CFM「空中分解」 #0775の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ウォークマンの思い出」 ウォークマンを買った。なかなかいいー 長崎の兄からひさしぶりに葉書が来て、こう書いてあった。 よく読んでみると、それはパナソニックの製品でソニーではなかった。だから、ウォ ークマンという呼び方はいけないんだろうけど、サロンパスだとか正露丸だとか、そ んな<僕たちの代表>みたいな呼び方のひとつになってしまっているみたいだし、そ れはそれでいいんだと思う。 実際、この僕にしたって 「あっ、いいな、そのウォークマン。新製品なんだぁ」 なんて云って触らせてもらってるわけだし。 でも、そんなことをいってる僕はまだウォークマンを持っていない。 買いたいと思って電気屋さんの店先まで足を運んだりするのだけど、ズラーッと並ん だウォークマンを見ると、なんだか知らないが気遅れしてしまう。 だから、寄ってくる店員さんに「あっ、見てるだけですから。すみません」とか謝 ってしまって結局そのままお金をもって帰ってくることになる。 このあいだ、聴かなくなったコンパクト・ディスクがあったから知ってる女の子に あげようとしたら、彼女はCDプレーヤーを持ってないということだった。じゃあ、 しょうがないなあと云ったら、ウォークマンを持ってるから友達にテープにコピーし てもらう、頂戴と手を出した。 そうなんだ。僕と違って、たいがい皆んなウォークマンだけは一つか二つ持ってる ようだ。 電車の中でもよくウォークマンを聴いている人がいる。満員電車で身動きできない ところでもって、隣の学生風の男の子のそのウォークマンからシャカシャカした音が モレてくる。あれを< 音楽のカス>と呼ぶそうなんだけど。なるほど、あまり愉快 ではない。あっ、いいなあ。自分だけいいなあと、ついイヤミの一つも云いたくなっ てしまう。 そんな僕でも、何度か電車の中でウォークマンを聴いたことがある。出始めの頃の もので、今から思えば随分とブットイ大きさだったけど、それでも当時はそれしかな かったし、それに今みたいにカラフルで小型で機能満載のものが出るなんて想像もで きなかった。勿論、人から借りたわけで、一日でいいからと頼みこんで、やっと電池 を買ってあげるという条件つきで貸してもらったものだった。皆んながやっているよ うに一度電車の中で聴いてみたかったのだ。 カッコイイ! 帰りの電車の中で僕は満足していた。いつもの風景が違って見えた。というか、正直 なところ閉ざされた別世界というよりは、僕はあなた達と違って別世界にいるんです よという、どちらかと云うと低俗な優越感にひたっていたのだと思う。 つまり、純粋な意味で音楽を楽しむには、ウォークマンをしている自分を意識しな いようになるまでそれに慣れる必要があるということなんだろう。 それから後も、いろいろとあった。これも仕事帰りの電車の中でのことなんだけど、 同じ電車で帰る連れの女の子が、座席に座るや、すぐこのウォークマンを取り出して 何やら聴きはじめた。立ってるのならまだしも、この時は、ワ!なんていって、二人 して力を合わせての座席獲得成功だっただけに、そのあまりにもツレナイ態度には少 々カチンときた。めったにないその成果の余韻を味わうこともせず、勝手にひとりだ け自分の世界にこもられたのでは隣に並んで腰かけている僕としては立つ瀬がない。 その時は文庫本の類も持ってなかったし、真っ直ぐ正面を見て座っている僕はバカ みたいだった。だから、僕はその女の子の片方の耳からイヤフォーンを外して、自分 の耳に当てた。一体何を聴いてるのだぁ、キミは。なんていう感じ。 ところが、それが<タカラヅカ>だったのだ。あの宝塚独特の女性の歌声がハデハ デしくも、おそれいったかと云わんばかりに飛び込んできたのには驚いた。意外だっ た。思わず僕は彼女の顔を凝視してしまった。彼女の方も驚いたみたいだった。恥ず かしそうに、いっぺんうつむいてから顔をあげ、へへッと笑った。 しばらくそうやって半分ずつ聴いていたのだが、そのうちモノ足りなくなって、も う片方のイヤフォーンもぶんどって本格的に聴きはじめた。宝塚なんて、まともに聴 いたこともなかったから興味がわいた。なかなかいいなあ。うん。捨てがたいものが ある。うん。心の中でうなづいたりして。 今度はでも彼女の方が手持ち無沙汰になったのだろう。イヤフォーンのコードの真 ん中あたりにあるスイッチを押しては僕に話しかけてくる。それを押すと音楽が聞こ えなくなって、回りの物音が聞こえるようになっていた。 でも、あまりにも頻繁にスイッチに触ってくるものだから、音楽を純粋に楽しもう としていた僕は、わずらわしくなってそのスイッチを片手で隠し彼女に触られないよ うにして聴くことにした。少し怒った顔をしていたようだが、かまってはおれない。 そのうち、歌が終わって話になった。ライブ録音だったらしくお客さんに向かってい ろいろと話しはじめる。これがおかしかった。声には出さなかったが、思わず、ハハ ハなんていう感じで顔をあげて笑ってしまった。隣の彼女が今度は僕を凝視する。か まってはおれない。でも、もういっぺん同じようにハハハの顔あげをやったら、とう とう、そのウォークマンを取り上げられてしまった。 「電車の中で自分ひとり笑わないで!」 思えばあれが僕の宝塚との出会いでもあり、別れでもあったのだった。 でも、後になって初めて聞いたのだが、彼女は宝塚に入りたかったのだそうだ。 小さい頃からずうっとあこがれてきて。でもいざという時になって、いろいろあって。 ついには、あきらめなくてはならなかった。その時期、彼女は本当につらかったと云 った。生きていたくないとさえ思ったという。でも、やっとそんな思いとはふっきれ て、ああやって、たまにテープを聴いたりして楽しんでいるという話だった。 ウォークマンというと、こんな風にいろんな思い出がある。買ったばかりの音楽テー プを電車で聴いて、降りると同時にゴミ箱に放りこんだり、聴きながら歩いてて、つ い歩きすぎて迷子になったり。 それも人から借りたウォークマンであるだけに、ウォークマンの思い出といえばそれ を貸してくれた人のことも一緒になって思い出す。 僕がなかなかウォークマンが買えないのは、そんな風な思い出のせいかもしれない。 ************* 「秋本はん、なかなか、よろしでっせ」 「そ、そうですか。なんせ初めて書いた文体だもので」 「そいでも、あれだすな。エロがおませんなぁ、秋本はん」 「は?エロですか」 「そうだす。いまひとつでんな」 「でも、こんなのにエロがあるというのは」 「それに笑いがおまへん。こないなもん銭になりまへん」 「いや、そんなつもりで書いたのではなくて」 「オナゴにモテよ思て書かはったんでっしゃろ」 「みもふたもない」 「ええんでっせ。すけべは銭になる」 「はあ、そんなもんですか」 「それにしても僕なんて、よう書かはりましたな。そのトシで」 「歯歯歯!いや、どうも。お恥ずかしい」 「それじゃ、今回のは100円ということで」 「ひ、百円!たった」 「笑いなし、スケベなしに百円。これ上等の部類でっせ。次に期待しまひょ」 「骨つぎ堂さん!そりゃ、ちょっと。ねぇ。ねぇ!骨つぎ堂さーん!」
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