CFM「空中分解」 #0763の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
さてさて、皆さん今晩は。 では、今回は前回よりのひき続き。秋本エッセイの文体のお話でございます。 その前にひとつ。クエスト氏より、メッセージがございました。なる程、氏の「文楽 の日々」というエッセイがあったのを失念しておりました。どうして忘れたりしたの でしょう。日頃、尊敬している氏の、あの淡々とした中にも味わい深い含蓄ある文章 の妙味の存在を忘却するとは!嗚呼。地に落ちたり秋本。雉も鳴かずば打たれまいに。 論より証拠。呉越同舟。目糞鼻糞を笑う。枯れ木も山のにぎわい。犬も歩けば棒にあ たる。弘法も筆の誤り。 歯歯歯!またしてもわたしの教養の片鱗が湯水の如くに湧き出てしまった。 (注)旺文社 国語辞典 改訂新版より だ、誰だ。(注)なんて入れた奴は!せ、責任者でてこーい! なんて、気楽にやります今回の『秋本骨つぎ堂の逆襲』。さてこのパソコン通信のよ いところはこの双方向性にあるわけでして、書店の本と比べて、筆者に直接、お便り を出せるところが楽しいのでありますね。貰った方はそして、そのメッセージの如何 により次に書く内容が変わってしまうという、オマケつき。 面白くないなんて云われると、丸焼けになって連載が中断したりしたりする。 ところが、ところがそこは呉越同舟。目糞鼻糞を笑う。枯れ木も山のにぎわい。犬も 歩けば棒にあたる(複写しただけーふん、ワルイか!)のAWC。皆さん、不死鳥の 如くにカムバックなさっての、さらなる書き込み。いいですねえ。こうでなくては。 というのでメンバーのあざけりの目も蛙の面に水の『秋本骨つぎ堂の逆襲』 続けましょう。 文体の話でございます。 女の子にモテル文章とはどういうものかについて考えるというのが今回のテーマであ ります。 まず今回ベストセラーになってしまいました、あの「ノルウエイの森」の著者 村上春樹氏の「村上朝日堂」(新潮文庫)から無断で拝借してまいりました文章 をごらんください。 「ダッフル・コートについて」 僕はダッフル・コートというのが好きで、この十三年くらいずっと同じものを着 ている。VANジャケット製のチャコール・グレイのもので、買った時は一万五 千円だった。それ以来、冬になるとこれで寒風をしのいでいる。 そのあいだに世の中では実にいろんなコートが流行った。マキシのコートが流 行り、毛皮が流行り、ランチ・コートが流行り、スタジアム・ジャケットが流行 り、ピー・コートが流行り、ダウン・ジャケットが流行った。そのあいだ僕はず っとダッフル・コートを着ていた。それでみんなに結構馬鹿にされたりもした。 でも僕は耐えた。 しかしである、世の中はどうやら一応ぐるっと一周したみたいで、今年になっ てダッフル・コートを着た若い人々の数が増えた。 「メンズ・クラブ」の一月号を読むと、どうしてダッフル・コートが今年流行っ ているかというのがちゃんと説明してある。 それによればダッフル・コートがここのところずっと冷や飯を食わされていた のは(1)暖房が行き届いた昨今、思いウールのコートが敬遠されたのと(2) ヘビー・デューティー用に軽くて暖かいダウン・ジャケットが普及した、からで あり、今年になって急にまた流行りだしたのは、「しかし、人間必ずしも便利さ、 機能性のよさだけで満足するものではない」からである。 こんな風にきちんと説明されると、ぽんと膝を叩いて「うむ、そういうことだ ったのか」とつぶやいてしまう。 こういった「××が今流行する理由」風の記事って、僕は大好きだ。そういう のを読んでいると世の中が決して行きあたりばったりに進んでいないことがわか って心強い。一生懸命考えれば将来のことだってわかりそうな気がしてくる。 それはそうと今年こそ軽くて暖かいダウン・ジャケットを買おうと思ったりし て。 以上です。 これが、今一番女の子にモテル方の文章なのであります。うーん。さすがというほか ない。わたしには書けない。というか、今のわたしでは無理がある。 まず第一に「僕」と書かなくてはいけない。村上氏はわたしよりほんの少しだけ年上 の方ですが、この文章をお読みになるとわかりますが、まことに若々しい。 わたしなぞ、普段は「ええっ課長、俺がですかあ、いやですよ。俺!」なんて言葉使 いをしている手前、なんとか「わたし」までは抵抗なく使えるのですが、風が吹くと 髪の毛がバッサリ後ろへ飛ばされて、五輪真弓になってしまう昨今の状況から「僕」 はどう考えても暗殺してしまう他ない。(ソウル五輪の成功を祈ります) 次には文体であります。一番最後に御注目ください。 「それはそうと今年こそ軽くて暖かいダウン・ジャケットを買おうと思ったりして」 この・・・して。で止まっているところ。ニクイ!のであります。若い!のでありま す。わたしが書くとこうなります。「それはさておき、今年こそ!買うのであります。 軽くて暖かいダウン・痔やケツと。今に見ておれえぇの秋本でした」 やはり無理か。嘆息!(短足ではないーわたしはこれでも背は高いのである。ふふ) いや、やはりあきらめてはいけない。要は簡単なことなのだ。わたしを止めて僕にす る。文章の最後を・・して。で終わらせればよいことではないか。歯歯歯! 「僕はそんな風に決心したりして」 いやあ、簡単であった。よっしゃ、これでいこ。して。 しかし、もうひとつ不安なので、ではその女の子は一体どういう文章を書いているの かというところで、青島美幸さんのエッセイを覗いてみよう。云わずと知れた、あの 青島幸男氏の娘さんであります。実はこの本、先程買ってきたのですが、以前、女の 子が読んでおりました。「おっ、めずらしい。本なんか読んで。どうせ赤川次郎やろ」 というわたしの、いささか羨望と揶揄をこめた問いかけに「ちゃうわい!」と答えが 返ってきたのがこの人のエッセイでした。以下、またしても無断借用の『黄色い電車』 (集英社文庫)より・・して 『けどでも、なんとか座りたいッ』 前の晩の徹夜がたたり、その日の私は疲れ切った身体にムチ打って這いずりな がらようやく黄色い電車に乗り込んだ。心なしか今日の総武線はなおさら黄色く 見える。 そんな時に限って座れない。みーんな気持ち良さそうに座っているのに私だけ、 私だけが座れないッ(なんという被害者意識だろう)、これから四十三分。市川 の駅に着くまでになんとか貧血起こしそうッ。 こんなとき、ゆったりと足広げて座っているヤツが憎らしい。さりとて、右手 首をクネッ、クネッと曲げながら、 「スンマセンねぇ」 などと二十センチばかりの空間にお尻を割り込ませる勇気もないし・・・・。 どうせ、ドッと人が降りるであろう新宿駅に着くまで座れない“グチは言うまい、 しゃべるまい” 「おーくぼォー、おーくぼォー」 (あと、ひと息。がまん。がまん) 「新宿ゥー、新宿ゥー」 (ソラ、来た) ソラッ、とばかり座ろうとしたら、横からおばさんがスッと来て、 「どっこらしょッ」 (ウーム。あっ、あっち空いてるゥ) と二、三歩足をふみ出した途端、サラリーマンが、スッ。 (ウワッ。じゃ向こう側へ・・・) などとあたふたしているうちに、イス取りゲームはぜーんぶ終了。・・・ 思えば、昔からこのテのものは苦手だった。 (中略) と目をそらした途端、見ィーえちゃった見えちゃった。おばさんの持っている 紙袋に“亀戸スーパー”って書いてある。 私は度重なる不運に、すっかり全身が意地の権化となり、今ではこのおばさん の次には絶対に絶対にここに座るんだぁーと心に固く誓ってしまっていたから、 この発見はとてもうれしかった。 だって、亀戸スーパー=亀戸住人=亀戸で降りる、という単純公式が成り立つ でしょ。 (そうか、水道橋に住む去年嫁いだ一番上の娘さんの所へ行って来たのだな、亀 戸スーパーで買ったきんつばをお土産に持っていったにちがいない。そして、 『おかあさん。これ、近所からのおすそわけのみかんだけど持ってく?』 『いいねぇ。じゃ、袋は今持って来たのに入れていくからいいわよ』 『そう。じゃ、とうさんによろしくね』 などという会話があって、現在に至ったのであろう) と勝手にひとり決めこんで、すっかり和やかな気持ちになってしまった。 (まっ、みかん持ってて重たいだろうからしようがないね。そーか、そーか。そ うだったのか) しかし、気になるのは、おばさんが秋葉原駅を過ぎた頃から、“寝”の体勢に 入ったことである。 (おばさん、寝てしまうの?) 私の、弱々しい心の叫びを無視して、おばさんは、なんか本格的に寝てしまっ ているようだ。でも、ほんの十分間でも熟睡できる人だっているものね。やっぱ りなんたって亀戸スーパーの紙袋持ってるんだから、ここは絶対亀戸で降りるよ ね。(とこれまた勝手に決めてしまっている) そうこうしているうちに、やっと錦糸町駅に着いた。 「錦糸町ォー、錦糸町ォー」 ふふッ 次は亀戸だあッ。 駅員のアナウンスで、カクッと身体をふるわしておばさんが目をさまし、モゾ ッと身体を動かした。紙袋を持ち直した。ふり向いて駅名を確かめている。 (そう、そう。その調子ッ) ズルっと脱げかかってるサンダルをはき直している。 (いーぞ、いーぞ) やがて、信玄ぶくろのようなバッグに手を入れてゴソゴソゴソ。 (切符の所在を確認しているんだな) イエイ、と思ったら、あれッ?ティッシュペーパーを取り出したゾ。 けげんに思っている私の気持ちをよそに、チィーン、と思いっきり鼻をかんで いる。 (そうか。身だしなみ整えて下車するのね) 「亀戸ー、亀戸ー」 (おばさぁーん、亀戸よぉ) おばさんは、ハタと後ろをふり返り、 「ふうん」 とひと声。なんと、なんとなんとなんと、♪波をのりこぉえェてェー、 再び、再び、“寝”に入ってしまったのである。 嗚呼・・・・・。 (後略) 以上であります。なんと面白い。 女の子も捨てたものではない。これまで、読むものでは、女性のものはエッセイのみ、 しかも、向田邦子さんと佐藤愛子さんのお二人の作品のみであったのに、今回この青 島美幸さんの本もめでたく秋本氏の愛読書の仲間入りをはたしたのでありました。 心よりお祝いの言葉を申し述べます。 さて、では考察に入りましょう。タイトルがいい。『けどでも、なんとか座りたいッ』 才能です。けどとでもをくっつけるという芸当はそうざらにできるものではない。 特にいいのが、最後の「ッ」さすがに女の子ですね。全編を通じてこのカタカナ止め が生きております。わたしが書けばこうなります。『す、座らいでか!』 あと、例えば「しかし、気になるのは、おばさんが秋葉原駅を過ぎた頃から、“寝” の体勢に入ったことである。(おばさん、寝てしまうの?)」 いやあ、ここはいい。この(おばさん、寝てしまうの?)の一文で、筆者の性格の素 直さが、あますところなく出ております。かわいらしいのであります。 わたしが書くとこうなります。 「しかし、なんと、このおばさん。秋葉原駅を過ぎた辺りから、両目をしっかりと閉 じるではないですか。こ、これは!ひょっとして。まさか・・ネルツモリでは?(お、 おばハン、そりゃないよ。そりゃ) 負けでありますね。それにわたしのは女の子が読んでくれそうもない。下品なんです よね、やはり。村上さんと青島さんの文を見て共通していることは、まず人を傷つけ ることの決してない書き方だということ。それと、その性格の素直さが全面に出てい るということですね。このAWCでいえばメガネさんの文章がこれにあたります。 うーむ。わたしも素直さにおいては人に負けない自信があったのですが、さすがに寄 る歳波には勝てないと申しましょうか。世間の水は冷たかったと云いましょうか。 おいっ!○○子!貴様のせいだぞお。ううう。ど、どうしてわたしだけが・・・ い、いけない。こんなことを叫んでいるから、頭がハゲるのだ。 風が吹くと五輪真弓になる秋本氏(何度でもいってやる。フン!) とまあ、そんなこんなでもう、180行を越えてしまったのでした。 これはいけない。実を云うと、もうおひと方御紹介したいもので、というのが 青木雨彦さんのエッセイでありまして、このお方、歳くってて、わりと辛辣で、 それでいて女性のフアンが多いという、全くもって羨ましい限りのお人でございます。 よって、しつこいようでありますが、あと一回だけおつき合いの程を。 それじゃ、次回をお楽しみに。 秋本でした。
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