というものに入ってから一年が過ぎた。ギコチなかった我高校生活も慣れとい うものが出てきて、ようやくそれなりの楽しみが出てきた。私はパソコン通信というも のをやっていて、この辺りからネットワークというもので作品発表することがいかにア マチュアライターに向いているかを自分なりに発見していた。で、大抵書いた作品をこ っちに発表して文芸部にはそのついでに書いたものを発表するという、反対のことにな ってしまったのだが、物を書くということに対して夢中になったのであながち悪いとは いえないだろう。 当然のことだが去年の私と同じく、若筆が入ってきた。男女2人づつ。一人は明るい 女で守山先輩とは対象的な人間だな、と思った。もう一人は髪を7:3に分けた、陰気 そうな奴で(これはまったく間違っていたと後悔しているのだ)なんか私に似ているよ うで嫌だなぁ〜と思った。(髪は私は6:4に分けている) 波多先生による例の儀式が行われた後、私は副部長に昇格した。本来ならば私が部長 になるのだが、波多先生は副部長にした。守山先輩が色々といってくださったのだが、 「橋本は補佐型人間だからな、守山を助けてやってくれ。本年度は文芸部も忙しくな ると予想されるのでな。」 私は用意していた厚紙を取り出して、佐藤が別にしておいた5冊に慎重に張り合わせ ていた。すでに厚紙には青い布がはっており、個人が自分の手で作るハードカバーとし ては、なかなかの風格を見せていた。今回の【春再来】は、実は20年来続いてきた分 化祭の時に発行する【褐色】を活字出版からワープロ出版にし部数も80部まで減らて 部費をかなり浮かして、それを回して作ったものなのだ。従っていつも作られる【褐色 】以外の雑誌に比べて、重厚になっているのである。ページ総数450で勿論袋閉じで はない。 5冊を重ね、その上に辞書と椅子をヒックリ返して載せた。しばらくはこうして待つ 以外ない。 再び、窓から見ていると、ボチボチ卒業生達が楽しそうに、最後の高校登校をしてき ていた。学校に行くのはこれで最後という人もいるだろうし、まだ学びの門をくぐると いう人もいるのかもしれないけれど、高校というワン・シーンの区切れであることはま ぎれもないことなのである。 一方、在校生徒の教室では、LHRが行われていた。ま、いいか、今日ぐらい遅刻に なっても。なんせ、先輩が出てっちまう日なんだからな。 「先生、何でワープロ出版なんですか!去年の奴がスンコグ余ったからですか!部費 が少ないからですか、どうしてですか!!」私は波多先生に噛みついていた。活字は凄 いぞ、活字は素晴らしい、ワープロなどより格段に奇麗だ、とさんざん佐久間と佐藤に 言ってきたし、私自身凄く楽しみにしてきた【褐色】をワープロ出版にして部数も大幅 に削るという。それを聞いたとたんに部室から飛び出して先生をひっつかまえたのであ る。 「今年は、卒業記念号を作るからだよ。」波多先生はいつもとは違う、きちんとした言 葉運びで説明を初めた。「守山が卒業するだろう。奴は忙しいのに2年間も部をきりも ってくれた。……そりゃ御前さんの努力もあったがね。それでそのお礼といっちゃおか しいが………ま、そうするんだ。」 「………分かりましたが、先生はいつも何も言わんでやるから……」私はそこでスネた。「ふっ」先生は煙草を取りだしくわえながら、「そこでだ。御前さんにこのプロジェク トに当たってほしい。」 「……なんです?」 「守山に分からんようにやってほしいのだ。渡すのは卒業式の当日なのだが、それまで 分からぬように進めてほしい。」 「………はぁ……」 「何せ、守山涼子のためだからな。」波多先生はそういって肩をポンポンとたたいて笑 っていってしまった。 学校にやってくる3年生が一層多くなってきた。皆、楽しそうに、しかしゆっくりと やってくる。明日から違う世界に飛び出すためか、名残の惜しさのためか……。高校は 義務教育とはいえ中学とさほど違わなかったからそのギャップは感じられなかった。し かし、大学・専門学校・会社、その他いろいろな実社会に出る。これまでとはまったく 違う世界なのだろう。それに対する畏怖……… 「あっ!」私は思わず声を上げてしまった。「先輩だ!!」 守山先輩はスクールコートに身をつつみ、やはりゆっくりと一人で歩いてきていた。 はっきりしないことなのだが、今日は眼鏡をしているようだ。 「本当、いよいよなんだよな。」 在校生に珍しく、私はゆううつだった。 「今年はワープロ出版なのかー。」守山先輩はちょっと溜息まじりに言った。「残念 ねぇ。」 「はひ、いろいろありまふから」私は御飯を食べている途中であったのでゴクリと飲 み込み、「不況ですからねぇ。印刷屋も値を上げざるを得なかったんでしょう。」 「はぁ〜」守山先輩の横顔はさすがに寂しそうだった。 そろそろ糊もくっついてきたみたいだ。私は椅子と辞書をどかして、5冊を一列に並 べて置いた。そして、タイトル『春再来』を切り抜いた画用紙をそのうちの一冊に当て 昨日プラモデル屋でかってきた銀のスプレーでその上から噴き付けた。瞬間からあの独 得の臭いが立ち込める。最初は失敗を恐れてほんの少し噴き出させ、そのうち思い切り をつけてバァ〜とやった。(チョボチョボやるとかえって汚くなってしまうものなので ある。) そのころ、外では渡り廊下を通って在校生達の体育館までの移動が始まっていた。ぞ ろぞろぞろぞろと、のん気そうな顔つきの奴らが向かう。何々先輩がどうのこうのって 噂している女子達がいるかと思えば、先輩が卒業することをひそかに願っている者もい るのだろう。 「いそがなくっちゃな。」私は心にもないことを言った。 佐久間と佐藤という人間がようやく理解出来始めた(特に佐久間のバケの皮が剥がれ てとんでもない奴だということが分かったころ)ころ、守山先輩卒業記念出版極秘プロ ジェクトも本格化し始めてきていた。まず、金はあるのだからかなりページ数のあるも のにしようということ、守山先輩の今までの全ての作品を載せようということ(これは 至難の事だった。先輩に分からぬように先輩の原稿を使うのは無理なので、『先輩の昔 のを見せてくださいよ。』とかなんとかごまかして書き写したのである)、そして文芸 部の特別配布として、ハードカバーを5冊つくることが決定された。(波多先生にはお どろかされっぱなしだったので、このハードカバーのことは極秘プロジェクト中の極秘 とされた。当日、彼をおどろかそうという魂胆に後輩達2人が乗らないはずはなく…) さて、そういった時、普段はあまりこない波多先生がやってきて、 「生徒会から援助金50000円、おりたぞぅ〜」 と、いってまたすぐにぶらりとでていってしまった。このときちょうどハードカバーの 話をしていたところで、一同ひやりとしたものだった。 しかし、あの絞めつけ生徒会が50000円も援助を出すとは、一体どういうことな のだろう。 .
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「CFM「空中分解」」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE