CFM「空中分解」 #0733の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
気が付くと目の前に空があった。 「………飛……ぶ…………?」 頭がボーっとする………目の焦点があってくると………その空を小さな虫が歩いて いるのがわかった…虫が…………歩く?………空を??? 「気が付いた?」 ふいに声がした……目を移す…見掛けた事のある人の顔が覗く……長い髪を無雑作 遊ばした………あれぇ? 「………………………古沢さん。」 「さっきはびっくりしたわよ、鈴木君があなたを背負って汗だくで階段を駆け登って 行くんだもの。」 先輩が………?……あ、段々思い出して来たけど………この状況は……? 「えー……っと………あのぉ………?」 あ…さっきの虫…窓ガラスを歩いてるんだ……あたし……寝転んでるんだ…ここは? 「………いてっ……。」 回りを見渡そうとしたあたしは首に硬い痛みを感じた………思わず手でかばう。 「すみません……あの、一体どうなったんですか?」 「………私にもわからないのだけど、ここは理科準備室で………鈴木君は一人でどこか へ行ったわ、やる事があるって…。」 「理科準備室…。」 言われて首をかばいつつ後ろを振り向くと………うぐっ、グロテスク………。 「科学部でね、今週は私が管理しているからとっさにここへ運んだの。ね、ここには 人も来ないし厨房つきで畳みもあるし………こっちの3畳だけには鍵もかかるから。」 「……はぁ。」 「誰かに追いかけられたって?……首、どうかしたの?鈴木君も気にしていたけど。」 「………いや…そのぉ。」 うーん…何て言えばいいの。……しかし、何がどうなってるのか誰か教えてよぉ。 「もう少しして落ち着いたら一緒に帰りましょう。家は近いらしいわね。」 「…え?…いえ、先輩を待っていないと……。」 「鈴木君に頼まれたのよ、家までちゃんと送ってくれって……。」 は?…よくわからないのだけれど………あたし………このまま帰っていいの? 「ねぇ……あの子……あなたの友達だったかな?」 あれこれ考えて混乱しているあたしを引っ張って古沢さんは窓の下を指し示した。 「あ、………直美。」 この3階の窓から見ると、隣りの校舎との界のあたりを直美が一人で歩いているの が小さく見える。 「やっぱりそう?前にもう一人の子と3人で、よく鈴木君の所へ来てたよね。」 あははは、見られてたのか……。それにしても直美……おかしいなぁ、今の時間に 1人で……祥子はどうしたんだろ? 「あなたの事を探しているのかな……呼んで来てあげようか?」 「え?……いえ。」 どうしよう……一度きっちり話をしようか……でもあたしこんなに混乱してるのに ………本当、どうしよう。 ☆ その頃鈴木の母と深雪の母は追跡グループから脱落し、藤棚の下で冷たい石の椅子 に腰掛け睨み合っていた。 鈴木の母にしてみれば今日は学校の先生方がついている。気迫だけでは負けないが やはり年がいもない昨日の追跡で実は身体の節々が痛い。足だって身がいっている。 深雪の母にしてみても同じである……この息切れでは、「御老体」と日頃深雪が中年 をバカにするのを怒れない…と、思ってしまう。 兎に角、追跡は元気な連中にまかせておこう。 鈴木の母はようやく息を整えたとみるや、またもや嫌みを繰り返している。 「全く迷惑な話ですわ、これだから公立は………。よっぽど進学率のいいR中に入れ ようと思ったのですけど、あの子が陸上の強いここがいいって言い張るから………!」 それが滑った言い訳である事は、深雪の母にもすぐにわかった。鈴木の母は一人で わめき続けている。その性格のきつさを表した目や、厚かましい口許の動き、そして ヒステリックで独善的な物言いを眺めているうちに深雪の母はムカムカと気分が悪く なって来た。………何でこんなたちの悪い女の相手をしていなければならないのだろ う………えぇーーい………うっとうしぃっ! 「えぇ、深雪によーく言い聞かせなければなりませんね。二度とお宅の息子に関るな ってね。………その事が親を見ていてよぉっくわかりましたわっ。」 「何ですって!」 「………と、いう訳で私はもう失礼します。」 (本当に深雪にはしっかり言っておかなくちゃ……。) そんな事を考えながら深雪の母は、真っ赤になって怒っている鈴木の母を無視して さっさと歩きだした。 「さぁて………と、深雪を放っては帰れないか………でも、まぁ………いいか。」 こう言うと深雪の母は深雪を残して家へ帰ってしまった。 (後日談だが……この日深雪は帰宅して、親の用意した温かい食事に感動し、ケンカ もあったが鈴木の母の傍迷惑な性格への悪口で親と和解し、最後には母が娘を見捨て て帰って来た事を知ってショックを受けた。 「もし、捕まってたら……今頃は……………ひどいよ。」 「あはは……おまえ結構逃げ足が速かったから……きっと家に帰って来ると……。」 「違う。……あたしは親に見捨てられたのね……お母さんってサイテー。あたしの事 なんて……本当はどうでもいいのね。……人の本音って、こういう時にわかるものだ ったんだわ。………いいよ、もう親なんか当てにせず生きてやるっ。」 などとゴチャゴチャ言いつつも、スーパーの100円ケーキで懐柔された深雪であ った。) ☆ さて、深雪を古沢にまかせて様子を見に戻った鈴木健作は、F級スタンバイの彼に つけられている事にも気づかず母親を探していた。 さっきまいた追跡グループにはいなかった………恐らくどこかでへばっているのだ ろう。 会ってどうなるものでもあるまいが、一体何を考えているのか…付き合いきれない。 どういうつもりか訊いてやる、こちらにだって言いたい事は山ほどある。もっとも、 「方法」を間違えると手がつけられなくなる事は経験で知っている。………なんとか 上手く言わなければ………。 取り敢えず深雪の事はもう安心だ。古沢は俺たち生徒の抜け道も、生徒指導部のや り口も熟知している。何とか深雪を無事に家に届けてくれるだろう。 その後の事はどうしようもない、家に帰らない訳には行かないのだから……。 しばらくして健作は、藤棚に座り込んでいる母親を見つけた。 意を決して声をかけようと近付きかけた時、後ろから声をかけられた。 「鈴木先輩…!」 健作がふりむくと、そこには祥子がいた。 <<つづく>>
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