CFM「空中分解」 #0700の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
かつてこの美しい景観をのぞむ人工生活空間を″宇宙ステーション″と呼んでいたら しいが、現在は宇宙にあるのが当たり前であるので惑星毎に〜ステーションと呼ばれて いる。そこでは緩やかな人工遠心力下で、巨大なマンション住まいといった生活が行わ れていた。一番古い物は地球のNo.3(1,2は老朽化のため、分解処理をしてしま った)であるが、年々改良されているため、地球よりも住みやすいという人も結構いる 。すでに宇宙空間生まれの者が60%以上にたっしている今らしい世論である。 地球ステーションNo.6は比較的小形のステーションであった。大きなドラム缶の 左右外側に3つづつ、球形の浮袋みたいなものがついている。この中に小さな玉がいっ ぱいあって、それらの中に水など生活に必要な気体・液体が詰まっている。ドラム缶の 一端には宇宙港が小さいながらあり、ここでシャトルで上がってきた乗客が宇宙船にの りかえる。またここは地球と月の通信中継都市でもある。ドラム缶の側面の無数のパ ラボナアナテナが生きている虫の触覚のように無造作に動いているのはちょっと無気味 な感じもする。 フレッグはこのステーションでは水道会社の社員という、なんとなく目立たない職務 についていた。この時代になっても、オペレーターや船外活動、コンピュータやバイオ テクノロジーによる栽培がステーションでの職務というSFの概念が残っていたのだ。 しかしながらフレッグの仕事は地球での同職務の物よりも、とても難しいものだった 。すでに彼はパートナーであったリンクを失うという経験を20代前半にして持ってい た。 彼はその日、自分の部屋でゆっくりと夢の中を旅していた。前日、外を飛び交う宇宙 塵のちょっとでかいものが″ボール″の堅牢な6層構造の外壁に穴を空けてしまったた め、中の水が20%もボール内の貯蔵ボールから溢れてしまい(うち、宇宙空間に放出 してしまったのは2%だった)その工事に駆り出されたのだ。そのため今日は貴重な休 養日であり、彼はコクーン内で一日を睡眠に使ってしまうつもりだった。 しかしながら彼は一つ忘れていた。自分のコクーンがインターホーンと直結させてい て、誰かが訪問してくると目覚めさせるようにセッテイングしていたことを。 したがってニーナがポロローンとインターホーンを押して「フレッグ、ニーナなんだけ れど、います?」と言った時、コクーン内の機器が作動して彼のこめかみに触手のよう な物を突き付けた。そして次の瞬間、ビジ!と微弱ながら音を立て、瞬時に放電によっ て、筋肉痛であえぐフレッグを目覚めさせた。コクーンのフードが自動的に開き、ひん やりとした空気が流れ込み彼を包んだ。 フレッグはちょっとひりひりしているこめかみを押さえながらそこらにあった上着を はしょり、入り口のほうへ向かった。インターホーンのカメラにレンズカバーをしたの ち、こちらのインターホーンのスイッチを入れた。すぐさま画面に彼女の姿が移った。 「どうぞ。あいてますよ。」 そういって頭をかきかき、コクーンへと戻った。そして腰掛けると当然いると思われ たニーナに向かって話し掛けようとした。が、彼女はまだ戸口に立っており真っ暗な室 内から見ると浮きだって見えた。 「どうぞ〜。きたないですが。」 「寝てたんでしょ?」依然、戸口の外だった。 「うん。そうだけれど、気にしないでくださいよ。どうせ起きちゃったのですから。」 「なんか、悪いことしちゃったね。」ニーナはゆっくりと入ってきた。フレッグはリモ コンでドアを閉めた。「また時間外活動?」 「まぁ、そんなところですよ。」頭をかきながらそれに答える。 ニーナは入り口に一番近いソファに腰を降ろした。「大変ねぇ。」 「どんな仕事も、苦労は付き物ですよ。」 なんとなく、彼女の様子がおかしい。もともとあまりしゃべるという方ではないが、 今日はしゃべりたいことを奥に抑えてしゃべっているみたいだ。目が何と無く虚ろであ るし、言葉も一つ一つが重い。部屋を真っ暗にしているため、顔は見えないがきっと困 惑とそれを隠そうとしている普段の表情が交互に入れ代わっていることだろう。 「何か、飲みますか?」 「あ、結構です。」 「んじゃ、ちょっと待ってて下さい。私、腹がすいちゃって・・・。ちょっとコーヒー 作って来ますから。」 キッチンとはいっても、カーテンで仕切ってあるだけのことであった。棚から缶を取 り出してカップに入れる。魔法瓶のお湯を注いで再びコクーンに戻った。 「久し振り、ですね。」 「え?」コーヒーに気がとられていて、聞き逃した。 「会うのが、久し振りですね。先週の月曜日以来ですから・・・」 「あ。そうでしたね。ごめんなさいねぇ、近ごろ配管工事が立て込んでしまったから」 「こっちも忙しかったですから。」 「で、今日は?」 「実は、大変なことが・・・」 「何です?」 「昨日はずっと、配管工事だったのですか?」 「まぁ、配管ではありませんが・・・宇宙空間作業をしていましたよ。」 「では、知らないんですねぇ・・・」 「だから、何が、ですか?」フレッグははっきりしないニーナの態度に少々いらつき始 めていた。 「ウゲナーが、事故にあったのです!」 「何だって!」 ウゲナーは、フレッグの数少ない幼少のころからの親友である。成人してからは仕事 の違いなどとかがあってなかなかあう機会もなかったが、元気でやっていると聞いてい たのだが・・・ 「宇宙港での梱包運搬を行っていた時にウゲナーはパワードスーツを着けて宇宙空間 活動を行っていたの。そのパワードスーツのバイザーを上げていたのがいけなかったの よ・・・」 「どうして!!命取りになることではないか!!」 「液晶凝固対直射日光バイザーを上げていたのは、宇宙港の影側にいたからだと思うの 。でも射出させる梱包物の一つを受け取りそこねて・・・彼は思わずバーニヤで・・・ 太陽の光を一杯に受けようと広がる太陽電池パネルの真っ只中に・・・」 「・・・まさか・・・あいつはスペシャル・ライセンスを持っているんだ。そんな初歩 的な過ちを・・・」 「でも、あったのよ!」彼女は激しく首を振った。「私が見ている目の前で!!」 「なんということだ・・・」フレッグは拳でコクーンの縁をガツンとたたいた。「しか し、そんな重要なことを何故連絡してくれなかったのだ。」 「あなたに知らせることが、とても」彼女の栗色の髪が、地球より1/4の重力下でゆ っくりと垂れてゆく。「とても、怖かったのよ。だから・・・だから、今もなんとか遠 回りをしようと・・・」 「分かった・・・どこの病院なんだい、ウゲナーがいるのは?」 「宇宙港の近くのポート・ナースよ。」 「よし。」フレッグはコクーンの横に畳んであった水道会社の青い作業着をバサバサと 広げ着替え始めた。ナースは不安な腰つきで立ち上がり、彼の後ろに回った。 「行く前にちょっと話があるの。」 「何いってんだ!人が大怪我負っているんだぞ!!」フレッグはベルトを締めながら、 怒鳴った。「話ならあとだっていいじゃないか。」 「今行ったって、面会謝絶よ。」 「・・・・・・・・・」 「ちょっとの間だから、お願い・・・」 フレッグはくいっとコクーンの方へ向き、そこへ座った。そしてコクーンのクッショ ンをポンポンとたたいて、「まぁ・・・座りなよ。」と言った。 するとニーナはフレッグの横に沿うように、座った。 「もう、いいの。」 「はぁ?」 「もう十分だわ!」彼女の手がぐいとつかむのをフレッグは感じていた。「もう誰も、 失いたくはないのよ!」 「・・・なにも、ウゲナーは死んだわけでは・・・無いんだろ?」 「そうだけれども、あなたの友達も、私の友達も・・・命を失ったり・・・大怪我をし たり・・・惑星などへ移っていったり・・・もう、いいのよ!」 ニーナがこれまで生きてきた間に溜まった物が一気に噴き出してきている。フレッグ はそう思うと、言葉が出しづらかった。今度の事故で自分を失いかけているニーナをな んとかしようとしているうちに、自分にも随分溜まっていたものがあると気付いた。気 がつくと、それは増大してゆき、あっという間に彼の思考力を覆いつくすまでに至った 。最初は戸惑いの沈黙だったのに対し、今は現在を離れた過去を回想する沈黙になって いたのである。 ″・・・フレッグ、右だ!右のパイプのバルブを!!″ 懐かしい声が虚ろに響いてくる。振り返るとがっちりとした体格のリンクが大声で指示 している。見てみると豪勢なサウナとバスルームのボイラー室の入り口だった。どうや ら今回の新規の配管が、ミスったようなのだ。サウナ内にいる人間は動転してしまって いて、出ようという考えが及ばないらしい。今、サウナの水蒸気管からは熱湯がビジュ ビジュと涌きだしていて、灼熱地獄らしかった。 フレッグがバルブを閉めようと踏ん張ってみたが、全然動かない。それどころか、逆 に全開にしてしまいそうだ。持っているうちに特殊フィルム加工の手袋が焼け、激痛が 走る。思わず、後ろに飛びのいた。 ″・・・駄目か!ようし、代われ!おまえはドアを蹴破って中の奴を出して来い″ フレッグは大きな影に頷くと、その湯気地獄から抜け出てフロアからサウナルームに 向かった。関係者などがたんまりと溜まっていた。彼はそれを半ば殴るように掻き分け ドアの前についた。 ″ドアの鍵は!!″ ″内部ロックのため、開けられません″ ″ようし、ぶち壊すぞ!!ハンマーもってこい!″ どこからか、持ってこられたハンマーで木製のドアを思いっきりたたく。すぐ様木片 となって飛び散り始めた−−−と、そのとき、急に重力が無くなった。振り向くと係の 者らしき奴がこちらにむかって釈明している・・・ ″部分的に遠心動力から切り離しました。これで湯がふきあがってくることは・・・″ 「アギャー・・・」 その時、ボイラー室からリンクの叫び声が轟いた。フレッグは走った。そして開かれ ドアに近付こうとしたとき、無数の沸騰した水滴が等加速運動で吹き出たままにこちら に向かって襲い掛かってくるのを発見した。彼は顔を押さえ、比較的少ない下の方をは いずって接近し、ボイラー室を覗いた。 そこには、壁に当たっては撥ね返っている湯と水蒸気のカーテンの向こうでグズグス になったリンクが未だにバルブのハンドルを持って立っている姿があった・・・ 「ねぇ、まじめに聞いてください!!」気が付くとニーナの質素な顔が目の前にあっ た。ほんのりと化粧の香りが漂ってきていた。 「ああ、聞いているよ。」 「フレッグ、あなたにこんなことを言うのは本当ならばいけないことなのでしょうが・ ・・仕事、変えて下さい。水道会社なら外の惑星の・・・」 「ニーナ、ありがとう。」彼はしみじみと彼女を手を握った。「しかし、私はここで働 くからフレッグ=ラインバート2級配管技術員なのです。リンクがあのようになってし まったのは誰も悪くない、そして誰もが悪いのですよ。配管を設置した技術員も、リン クも、中の政府高官を案じて無重力にした係員も、中で湯が無重力になって浮いてくる のに慌ててスプリクラーを働かせようとして反対に風呂と直結しているバルブを全開に してしまい、ボイラー室中に高圧熱湯をばらまいてしまった高官も、そして私も・・・ どこにいったってありえることなのですよ、ニーナさん。」 「そうだけれども・・・重力のしっかりあるところならば・・・」 「私には4倍の重さに堪えることの方が冒険に思えますよ。」 「・・・・・・・・・」 「うぬぼれかもしれないけれど、仕事をしている間は世界をこの手で守っているという 感じがするんだ。」 「どうも、すいません」ニーナの手から力が抜けた。 「じゃ、行こうか。奴の方が私なんかより危険なところで戦っているのだから。」 2人は立ち上がり、ポート・ナースに急行するためにステーション・トレインの乗り 場に向かったのである。 ステーション・トレインは巨大空間である地球ステーションを高速で移動するために 設けられた交通機関である。ステーション内には様々な交通機関があるのだが、設計上 まっすぐ結んだり、スピードを上げたりすることは出来なかった。ステーション・トレ インは地球ステーションの外側にレールが設けられていて、各駅にごとだけステーショ ン内に入るので端から端までいくのに使われることが多い。また、ここからの景観は絶 品なので若者のデートコースとしても隠れた人気があった。 無造作な乗り込み口からゴンドラ内に入ると2人は一番前の席に座った。フレッグの 部屋からずっと無言のままだった。2人ともやはり、友人が直射日光に30秒当たると いうことにおかしくなっていたのだ。色々なことが頭を巡り、魂だけがどっかに行って しまっているようだった。 人間この何千年かのうちに進歩すれども、本質は変わっていないようだ。危険という ものはどんな世界にもあり、その瞬間瞬間がそれぞれ個々の者にとって大いなるもので あったのだ。最初に月に行った人間は親になんと言われたであろうか。アメリカ大陸へ 渡る最初のアングロ=サクソンの人は前日眠れぬ夜を過ごしたのだろうか。火を最初に つかんだ原人は畏怖しつつそれにむかっていったのであろうか・・・ 前のS.Fなどをみると取り分け宇宙空間が危ないようである。それはその、危険性 については地球と比べたら違いが出るであろうが、凄まじい勢いで回る巨大な土のボー ルとずっと自由落下の法則で永遠に落ち続ける地球ステーションとそんなに違いがある のだろうか?フレッグはウゲナーのことを考えている頭の隅で、思った。 こんなことをこんなときに思えるのも、話をして安心できる人が、物理的にではない 距離にいるからなのだろう。震え上がった心をその人にいつも癒してもらうからこそ、 ″フレッグ″という水道会社社員が存在しているのだ。 彼はニーナを静視した。 そのとき、駅のハッチが開き、アマタの星が現れた。そしてゴンドラはゆっくりと、 宇宙空間へと進み出たのである。偉大なる地球の光を眩しいばかりに浴びながら。 −−−FIN−−−
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