●連載 #0745の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
その日の晩ご飯は豚肉のしょうが焼きだった。皿の上の豚肉は端っこが脂身 でびろびろしていて、肉の繊維も見えるし、差し込んだ脂身が引きつれてい て、今日の今日では無理だなあ。「おじいちゃん」衛星放送のボクシングを 見ながら黙々と食べているおじいちゃんに言う。「これ、あげる」と皿ごと してしまう。 「なんで」とお母さん。 「だって今日食欲無いんだもの」 本当の事を言ってもよかったのだけれども、そんな事をしたら人体の不思議 展のきもさが家の中にまで入ってくるような気がして止めた。小学校の頃い じめに合った時にも家では言わなかった。味噌汁とご飯だけ食べた。 部屋に入ってから脳内と電脳空間で色々考えた。肉を食べなくてもいい何か 適当な言い訳を。まず脳内から。前にテレビで「バカの壁」の養老タケシが、 学生時代に解剖していた時にはノコギリも使ったし肉片が口に入ったりして メシが食えなくなったとか言っていたよなあ。だから私が人体の不思議展を 見て肉を食べられなくなっても普通でしょ。そんな事お母さんに言えるわけ ないだろう。前にテレビでコーヒー浣腸ダイエットというのをやっていて、 その時に出ていた医者が、食物連鎖的に哺乳類を食べるのは共食いです、大 腸がんの原因にもなる、とか言っていたなあ。そうお母さんに言うか。ダメ だな。共食いなんて。ハンニバル・レクターじゃないんだから。前にテレビ で外人さんご一行が相撲部屋を見学していてちゃんこ鍋を食べる時に、この 人はベジタリアンだから肉は入れないで下さいと注文していた。ベジタリア ンというのは自然な響きだよなあ。そこでベジタリアンでぐぐってみる。ベ ジタリアンになる理由は自分の健康の為、地球環境を考えて、心の病気。ペ スクタリアンというのは肉は食べないが魚や乳製品は食べる。ビーガンは肉、 魚、乳製品、蜂蜜も食べない。すげー。レオナルド・ダビンチもアインシュ タインもカール・ルイスもビーガン。カール・ルイスがビーガンというのは 似合わない感じがする。アフリカでシマウマを追いかけていそう。とにかく 私なんてまだまだどうって事ない方なんだと思った。 翌朝、テーブルにつくとおじいちゃんがテレビのニュースを見ながら味噌汁 をすすっていた。お父さんは出かけてもういない。自分の味噌汁を見るとい やに油が浮いている。なんだこれ。「お母さん」と私は言った。「なんか油 が浮いているんだけど」 「夕べの豚肉の残りを入れたのよ」 「えっ」味噌汁の表面を箸でつついてみる。細切れになった肉片が浮いてい る。「なんでわざわざ肉入れんの?」 「出汁になるでしょ」 「だって出汁ってカツオとか昆布でしょう?」 「トン汁みたいでいいでしょ」 「お母さん」と私は言った。「私、ペスクタリアンになったんだよ」 「なに、それ」 「知らないの? ベジタリアンの一種だよ。肉は食べないんだよ」 「じゃ、何食べるの」 「魚とか。卵とか」 「なんか変なダイエットなんじゃないの?」 「違うよ。昔の日本人はみんなそうだったんだから。それに頭にもいいんだよ 。アインシュタインもレオナルドダビンチもそうだったんだから」 「だったらお肉、避けといて」と言われて味噌汁を見る。 今更肉を取り除いたところで脂は味噌汁全体に広がっている。相撲部屋でちゃ んこを食べた外人はどうしてこれが平気だったんだろう。 「今夜、とんかつだよ」とお母さんが言った。「シミットの」 「また肉?」 「だってあんた以外はベジタリアンじゃないもの」 「肉は大腸がんの原因にもなるんだよ」 「だったらあんたキャベツだけにする?」 「いいよ。コロッケでも買ってきてよ。野菜コロッケ」と言うと私は席をたっ た。「もうご飯いらない」。 「アキコちゃん。何か食べなきゃ」と言う母を無視して家を出た。 昼になったらもうくらくらしていた。即行で売店に行ってフィッシュバーガ ーとチョコチップメロンパンとCCレモンを買ってきて、教室でヨシコとハ ツネと食べる。私達の右奥にはマサル一派がいた。なんとなくDQNオーラ が漂っている。でもマサルとは同じ世界に住んでいる気がする。左奥のアベ 君をチラッと見た。やっぱアベ君は住んでいるレイヤが違う感じがする。 「それってハムとかのってんの?」ピザパンを食べているハツネに聞いた。 「のっているよー」上原多香子似のハツネ。 「私、もう肉食べないんだ」フィッシュバーガーをほおばりながら言う。 「なんで」 「だって共食いじゃん」 「はあ」 「人間も動物も哺乳類だから共食いなんだって。体に悪いんだって」 「こんぐらい平気でしょ」ハツネは平気でぱくつく。 「私は一かけらも食べないよ。ベジタリアンになるから」 「だったらもうマックとか行けないよ」お握りを食べながらヨシコが言った。 オセロ中島に似ている。 「フィレオ食べるからいいよ」と私。 「フィレオは魚でも油がショートニングだもの」 「ショートニング?」 「そうだよ、私バイトしていたじゃん。マックの油はショートニングってい う牛の脂だよ」 「なんで?」 「からっとあがるからだよ。肉屋のコロッケが美味しいのも牛の脂だからだ よ。そのフィッシュバーガーだってショートニングかも知れないよ」 私は最後の一口を飲み込んだところだった。 「絶対肉食べないなんて無理だよ」ヨシコが言った。「カップ麺とかレトル トとか みーんなチキンエキスとかポークエキスとか入ってんだもの」 「えー。嘘」 「ほんとうだよ」とヨシコが言った。 ヨシコの言葉が本当かどうか、学校の帰りに家の近所の99ショップでチェッ クした。商品を一個ずつ手にとって箱の裏の成分表を見て行く。まずはレト ルト食品。まずはマーボー豆腐。成分一覧に豚脂とかポークエキスとか書い てある。ドライカレーの素みたいなのにもチキンエキス、ポークエキスが入っ ている。冷凍食品はシーフードグラタンでもエビピラフでも高菜ピラフとか 和風のまでポークエキスが入っている。カレーはレトルトでもルーでも牛脂 豚脂混合油とか入っている。カップ麺関係も、シーフードヌードルもダメ、 和風のカップ麺もダメ。ダメでないのは「マルちゃん赤いきつね」と「日清 どん兵衛天ぷらそば」だけだった。基本的にインスタント食品は全滅なんだ ろうか。カールルイスは何を食べているんだろう。カールルイスはインスタ ント食品なんて食べないか。お腹が減ってきた。お菓子だったら、と思って お菓子コーナーに行ってみる。ビスケットとかクッキーとかバームクーヘンっ ぽいものにはみんなショートニングが入っている。これってヨシコの言って いた牛の脂かなあ。クッキーに牛の脂なんて入れるのだろうか。チョコは平 気だった。ポテチも平気。とりあえずエアロチョコとポテチを手に持って。 今日、ハツネが食べていたみたいなピザトースト食べたいなあ。どうせダメ だろうと思ったがピザソースを見てみた。カゴメピザソース。成分:トマト、 たまねぎ、砂糖、醸造酢、大豆油、食塩、香辛料、にんにく、コーンスター チ。入っていない。これだったら食べられる。買い占めようかなあ。なんと なくあたりを見回す。お金が無いから一本にしておこう。 家に帰ると誰もいなかった。ピザトーストを二枚作るとオーブントースター に入れた。焼きあがるまでにポテチとチョコを食べる。ピザトーストが焼き あがるとそれもぺろっと食べた。宅配ピザとかどうなんだろう、とふと思う。 部屋に行くとPCを入れてぐぐってみた。ピザーラだけ「メニュー別アレル ギー情報」というのがあって、これによると「もち明太ピザ」だけ豚も牛も 鶏も使っていない。つーことはプレーンピザにしてトッピングをお好みにす ればもっと色々食べられるのかなあ。それからお菓子メーカーのホームペー ジを見たけど明治製菓も森永製菓もアレルギー情報は公開していない。ショー トニングでサイト内検索をしても「食用加工油脂」としか出てこない。その 油脂って動物性のものなのだろうか。 夕方お母さんとおじいちゃんと帰ってきた。おじいちゃんは動脈硬化症で心 臓や太腿の動脈に何十センチにも渡って金属のスプリングが挿入してある。 どうやってスプリングを血管の中に入れたのだろう。とにかく鎌倉の方の 「神の手」とかいう医者にかかっていて月に一回お母さんが連れて行くのだ。 という訳で今夜はシミットで買ってきた惣菜が夕ご飯だった。ご飯もレトル トのを電子レンジで暖める。 お母さんがキャベツを刻みだした。それから鍋で湯を沸かす。 「味噌汁の具ってなーに」と私が言った。 「お豆腐とわかめ」 「ふーん」と私。「出汁ってどこにあるの?」 「冷蔵庫に入っているでしょ。ドアの内側」 私は冷蔵庫をあさる。和風だしの素。一応成分を調べる。 「なに見てんの?」 「別に」 「揚げ物とかお皿に盛り付けてちょうだいよ」と言われて、皿に一口カツと ポテトサラダをもりつける。 私の分は勿論コロッケ。コロッケ。コロッケの油ってショートニングだって ヨシコが言っていたよなあ。これって動物性の加工油脂であげているんだろ うか。眉間に皺を寄せてコロッケを凝視する。「ちょっと部屋に行ってくる」 と言うと私は部屋に飛んで行った。 PCでシミット氷川台をぐぐると電話番号を調べて携帯で電話した。「はい、 シミット氷川台店です」 「あのすみません。揚げ物のことでおうかがいしたい事があるんですけど」 「はい。惣菜コーナーに変わります、少々お待ち下さい」しばらく保留音。 「はい、惣菜コーナーです」とおばさん風の声。 「あの、揚げ物の油について知りたいんですけど」 「はあ、どういったことでしょうかねえ」 「あのー、コロッケとか揚げる時はショートニングは使っているんでしょう か」 「ショートニング?」 「あの、牛の脂で出来た油で。そのー、家の人がアレルギーなんで知りたい んです」 「ちょっと待って下さいね」。しばらく保留音。「もしもし」 「はい」 「キャノーラっていう油だそうですけど」 携帯を切ってから「キャノーラ」でぐぐってみた。キャノーラは植物性の油 だった。という訳でその晩はちゃんとご飯が食べられた。 そんな日々がしばらく続いた。時々家族からの文句を言われた。 「たまにはロールキャベツみたいなこってりしたものが食べたい」とお母さ んが言った。 「食べればいいじゃない」 「だってあんた用にロールキャベツ無しのロールキャベツも作らないとなら ないじゃない。お鍋二つで」 「から揚げとかステーキとか食べればいいじゃない。混ざるものじゃなくて」 「ビーフシチューとかそういうのを食べたいのよ」 「じゃあ作ればいいじゃない。そういう日はご飯だけでいいよ。塩かけて食 べるから」 「あんたのせいで干からびちゃうよ。おじいちゃんだって骨粗しょう症の気 があるんだから」 「魚の方がいいんだよ」とは言ったものの、自分でもタンパク質が足りてい ないんじゃないかと思えたので、マツキヨでプロティンを購入してきた。 カールルイスもアインシュタインもこんな生活していたんだろうか。時々自 分って頭がおかしくなったのかなあと思うこともある。練馬の駅前にお酒の ディスカウントショップがあって、軽自動車の焼き鳥屋が焼き鳥を焼いてい るのだけれども、そのにおいをかぐと、人間が焼けるとああいうにおいがす るのかなあとか思えてきて、私ってメンヘラ、とか思う。 それから二週間ぐらいたった或る日、ハツネとヨシコと昼ごはんを食べてい る時だった。私はツナサンドを食べていた。右前の方でマサルとその悪友が 下ネタで盛り上がっていた。 「スマトラの地震で白人が大量に溺死したじゃん」とマサル。「ああいうのっ て地元の原住民とかやっちゃうんだろうな」 「やるわけねーだろ」 「やるよ。死んだばっかだぜ。まだ新鮮なんだから」 「なに言ってんだよおめーは」 「どうせ腐っちゃうんだぜ。ああいうのって波にさらわれて沖の方に行って カツオとかマグロが食うんだってな」 「食うわけねーだろう」 「食うよ。魚なんて人間の皮膚を食うんだから。韓国じゃあ足の角質を食わ せてんだから。ドクターフィッシュとかで検索してみな」 「じゃあ普段は何食ってんの? 人間を食えない時には」 「共食いだよ」 「バカ言ってんじゃねえよ」 「本当だよ。俺の従兄弟が活魚の運搬のバイトをやっていて、イカとか食う ものが無くなるとみんな共食いするって言っていたよ」 「おめー、やっぱ感覚が違うよな」 私はそっとツナサンドを三角の袋に戻す。 「もう食べないの」とハツネが言った。 「まだぜんぜん食べてないじゃん」とヨシコが言った。 ヨシコもハツネもから揚げとかカツサンドとか食べている。いいよなあ、な んでも食べられる人は。 とにかく、その時以来、魚類とイカはダメになった。イカがダメになったの は「共食い」というキーワードが「人間も動物も哺乳類だから共食い」とい うのにリンクしたから。ついでに何故かエビはザリガニに似ているというん で、貝はカタツムリに似ているというんでダメになり、結局魚介類が全滅し た。そうなるとカマボコ、はんぺん、ナルトなどの練り物が全部ダメ。成分 的はほとんど全ての食品にカツオエキスのような添加物が入っているし、スー パーの海苔巻きのかんぴょうにもカツオエキスが入っているし、いなり寿司 のお揚げにもカツオエキスが入っているし、煎餅にもカツオエキスが塗って ある。ポテチはカルビーはダメでコイケヤだったらカツオエキスが入ってい なかった。 家に帰るとお母さんに言った。「魚もダメになったよ」 「えっ。何で」 「だって。本当のベジタリアンは魚は食べないんだよ。ポール・マッカート ニーもリンダに言われて釣りもやめたんだから。ラクト・オボ・ベジタリア ンっていうんだから」これは帰りに携帯でぐぐって調べてきた。 「あんた何で栄養とるの」 「卵とか牛乳とかチーズとか。プロティンもあるし」 「じゃあ出汁はどうすればいいのよ」 「出汁は昆布からとればいいんだよ。京都とか本場の料亭ではみんなそうだっ て」 お母さんは何も言わないで私を見ていた。なんとなくいたたまれなくなって 部屋にこもった。 それから一週間ぐらいした或る日、教室でふとアベ君を見ると何かの新書を 読んでいるので、何を読んでんだろうと思って目を凝らしたら「スルメを見 てイカがわかるか! 養老孟司」という本で、それを見た瞬間に、スルメ、 かんぴょう、しいたけ、こんぶ、切干大根、などの乾物がダメになった。イ カは元々ダメだったのでスルメはダメだったのだが、スルメが人体の不思議 展の標本の皮膚を連想させて、乾物が全部ダメになった。さすがに焦ってき て、首筋から背中にかけてぞくぞくしてきた。このまま食べられるものがな くなってしまうんじゃなかろうか。 お母さんになんて言ったいいのか分からなかったが、ただ「昆布嫌いになっ た」とだけ言ったら出汁はお揚げから取ってくれた。 それから一週間ぐらいした或る日、家でテレビを見ていたら、菊池桃子が冷 蔵庫のCMで「野菜は生きているのよ〜」と叫んでいて、えっ、野菜って生 きているの? 生きたまま食べるなんて出来ない。どれぐらいの大きさにま で刻めば死ぬんだろうか。関西の方で「ど根性大根」というのが話題になっ ていた。舗道のアスファルトの隙間からど根性で生えてきた大根。あれはす ごく小さな欠片から生き返ったんじゃないのか。大根おろしは死んでいるの だろうか。でも結局、生野菜も果物もジュースもダメになってしまった。 それから一週間ぐらいした或る日曜日の夕方、私しか居ない時に誰かが玄関 のチャイムを鳴らした。魚眼レンズから覗くと真面目そうな若い男が見えた。 「どなたですかぁ」 「聖書の言葉についてお伝えしている者なんですけど」 「そういうの、いいです」 「ほんの少しでいいんですけど」 「興味ありませんから」と言ってからはっとして玄関を開けた。「エホバで すか」 「それとはちょっと違うんですけど」 「なーんだ」 「どうしてです?」と男が言った。 「エホバって輸血しちゃいけないとか血を食べちゃいけないとかいうからな んでかなーと思って」 「私たちもそういう教えなんですよ」 「そうなんですか」 「ほら。ここに書いてあるでしょ」と言うと男は聖書を開いて見せた。「偶 像に汚されたものと、淫行と、絞め殺したものと、血とを避けなさい」 「ふーん。私、血と肉を一緒に食べたらいけない、とか、牛乳と肉と一緒に 食べたらいけないとか聞いた記憶があるんですけど」 「それはユダヤ教ですよ。ユダヤの教えでヤギを乳で煮てはいけない、とい うのがあるんです。だからクリームシチューもダメ。ステーキにバターをの せるのもダメ」 「親子丼はどうなんですかねえ。子持ちシシャモとか」 「それは分からないけれども、チーズバーガーはダメらしいですよ。パンも ベーグルらしいです」 「お兄さん達はチーズバーガー食べるんですか?」 「勿論」 「輸血はなんでダメなの?」 「目的にかなっていないからですよ」 「口の中切って血が出たらどうするんですか?」 「血がダメなわけじゃなくて目的にかなっていないのがダメなんですよ。例 えば牛乳だって元々は血から出来ていますよねえ。でも目的にかなっている から摂ってもいいんです。卵だって無精卵ならいいんですよ。有精卵だと雛 になりますからね。フィリピンの方に雛になりかけの卵をゆで卵にする料理 がありますけれども、ああいうのはダメですね」 という訳で、乳製品は血から出来ているからダメ、プロティンもパンも乳製 品を含むのでダメ、卵は雛を連想するからダメになった。 この段階になると食べられるものの方が少ない感じ。現状で食べられるもの は、 あんこ チョコ ナンとかベーグル そば うどん しょうゆ 塩 煮た野菜 豆類。豆腐。湯葉。ゴマ豆腐 大豆のプロティン 考えてみると財布の皮ってきもい。カバンもきもい。ベルトもきもい。でも 皮ってちょっとした所に色々使われているんだよな。たとえば、と部屋を見 回す。手帳の表紙とか。口紅のケースとか。全部ビニールとかプラスチック にすればいいのに。プラスチックって石油から出来ているんだよなあ。石油っ て何から出来るんだろう。石炭って植物の化石だよなあ。石油って動物の死 体が腐って海底にたまったものなんじゃないの。ぐぐって調べる。石油の原 料は海底にたまったプランクトンの死骸のケロジェン。プランクトンってジュ ラ紀の蚊みたいな感じがする。「ジュラシック・パーク」の琥珀に閉じ込め られた蚊みたいに血を持っているんじゃないのか。そういうのが腐ってどろ どろになったのが石油になると思うときもいな。自動車の排気ガスも死体の 焼けるにおいなんじゃないのか。デンマークやスウェーデンでは牛の内臓か らバイオガスを作って車の燃料にするとニュースでやっていたけれども、そ んな事したら街中焼肉のにおいになってたまったもんじゃないと思っていた けれどもガソリンの排気ガスも似たようなものかもしれない。学校に行く時 に地下鉄の地下道を歩くとアスファルトのようなペンキのようなにおいが踏 み潰したガムのにおいと一緒に立ちのぼってくるけれどもあれも動物の死骸 のにおいかな。ガムもペンキも石油か。それはあんまり気にならないけど。 或る日の事だった。キッチンの流しを見たら大量のふやけた黒豆が捨ててあっ た。 「お母さん、なにこれ」 「それ、おじいちゃんが飲むのよ。水につけておいて。高血圧にいいんだっ て」 「もったいないじゃない」私はふやけて死んでしまった黒豆を見た。「これ 一粒あれば根を張って大きく育つのに」私は居間であぐらをかいているおじ いちゃんの背中を睨んだ。じじいー。命にしがみつきやがって。あいつが死 にゃあいいんだ。「私食べる」と私は言った。「一粒残らず私が食べる。そ れ食べ終わるまで他のもの食べないから」
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