CFM「空中分解」 #0823の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
僕は、ため息をついたあと、仕方ないから着ていたものを全部脱いで、新しい 服に着替えた。 「さ、もういいわよ。お二人さん。」 一美の言葉に振り向いた二人、ほぼ同時にため息をつく。 「おい、博美。お前、本当に女の子だったんだな。」 「そんなに女の子してるか?」 「だって、今のお前と一美ちゃん比べたら、髪型が違うだけで、あとは全く同じ だもんな。双子とはいえ、よくもまあ、似たもんだ。全然見分けがつかん。」 「同じ格好したら見分けがつかないってのは、お宅らにも言えることだろ?」 「そりゃまあ、そうだけど。しかし、お前、本当に災難だったな。」 「へっ?」 「らしくなかったとはいえ、一応男だった筈の奴がさ、実は女だったってのは、 かなりショックだったんじゃないか?」 「ああ、まあな。」 「あ、あれ何?」 突然、一美が叫ぶ。 先刻、魔法使いがいた所に、なにやら落ちている。よく見ると、小さいけど光 る玉だった。直径6〜7mmってとこだろうか。 「何だこりゃ?」 そう言いながら健司、玉を拾おうとして、 「うわっち、何じゃこりゃ?」 手を引っ込めて叫ぶ。 「どれどれ、うわっ! なんなんだ? 一体。」 康司も玉を拾おうとしたけど、触れた途端に飛び上がった。 で、ためしに僕も手に取ろうとして、 「あ、あれ?」 いとも簡単に拾えてしまった。 「あたしにも触らせて。」 一美が僕の手の上の玉に触れようとして、 「きゃん、あっつうい。博美、そんな熱いもの、よく平気で持っていられるわね。」 「熱いって、これが? 僕にとっては普通のガラス玉みたいだけど。」 「でも、なんか不気味な感じだな。本当に大丈夫か?」 なんて、健司が聞く。 「うん、全然なんでもないよ。ほら。」 僕は、その玉を軽くほうり投げて見せる。 「それよりさ、この部屋出ない? あたし、もう、こんなとこにいたくない」 「うん、そうだね。」 そう言って、四人で部屋を出ようとして、扉の上に絵がかかっているのに気付 く。 そして、その絵の見事さに、しばらく見入ってしまう。 「へえー、綺麗な絵ねえ。」 一美が感心したようにつぶやく。 「でも、なんか構図がいまいちだな。」 「え? 健司くん、絵に詳しいの?」 「いや、そうじゃなくてさ、二人の女性が二人の男性より上の方に描かれてるだ ろ? あまりいい感じがしないんだよな。」 確かにそうだ。一人の女性は一人の男性にまたがっていると言ったらいいのか、 背負われていると言ったらいいのか、判らないけど、とにかくそんな感じだし、 もう一人の女性はもう一人の男性にかしずかれてる感じになっている。そして、 その下には数人の男性がひれ伏している。 女性が男性を見下したような感じの絵を言えなくもない。 「ま、こんな絵にかまっててもしょうがない。早いとこ外に出ようぜ。」 康司の言葉で皆、部屋を出て、最初の広間に行って、驚く。 どっから涌いて出たんだか、見渡す限りの人、人、人。 「うわー、なんなんだ、これは。」 呆然としていると、僕の持っていた玉が急に光を増した。付近が急に明るくな る。 「おお、そなた達か。あの魔女を倒したのは。」 広間の上座の階段の上の椅子に、やたらと威厳のある人が座っている。どうや ら、この城の主のようだ。そして、その声は僕達にかけたものらしい。 唐突に、静まり返る広間。前の人達が道をあける。 「余が国王ソーラである。さあ、勇者達よ、前に進むがよい。その玉の輝きが確 かな証拠。そなたが、あの魔女を倒したのじゃな。」 「えっ、あの……。」 「よくやってくれた。実は余の姫も、あの魔女に精を吸い取られておったのだが、 その姫が生き返ってくれた。余も妃も、この城のおもだった者達も皆あの魔女に 眠らされ、この城を乗っ取られておったのだが、その魔女が倒され、そして眠り から覚めた今、余にとってこんなに嬉しいことはない。そこで、魔女を倒した勇 者を姫の婿にして迎え入れ、我が国の新しい王にしようと思うたのだが、そなた はどう見ても女ゆえ、それは出来そうにないな。」 一体何がどうなってるんだ? おーい、誰か教えておくれ。 「しかし、女の身でありながら、ここにいる者共の誰よりも強いというのは、何 か秘密でもあるのかな?」 「えっと、その……。」 駄目なんだ。初対面の人とうまく話すことができないっていう性格、なんとか 直そうとは思ってるんだけどね。 だけどそれにしても、そんなに強かった覚えないんだけどなあ。確かに剣道は やってたけど、結局二級止まりだったし、ここ一年ばかり竹刀握ってないもんな。 そんな僕の沈黙など気にならないかのように王様は言葉を続ける。 「実は今ここにいる者共は皆、あの魔女と戦って精を吸い取られたのだが、そな たが魔女を倒してくれたお陰で、生き返ることができたのじゃ。」 ええっ? こんなにたくさんの人間が? そういや、魔女倒した時、辺り一面 真っ白になったな。 あれ、みんな人間の精だったのか。しかし何人いるんだ? どう見ても五、六 百人は下らないぞ。 「そういえば、まだ、そなたの名を聞いていなかったな。なんと申すのじゃ?」 「……中沢博美です……。」 なんとか言葉を絞り出す。 「なかざわひろみ? なかなか呼びにくい名前じゃな。あと、そこの三人は?」 「私は博美の姉の一美。そして、この二人は友人の山口健司、山口康司。いずれ もこの国の者ではありません。」 僕の性格を知り抜いている一美が僕に代わって答えてくれる。 「おお、そうか。そなた達四人とも実に御苦労であった。なかざわひろみ殿は、 これより我が国の女神として奉られるであろう。が、まずは余の城の客人として、 十分にもてなしたいと思う。」 「はあ。」 まるで訳の判らない僕は、間の抜けた返事をしてしまう。 「これ、誰かおらぬか。おお、じいや、丁度いい所に。なかざわひろみ殿と連れ の方々を客間へ御案内せい。」 「はっ。」 「それと、今宵は祝宴を催そうと思うておるでな、準備も頼む。お客人方には正 装の用意をな。」 「ははっ、かしこまりました。」 じいや、と呼ばれたのは、ある程度年のいった品の良い人だった。どうやら召 使いの取りまとめ役らしい。その人が、僕達の方を向いて、 「さ、こちらへどうぞ。」 案内された部屋は、それはそれは豪華でだだっ広く、四人で使うのがもったい ない感じだった。と思ったら……。 へ? この部屋が一人用だってえ? じゃあ、なにか。同じ様な部屋が少なく ともあと三つはあるってことかあ? 冗談きついぜ。全く。 四人が、それぞれの部屋に案内されたあと、しばらくしてから、全員僕の部屋 に集まって、この、めまぐるしい話の展開について、ため息をついた。そして、 健司が、 「ふう。一体、何がどうなってるんだろな。」 「ただ、わかったことは三つある。一つは、この世界は明らかに俺達の世界と違 うってこと。二つ目は、俺達がなぜかVIP並の待遇を受けてること。最後は博 美、お前が女だったってこと。」 康司は冷静に状況把握。 「僕が女だって判ったの、半年位前だよ。そんときは高校入学も決って中学も卒 業間近だったから、この事実知ってんのは僕の家族と医者と、それに中学の山下 先生と今の高校の一部の先生だけ。今のクラスの連中は、僕を最初から女だと思 ってるからね。友人達の中で、この事実を知ったのは、お前達が初めてなんだ。」 ちなみに、山下先生ってのは中学三年の時の担任だった先生だ。 「そうか、大変だったんだな。しかし、お前、女の子なら僕っていうのやめない か?」 「じゃあ、どう言えばいいんだ?」 「女の子の一人称だったら、『わたし』とか『あたし』とか、色々あるだろが。」 「あのなあ、康司。今更『あたし』なんて、言える訳ないだろ。」 「だけど、あきらかに女の子っていう格好してる奴が、『僕』なんて言うの、あ まりいいもんじゃないぜ。」 「それよりさあ、これからどうなっちゃうんだろ。あたし恐くて。」 「あのねえ、一美ちゃん、恐いのは皆同じ。それより、これからどうするか考え なきゃ。健司はどうしたらいいと思う?」 「ん? 判らん。博美…ちゃん……はどうしたらいいと思う?」 「う…気色悪。背中を毛虫がはいずりまわるみたいな感じがする。頼むからさ、 『ちゃん』なんて付けないでくれよ。不気味な事この上ないんだから。」 「判った。で、どうしたらいいと思う?」 「うーん、今の所、現状がきちんと把握できていないんだよね。それに一応、V IP扱いされてるだろ。今はまだ下手に動かない方がいいと思う。」 「そうね。少し様子を見た方がいいかもね。」 「ところでさ、先刻の国王の言葉。僕が女神になるって言ってたけど、どういう ことだろ?」 「そういえば、確かに、そんなこと言ってたなあ。」 「それと、この玉。僕が魔女を倒したあとに残ってたんだけど、この玉は一体何 なのか。そして、何で僕だけにしか触れないのか。」 「うーん。」 皆、首かしげながら、僕の手の上にある小さな玉をしげしげと眺める。 と、突然、ノックの音。 「はい、どうぞ。」 返事をすると、扉が開いてドレスで着飾った若い女性が入ってきた。年は僕達 と同じ位だろうか。すらりと背が高く、結構美人。 「あなた様ですか。私を助けて下さったのは。」 うわあ、また知らない人だ。そう思ってパニックしそうになる。 そんな僕の状態を察してか、一美が代わってくれる。 「あなたは?」 「私は、この城の第一王女でマイアと申します。」 「あなたが、この城のお姫さま?」 「はい、今のところ、国王の子供は私一人しか、おりません。」 そういえば先刻、ソーラ王が、男なら姫の婿にしてどうのこうのって話してた な。うーん、僕が女じゃなかったら、こんな美人と結婚できたのか。もろ僕の好 みのタイプだったし、つくづく惜しいことした。でもまあ、今更仕方ないか。 「ところで、皆さん、申し訳ないんですが、それぞれのお部屋へ一旦お戻り願え ませんか? そろそろ、お召し替えの準備も整いますので。」 「お召し替え?」 「はい。今宵の祝宴のための正装です。」 「祝宴……ですか?」 「はい、皆が生き返ったお祝いと、あの魔女を倒して下さった、なかざわひろみ 様への感謝の意を込めた宴です。」 うう、『なかざわひろみ様』なんて呼ばれると、お尻のあたりがこそばゆい感 じがする。 一美が、『ほら、どうするの?』ってな感じで肘でつついてくる。 「あ、あの、博美って呼び捨てにしてもらえませんか?」 「いえ、魔女を倒した勇者は、この国では神としてあがめられることになってい るんです。そんな方に対して呼び捨てなんてとんでもないことです。」 「ええ? ちょっと、冗談でしょ?」 「いいえ、この国の人間がどんなに苦労しても倒すことのできなかった悪魔を倒 して下さった博美様は、私達にとって大切なお客様であり、神様なんですもの。」 「それにしてはあの魔女、割とあっけなく倒れたけど。」 「ええ。ですから博美様は私達の神様なんですよ。」 「ええ? なんで?」 「それに答えるには、ます、この国の歴史を知ってもらわなければなりません。」 そう言ってマイア姫は、この国がたどってきた歴史の数々をかいつまんで話し てくれた。それによると −−−この国は昔、まったくの荒れ地だったところに別の土地からいろんな人が 集まってきて開墾を始め集落を作ったのがそもそもの始まりとされている。当初 はそれぞれの集落毎に開墾をし、農作物を作っていたが、そのうち、これらの集 落がいくつか集まって代表を出し、効果的に土地を切り開く技術やよい畑を作る ための知識などを交換し合うようになった。 −−−− 続く −−−−
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