●連載 #0761の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
時々エコテロさんがニーチェについてあれこれ話してくれるのだけれども、何 を言っているのか全然分らないのだけれども、なんとなくその話の登場人物か ら私はこんなイメージを得たんだよなあ。世界とは気まぐれなライオンがいて、 臆病なラクダがその顔色を窺いながら右往左往している感じだ、そんな気まぐ れなライオンを相手にしないで超人になるべきだ、と。超人>ライオン>ラク ダ、みたいな感じ。 私も今までこのライオンの顔色をうかがっていて、尊師のいいなりになる信者 のような、エイハブ船長のいいなりになる船員のような感じだったのだけれど も、何で気分が変わったのか分らないけれども、あまりにもユーコが男社会だ の何だの言うからかも知れないけれども、そもそも私が申し訳ないなぁと思っ ていたのは殺生している事なんだから、謝るんだったら自然でしょ。だのにユー コは男だのライオンだのエイハブだのの顔色を窺っている気がする。私は自然 とか太陽を相手にしたいなぁ。 とか思いつつ次の日も表参道でビラを配っていた。昼になってユーコがお弁当 を持ってきていたので、表参道のガードレールに座って食べるんじゃあ格好悪 いから、裏原宿の奥の方の公園で食べた。ナンと焼きトマトと水筒には赤ちゃ ん番茶。私は焼きトマトをじーっと見た。「何も入っていないよ」とユーコが 言った。「ナンは小麦粉だけだし、トマトはオリーブオイルをかけてオーブン で焼いただけなんだから」 焼きトマトを食べて「美味しい」と私。 「焼きトマトダイエットっていうのが流行っていて、このぐらいの」と言うと ヨーコは1メートルぐらい両手を広げた。「プランター3つでプチトマトの栽 培しているんだけれども、どんどん出来るんだよねえ。食べても食べても無く ならないの。本当は畑なんて耕さなくても稲なんて勝手に生えてくるんじゃな いのかと思ったり。ああやって苦労して耕すのは、何かの罪滅ぼしなんじゃな いのかなぁ。畑を耕す事自体祈りや祭りなんじゃないかなあ」 「ふーん」裏通りを歩く人々を見る。やっぱここらへんの人はセンター街とは 違うなあ。センター街だともっとみんなピアスとか、「ピアスとかタトゥーっ てあれも又、楽して生きた罪滅ぼしかなあ」 「違うよ。現代の罪滅ぼしは、ちょっと前だったら公害とか。今だったらアト ピーとか、エイズとか。ひきこもりや摂食障害なんていうのもそうかも知れな い」 「ふーん」とナンを食べるユーコを見る。「ユーコってさあ、そうやって食べ るでしょ。肥えるでしょう。だから、子を産まない牝牛になったらいけないっ て思うの? おかしくない? だって小麦をくれるのは畑とか太陽なんだから、 罪滅ぼしをするんだったら太陽とか自然にするべきじゃない? そのユーコの 申し訳ない気持ちに付け込んでいるのが男なんじゃない? 無視すればいいん じゃない?」 「そんな事言ったって実際に田畑っていうか社会を動かしているのは男だよ」 「うちのおじいちゃんが社会とか世間なんて無いって言っていたよ。サイトウ さんみたいだけれども」と私は言った。「うちのおばあちゃんはもう死んじゃっ たんだけれども、若い時に三種の神器? 洗濯機と冷蔵庫とクーラー? そう いうの買ってもらって家事から解放されたのに、昼寝していたら世間に申し訳 ないとか言って働きに出たの。あれも罪滅ぼしかなあ。そんでおじいちゃんが、 そんな世間なんて無いって言ったんだよ。戦争が終わった次の日には郵便も電 車も動いていたから、別に権力者なんかいなかったんじゃないかって。みんな ただ単にお天道様に申し訳ないから働いているだけで。そういうおじいちゃん の教えで、うちのお母さんは毎日LALAテレビみているけれどもねぇ。ああ やってLALAとかエムオンとかCSだけで50チャンネルもあるんだから、 大本営発表の時代とは違ってますます世間なんてない、とおじいちゃんが言っ ていたよ」 「違う違う、そうやって、エムオンもあるMTVもあるスペースシャワーもあ る、選択肢はいっぱいある、って思って気が付くと男に支配されているんだか ら。そんで、守ってやる、だからやらせろってなるんだから。それが嫌でトマ トダイエットしているんじゃない」と言うと焼きトマトを食べる。「本当にそ うなんだよ。アナログなんてやめよう、地デジにしよう、そうすればBSもC Sも見られる、自由になる、フリーだ、ってなると、気が付くと支配されてい るんだから。本当だよ。…そういえばあそこの駐輪場のところに日本人とイス ラエル人のゲイのカップルがいて、アクセサリー売っていて、自分達はフリー だフリーだって言っているんだけれども、帰りによってみようか」 帰りに駐輪場の所に行ってみると白人っぽいのと日本人っぽいのが折りたたみ 式のテーブルを広げて偽物のローレックスを売っていた。フリー。イスラエル 人のゲイはブリトニーの元彼でその後キャメロンディアスの元彼になったジャ スティンなんとかに似ていて、日本人のゲイはよさこいグループの元小学校教 師に似ている。うざい。一番苦手なタイプじゃ。 「久しぶりじゃない。又痩せた?」と日本人のゲイが声をかけてきた。 「こんなの何時まで貼ってんの?」とユーコが言った。「夏のイベントじゃな い」 テーブルの上にコルクのボードが置いてあって、東京国際レズビアン&ゲイ映 画祭「City of Borders」というビラが貼ってある。私が何気に見ていたら「こ れはね」と聞いてもいないのに日本人のゲイが解説を始めた。「エルサレムに 旧市街って所があって、今はイスラエルが占領しているの。そこをパレスチナ が返せって言っているのね。だけれどもそこにはそこにはパレスチナ人のゲイ が住んでいて、パレスチナに返還されたら彼らは殺されてしまうの。だからイ スラエルに占領されていた方がいいのよ。イスラエル人がパレスチナのゲイの 自由を守っているの」 「こうやって」ユーコが言った。「この人達はフリーフリーといって、フリー ベトナム、フリーイラク、フリーチベットって、気が付くとマックとスタバと コカコーラの自動販売機が並んでいるんだから。そんでイスラエルが守ってや る、守ってやるっていって囲い込むのよ」というと今度はゲイに言った。「あ んた達、フリーチベットとかいってチベットにマック作る気?」 「食べたい人は食べればいいんじゃない」 「チベットなんて大乗仏教だから蚊も殺さないんだから」 「仏教だとベジタリアンで健康で長生きするからトータルすれば殺生する量は 多いんじゃないの?」と日本人のゲイ。 「日本人はくじらを殺す」下手な日本語でユダヤのゲイが言った。 「もう行こう」とユーコ。 表参道への帰り道。「レズの映画祭に行ったの?」と私は聞いた。 「映画を見に行っただけだよ」 「ふーん」 「嘘くさい映画だったけど。City of Bordersっていう映画で。パレスチナ人 のサミーラっていうレズが出てくるんだけれども。イスラエル人のレズと付き 合っていて。自分はイスラエル人のパートナーを人間としては愛している、だ けれどもパレスチナを苦しめているイスラエルと思うと憎しみがこみ上げてく る、とか言うの。でも4年前にも「0メートルの隔たり」っていう映画で同じ 台詞を言っているんだよねえ。個人と国家のジレンマに苦しんでますーみたい な苦悶の表情まで同じで。しかも恋人が違うんだよ。しかも2回ともイスラエ ル人のレズで。サミーラって女を渡り歩いているんじゃないのかって思ったん だけれども、ちょっと考えてみると全く逆で、彼女は守ってもらう為には醜い ユダヤのおばさんレズの慰み者になるしかなかったのかなあ。スリー・ディグ リーズと同じ。じゃぱゆきさんと同じ。…小田実はどうだったんだろう」私達 は表参道に出た。 「オダマコト?」 「知らない?」 「知らない」 「小田実には嘘がないよ。顔を見ればわかる。でもやっぱり弱みに付け込んだ んじゃないのかとも思う。江藤淳には嘘がない。でもやっぱり弱みに付け込ん だんじゃないのか。むしろ石田純一とか羽賀研二の方が愛に欺瞞がない感じが する。女にとって明らかに損な恋愛の方が欺瞞がないのかなあ…アキコはどう? アキコの思う誠実な人って」 「飯島愛」 「他には」 「本田美奈子」 「他には」 「ZARDの坂井泉水」キデイランド前に到着。「ほーんと、若い人が死ぬと ぱーぷるとかって長生きだよなーって思っちゃう」 「ぱーぷる?」 「瀬戸内じゃくちょーっていうの? さっき菜食主義だと長生きするからかえっ て殺生するとか言っていたけれども、本当かも。長生きしすぎだよ。紫の着物 なんて着ちゃって。殺生ばばあ。私が閻魔大王だったら地獄行きだね。中野の 図書館でも見たけれども、すっごい分厚い本書いているの。聖書より厚いんだ よ。聖書より厚い本を書いたら地獄生きだよ」 「そういうのも大事なんだよ」 「どういうの?」 「そういう美しい文化があれば爆弾を落とされないかも知れないし」 「そういう綺麗であれば殺されないっていう発想が男に媚びているんだよ。そ れに綺麗である程醜いんだよ。だって綺麗な文章を書くには時間がかかるから それだけ殺生をともなっているんだから。綺麗なものを見ると、その分必ず汚 れなきゃいけないものがあると思う。ヴィトンのガラスを綺麗にするには雑巾 が汚れないといけないんだから。だから綺麗なものは汚いんだよ。御巣鷹山に 飛行機が墜落した時に、機内の中で書かれた遺書。あの字は汚かったよ。だっ て飛行機がダッチロールなんだから。文字が読み取れないぐらい乱れているん だから。だけれどそれでも自分はみんなのお陰で幸福だったと家族への思い遣 りがある、あれこそ真実があるよ。綺麗に飾られた文章なんて嘘だよ。図書館 の本を見て、一瞬、ああ、すごい。でも次の瞬間、こいつらどれだけ殺生して いるんだよ。図書館の造りも気に入らなかったけど。本棚とかカウンターも木 で出来ていて。ウッディーな感じで。文化的な感じで。図書館でママさん司書 みたいなのがハンドメイドのエプロンなんてしちゃって。だけれども駐車場で はシルバー人材センターからきたおじいさんが風雨にさらされているし便所掃 除のおばあさんもいるし。自分達の心は文化的で豊かとでも思っているのかし ら。外でホームレスが震えているのに。私はききたいよ。寂あんの掃除って誰 がやってんの? 寂あんを維持する為に法話のCDを売るんだっら羅生門にで も住んでいればいいんだよ。なんで餓死している子供がいるのに桐の箱に入っ た法話のCDを売るんだ。だんだん興奮してきた。別に恨みはないけど、ただ そう思う。ギャグでやってんのかな。日本人なら気品? ヘアヌードでも出せ ば許してやる」 「そうやって見えるところばかりに反応して感情的になるから男にやられるん だよ。図書館だって銀行と同じで、ドアの裏には男がいるんだから。男が牛耳っ ているんだから。だいたい瀬戸内じゃくちょーと便所掃除のおばさんと関係な いでしょ。法話のCDと飢餓の子供と関係ないでしょ。そうやってくっつけちゃ うからスルメとしいたけと昆布と切干大根がくっついちゃうんだよ。そんなの、 バチカンには金銀財宝があるから許せないというプロテスタントと同じだよ。 そうやって男が争うから羅生門になっちゃうんだから、女が経営していれば清 潔で綺麗でいいじゃない。寂あんみたいに」 「あー、本田美奈子が死んだっていうのに。無菌室の本田美奈子は花屋の乾燥 機の中で蕾のままドライフラワーになってしまう花の様だったよ。でも何時も にこにこしていたよ。それに比べて瀬戸内じゃくちょーは。なんてしぶとい」 「だったら骨髄バンクに登録すればいいじゃない」 「いやだ。痛いから」 「言うだけじゃない。それに瀬戸内じゃくちょーと本田美奈子に何の関係ある の。単なるイメージじゃない。そんな事言っているからスルメとしいたけがくっ ついちゃうんだよ。そうやって感情に流されるから男にやられるんだよ。骨髄 バングだって男が経営しているんだから。本田美奈子の番組だって男がプロデュー スしているんだよ。私も見たけれども。金曜エンタティメント」 かちんこちん来たでー。「そういえばユーコに薦められた庄司薫読んだけれど も、あの人も綺麗なものが好きなんだねー。クラシック音楽はいいけれども最 近の音楽はただ刺激だけを求めてチンチンを出すような音楽であれこそ自分達 の敵だ、とか。ショパンだったら偉いのか。ショパン聴いてカレー食べてれば いいの。うんこカレーでも食べれてば。あのカレーには大量の牛脂が使われて んだ。何がショパンだ。PETAの方がずっと偉いよ。闘牛反対のデモでチン チンを出す方が立派だよ」 「だったら、あんたここで脱いでヴィトンに突っ込んでみなよ。出来ないでしょ う。言うだけでしょう」 「やってやるよ」私は言い放った。コートを脱ぎ捨て、パーカーを脱ぎ捨て、 シャツのボタンをおへそのあたりまで外した時に両手をおさえられた。 「やめなよ」とユーコが言った。「杉本彩じゃないんだから」それからユーコ はボタンをはめてくれてパーカーを着せてくれた。コートは自分で着た。「も う帰ろうか」とユーコが言った。 帰る道々私は言った。「私、本当に美しいものは醜いと思うようになっちゃっ た。車なんてぴかぴかしているとムカついちゃって。温かい日にね、サイトウ さんのアパートの近所で、ゴルフ焼けしたおっさんが、キヘイのネックレスな んてして、水道水じゃばじゃば使って車を洗っていて、水がもったいないじゃ ない、干ばつで死んでいる人もいるのに。私、後でそいつんちのガレージに忍 び込んで10円玉でぎーぎーやってやった。私のエコテロル」 地下鉄の中で聞いたけれども、ユーコも実は庄司薫とかもっと下の全共闘世代 の言うことは嘘くさいと感じているんだって。「だって、何か人間的に深く悩 んで、突然親子丼を食べて、こんなに食欲があるから平気だ、と納得する能天 気さが信用できないよ。ショパンとカレーライスって感じはあるよ。その間に は労働とかと畜がある筈なのにそういう事に全く無関心な人についていって平 気なのかって思う。実際、日本人の生活はアジアからのものすごい搾取で成り 立っているのに。自分の携帯の電池のMADE INを見てみれば分るし、マ ウスの裏のMADE INを見てみれば分るし、そこには「ああ野麦峠」が見 える筈だし。東南アジアにしても中国にしても、殺生にしても、みんな自分達 を恨んでいると思うんだよね、そしていつか復讐される、という感覚がある。 だけれども村上龍とか村上春樹とか、本当にショパンとカレーなんだよね。健 康で文化的な生活が出来て当たり前、親の無償の愛が当たり前って思っている。 憲法で保障されているから。そんで9条の会でしょ。怖くなってくるよ。あい つらの言う事を聞いていたら従軍慰安婦になってしまうんじゃないのか。小林 よしのりの方が信用出来るよ。わしゃ人民解放軍が怖いから核を持つって。ど んなに小林よしのりがきもくても生き延びる為には「子を産まない牝牛」や 「歌を忘れたカナリア」であってはダメだと思う。だから私には無菌室の本田 美奈子は歌を忘れたカナリアにならないために必死で歌っている感じで見てい て辛かったよ」 やっぱりユーコはラクダだと思った。彼女にとって誠実な人間とは気まぐれで ないライオンなのだ。庄司薫とか。だけれども庄司薫は弱くて自分を守れない、 だから強いライオンである小林よしのりに付いて行く。愛の欺瞞とかなんとか 言うのも、ライオンの気まぐれから捨てられるのが困るというだけの話だ。 私は違う。私はラクダじゃないしライオンにも付いて行かないし、超人が何か 分からないけれども、太陽みたいな感じだ。太陽を相手にして生きて行きたい。 本田美奈子だって、太陽、太陽と言っている。ライオンが小林よしのりであろ うと、庄司薫であろうと、オリグチであろうと竹中平蔵であろうと徳川家康で あろうと、関係ない。一切無視。もし死ぬとしたらライオンの気まぐれではな くて太陽への生贄として死ぬのだ。
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