●連載 #0743の修正
★タイトルと名前
親文書
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
東京フォーラムはコンクリートで出来た巨大建造物で、行列している人々はコ ミックマーケットのオタクの様でもあり、任天堂DS発売初日にヨドバシカメ ラに並んでいるオタクの様でもある。おばさんもいるしその子供がソフトクリ ームをなめながらぐるぐる走り回っている。医学生や看護学生という感じじゃ ないなあ。しかし「立ち止まらないで下さい、前に進んで下さい」という場内 係員の声に促されてジリジリと進んで行くと辺りはだんだん薄暗くなってくる しライトアップされた入口が見えてくるとなんだかドキドキしてきた。 「ドキドキしてる?」とアベ君が言った。「ああいうの見るんだよ」と言うと 入口付近に貼ってあるポスターを指した。 一見ギリシャの彫刻の頭部みたいなのだけれども、頬とか耳の下あたりから血 管だか神経だかが剥き出しになっていてグロさを予感させる。普段私はインター ネットでもグロ画像は踏まない様にしているのだった。と思っている間も行列 はどんどん前に進む。 「止めるんなら今の内だよ」とアベ君が言った。 「平気だよ。あんな子供だって平気なんでしょ」 そのまま後ろの人々に押されるままにじわじわと入り口に向かって行く。入り 口付近は薄暗かった。中に入るといきなりライトに照らされた5、6体の標本 が目に入ってきた。デパートのマネキンみたいに台に乗せられている。赤っぽ く光っている。それは皮膚を剥がれて脂肪も取り除かれていて筋肉がむき出し になっているからだ。なんだよこれ、と思った。冗談でしょう。押されるまま に歩いていく。このまま押されて出て行ってしまいたい。が、行列は一体の標 本の前で立ち止まってしまった。 「ほーら、見てみな」とアベ君。「結構凄いよ」 恐る恐る見ると、右側は筋肉むき出し、左側は骨むき出しで、骨の隙間から肺 とか胃とかの内臓が見える。股間には棒とか玉もぶら下がっている。うううう う。これ全部本物なんでしょう。顔も右側だけ筋肉が残してあって眼球が妙に 光っていて、ぼんやりと宙を見詰めている。なんとなくエスパー伊東のような 小島よしおのような顔をしていて、なんか表情を感じると、この人生きていた んだと思えて、急に胸焼けがしてきて、口の中が酸っぱくなってきて、口の中 が乾燥してきて、昼に食べたやきそばパンとめろんパンはまだ胃の中に残って いるのだろうかと思った。 「どんどん前に進んで下さい」という係員の声に促されて行列は更に進む。 もう今更引き返せないよお。不安に襲われながら押されるがままに歩いて行く と、次の部屋の入口に、いらっしゃいませ、みたいなポーズの標本があって中 に入ると又4、5体の標本が立っている。立ち止まりたくないと思っていたが、 やはり一体の標本の前でみんなが止まって観察をはじめてしまった。恐る恐る 顔を上げる。なんだよ、これは。頭のてっぺんから全身が真っ二つに割れてい て、中に肺と心臓がついた背骨があってマーズアタックの宇宙人みたいな顔が ついている。なんなのよこれ。手に持ってんのなに。右手に肝臓、左手に胃だ の腸だのを持っている。 「どんどん前に進んで下さい」と言われて行列は更に前進して次の部屋に入っ て行く。そこには4体の標本が丸でフォークダンスでもするみたいに前の標本 の肩に手をおいて並んで立っていた。それをなるべく見ない様にスルーして進 んで行くと隣の触れる標本のコーナーでみんなが立ち止まってしまった。そし てみんなで触っている。 「鶏肉みたいだね」 「ビーフジャーキーのようでもあるね」 「食えなくなるだろう」 「俺は平気だよ。寄生虫館の食堂でうどんを食ったからね」 「ここら辺、ベーコンのようでもあるね」と聞いて夕べアスパラの上にかかっ ていたベーコンを思い出した。 「おい福永」アベ君が声をかけてきた。「大丈夫? なんか顔色悪いよ」 「気持ち悪い。外に出たい」と私。 ほとんど抱きかかえられる様に外に連れ出してもらう。 「大丈夫かよ」アベ君が顔を覗き込んで来る。「どっかで休む?」 「あそこで飲むもの買ってきて。お茶がいい」とampmを指した。 アベ君が買ってきてくれたペットのお茶を口に含んだら少し落ち着いた。 「どうする?」とアベ君。 「帰る」と私は言った。 「平気かよ」 「平気だよ」私は歩き出した。 「進路の事はよく考えた方がいいよ」とアベ君が私の背中に言った。
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