CFM「空中分解」 #0742の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「「「全てが乾ききっている時代に僕等は住んでいる。 今日も明日も乾いた風が吹く。 恐らくこの風は人類が消え去るで吹き続けるだろう。 そして・・・・・ 「えぇと、今日学習するところは・・・ここだな、よしみんなヘッドホンをかぶれ」 教師が指示する。まだ10才になったばかりのこどもたちは無造作な機械的動作でヘッ ドホンを耳にあてた。 ヘッドホンを通して教師の声と微弱な音楽が流れてくる。 「現在の政府が誕生する前には日本国憲法という名の憲法があった。この憲法は連合国 軍総司令部、つまりGHQに強引に押しつけられた日本臣民の自主性をまったく無視し た内容をともわないものであった。やがてこの無謀な憲法はこの憲法を押してきた奴等 によって矛盾を生み始め、それがこともあろうに奴等は当時の政府に責任を押しつけて きた。その当時の政府は情けないことに腐りきっていてとても自分達の主張を奴等に言 う事もできなかった。そして世論により望まれていた新しい政府が誕生した・・・」 子供達は恍惚とした顔で耳を傾けている。ヘッドホンからは教師の声とともに授業内 容を一番頭に残すのに効果的な、微弱な音楽が流されているためである。生徒の誰もが 教師の言葉に疑問すら抱かない。いや正確にいえばこのBGMには抱いた疑問をも打ち 消すような指示が低周波によって流されているのだ。 教師のマイクに向かっての授業という名の洗脳はまだ続く 「新しい政府はたちまち………古い体制、つまり腐敗箇所を取り除いた。そして旧体制 でもっとも矛盾をはらんでいた日本を腐らせた元凶とも言うべき旧日本国憲法を日本人 が大戦敗北の屈辱を拭うためにリアリズム憲法というべき新日本国憲法を公布し翌年に は施行された。この新日本国憲法は日本臣民の間で真日本国憲法とまでうたわれた。 この憲法の最大の特色は日本を他国に負けないようにするために「「「」 教師がそこまで読み上げると突然、児童の後ろの方で叫び声がした。 「っと、ストォップ」 という低い声が教室に響きわたった。心の中まで見透かしたような嫌な声だ。まだ声変 わりしていない子供達ではこんな声を出せる者はいない。 教師がビクビクしながら顔をあげて声の主を確かめると、教師の怖れていた通りそこ にはいつのまにか教室に入り込んでいた一人の男がいた。そいつは教室には不釣り合い な黒の背広を着こみサングラスをかけている。まるで1980年代のヤクザの風貌だ。 その男の姿を認めると教師は急に真っ青になり、そして誰にも聞きとれないほど、小 さな声でうなった。 「しまった。今日は教育監査日だったのか・・・」 教育監査日、それは教師にとって最も恐るべき行事であった。政府直属の監査員がそ の教師の教育活動に誤りがないかを監査する日であった。もちろんこれだけではない。 その教師の思想、宗教関係など細かいデータの微弱な変化を調べるための適性検査の日 でもあるのだ。少しでも危険思想を持っていると監査当局が判断した場合にはその教師 は職を失うはめになる。それだけならまだいい、危険思想が第1級と判断された場合に は銃殺刑にもなりうる。しかし幸いなことに現在ではまだ数回しかこの刑は実行されて いない。 「今のところですが、『他国に負けないように』ではなくて『日本、及び日本周辺の弱 国をアジアの代表として帝国主義圏の諸外国から経済、軍事などのあらゆる方面から保 護するために』の間違いです。訂正願います」 役人はしかめ面をしながら有無を言わせないような強い口調で言った。教師はしかた なく血を吐くような思いで監査員の言う通りに訂正した。心なしか訂正する声には生気 が感じられないようにも思える。どうやらまだこの教師には『良心』という現代には不 要な物をもっているらしい。いや、不要どころか現代の教育者にとっては致命傷と言え るだろう。何故ならば良心も現在では『第1級危険思想』に含まれているからだ。過去 に良心のかしゃくによって反乱が起きたことがある。国防軍が武力鎮圧したのだが、あ の事件のTV中継では国営、民営放送局が政府の指令により焼けただれた死体を生々し く映し出した。 その事件以来、「『教師の良心』を認めることは生徒、児童に道徳的にも間違った教 育を施す怖れがありうる」と新たに教育基本法で罰則とともに付け加えられた。 監査員が手帳サイズのコンピューターに何か打ち込んでいるのを見て教師はゾッとし た。監査員は黙って黙々と作業を続けていた。ここの校長や教師のクビなど監査員の操 作している手帳サイズのコンピューターが一台あれば斬ることが容易に出来る。現代に 於いては人間の命の重さはあの手帳サイズのコンピューターよりも軽いのだ。 それは旧政府では絶対に考えられない事でもあった。 旧日本政府にはなかった厳しさが今日にある。当時、真の民主主義をとなえた政府と はとても思えない。もちろんそれを口にすることは思想犯として教師の死を意味する。 「嫌な時代になったものだ・・・」 教師は心のそこからそう思っていた。 「「「1990年代に入って時代は急変を始めていた。国民は当時の政府の政策の行 き詰まりを敏感に感じとり、派手な抗議運動を展開した。そして抗議運動は暴動へとエ スカレートし、機動隊とも幾度となくぶつかりあいが生じた。慌てた政府は自衛隊まで 繰りだしたのだが逆に世論に火をつけるハメになってしまい、いよいよ政府は袋小路に 追い詰められていった。 そして後にフランス革命の再来と呼ばれた国会議事堂までの行進は時の内閣総理大臣 に特別戒厳令を緊急決議させ、当時の友好国であったA国への亡命まで決意させた。 余談だが、この亡命事件ではA国大統領自らが指揮をとって歓迎準備をしていたにも かかわらず、遂に彼を乗せた専用ジェットは世界最高機能とも噂されるA国のレーダー レンジに入るには至らなかった。これはあくまでも憶測の域を出ないのだが新政府軍派 の旧自衛隊機に撃墜されたというのが裏の定説となっている。 そして抗議集団のリーダー格と思われる男が新政府樹立を公布したときには国民は勝 利の手ごたえと実感に酔いしれ、設立時には国民を奮起させた。そう、誰もが新しい時 代の確信を持っていたのだ。 しかし酔いが覚めるころになると国民は自分たちの選択に疑問を抱くようになった。 そして選択が間違いであることに気付くのにはそう時間がかからなかったのだが、も う時はすでに遅く、新しい時代が支配への道のりだと知った時には、もうなす術もなく なっており、ただ新政府の支配が完成する過程を見つめるしか出来なかった。そしてそ れに反抗する者はいつの間にかそこから姿を消し、そして二度と現われることはなかっ た。 そして教育に名を借りた統制が行なわれ、新政府にふさわしい人間を『作る』ために 教師も新政府の管制下におかれ教師の教育が始まった。逆らうことがあれば処罰の対称 となっていった。 監査員が教室から出ていくのを確認した教師は軽く息をついた。ふと、彼は自分の緊 張の糸がきれたことを感じた。自分の教えていることは間違っているんだ。それを教え ることは日本の歴史を抹殺することになるんだ。この若い教師はどれだけこの言葉を叫 びたかったのだろうか? しかしこの乾燥しきった時代にソレを叫ぶだけの気力さえも もはやなかった。命をかけて主張しても得られるのは民衆の冷笑とあきらめの言葉だけ だというのは今までの勇士達の死で嫌というほど骨身にしみ込んでいた。自分は犬死に したくない! その思いが彼の良心を抑えつけている。その意味でも政府の統治国家体 制が成功しつつあるのは疑いようのない事実だろう。 そして教師の日常、苦悩はまた繰り返されていく。 そして政府の日常もまた・・・・・ 日常という名の厚いベールに包まれている人間はそのベールから出ることを極端に怖 れる。そしてそのベールを守るために真の事実を寄せつけない。それがいいことか悪い ことかは誰にもわからない。 <お・わ・り> 1988年 2月 4日 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 挨拶!! (AWC編) いやぁ・・・お久しぶりです。スパートから再び現われてきました。こ れ以降も時々書かせていただきますので宜しくお願いします。 (CABINET編) 初めまして、友岸 誠といいます。この「ある日常」シリーズ は前のを読んでいなくてもOKです。COLORとは偶然?IDが一緒なのでよろしく お願いします。 (共通) ひぇぇぇ、慣れない物を書くと疲れるなぁ。 感想くださぁぁぁぁぁぁぁい!!!!! 友岸 誠
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