CFM「空中分解」 #0413の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
==================================== Forward! ■ 榊 ■ ==================================== 「はぁ,はぁ,はぁ.」 息が切れ,呼吸の調子が早くなってきた. 足と手に力を込め,大きな岩を登りきる. 一息ついて上を見てみるが,頂上はまだ遥か. 近くの岩山だと思っていたが,舗装していない分,かえって辛かったのかも知れない. でも,いまさら愚痴を言ってもしょうがない. 息を整え,次の岩に手をかける. もう一つ,登りきろう. 開けっ放しの窓から,心地よい風の吹く5月の初め. 部屋の窓から,夕日が赤々と部屋を照らしていた. 久しぶりに早く家に帰ると,読む本もなく特に眠くもなく,机に座りその空を見上げた.赤々とした建物が目にはいる. 一つ大きな風が窓から入ってき,体を通り抜けた. 涼しい,心地よい風だった. その時,その瞬間,何かが抜け出て行った. いや正確に判断すると,風と共に入ってきたのかも知れない. だがともかく,その時は何かが抜けて行った様な気がした. その時,不意に自分の昔を思い出したのだ. 先ず,小学生時代. 特に外で遊ばなかった自分. うっすらとしか覚えていない様な友達. 何かあるか,ないかの曖昧な記憶には,なにか霧がかかったようで,他に思い出せない.そして,中学. ここでの記憶は,勉強が億劫な物だったという事だけ. ただ,退屈な授業を聞き,テストを受ける. とくにクラブにも通わず,なんとなく日々を過ごしてきた. そして,高校. 今,2年まで過ごしている. 高校時代は,いったい何をやったのだろう. 特に不良をやっていたわけではないが,だがかえって,淡々とした高校生活. 不意に胸が締め付けられた. その時感じた,寂寥感.空っぽな心の寂しさ. 何もなかった,今までの17年間. 空っぽだった,何もない時代. 言葉にできない寂しさと共に,喉から何か熱いものがこみ上げてきた. 太陽が,目に焼き付くようだった. その時,後ろのドアが急に開いた. 「おにいちゃん,食事よ!」 妹だった. 振り返って何か言おうしたが,喉に何かが詰まっていて,何も言えなかった. 妹はしばらく黙っていたが,僕の顔を見ると尋ねてきた. 「おにいちゃん....泣いてるの?」 「え?」 目に手を当ててみる. うっすらと,冷たい滴が手に伝わった. 過去を振り返ってみた自分は,何かしようと考えた. それが,山登りだった. 現実に対する逃避だったのかも知れないが,何か自分の力を出し切ることがしたかった.最初は,立山やアルプスの方に行こうとしたが,生まれて初めての登山でいきなりは心配だった. それに家の人に知られたくもなかった. 丁度,近くに格好の岩山がある. 中腹辺りまで,公園や住宅があるが,その上は森と岩だ. いま,その山を登っていた. 特にスポーツをやっていなかったせいか,すぐに息が切れる. 休み休みやっていたが,段々体が慣れていき,ペースは遅くなって行ったが休むことは少なくなっていく. 一つの木を,一つの岩を,今までの過去を乗り越えるように登って行った. 友達,先生,両親,学校,クラス,クラブ. その度に気が楽になっていく. その度に体が軽くなっていく様な気がした. 全ての過去を振り切った後で思ったのは....未来 明日の事,明後日の事,一年後,10年後. どんな所に就職するのか,家庭はつくるのか,幸せか,幸せにできるか. 自問自答を繰り返す. 一歩,一歩,噛みしめて登る. 突然,回りが明るくなった. 下を向いていた顔を上げる. すぐ向こうに,頂上が見えた. そこまでは,岩しかない. はやる気持ちを抑え,再度,一歩,一歩,登り出す. あと三歩....あと二歩....あと一歩....... 「やった! 頂上だ!」 最後は思わず叫んでしまった. 何かが吹き飛んだ. 声と共に,風に乗せ,飛んで行ってしまった. 流れる汗を風が撫でて行く. 何かを成し遂げたという満足感が,体全体に広がって行く. 両手を高く上げ,笑顔で伸びをすると,その場に座り込んだ. 「やったぞ,やったぞ.」 心で呟くように言った. その頂上から,町を見おろす. なんて広いんだ. そして,なんて明るいんだ. 町が,子供が,森が,空が,全てが新しく心に刻まれる. 当り前の,ごく自然の事が妙に感動する. 過去を振り切り,未来を見つめた自分は,もう一度立ち上がり,体いっぱいに冷たい風を受けた. また今,暇な高校生活を送っている. 何も変わっていない. 依然と同じ生活を繰り返す日々. でも,何か心は変わったような気がする. 山を登って何かが解った.そんな気持ちが心に残っている. はっきり言葉にできないが,心に何かを感じていた. Forward! 何でもやってみなくちゃ解らない. 今,新しい一歩を踏みしめる. FIN ★後書★ 「ちょっと長すぎるよー」という批評が多く,比較的最近に書いた短編を一つ置いてみることにしました. どないなもんでしょう?
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