CFM「空中分解」 #0525の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「「「混沌とした世界。 上もなく、下もなく。 ただ、暗黒とも言えるような不思議な空間。 それでいて、どこか暖かい。孤独感などは感じもしない。 そう、例えるなら、母胎の中の暖かな空間のような所に、俺は浮かんでいた。 「ど………こ………?」 しっかりと頭が働かない。 全てが曖昧。 周りを見渡そうとするが、思うように体が動かない。 うんうん言いながら、少しずつ周りを見渡す。 どこもかも闇。 一筋の明りさえ落ちていない、まるで深海のような世界。 急に、孤独感、と言うよりも、一人残された子供のような寂しさを感じた。 涙が流れ、子供に退行したような体になり、その小さな手を目に当てる。 「えーん、えーん」 寂しくって、涙が流れてしまう。 17であったはずなのに、体も、心も、まだ甘えたい盛りの7・8才に戻ってしまったような退行感。 「だれか…………いないの?」 泣いてもしょうがないような気がして、顔をあげ、少し歩き出した。 トットットッと歩き出すが、しっ黒の風景が変わるはずもない。 どうしょうもなく、チョコチョコと歩き続けた。 「えーん、えーん………お母ぁさーん」 止まって、再び泣き出すと、前がぽっと明るくなった。 「え?」 泣き顔を上げてみる。 そこには、優しい感じの女性がいた。 誰とも言い難いが、お母さんのような、愛美のような。そんな気がした。 周りが、ぽーと明るくなっていて、幻のように揺らめいている。 触れれば、なくなってしまう様な存在感。 ただ、一人孤独であった自分に支えができように、心は嬉しくてしょうがなくなり、飛びついて行った。 「わ「「「い!」 しかし、その女性はすっと消えてしまい、僕は空をつかんだだけだった。 トットットッと惰性で数歩あるくと、僕は立ち止まった。 「どこ?…………」 きょろきょろ見渡すと、少し向こうにまた同じ様な光が見えた。 トットットッと歩いて行く。 やっぱり、あの女性だ。 やっぱり、嬉しくって、飛びつく。 だけど何も掴めない。彼女はいなくなってしまう。 また見渡すと、今度はかなり遠くにいた。 うんうん言いながら追いかけるが、なかなか追いつかない。 「まってー………まってよー」 だけども、その女性との距離はいっこうに縮まらない。 それどころか、彼女の姿はどんどん遠ざかって行くようにも見えた。 「まってー………ねえ、まってよー」 だが、彼女はとうとう、ただの光となってしまった。 そして、その光が歩いて行くうちにどんどん大きくなっていき、とうとう僕は光に包み込まれた。 「まって!」 目が開いた。 さっきとは違った、しっかりとした実感にやや冷静さを取り戻す。 光に慣れてきた目に、天井の白い壁が入り込んで来た。 足元にある窓からの差し込む太陽の光の反射もあって、かなりきつい光が目を細めさせる。 やっと落ち着き始め、全身の筋肉に対する緊張をといていく。 「夢か…………」 ため息混じりに呟くと、途中でわき腹に激痛が走った。 「つっ!」 右手で本能的にわき腹を押さえた。 しかし、手を当てたその瞬間、何か異物感を手に感じた。 いつもと違う感触。 俺は手をぱっと離し、手で押さえたわき腹を見た。 「包帯………」 包帯と呼べるかどうかは解らないが、どっから取って来たか解らない白い布が腹に巻き付けられていた。 自分でこんな事をした覚えはない。 いったい誰が? 何はともあれ、俺は体を起こした。 そして、ゆっくり周りを見渡す。 整然と机を並べられた、どこかのオフィス内。 全体的に白で作られた清潔な感じのする部屋ではあったが、わずかに〈崩れ〉を見せ、何年も前に作られたような印象を与える。 南側に作られた窓からは太陽が見え、依然と変わらぬ強い光が差し込み、俺の影を床に黒く写していた。 そして、<赤い目をした男>が床に転がっている。 しかし、そこには掛けた覚えのない白いシーツが掛けられていた。 「…………?」 壁にもたれ掛かろうとした俺はさらに、自分がソファーに寝かせられていた事に気付いたが、特に驚きもせず、そのまま柔らかなクッションに背中を任せた。 <いったい誰がこんな事を…………> 考えようとしても、出てくるわけがない。 愛美の死に立ち会ってから見たのは<赤い目をした男>と、死んだ<黒い目の人>だけだ。 俺は、天井の白い壁を見つめ、しばらくぼーっとしていた。 なにも聞こえない静寂な時。 静かな安堵がやがて、頭の中にさっきの夢を再現した。 退行した自分の姿と、暖かな女性。 そして、逃げていく時の悲しさ。 <みんな………いなくなった………> 悲しい、恐ろしい。 その気持ちが夢に現れたのだろう。 あの女性は何を意味したのだろう。 お母さん? 愛美? 友達? 人々? それとも、平和? 小さくなった俺は、それにすがりつきたかった。 淡い光を放つ女性に。 淡い光? その言葉で俺は、昨日の事を思い出した。 気絶する瞬間にみた、優しい光を発する愛美の姿。 わずかに宙に浮き、体をやや曲げながら目をつぶり、優しき笑顔を見せていた愛美。 その時は、死の瞬間の幻影だと思ったが、いま考えると、かなりしっかりした物だったと思った。 愛美の姿が見えたのは、何故。 やはり、願望が夢に現れたのだろうか。 その疑問と同時に、次々と問題が頭に浮かびだした。 俺は一体これから、どうしていけばいいんだ。 赤い目の男達は一体、何者なんだ? この<崩れ>の現象は何故? そして、包帯を巻いてくれた人は誰? 頭が痛くなるほどの疑問の数。 俺はため息をついた。 カタッ………… 殆ど、聞こえるか聞こえないか、小さな音を俺の耳は聞いた。 本能的に、銃はないかと周りを見渡した。 枕元に服と一緒になっていた銃を見つけると掴み、ソファーの後ろに飛び込んだ。 すぐに銃の弾を確かめ、10発入っていることを確認すると、音のしたドアの方向に銃を向けた。 静かに、音を待つ。 カツ……カツ……カツ………カツ…… 少し早めのテンポの、軽い足取り。 どうも男の物とは思えなかった。 子供、もしくは女。 おそらくは、この包帯を巻いてくれた人だとは思ったが、俺は依然とソファーの影に隠れていた。 カチャ………ギ「「「「「「! 「あれ?」 女性の声だ。 どこか、聞き覚えのある。 しかし、俺はそんなことは構わず、銃を構えたままソファーから飛び出た。 「きゃ!」 女性は、突然飛び出した俺に驚き、持っていた沢山の缶詰を落としてしまった。 俺は、女性の顔を見た。 赤くない瞳。 しかし、それよりもその顔! 「愛美!」 その女性は、相手が俺だと解ると、嬉しそうな顔で安堵のため息を漏らした。 「ふ「「「「「 良かった。あなたで………」 彼女は緊張した様子を見せず、俺に笑いかけた。 少し長めの、さらっとした髪を背中に流していた。 ちょっと細目だが背もほどほどに高く、可愛らしい。 きれいな黒い瞳に、屈託のない笑顔。 どこか、引かれてしまう所までも、愛美に似ていた。 唖然とし、下ろしかけていた銃をばっと上げ、その女性に向けた。 愛美のはずがない! 「誰だ!」 落とした缶詰を拾っていた、愛美に似た女性は顔を上げ、もう一度俺にその笑顔を見せてくれた。 俺はまた銃を下ろしてしまった。 駆け寄って、抱きつきたいほどの懐かしさを感じたが、必死でそれに耐え、振るえる声でもう一度、聞きなおした。 「だっ、誰だ……」 「『愛美よ』って言ったら喜ぶかな?」 「違うのか………?」 「……………『愛美さん』がどうなったか、あなたが一番よく知ってるはずよ………」 女性は、缶詰を拾い終わると、俺の方に寄ってきた。 「そうだな………」 俺は、しばらく立ちすくんでいた。 しかしその時、ある矛盾に気が付き、その女性に向かって叫んでしまった。 「どうしてそれを知っている!」 彼女はとなりに位置する別のソファーに腰掛けた。 俺も、落ち着いて、ソファーに座った。 彼女は真剣な目で、じっと俺を見返した。 純粋で、静かな瞳。 しばらく、俺達は見つめあった。 彼女は不意に視線をずらし、語り始めた。 ゆっくり、静かに。 なにか、昔の物語でも語るように。
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