AWC ●連載



#1156/1158 ●連載    *** コメント #1155 ***
★タイトル (sab     )  22/10/14  16:53  ( 70)
ニューハーフ殺人事件20    朝霧三郎
★内容                                         22/10/20 11:48 修正 第2版

副題:脳科学的に肛門性愛と「死への欲動」を考える

「私は東大で認知心理学を学んだが、別の解釈が出来る。
それは脳科学的な解釈だが」
「はぁ」
「聞きたい?」と如何にも言いたそうに聞いてきた。
「はぁ」
「ちょっと最初はとっつきにくいが。
脳には、というか、大脳辺縁系と大脳基底核には海馬と尾状核というところが
あるんだが。
海馬は空間把握をするところで、
尾状核は反復記憶みたいな場所なんだけれども…。
海馬は空間認識だから、海馬がでかいと空間認識に優れるんだ。
だから、ロンドンのタクシードライバーは海馬がでかいんだけれども。
タクシーの運ちゃんに限らず、ネズミでも、
迷路、よくネズミの実験で使う迷路ね、実験心理学とかでも使ったでしょう、
その迷路の真ん中に餌をおいておいてネズミを放すと、
海馬があれば、餌の位置を俯瞰的に一発で当てるんだね。
ところが実験で、ネズミの海馬を損傷させると、尾状核を使う様になる。
そうすると、迷路の角から入っていって、たどり着けないと戻ってきて、
又次の角、というように、トライ&エラーを繰り返す」
「海馬だと俯瞰的に見るけれども尾状核ではトライ&エラーを繰り返す」と明子巡査。
「その通り。
又この実験では、尾状核は反復性障害にも関係あるとされている。
何回も何回もガス栓を確認しないとダメなガス栓恐怖症などだが。
あれは実際には見えていないんじゃなかろうか。
海馬が健全なら一発見て閉まっていると確認できるが、
尾状核だと、迷路の角から餌を見る感じだから、ちらちらしていて
よく見えていないんじゃないのか」
「フロイト博士の反復強迫、嫌な事を反復するというのに似てますね。
拒食症患者がリスカを繰り返すとか」
「フロイトは脳科学の発達していない時代に、
脳科学的な事を言い当てたかも知れないね。
エロスとタナトスは、そのまま海馬的と尾状核的に置き換えられるから。
こういう海馬から尾状核への移行は、ストレスによって
引き起こされると言われているが、
現代の様なストレスの多い社会だと、摂食障害になってリスカを繰り返したり
するのかも知れないね。
昔みたいに、ぽちゃぽちゃした、有機的な世界にいれば、
海馬の世界だから、まったりとしていられたけれども、
現代の様に、カクカクした、幾何学的な、化学系床材で出来たような空間にいたら、
ストレスが溜まって、ヒステリーになるのかも知れないね」
「それは、昔の教室が、だるまストーブに木の床だっのが、
空調がエアコンになって床も化学系床材になったんで、
ストレスがたまる、って感じですか?」
「だるまストーブに木の教室だったら、オナラぐらいしても平気だが、
エアコンに化学系床剤だと、そういうのもNGになるかもね。
身体的にストレスを与えるから、尾状核的になる。
尾状核は1か0かの幾何学的な脳だから、
無機的で秩序を好み、ぽちゃぽちゃした有機なものを、嫌う。
なんつーか、ロハスを嫌う。
有機的なものを嫌う。
フロイト的に言えば、エロスを嫌う。
それとは反対のタナトス的反復を求める。
射精ではなく肛門性愛。
エロスな女を求めている訳じゃないから、
対象は肛門になり、相手の肛門は自分の肛門でもあり。
…なんとなく分かるかね」
「なんとなくは。でも、尾状核だと何で「死への欲動」が発動されるんですか?」
「尾状核は反復性障害に関係するから、フロイトの反復、
つまり死の欲動と…」
「えっ、フロイト博士にかえるんですか」
「さっき話したハッピーメールの看護師Xだが、そいつが、
尾状核の死にたくなる気持ちを誘発させたんじゃないか、
という説も出てきている。
まあ、あの件に関しては、犯人はホームレスで処理されたが、
真犯人は看護師と睨んでいるがね。
池袋の事件も誰か京都の看護師の役どころの人間がいるんじゃないかと
想像している訳だよ」




#1157/1158 ●連載    *** コメント #1156 ***
★タイトル (sab     )  22/10/14  17:00  (109)
ニューハーフ殺人事件21    朝霧三郎
★内容                                         22/10/24 14:04 修正 第5版

副題:シニフィアンに跳ね飛ばされると最後はアナルに走る。
まず、何故シニフィアンに跳ね飛ばされるのか。

警視に会って緊張したから、どっかこ洒落たカフェでリラックスしていこう
という事になって、
丸の内1stのパーキングエリアに警察車両を駐車すると、
三菱UFJ信託銀行本店の1階にある「DEAN & DELUCA カフェ丸の内」に入った。
天井が高いガラス張りの空間。
入り口のカウンターで、ブレンドコーヒーとパンプキンチョコチップケーキを
トレイに乗せて窓際の席へ。
「すごーい、お洒落」と明子巡査はきょろきょろしていた。
「私は本当にこういう、お洒落な空間が苦手で、
一昨日の現場のタリーズみたいなカフェですら苦手なんですよぉ。
大学も中大で田舎ですから、お洒落な都市空間が苦手で、
就職の時にも品川のオフィス街とか、ミクシィのある渋谷スクランブルとかにも
行ったけれども、
それこそ、だるまストーブと木の床ではない空間だから、
もう、自分の身体、特に胃腸が、そういうお洒落な空間を苦手にしていたんですよ」
店のカウンターの方を見ると、若いOL3人が財布だけもって買い物に来ていた。
カフェラテにクッキーを買うと、テイクアウト。
「三菱UFJ信託本店のOLさんですかね」と明子巡査。
「いやー、3時だから銀行員って事はないんじゃない? 
どっか、近所のOLだろう」
タイトなスカートでお尻ぷりぷりで、高いヒールを履いている。
「私、ああいうお姉さんにコンプレックスがあるんですよ」と明子巡査。
「こんな化学系建材の都市空間に居て、
コーヒーとクッキー食べて、うん○もぶりぶり平気でする、という。
自分の身体というエロス的なものと、
化学系建材というタナトス的なものの調和に優れているという感じがして。
だって、すごいと思いません? 
大理石みたいな柄の化学系建材に囲まれた空間で、
コーヒーとクッキーを買って、
おちょぼ口から胃腸に流し込んで、
今度はTOTOのウォシュレットのあるトイレに行って肛門から出すというのは」
と繰り返した。
「ああいうOLが、表参道のブランドショップでブランド品を買うんだ、
と思いますね」
「俺も似た様な経験をした事があるよ」と光男は言った。
「俺は埼玉のJ大学というFラン大学にいたんだが、
Schottのムートンジャケットを着ていたんだな。何故か。
Schottならブランド品だと思って。
それを着て、埼玉のJ大学から電車で、伊勢丹メンズ館まで行って、
クロムハーツのショップで、革ジャンを見ていたら、
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、60万円?
店員が出てきて「手が出ないでしょう」と言ってニヤついていやがって。
チャラ男の店員が。
「そのジャケット、豚革?」と俺のジャケットを指さす。
「豚革でしょう」と俺の顔に向かって豚革、豚、豚と連呼する。
俺には豚革が似合いだとでも? 
ふざけやがって。ショップの店員の癖に。
あのクロムハーツの革ジャンは松本人志とかが着ているのかなぁ。
それ以来伊勢丹メンズ館的なものが苦手になったよ。
それは、明子君の表参道のブランドショップみたいなもの?」
「そういう伊勢丹メンズ館とか、このディーンアンドデルーカとか、
三菱UFJ信託のオフィスとか、そういう都市空間の事を、
シニフィアンって言うんですよ。専門用語では。
それでその中で消費生活に戯れている限りは安定しているんですね、
精神分析的には。
でも、私はダメでしたね。私は胃腸が信じられない、という感じで。
タナトスな空間で自分のエロスな身体を維持するのに自信がなくて。
おちょぼ口でクッキーを食べてコーヒーを飲んで、
肛門から排泄して綺麗にウォシュレットで洗浄するという。
なんでミツさんはダメだったんですか?」
「俺はニキビだな。あの時、ニキビが出来ていた」
「そういうのも、精神分析的には、「母へのおねだり」なんですよ」
「俺は、母親に何もねだっていないよ」
「「母へのおねだり」というのは、おっぱいが出たり出なかったり、
うん○が出たり出なかったり、ニキビがあったりなかったりで。
つまり、身体とか脂肪とか、ぽちゃぽちゃぽちゃしたもの、エロス的なもの
に関わる事なんです。
都市空間に行くとそういうのが気になっちゃって。
そういうのを無くすために拒食症になる。
脂肪を全て無くせば、あったりなかったり、というのはもう起きないから。
母の愛があったりなかったり、というのはもう無いから。
斎藤警視の言葉で言えば、海馬的ではない、という感じで、尾状核的ですかね」
「ところで、品川のオフィス街とか行ったのに、何で警察官になったの」
「それは、都市空間はタナトス的で、エロスな身体が不安定だったから、
だから、桜田門に就職したという…」
「何で桜田門だと堂々としていられるの?」
「それは例えば
大東亜共栄圏の旧日本陸軍みたいなもので、「神の死」がないというか、
ナチスの親衛隊だったら軍服自体がアイデンティティになるから自信満々ですよね」
「よく分からないが」
ずずずずーっとコーヒーをすする明子巡査。
(30代、大宮ハリウッド座に通っている頃、ホリエモンとか酒鬼薔薇とか、
へー、どこの誰?という感じだった。
その頃、素人もやらせるどうかと思って素人にも手を広げて行って、
5、6人と付き合っていた。
そうしたら、なんとこの俺の誕生日をアンナミラーズで祝ってくれた、女が3人で。
俺一人の為に。
その時、面倒くさいな、大宮ハリウッド座でジャンケンに勝ちさえすれば
すぐにただまんにありつけるのにこんな素人と絡んでいるのは、と思った。
その頃は伊勢丹メンズ館もなんとも思わなくて、ポロショップで、
試着が出来ない筈の被り物のシャツなど、何枚も着散らかしても平気だった。
なんたって、桜田門だからなあ。
桜田門の警察手帳を内ポケットに入れていれば、
ナチスの親衛隊の軍服を着ている様なもので、
伊勢丹メンズ館なんて屁とも思わなくなるのかもな。
しかし、今も桜田門だけれどもそんな元気はない。
加齢によって、シニフィアンとやらに弱くなるのかな。
或いは、金さえあれば、銀座の天ぷら屋や寿司屋に行ったりするのかもな、
小津安二郎の映画に出てくるジジイみたいに)
「つまり」と光男は言った。「シニフィアンというのは都市空間みたいなもので、
それはタナトスな空間だから、エロスに自信の無い人には居心地が悪い。
胃腸に不安があるとか肌が荒れているとか。そういう事か?」
「そんな感じですね。それでシニフィアンに跳ね飛ばされて引きこもる」
明子巡査はずーずずずっとコーヒーをすすった。





#1158/1158 ●連載    *** コメント #1157 ***
★タイトル (sab     )  22/10/25  13:56  (109)
ニューハーフ殺人事件22    朝霧三郎
★内容

副題:シニフィアンに跳ね飛ばされると最後はアナルに走る。
何故シニフィアンに跳ね飛ばされたのにシニフィアンを気にするのか。

「だったら、静かにアパートに引きこもっていたいのに、何で気になるの?」
「何が、ですか?」
「さっき、ミクシィ本社の入っている渋谷スクランブルとか言っただろう」
「はい」
「そう聞いただけで、ミクシィだけじゃなくて、
「渋谷で働くアメーバーブログの社長」とか「はてな」とか、
そういうのが、びびびびびーっと連鎖するのだけれども。
それは、西武が気に入らないとか、野田秀樹が気に入らないとかと
同じ感覚で、何でそんな事が起こるんだろう。
シニフィアンに跳ね飛ばされたのなら、
静かにアパートに引きこもらせてくれればいいのに」
「それはそういうものなんですよ。
私は都市空間がダメで、
就職の時に品川のオフィス街で目が回ったんですけど、
それより4年前、受験の時に、代ゼミに行ったんですけど」
「代々木ゼミナール?」
「ええ。
夏休みに抜け駆けして、友達には黙って、代ゼミに行った事があったんです。
そうしたら、すごいストレスで。
山手線なんて乗車率190%とか。
教室もすし詰め状態で。
それで嘔吐恐怖症になったんですね。
吐くんじゃないかという強迫観念に襲われたんです。
それで、近所の心療内科に行って、
それは1週間ぐらいで落ち着いたんですけれども。
1週間ぶりに駅前に行って、当時はまだ駅前に啓文堂とかあったんですけど、
書棚を見たら、新潮文庫の100冊とかがずらーっと並んでいたんですね。
それを見て、自分は新潮文庫の10冊も書かなければならないと漠然と思ったんです。
それと同時に、マザーテレサとか神谷美恵子とかジョン・レノンみたいに、
世界平和の為に活躍しないといけないと思えてきて」
「おいおい、それが、「渋谷で働くアメーバーブログの社長」となんの関係が
あるんだよ」
「だから、ミツさんだって、伊勢丹メンズ館でバカにされて、
埼玉の田舎に引きこもった時に、
西武が気に入らないとか野田秀樹が気に入らないとか出てきたんでしょ?」
「ああ」
「その時に、何かにハマったものありません。
オタク系のものでも、私の新潮文庫の100冊みたいなものでも」
「そういえば、俺、今でもボクシングジムに通っているだろ」
「はい」
「ボクシングに最初にハマったのは、あの頃だなあ。
ボクシングマガジンの別冊のボクシング年鑑にハマって
ボロボロになるまでページをめくったよ。
特にヘビー級のボクサーが好きで、
フレージャー、フォアマン、スピンクス、ホームズとかね」
「へー。正にそういう感じですよ。
シニフィアンに跳ね飛ばされた時にデータベースにハマるんですよ。
それがお経だとカルトにハマる。
ところが、新潮文庫の100冊にしろ、ボクシング年鑑にしろ、
そういうのは、ラインナップとして用意されたデータベースではなくて、
人間の脳が尾状核的だから、連鎖していってしまうものだと思うんですよ」
「おいおい、尾状核なんて斎藤警視の言っていた事じゃないか」
「でも、ああいうネズミの実験とか、心理学科でも結構有名で、
認知心理学も認知科学も似ているから知っているんですよ」
「へー」
「だから、ミツさんが、ミクシィ、とか、
「渋谷で働くアメーバーブログの社長」とか「はてな」とかが連鎖しちゃうのも、
尾状核的な人間だからですよ」
(俺が尾状核的な人間か。
そうかもな。
何しろ夕べアリスに感じちゃったんだから、
池袋や京都のガイシャに近いのかもな)
「渋谷といえば、渋谷系の音楽ってあるじゃないですか。
「フリッパーズ・ギター」とか「ピチカート・ファイブ」とか。
知ってます?」
「知ってるよ。時代だもの」
「あれって、リミックスサンプリングって言われるじゃないですか。
なんかのデータベースからカットアンドペーストしてきているって。
あれって、90年代になると、色々なストレスが増えたから…、
それこそ、だるまストーブや木の床から、化学系建材の建物になった、とか、
だから、尾状核的になって、それで連鎖しているだけじゃないかと思って」
「そんなに難しい事じゃないよ。
俺は61年生まれで90年代に30代だったが、
その頃給料も増えてきたから車も買って、
カーラジオはFMで、
J−WAVEが流れてきて。
タワーレコードが井之頭通りからファイヤー通りに移ってきた頃だけれども。
あの頃に金、土、日と遊んで
夕方に「サウジサウダージ」を聞きながら帰ってきたんだよ。
あの頃を忘れられる訳がない。
それが今や、J−WAVE、六本木ヒルズ、滝クリ、JAL「サウジサウダージ」が
セットになって、陰のシニフィアンになっているんだからなぁ。
シニフィアンに陽と陰があるなら」
「そりゃあ、一見セットになっている様に感じますが、
実は、ミツさんが尾状核的だから連鎖しているだけなんじゃないんですか?」
「じゃあ聞くが。
90年代、大宮ハリウッド座にハマっていた頃、
ホリエモンとか酒鬼薔薇とか、社会を騒がせている存在が、どこの誰ですか? 
って感じだったのは何故? 
何で尾状核的に連鎖しなかったの?」
「そりゃあ、そのストリップ劇場で、まったりとしていれば、
海馬のニューロンの受容体にまったりイオンが流れてきて、
受容体をふさいでしまうから、
もう、尾状核的なイオンは流れないんですよ」
「ふーん」
「私、池袋や京都のガイシャも、ミツさんの言う陰なシニフィアンに
尾状核的にびりびりしていた奴じゃないかと思うんですよね」
突然明子巡査は事件の話をしてきた。
「池袋のガイシャはA/X ARMANIで、京都のガイシャはメンズビギ
ですからねえ。そういう感じがしますね」
(池袋のガイシャは大宮ハリウッド座からリブレ高田馬場に行っている。
俺もガイシャも尾状核的な人間なのだろう。
何しろ、昨日アリスに感じちゃったんだから。
というか、どうして尾状核的な人間だとアナルで感じるんだろう)





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