CFM「空中分解」 #0703の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
映画館を飛び出して本屋の中を突っ切り、裏通りを走り抜け歩道橋を駆け登り…… あたしと先輩は、必死でワケのわからない集団から逃げ回った。 「…せ、先輩…何で私たち…逃げて…るんですか?」 ゼェゼェと息をきらせながら、やっと訊く。 「さぁ……?」 う、さすが陸上部。まだまだ先輩には余裕があるように見える。だけどダメ茶道部 にはここまでが限界よ、……あはは、膝が笑っちゃう。 「さっきの……何か変わった人……先輩の…知り合いの方ですか?」 「映画館で君に声をかけた奴だろ………いや、知らない。」 「じゃあ…私たち…何で逃げてるんだろ?」 とは言っても、やっぱあの集団はおかしい………絶対異様だ。 あれじゃ、不気味で逃げない訳にはいかないじゃない………何なのよ、もう。 「深雪君、とにかく今は逃げてくれ…!」 スピードの落ちたあたしを、後ろを見ながら先輩が急かす。 「…え?」 「どうやら、あの中に俺の母親が混じってるんだ……。」 「はぁ!?……先輩のお母さんが?どうして……!?」 駆け出した先輩につられて何とか走ったものの、あたしは路地から大通りに出た所 でへたりこんでしまった。 「先輩、ホント…も…だめ。」 マジに限界だよぉ……。後ろからは、おばさん達が迫ってくる。…もう、知らない! 「…おい、バスが来た!」 先輩が叫んだ。 ホントだ、ラッキー!! 少し先の停留所にバスが着く。 あれって、どこ行くバスだろ? あぁもう何でもいいや、け、けど足が……。 先輩はあたしの二の腕をつかんで引きずった、ドアを開けたバスへと押し込む。 …でも………あ〜ん、まだ乗る人たちがいるんだ……追い着いて来るよ! それでも間一髪、おばさん達を残しバスは走り出した。……やったぁ。 「……助かったぁ。」 二人同時に声を上げた。えへ、何となく嬉しいな。…ホント、やっと息がつけるわ。 …ふぅ……しかし、一体今のは何だったんだ?バスの窓から小さくなる集団を見る。 あ、さっき声をかけた人、女なんだ…あれは変装の?……え、待ってあれって? −−−−− あれって 直美 ? ☆ 「ねぇ、祥子。…昨日直美と一緒だったの?」 月曜の朝一番、顔を見るなりズバっと訊いた。(実はこれが得意ワザだったりする) ふ〜ん、直美はまだ来てないみたい。教室にカバンがないわ。 「え、直美?…知らないわよ……。」 顔色も変えずに祥子は言う……やるわね。…昨日は…もうそこそこに先輩と別れて 家に帰った。…あんな状況でゆっくり出来る訳ないじゃない。特に先輩のお母さんま で混じってたら……。あ〜ぁ、初デートなのにと嘆く気力も無いわ…身がいって……。 「それより、どうだったの?先輩とドラえもん。」 平然と訊く祥子を見てるとムカムカと腹が立って来た。おかげで、ゆうべこっちは 一晩中直美の事が気になって……全く……土・日と続けて寝不足もいいトコよ。土曜 日だって、緊張で眠れなかったんだから。ま、その分祥子をいじめよう。 「……昨日帰ってすぐに……祥子に報告をと思ってTELをかけたら……幸雄君が… 『お姉ちゃんは、直美さんと一緒にドラえもんを見に行きました。』って。」 「ウソォ、TELがあったなんて聞いてないよぉ?…またカマかけてぇ…。」 「あたしが口止めしといたからよ。」 そうよ、帰ってすぐに祥子が家にいるか確認のTELをしたんだから。 「祥子、幸雄君とドラえもん行く約束してたんだって?…幸雄君…怒ってたよぉ。」 「ぁ、あの子はぁ……ベラベラと。」 「で?どういうつもりであんな事したのよ……ちょっと、もうバレてんのよ!」 ジロリとにらみ付ける。どうだ、あたしだって怒るんだぞ、怖いんだぞ! 「だからぁ……素直に言うと興味もあったけどぉ…。でも、やっぱ深雪の事を心配し ての行動よぉ…。」 「へぇ…心配して?」 「そうよぉ…応援するって言ったじゃない。…ね、陰ながら見守るってヤツよぉ。」 「それが、何の冗談であんな訳のわからない人たち引きつれてたのよ。」 「知らないわよぉ。そりゃ何か変なのが一杯いたけど……あれ、結局何だったの?」 「本当に知らないの?」 「うん。」 祥子の目を覗き込む………けど、そんな事でわかるわけないか………。 「でもねぇ……確かに昨日の直美は……何かおかしかったなぁ………。」 祥子が意味深に笑う。……………………あんた一体、何が言いたいの。 ☆ その頃、クラブ・ハウスの前で鈴木健作は神月に声をかけられていた。 「よぉ、久しぶりじゃん。」 「神月……お前なぁ……昨日のあれは何の騒ぎだよ。どういうつもりだ!?」 「へぇ…俺にも気付いてたんだ……。」 「気付かいでか……あんだけ派手にやっておいて。」 「待てよ、俺は他の奴らの事は知らないぜ。……何か色々いたなぁ、佐藤のトコの奴 とか……お前の母親もいたろ?……はは、日頃の行いが悪いからさ。」 「……うるさい。」 軽くにらむ健作を無視して神月は続ける。 「昨日の子は、今年に入って何人目の彼女かな?……一年は裕子…だろ?それから後、 二人程いたな…今度の彼女が知ったらショックだぜ。…二年で俺の知ってるのは…。」 「……やめろよ!」 「…そして三年にも…だ。」 「……心配すんなよな、今度こそ真面目につきあうつもりだから……古沢の事だろ。 もう、全然関係ないよ。………今度は本気だよ、それを確かめにきたんだろ?」 「今イチ信用できねぇな。何しろお前の場合、今迄が今迄だからな。」 「お前こそ自分の心配でもしてろよ、さっさと謝ってまとまっちまえ。」 「……まぁ、古沢も……メガネさえあの銀縁でなけりゃ……なかなか可愛いとは…。」 「そうそう、あの黒髪が…。」 「……………やっぱ、お前は信用できねぇ……。」 「あのなぁ…。」 ふと、二人は物音に注意を引かれて振り向いた。校舎の影に直美がいた。気付かれ て走りさって行く。 「今のあれ…今度の彼女の友達じゃねぇの?………鈴木、お前ヤバくない?」 勢いよく走って来た直美は校舎の昇降口で、思いっきり誰かとぶつかった。つんの めって倒れ込む。慌てて下敷にした相手を見れば義彦だった。 知った顔を見つけて、張っていた気が一気にゆるむ。こらえていた涙があふれる。 「それでも…あ、あたし………今度の事だけは……絶対に…認めないから………。」 そう言って泣きじゃくりながら走り去って行く直美を、踏み付けられた義彦は呆然 と見送っていた。 <<つづく>>
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