●連載 #0587の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
■報復■ 「ふーっ、ふーっ、ふーっ」 火は落とされた。 客もスタッフも、メンバーも既に帰ってしまった。 一人きりのライブハウス。神崎雛子は、スチール製の椅子に激しい息遣いで 腰掛けている。 いつものことではあったが、ライブを終えた直後、雛子は異様な興奮の中に 居た。 「戻ったの?」 そんな雛子の視線が、狭い戸口へ向けられた。小さなドアから、その周囲を 縁取るようにして外からの光が射す。 「ああ」 雛子に応えるのは男。かりゆしのシャツにサングラスを掛けた男、グラウド であった。 激しい息遣いの中、全身を預けるように腰掛ける雛子に、グラウドの眉がわ ずかに歪む。異様な興奮に陥った雛子がどのような行動に出るのか、よく熟知 していたからである。 「………行くわよ、スコーピオン」 「行くって、何処へだよ」 「いいから来なさい」 気乗りはしないが、ブックスであるグラウドにはリーダーである雛子へ逆ら うことが許されない。不平を隠さず顔にするグラウドだったが、雛子に従い、 その後に着いて行く。 「もう、あのハゲ部長!」 悪態を吐きながらも足は止めない。氏谷由香里は急いでいた。 今夜は婚約者と食事に出る約束があった。彼が由香里の部屋に迎えに来る予 定になっている。 しかし予定の時間は既に過ぎている。勤務時間終了と共に、急いで帰宅しよ うとしていた由香里に、彼女の直接の上司である部長より声が掛けられた。実 につまらない話である。 彼女の仕事の、ミスとも呼べないような些細なミス。それについての説教だ った。 くだらない話、同じ話を繰り返し、何度も延々とする。地位の高い者には諂 い、部下には尊大な態度を見せる嫌な部長だった。ふんだんに嫌味を含んだ説 教は、一時間半に及ぶ。そしてようやく終わったかと思えば、今度は仕事のや り直しを命じられる。ミスした箇所の修正だけではない。初めからのやり直し だった。 「いまに見てなさい、あのハゲ。セクハラ騒ぎを起こして、会社を追い出して やるから」 口にした言葉は本気であった。そうでもしなければ、腹の虫が治まらない。 「ええいっ、近道、しよう」 公園の入り口を潜る。この公園を通れば、彼女の部屋までの道のりを大幅に ショートカット出来た。公園を避けた場合に比べ、五分は違って来る。 「あつっ」 口から漏れたのは、小さな悲鳴。公園に入った途端、身体に軽い痛みを感じ たのだった。 「静電気? まさか、いま、夏だよね?」 一瞬足を止めた由香里だったが、それ以上の追及はしない。婚約者を待たせ ていることで、気が急いていた。再び歩を進める。 「なんか、夜の公園って、ヤダなあ」 足を緩めることなく、呟く。 公園内にも外灯はあるのだが、その間隔が長い。更に公園は緑が豊かなため、 葉の茂った枝に遮られ、個々の外灯の明かりは遠くへ届かない。故に夜の公園 には、小さな闇が無数に点在していた。 「何で誰も居ないんだろう………気味悪い」 歩きながら、周囲に目を配るが自分以外、人の姿は見られなかった。 冬場ならいざ知らず、暖かい夏の夜。遅い時間の散歩をする者、トレーニン グに勤しむ者、愛を語らい合う者たちの姿があってもよさそうだ。しかし彼女 以外、猫の子一匹、見ることが出来ない。 「うおおおっ!」 突然の大声、と同時に木陰より黒いものが現れ、彼女の前に立ちはだかった。 「ひっ! ぎゃあああああっ!!」 変質者か、通り魔か。 瞬間、考えることも出来ない。姿を確認するのも恐ろしい。 一目散に駆け出し、その場を離れることこそが、最も正しい選択であっただ ろう。しかし恐怖が全てに勝り、彼女の身体を支配する。 由香里は両手で顔を多い、力の抜けた足は彼女をその場に座り込ませた。 「い、いや………」 掠れた喉で、それだけのことを絞り出す。 相手がどのような悪意を持っているのであれ、彼女がこうなってしまえば、 その目的は容易く果たされるであろう。 全身から力の抜けてしまった彼女には、ただそれを待つしかなかった。 しかしそのときは、中々訪れない。 相手は彼女を驚かせたことに満足し、立ち去ったのだろうか。だが恐怖に支 配された彼女は、顔を覆った両手を退けて、確認することを躊躇う。 「ふーっ、ふーっ、ふっ………」 聞こえて来た息遣い。 相手はまだ、彼女の前に居た。時間を置かれたことにより、恐怖は更に増大 する。 「ふっ、ふっ、ふふっ、はっ」 息遣いは奇妙な声へと変わる。 無抵抗な獲物を目の前に、笑っているのだろうか。 「はっ、は………はははっ、あはははっ」 相手は完全に笑い始めた。大笑である。 しかしその笑い声に、彼女はどこか覚えがあるような気がした。 「はははっ、はっ、あはははっ………由香里、まだ分からないのかよ。俺だよ、 俺」 「えっ………?」 妙に親しげな物言いに、彼女はようやく手を退け、恐る恐ると相手を見上げ る。 「ばっ………篤、ばかっ………」 覚えがあるはずだった。そこに居たのは変質者や通り魔の類ではなく、彼女 の婚約者――篠田篤であった。 「なんでアンタが居るのよ!」 心底恐怖した由香里の言葉は、安堵した後激しいものとなる。 「お前があんまり遅いんでさぁ、迎えに来てやったんだよ………多分、この公 園を通るだろうと、フンでさ。しかし、それにしたって、いまの驚きようと言 ったら………ははっ、ふはははっ」 由香里の見せた狼狽が、余程可笑しかったのか。篤は腹を抱えて笑い出す。 「笑うな、クソ野郎!」 乱暴な言葉を吐き、男の足に二度三度と蹴りを入れる。 「ちょ、痛いって、はははっ、悪ぃ、痛っ、悪かったって」 都合、十発弱の蹴りを入れただろうか。ようやく女は落ち着きを取り戻した ようだ。 「本当に、ガキなんだから」 「まあ、そんなに怒るなって。さっ、飯行こう、飯。外に車、停めてあんだよ」 「ふん、今日は思いっきり食べてやるんだから。覚悟しなさいよ」 その言葉に、まだ怒りの色を浮かばせながらも、由香里は男の腕に抱き付く ようにして歩き始める。 と、そのときであった。 「ふうん、仲がいいんだね、お二人さん」 突然の声に、二人は同時に振り返った。 そして声の主を認め、由香里の眉はわずかに歪む。 「お前は………神崎雛子?」 「へぇ、あなたら、やっぱり付き合ってたんだ」 「あら、お久しぶりね、神崎さん。それにしても、ナンなのかしら? その恰 好は」 澄ました、と言うより女の言葉は、どこか冷ややかであった。 「ああ、これ?」 雛子は自分の着ている黒のレザージャケットを、指で摘んで見せる。 「いまアタシ、ロックバンドをやってるの。ヴォーカルよ。ジャッカルって言 うのが、ステージネーム。恰好いいでしょう?」 「ジャッカルぅ? 何、それ。だっさあい」 女は露骨な声を上げ、笑う。 「よくあるんだよな。学校を卒業した途端、それまでのことを忘れたいのか、 出来もしないことを、始めるヤツがさ」 女に倣って、男も笑いながら言った。 「ところでさ、何の用なのよ、神崎さん。昔みたいに、遊んでやりたいのはや まやまだけど、生憎、いまアナタの相手をしてあげられるほど、暇じゃないん だよねぇ」 女の目は、明らかに雛子を見下したものであった。 女、そして男から見れば雛子は決して自分たちと、対等な立場には居ない。 遥か格下の存在として、認識していたのだ。 三人は高校時代の同級生だった。そして雛子は、その高校時代を虐められっ 子として過ごしていた。女はその虐めグループの、リーダー的な存在だったの である。 「昔みたいに、か。ホント、二人にはいろいろ、世話になったわよね。朝、学 校に来て、私は下駄箱を開ける………でもそこに、上履きがちゃんと入ってい ることなんてなかった。大抵、どこかのクラスの渡り板の下敷きになって、潰 れていたっけ」 「あら、酷いことする人が居るのね」 あから様に芝居と分かる、女の物言い。 「机にはいつも、落書きがしてあった。『臭い』『死ね』『もう学校に来るな』 ってね。泣きながらそれを消す私を、氏谷さん、楽しそうに見ていたわよね」 辛いはずの過去を、雛子はまるで懐かしむかのように語る。 「あらやだ、軽いジョークよ。友だち同士のコミュニケーションってヤツ? まさか神崎さん、本気にしてたんじゃ?」 「ジョーク………フフッ、そう軽いジョークね」 天を仰ぎながら、雛子は笑う。 「言いたいことは、終わったかしら? 私たち、急いでいるんだけど」 先を急ぐ女にして見れば、雛子の話に興味などない。虐めた側にして見れば、 特に感慨も湧かない、過去の些細な出来事だったのだろう。 しかし虐められた側の雛子には、まだ過去になりきれていない。いまもなお 悔しさに眠れぬ夜を過ごす、進行形の出来事であった。 「いいじゃない、氏谷さん。少しくらい付き合ってよ」 「はあっ」 如何にもうんざりだと言わんばかりに、女はため息をつく。 「偉くなったものね、神崎さん。私にタメ口なんて………少し、甘やかし過ぎ ちゃったのかな?」 雛子に対し、ついに苛立ちを現した女は、その口調がまるで恫喝するかのよ うなものへと変わっていた。 「まあ、落ち着けよ由香里」 それまで、ニタニタと笑いを浮かべながら二人の遣り取りを聞いていた男が 口を挟む。 「それにしても、見違えちゃったよ、雛子ちゃん」 女とは対照的に、男は穏やかな口調を以って、雛子へと語りかける。しかし それは。必ずしも好意的な態度ではなかった。何処か相手をからかうようなも のであった。そして男の視線は、雛子の頭から爪先までと、まるで嘗め回すか のように移動する。 「もういいよ、篤。こんなヤツ構っていたら、店、閉まっちゃう」 「まあ待てって。へえ、ロックバンドねぇ………あの地味なパンツの雛子ちゃ んがね」 「ぷっ」 苛立っていた女だったが、男の一言に思わず吹き出してしまった。対して、 雛子の顔は紅く染まる。 高校二年の夏であった。 体育での水泳が終わり、着替えをしようとした雛子の下着がなくなっていた。 懸命に探したが見つからない。当時虐めの対象に在った雛子を助ける者などな く、仕方なく体操服の下を着けて教室へ戻った。 そこで雛子は、男子の間で自分の下着が回されるのを目撃することになる。 「うわ、なんだこれ?」 「地味なパンツぅ」 「ウンコ付いてないか? ウンコ」 「おいおい、誰のだよ」 口々に囃し立てる男子たち。 そこに一言、掛けられる声。 「よしなさいよ、男子。あっ、そう言えば、神崎さんがパンティをなくして騒 いでいたっけ。返してあげなさいよ」 半笑いを浮かべた由香里であった。 「なあ、その後、あのパンツどうなったか知ってるか?」 男が妙なことを訊いて来る。 あのとき、騒ぎに居たたまれなくなった雛子は教室を飛び出し、帰ってしま った。下着がその手元に戻らぬまま。 「俺、貰っちゃったんだよね。暫く、オカズに使わせてもらってさ」 「げっ、篤、サイテー」 女は顔を顰めた。 雛子は俯き、何も言わない。 「良かったね、神崎さん。パンティの行方が知れて。じゃ、私たちは用事があ るから、これで」 「本当、良かった………」 呟く雛子を無視し、背を向けて二人は立ち去ろうとする。 二人とも気づいてはいない。雛子が頬を染めたのは、恥辱ばかりのせいでは ない。怒りによるものだと。 「これで、心置きなく二人とも片付けられる」 「ああん、何ですって?」 一旦は雛子に背を向けた女だったが、その言葉に激しい視線と共に振り返る。 「誰が誰を片付けるだって? 人が大人しくしていりゃあ、図に乗りやがって! また昔みたいに可愛がってやろうか? ええっ、蛆虫女が」 「止せって。もうこんなヤツ構っている時間はねぇだろう」 「フフッ、そう、あなたたちにはもう、時間なんてないの………スコーピオン、 出ておいで」 ふうっ、とため息と呼ぶには大き過ぎる音を立て、太い木の影から奇妙な出 で立ちの男が現れた。 短髪に鋭い目、その容姿は二枚目と言っていい。しかし初めて彼と対面する 二人は、暫し唖然とした表情を浮かべた後、吹き出してしまう。 「あははっ、何、その恰好。ナンかのコスプレ?」 「おいおい雛子ちゃんよぉ。ロックバンドって、アニメソングを演奏するグル ープかい?」 彼らが滑稽に感じるのも無理はない。甲冑を身に着け街中を歩く者など、通 常居はしない。それこそ何かのイベントで、アニメやゲームキャラクタのコス チュームプレイをする者でもない限り。 「スコーピオンではない。グラウドだ」 さもつまらなそうに、グラウドは言う。彼にして見れば、この場にこうして 立っていること自体、まるで気乗りしていないのだ。 「で、何? それが神崎さんのカレシ? ハン、お似合いだこと」 嘲るような語調の女。それに対し、雛子は軽い笑みを浮かべる。 「なあ、本当にやるのかい?」 不平も顕に、グラウドは問う。 「何よいまさら。アンタ、あの坊やのときだって、楽しそうだったじゃない」 「そりゃま、そうだが………しかしこいつらは、あの兄さんより貧弱そうだぜ。 まして女が相手となると………」 「黙りなさい、グラウド」 珍しく雛子が正しい名で、グラウドを呼ぶ。更に珍しいことに、常に感情を 剥き出しに話す雛子が、穏やかな声で。 「これは命令よ」 ブックスであるグラウドにとり、リーダーである雛子の命令は絶対である。 例えどれだけ納得の行かない命令であっても、逆らうことが出来ない。それが 彼に掛けられた封印の一つなのだ。 「了解」 短い応えの後、徒手空拳の身で構えを執った。 「おい、コスプレ野郎。そいつは、ナンの真似なんだい? なんのアニメの決 めポーズだよ?」 その構えが、己に危険を及ぼすものだと想像出来ず、男はからかって言う。 「フン!」 徒手空拳のまま、グラウドは何かを突き出す真似をする。続いて、ぱん、と 弾けるような音がした。 「ああん、ナンだ?」 音の正体が掴めず、男は首を捻る。逸早くそれに気づいたのは女のほうだっ た。 「あ、あつ………し、て………」 「どうしたんだよ、由香里」 女の唇は震え、発する言葉も切れ切れとなっていた。同じく震える指が指し 示す先を、男の視線が追う。 「な、なんだ………あれは?」 男の斜め後方、太い木の幹に何やらペンキをぶちまけたような跡が見られた。 赤黒いそれは、一旦幹の中央に当たり、その後重力に従って下へと落ちた痕跡 を残す。痕跡を追い、木の根元に見つけたものは細長い物体。強い勢いで幹に 当てられたらしい。地べたに落ちた物体は、潰れ、曲がっていた。 目を凝らし、男は細長いものが何であるのか確かめようとする。 一足先に、女はその正体に気づいたらしい。何故か力なく、両膝を地に落と す。 「あっ、えっ………ああっ!」 ようやく男もそれが何であるかを確認した。そして慌てて自分の右手へと、 視線を送る。が、そこにはあるはずのものがない。肩口のわずか先より腕は失 われ、赤い血が滴っていた。 「な、な、なに、何をしやがった」 男は蒼白な顔でグラウドを見遣る。徒手空拳だったはずの手に、細長い奇妙 な得物が握られていた。 「俺は、一撃で仕留めるつもりだった」 グラウドは男を見ていない。横目で厳しい視線を雛子へと送っていた。 「だってそれじゃ、つまらないでしょ」 冷ややかな笑みを浮かべる雛子。グラウドの狙いが逸れたのは、雛子の意図 によるもの。しかし当然、男や女がそれを知るはずもない。 「やっ………ほ、本気なの? かん、ざき………」 それだけを言うのに、女は大業そうだった。見れば座り込んだ足元に、水溜 りが出来ている。失禁をしたのだろう。 「いいよ、次、決めちゃって。男のほうは、そんなに時間かけなくても」 「そのつもりだ。相手を嬲る趣味はない」 そんな遣り取りの後、徒手空拳でなくなったグラウドは、武器を大きく横か ら振るう。 「待て、止め、止めて!」 懇願の暇も充分になかった。振るわれた武器の太い部分が、男の失われた腕 の側から横腹を捉える。ごりっ、と何かが、恐らくは骨の砕ける音がする。同 時に男の身体が上下に分かたれた。 斬られたのではない。 鋭い刃を持たない武器で、上下二つのパーツへ砕かれたのだ。 ぐちゃ、と鈍い音を立て、男の上半身は女の目の前に落ちる。赤い飛沫が女 の全身に降り注ぐ。 「ああっ………やっ、やあっ、ひゃだ…………ああっ!」 狂ったように女が叫ぶ。 「腰、抜けちゃったみたいだね」 雛子は女の前に立ち、冷ややかな笑みを浮かべ見下す。 「ごめん………ごめん、なさい………ゆ、ゆる、ゆるして………」 雛子の脚を掴んだ女が、懇願をする。 「許すも何もねぇ…………」 こめかみに人差し指を充て、雛子は暫し考え込むような仕草を見せた。そし て。 「ぎゃん」 短い悲鳴は女の発したもの。雛子が脚に縋る女を蹴ったのだった。 「グラウド………」 雛子に名を呼ばれ、グラウドは不機嫌そうな表情のまま、女へと歩み寄って 行く。 「や………やあ………やっ………」 仰向けに倒れていた女は、己に死をもたらすべく歩み寄る戦士から、何とか 逃れようと試みる。しかし抜けた腰では立ち上がることも適わず、這い蹲るの にも仰向け状態では儘ならない。わずか数センチを後退するのが、やっとであ った。 「許せ女。せめて一撃で」 「あ………あああっ」 グラウドは構えた武器を後ろに引く。次の瞬間、渾身の力で突き出すために。 「ダメよ」 武器がいま正に繰り出されようとするのと同時であった。冷淡な声、雛子の 一言が武器の軌道を変えさせる。 「ちっ!」 グラウドの舌打ち。 鈍い炸裂音。 グラウドが狙っていたのは女の顔面であった。しかし雛子の一言によって、 武器は使用者の意思に逆らう。 「……………っ」 引きつる女の顔、大きく開かれた口は絶叫の形を執るが、声にはならない。 炸裂音は、女の肩から響いたものであった。 女の左肩がごっそりと失われていた。辛うじてわずかな筋のみで繋がった腕 はだらりと垂れ、最早その持ち主の意思で動くことはないだろう。 「駄目よグラウド。そんなに急いじゃ」 そんな女の姿を見て、雛子はクスクスと笑う。そして何時になく、穏やかに 言ったのだった。 「やれやれだ………」 深く嘆息するグラウドだったが、彼には雛子の意思に逆らうつもりもない。 不満そうにしながらも、次なる一撃のための構えを執った。 「……………っ」 顔面蒼白となった女は、まるで酸欠の魚のよう、口を開閉するばかりであっ た。あるいは既に、正常な精神を欠いていたのかも知れない。 そんな女に再びの攻撃が成される。当然雛子の望むように、致命的ではない 一撃が。 果たして女の最期はグラウドに与えられるのか、それとも大量の失血によっ て訪れるのか。ただ何れにせよ、いま暫くの時間が掛かりそうであった。 【To be continues.】 ───Next story ■覚悟■───
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