CFM「空中分解」 #0716の修正
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褐色の雲に覆われた地球に今世紀初頭に観測ブイが設置されたのは有名な話で 今では大学の入試材料としてしばしば、その時の隊員の手記などが国語の問題と して出るくらいである。ブイと言っても、ういていて、観測する機械の事ではな い。昔でいう低位ステーションのことなのだ。地球の大気は、もはや伝説となっ てしまってどのようなことで汚れてしまったかは定かではないが、人間が住めな くなってしまったのだ。もしかしたら、初めからあそこには住んでいなく、どこ かほかの星から来たのかもしれない、そんな風に考える学者もいるくらい、汚れ ていた。 こんなところでも、動物は存在した。これより100倍以上過酷な木星にもい たのだから、生物が存在しないところなんて存在しないのかもしれない。太陽に だっていることだろう。 最初に観測されたのは1世紀も前のことである。月の観測ステーションから、地 球の南半球に黒い点が発見された。それは円く、気流に流されているようであっ た。直径2Km。多分、人間の指でもつついたら死んでしまうだろう。と、いう のは、これだけの大きさのものが浮くには空気のような軽さが必要で、したがっ て体の密度が脅威的に低いということになる。もしかして、何等かのかるい気体 を内蔵しているのかも知れなかった。それから数時間後、スゥーと雲下への消え てしまったのだが、それが観測ブイ設置のきっかけとなり20年の歳月をかけて No.1が赤道上に漂うにいたった。 その後No.6まで設置されたのだが、先月、No.4が墜落し、今では2つ を残して封鎖されていた。死者・行方不明者1600人を出したこの大惨事は、 クラゲのような青い動物が上昇してきたことから始まったのである。 その日、この動物は3回にわたってブイをかすめ、4回目に危険を感じたステ ーションの従業員は威嚇として、閃光弾をこの動物に向かって放った。すると、 クラゲは雲の下に1回は消えていったのだが、次に100を越える仲間を率いて ステーションを包囲したのである。やむを得ないと判断したステーションの人々 はこれらの巨大なクラゲ型生命体にむかって攻撃をした瞬間、彼らはステーショ ンに向かって放電をしたらしく、それでステーションの機能の96.237%が 一挙に失われたと言われている。その後、この生物は触手などをつかってステー ションの破壊を繰り返し、初回の攻撃から40分後には観測ブイであるNo.4 低位ステーションは、地球側に引き入られてしまったのである。ほぼ、全員が脱 出不可能であった。 世論が観測の危険性について弱腰になっていたところへ、この大惨事である。 連邦協議会は直ちに残るステーションのうち2つを除いて閉鎖し、その従業員を 木星・金星・水星に派遣することによって、世間から支持を得ることに成功した 。もちろん、観測ブイで働く研究員は強く反対したのだが受け入られるはずもな く、連邦協議会のほぼ案通りに地球の赤道上であい対するNo.2とNo.6を 除いて閉鎖されたのである。ステーション内に残った研究員は、元通りに観測が 世間に認識されるために、何か重大な発見をしようとやっきになっていた。チェ リノフ博士も例外ではなかった。 「まったく、連邦議会は頭がおかしいんじゃないか?今度は研究費を削るとい っているらしい。きっと奴らにとって墓をうろつく考古学者なんだろうよ。」 そういってチェリノフはフロアのソファにどっか腰を下ろした。ここは電子望遠 鏡ドームの手前で、ガラス張りのため、地球の渦巻く茶褐色の大気が面白いよう に見えるところで評判であった。 「そう毒づかないほうがいいですよ、博士。どのみち、今回のプロジェクトで連 邦議会は地球研究を見返さなければならず、水星・金星・木星から人員を寄せる ための費用をださなくちゃあいけなくなるんですから。」 若い助手はチェリノフの向かいのソファの縁に軽く腰をおいた。 「しかしなあ、フロイド。奴らは、ほかの星系から自分達はきたとおめでたいこ とに思っているんだ。きっと、ファウス<星の揺り篭>銀河会に入っているのさ 。私が抗議しなければ、今回の計画の費用だって危なかったのだぞ。」 「それは知りませんでした。で、どうやって説得したんです?」 「まず、予算委員のところへいったら、閣議のほうへいって下さいと言うんだ。 それで仕方なく、閣議の部屋に行こうとすると関係者以外立ち入り禁止です、と これまた言うんだ。だから、″議長は閣議に出席なさっているのか?″と強い調 子で言ったらガードマンの奴、″いえ、議長は議会で中立的立場ですので、閣議 出席することはありません。″といいやがった。だから、議長室へ行ったのだ。 そこでようやく話すことが出来たのだが、いやしかし、たらい回しにするつもり だったのかねぇ。」 「博士は、彼らにとって狼ですからね。どこまでも追ってきて、かぶりついたら 離さない・・・我々羊は先生のおかげで守られているようなものです。」 「ホッホッ!君もいうねぇ。しかし、誰も君のことは羊とは思っとらんぞ。いい とこ、狐だよ。ホッホッ!」 「私は狐ですか。ハッハッハッ!」 チェリノフとフロイドがそうこう話していると、放送で呼び出しがかかった。 「タンブラー号の発信予定時間まで30分です。関係者の方は観測ブイ最下部に あるます宇宙船ハッチ20−13−4ドックに御集まり下さい。 繰り返します ・・・」 チェリノフは、腰を上げながら言った。 「果たしてここに、関係していない人間がいるものかね?」 20−13−4ドックには20分程で着いた。もう、ドックのフロアには人が あふれていた。チェリノフとフロイドは人の波をかきわけてタンブラー号の見える 窓際まで移動した。まったく、人員が整理されてよかった、という博士のこぼし た言葉を聞いて、フロイドはつくづく人が減ったものだと感じた。博士のいった 冗談通り、通常だったらフロアには入れないくらいの人だかりができてしまうの である。それが1/3の人員に削減された今、一見賑やかそうにみえるここも、 寂しさを漂わせた空間には違いなかった。 「フロイド君、タンブラー号だよ。いつみても不格好だな。」 博士は助手の顔にほほ笑んだ。 「だから、かわいくてしょうがない。」 タンブラー号は、上部に大きな銀色のマフィンのようなタンクに水素を詰めて あった。これによってオウムガイのようにプアプアと地球を漂おうというのだ。 そしてこのタンクの下に付けられている機械にこの仕事をやるコンピュータHT −26000が内臓されていた。ここにはメインカメラ2つ、マニュピレータ4 本、そして方向舵が左右対称についていて、形もオウムガイになんとなくにてい るところがあった。この機械部分の下に付いているウインナーのような物が推進剤 タンク。これはさっきの機械部分の後方についている小さな可動式ジェットノズ ルに直結していて、方向を変えるときやスピードをUPするときに使われる。こ のノズルの脇にに、後方サブカメラがちょこんと乗っていた。 「博士、HT−26000にはちょっとかわいそうな気がしますね。」 「君はあれの担当だったね。確かに危険はあるが・・・彼も承知したことだし、 それにマニュピレータ、ここからではみえんがな、マニュピレータの下には高圧 レーザー装置がつけられているから、動物に対してまったくの無防備というわけ じゃあないんだよ。」 「そうでしたか、あっ、もうそろそろですね。」 ドックのハッチがゆっくりと開かれてゆき、褐色の雲の合間から見える薄緑の 海らしき風景が広がった。フロアにいる人々全員は、そこからみえる光景を見入 っている。あの、有毒な気体が渦巻く惑星に、我々の祖先の足跡が残っているの だ・・・そしてそこへ我々が開発した「タンブラー号」が行く・・・どうか、先 祖の足跡の片鱗でもいいから発見してほしい、そんな気持ちがあったかもしれな い。 シューというエアー・プッシュによって、タンブラー号はゆっくりと前進を始め た。その速度はカタツムリのようにのろく、研究員をいらいらさせた。あるいは HT−26000がそんな研究員の気持ちを察して、わざとそうしているのかも 知れなかった。ハッチに差し掛かったとき、タンブラー号のノズルからかわいら しい青白い炎が噴き出され、スゥーっと、多少あっけないぐらいに、地球探訪へ の旅に踏み出した。 フロアではそのとたん歓声が沸き上がった。 その歓声の中、チェリノフがフロイドの袖を引っ張った。 「さぁ、これから仕事だぞ!。」 2人はプロジェクト中央センターへと向かった。
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