#1152/1158 ●連載 *** コメント #1151 ***
★タイトル (sab ) 22/10/07 12:43 ( 72)
ニューハーフ殺人事件16 朝霧三郎
★内容
副題:シーメール風俗を極めるとイケメンコンプレックスが解消されるのか
翌朝、刑事課に行くと、
デカ長の石浜勇之介が、デスクに腰掛けて新聞を読んでいた。
身長182センチ股下90センチの長身。
真っ黒に日焼けしていて、肝臓でも悪いんじゃないかと思えるぐらいだ。
髪の毛がイノシシ並にびっしり生えていて、
それを自分でカットするというから、毛足が豚毛歯ブラシみたいになっている。
長めの襟にネクタイだけぶらさげて、3ピースのチョッキだけ着ている。
裏地は赤い刺繍の柄物だった。
マグカップのコーヒーをすすってから、デスクにドンと置く。
腕時計を見ると、ネクタイを締め出す。
こういう男が、男らしい男なのではないか。
どちらかというと、スティーブ・マックイーンの様な動物臭さがある男。
「愛と誠」に中の悪徳政治家の様な濃さ。
こういう男なら、伊勢丹メンズ館でオーダーメイドのワイシャツを作ったり、
帝国ホテルのゴールデンライオンでカクテルを飲んでも似合うのかも知れない。
(そんなところは麻生太郎みたいな上級国民の行くところで、
一般大衆が行ったら断られる)と光男は思った。
次の瞬間、ビッグイッシューを配っているスニーカーをすり減らしたホームレスや
ダイヤゲート池袋最上階の西武堤一族などが連鎖して、
カーっとしてくる、のが何時もの事だった。
ところが、今朝は違った。
夕べのアリスの一件があってから、ちょっと違う。
デカ長が単なる加齢臭のあるおっさんに見えてきたのだ。
例えば、夕べの一件がある前は、俳優の阿部寛とかTOKIOの長瀬の様な男が
イケている男だ、と思えていた。
しかし、今は、濃い顔の男は、アナルがくさそう、と思えるのだ。
むしろ、BTSの様な醤油顔ののっぺりした男の方がいい。
(もしかして、シーメール風俗を極めれば、イケている男へのコンプレックス、
西武的なものへのコンプレックスが無くなるのか)と光男は思った。
「さあ、打ち合わせやっちゃうか」とデカ長が新聞を畳んだ。
コバ、カトー、明子巡査、関根啓子、そして光男がデカ長の机の周りに集まる。
ホワイトボードには捜査に関係した資料が張り付けられていた。
ガイシャの写真、殺害現場の写真、
ガイシャの免許証、クレカ、「愛と誠」の最終巻、
大宮ハリウッド座の割引券の写真、
容疑者のホームレスの写真。
「一昨日のガイシャがサンシャインシティアルパで白昼堂々刺された件だが
このホームレスが犯行を自供した」とデカ長は容疑者の写真を指差した。
「じゃあ、事件は一件落着ですか」とミツさん。
「それがそうは行かないんだ。裏がありそうで」
「裏? 誰かが裏で何かしていたっていうんですか?」
「そう言っている人がいるんだよ」
「誰が」
「管理官だよ」
あと数日で、警視庁捜査一課から、警視が管理官として赴任することになっていた。
「それで事情を聞きたいというので、わるいが、ミツさんと、明子巡査、
二人で、管理官のところに行ってくれないか」
「分かりました」と明子巡査。
「ミツさんが休んでいる間に、
コバとカトーちゃんでガイシャの部屋をガサ入れしたよ」とデカ長。
「何か出てきた?」ミツさんはコバの方を見た。
「「愛と誠」全集。アネロス他アナルグッズ多数。
あと、自分が磔になった写真多数」とコバ。
「自分が磔になった写真?」
「あれは露出狂かなあ」とカトーちゃん。
「今日だが、コバ、カトーちゃんは、ストリップ劇場への聞き込みを頼む」
「了解」
「ミツさんと明子は管理官の方を頼む」
「了解」
「啓子巡査は、証拠品あさりに付き合ってくれ」
「まだ何かあるんですか」と光男が聞いた。
「裸の磔の写真が大量にあって、ちゃんと見れていないから、
ちゃんと見ておきたいんだよ」
(そんな事に俺の啓子巡査を使うのか)と光男は思ったが、
定年間際の窓際警部補には何もいうことはできない。
#1153/1158 ●連載 *** コメント #1152 ***
★タイトル (sab ) 22/10/10 11:41 ( 59)
ニューハーフ殺人事件17 朝霧三郎
★内容
副題:ドン・キホーテが自由な理由
署を出て、大嫌いなダイヤゲート池袋のアンダーパスをくぐって、
一昨日事件のあったサンシャインシティを通り抜けると、すぐに池袋線の下に入った。
音羽、江戸川橋、飯田橋、竹橋、と走って内堀通りに入る。
さっき通った音羽の手前が早稲田なので、光男は昨日の事を思い出していた。
「早稲田とかさあ、ごちゃごちゃした街だと俺のN-BOXでもいいけれども、
内堀通りじゃあ、こういうクラウンじゃないとダメだよな。何でだろう」
「それはですねえ、「神の死」がないからですよ」と明子巡査。
「えええ、なにー、「神の死」って。又心理学的な話?」
明子巡査は何かと言うと心理学的な分析をするのだった。
「まぁ、心理学というよりは消費論ですけれどもね。ボードリヤールとか」
「…」
「例えば私は表参道のブランドショップが苦手で全然ダメなタイプなんです。
手の脂がブランド品についてしまう様な気がして。
でも、同じ商品でも、ドン・キホーテなら気楽に触れるんですね。
同じ様に、世田谷通りの外車のディーラーは苦手でも、
オートバックスなら安心していられるんですね。
それは「神の死」があるからなんです」
「うーん。ポリポリ」と光男は運転しながら頭をかいた。
「表参道のブランドショップは神につながっているから近寄りがたいんですよ。
表参道っていったら神社につながっているでしょう?
でも、ドン・キホーテに持ってきて、神と引き離してしまえば、
それは、「神の死」の状態なんですよ。
それはちょうど欅坂46のナチスファッションと同じで、
ああいうものは、旧日本陸軍の軍服と同じで、
旧日本陸軍が着ていれば神々しい感じですけれども、
敗戦で「神の死」を迎えれば、ただのコスプレになっちゃうんですよ。
専門用語でシミュラークルと言いますけど。
そういう感じで、高田馬場なんて、「神の死」んだ街だから、気楽だから、
N-BOXでも大丈夫なんですよ。
でも内堀通りは「神の死」がないから、つまり神が生きているから、
だから、クラウンじゃないとダメなんですね」
「じゃあ、池袋は? 「神の死」はあるのか?
あそこも、サンシャインシティの方だとN-BOXだと舐められる感じがするぞ」
「それは西武が、なんちゃって神だからですよ」
「なんちゃって神?」
「神でもないのに、神の様な尊大な態度をとっている感じ」
「西武って、国土計画とかプリンスホテルとか名前からして不敬罪っぽいものなあ」
「そうですねえ」
などと話しながら内堀通りを走っていた。
「昼飯、どうする?」と光男が言った。
「又、本部庁舎のレストランですか?」と明子巡査。
「どっか、ここらへんでもいいよ」
車はまだ皇居外苑を走っていた。
「ぐるなびかなんかでどっか探して」
明子巡査はスマホを出すと、検索した。
「うーん、このあたりだと、東京會舘に「ル ブール ノワゼット」
というレストランがあって、ランチは2750〜です」
「高い」
「うーん」
明子巡査がぐずぐずしている内に車は右折して晴海通りに入る。
「日比谷公園に日比谷パレスというのがあってランチは3630〜」
「高すぎだよ」
「ここらへんで安いのは、法曹会館のレストラン マロニエですね。
日替わりランチ、ロールキャベツ900円。
谷崎潤一郎の「細雪」にも出てきたと書いてあります」
「そこでいいよ」
#1154/1158 ●連載 *** コメント #1153 ***
★タイトル (sab ) 22/10/10 11:45 (142)
ニューハーフ殺人事件18 朝霧三郎
★内容 22/10/12 08:07 修正 第6版
副題:ガイシャが薄い理由とペニス羨望の理由
レストラン マロニエの前には、ランチの見本が並べてあった。
ラーメン800円。
チャーハン700円。
ランチメニュー(日替)ロールキャベツ、サラダ、スープ付き900円。
「これでいいや」と光男はランチメニューの食券を買った
店内に入ると会議室にある様な椅子を引いて腰掛けた。
「なんだよ、社食みたいな店だな」と光男。
「村上春樹みたいですね」と明子巡査。
「え、なんで?」
「皇居の周りをうろうろしていると、村上春樹みたいにおのぼりさんに
なった気分になるんですよ」
「おいおい、俺らだって警視庁の警察官なんだからおのぼりさんってことは
ないだろう」
「村上春樹の小説って、
はとバスみたいに都内の名所をぐるぐる回るんですけれども、
西武系とか出てこないんですよね」
「へー」
「和敬塾とか、イグナチオの土手とか、伊勢丹の裏の深夜映画館とか、
アルプスの広場とか、
はとバスみたいに東京の名所が出てくるのですが、渋谷とか出てこない。
「ノルウェイの森」に限ってですが。
あれはミツさんみたいに、コンプレックスがあるんですかね。
西武とか金持ちに。
金持ちなんて糞くらえ、と書いていますが」
「村上龍の小説には出てきそうだな。プリンスホテルとか。
村上龍の方が濃いんじゃないの? 村上春樹に比べて」
すぐにロールキャベツが運ばれてきた。
「それにしても、あのガイシャは薄かったな」
「あのガイシャが薄かったのは…」
ロールキャベツを口に運びながら明子巡査が言う。
「やはり「神の死」が関係しているんですが」
「おい、又精神分析かよ」
「ブランド品に限らず、男女関係でも、
「神の死」がないと付き合えない人がいるんですよ。
ちゃんとした素人の女性で、成人式に振袖を着て行く様な女性とかには
近寄れない。
そういう人がどこに行くかというと、風俗店です。
何故なら、風俗店には「神の死」があるから。
成人式で振袖を着ている女子には神がついているから触れられない。
だから、とりあえず、風俗店に行く。
それも、しかし、長続きしない」
「何で?」
「生活安全課が手入れをして、風俗店は潰れるから。
そうすると、肛門性愛に走るんです」
「え、何で?」
「もともと、振袖の女性に触れられないのも、
ブランド品に触れられないのと同じで、
相手に手脂がついてしまう、
醜い自分の身体の脂がついてしまうという不安からでしたが、
この段階で、
自分の身体を嫌っているんですね。
だって身体からは手脂が滲み出てきますからね。
だから、拒食症患者が皮下脂肪を嫌うみたいに、
どんどん身体を殺していくんです。
滅私です。
これは、フロイト博士流に言うと、死に向かっている感じですね」
「死に向かう?」
「ええ。普通は胎内から母子関係、そして世界と進んでいきますが、
ガイシャの場合は逆で、
世界、母子関係、胎内、そして受精する前の死と逆方向に進んで行くんです。
「死への欲動」です。
生に向かっている時にはエロス、ペニスの愛ですが、
死へ向かっている時はタナトス、肛門性愛なんです。
性の退行というやつですね」
「性の退行…」
「つーか、手脂がつくから素人の女には触れられないのだから、
ペニスを向ける相手はいない訳ですから、肛門性愛に走るしかないんですが」
「増えているのか、肛門性愛というのは」
「統計資料がある訳じゃないですが、生活安全課の人に言わせると
増えているって事ですね。
まず、あのガイシャが使っていたみたいなアナルグッズがやたらと売れていると。
でも、それじゃあおさまらないで、次には、ニューハーフ風俗に走るんです」
「何でゲイじゃないんだ?」
「そもそも同性愛者じゃないですから。
それにゲイだと「薔薇族」みたいに濃い感じですしね。
もっと薄い、BLみたいな感じです。
というか、そもそもは、手脂を嫌っているから、薄くなるんですが、
「はいからさんが通る」の阿部寛の旧日本陸軍の軍服は濃いけれども、
敗戦という「神の死」があって、
欅坂46のナチスのコスプレになると薄くなる、というのに似ていますね。
だから、あのガイシャは薄いし、
多分、ニューハーフを追いかけているんじゃないかと推察しますね」
「うーむ」
「でも、いい事もあるんですよ」
「なに?」
「そもそも、ミツさんが苦手と言っている伊勢丹メンズ館でも、
阿部寛の旧日本陸軍の軍服でも、
神があるから苦手だったんですよね。手脂があるから。
でも、自分も薄くなって、相手もニューハーフとなると、
もう、伊勢丹メンズ館でも、イケメンでも、コンプレックスがなくなるんです」
「何で?」
「そもそも、男性って最初は母親を愛していますよね。乳児の頃は。
だって、母親に捨てられたら餓死だから。
だから、母親を愛するんですが。でも父親にダメって言われて、
外に出て行って別の女を探す。
この様に、胎内から母子関係、世界と出て行くんですが、さっき言ったみたいに。
この世界で探しているのが、振袖を着た素人の女です。母親の代替品として。
でも、その女にもダメだ、手脂がつくから、となって、
ニューハーフに走るというのは、
タナトス、「死への欲動」ですから、
これは、又母親のところに戻ってきている感じです。
母子関係のとこまで戻った時に何を求めるのかというと、
自分の求めるものではなくて母親の求めるものを求めるんです。
みんながヴィトンを求めるから自分もヴィトンを求めるみたいに、
母親が求めるものを自分も求めるんです。
この時母親が求めているものは何かというと、
父親のペニスを求めていますから、
自分もペニスを求めているんですね。
つまり、ニューハーフのペニスを求めているんです。
という訳で、もうこの段階では、母子の外の世界の、
振袖の女とか、表参道のブランドショップとか、阿部寛みたいなイケメンは
関係なくなっちゃっているんです」
(本当かも知れないとも思う)光男はロールキャベツのスープを最後まで
スプーンですくいながら飲むと思った。
(もしニューハーフを相手にしていたら、
西武へのコンプレックスも、
阿部寛みたいな濃いイケメンへのコンプレックスも
解消されるというのなら、夢の様な話だな。
本当だろうか…。
滝川クリステルがムカついていたが、
それは、昔、30代の頃、大宮ハリウッド座で遊んで帰ってくる時に、
金曜、土曜、日曜と遊んで、
日曜の夕方にJ−WAVEの「サウジサウダージ」を聞きながら
帰ってきていたのだが、
今、「サウジサウダージ」のナビゲーターは滝川クリステルで、
俺の失われた時の位置に座っているという感じがするからだ。
それでも、滝川クリステルが結婚もしないで動物愛護運動なんてしている時には
よかったが、進次郎と結婚妊娠となると、ムカーっとして、
それは、伊勢丹メンズ館や西武にムカつくというのと似ているのだが。
しかし、「サウジサウダージ」を思い出してムカついているところに
アリスがいるとすると、なんとなく、J−WAVEも「サウジサウダージ」も
関係ないじゃんと思えてくる。
そもそも、あんなにまったりしたボサノバじゃなくて、
ハウスとかトランスって感じがするし。
だから、シーメールとやっていれば、滝クリ的なものへの憎しみからは
逃れられるのかも知れないな。
それに、俺のペニス羨望の理由も分かった気がするし。
しかし、そこまで推理しているとは、
明子巡査というのは見かけによらず鋭い女だな)
#1155/1158 ●連載 *** コメント #1154 ***
★タイトル (sab ) 22/10/13 15:04 (131)
ニューハーフ殺人事件19 朝霧三郎
★内容 22/10/23 10:36 修正 第3版
副題:もともとタナトス的な人が肛門性愛に走る。
水戸光男と明子巡査は桜田門の警視庁の内部に入った。
V字型の桜田通り側の6階に捜査一課はあった。
パーティションで区切られた接客室で待っていると、すぐに斎藤警視が現れた。
背が高くて色が白くて、如何にも頭が切れそう。
「どうぞ」と席をすすめられて、会議室用の固い椅子に座った。
斎藤警視も着席すると「さっそくだが」とすぐに話を進めた。
「だいぶ捜査も進んで、容疑者のホームレスも自白をしているから、
ここらで終了という感じなんだろうが、そうも行かない理由があるんだ。
実は、1年ぐらい前に、京都の方で類似の事件が起こっている。
被害者は警察マニアの30代の男だが、
京都の建築現場で、立ち小便をしているところホームレスに刺される、
という殺られ方だった。
これが、ガイシャの写真だ」
水戸光男と明子巡査は斎藤警視が机の上に出した写真を見た。
ガイシャは長髪で、胸元をあけた長い襟のワイシャツに3ピース。
腹の左側、肝臓のあたりから出血している。
「この服装が問題なんだよ。
今時、メンズビギのスーツにワイシャツ、それに長髪だ。
ガイシャのヤサを家宅捜索したところ、
「太陽にほえろ! マカロニ刑事編」のDVD-BOXが発見されたのだが、
それには、「13の金曜日マカロニ死す」が収録されている。
そのドラマのショーケンのファッションとガイシャのファッションが似ているんだ。
場所も、ドラマの方は新宿の工事現場だが、
実際の事件でも京都の工事現場で類似している。
それと、池袋の事件との類似点だが、京都のガイシャは、解剖の結果、
肛門が脱肛、つまりアナルローズ状態なんだ。
これは、過度の肛門性交によりそうなるそうだが。
さらに捜査を進めて行くうちに、
ハッピーメールでこのガイシャとやりとりしていた看護師Xという存在が浮上した。
このXは肛門性愛の調教師で、しかもニューハーフだった。
ネット上ではやりとり出来たのだが、リアルでは任意聴取もできなかったのだが。
「太陽にほえろ!」のDVDもこの看護師がプレゼントしたという事だ。
そして、アナル調教も繰り返していたそうだ。
しかし、このXとは会えずじまい。
容疑者のホームレスは、ガイシャに頼まれて刺したと言い張っている。
もしかしたら、看護師Xが、アナル調教を繰り返し行って、
それから、「13の金曜日マカロニ死す」の死に方で死ねと洗脳して、
それでガイシャがホームレスを雇って自分で死んだんじゃないか、
という仮説が出ていた。
それでも、ホームレスが犯人という事で立件されたのだが。
そんな事件があった後に、今回の池袋の事件だ。
もし京都の事件が、看護師Xのアナル調教による
「13の金曜日マカロニ死す」の死に方で死ね
という洗脳によるものだとしたら、
池袋の事件も、誰かによるアナル調教と、
「愛と誠」の様に死ねという洗脳によって死んだんじゃないか、
という想像が出来る」
ここまで語ると、斎藤警視は水戸光男と明子巡査の顔色でも観察する様に注視した。
「まあ、あなた達には変な話に聞こえるかも知れないが、
こういう、肛門性愛とか、死への欲動とも思える死に方とか、
そういう事に関しては、池袋署の方では何か考えているの?」
斎藤警視の問いかけに、水戸光男と明子巡査は押し黙っていた。
「そういう難しい事はちょっと」もじもじしながら水戸光男は言った。
「個人的な意見でいいなら、ない事はありません」明子巡査が言った。
「ほー、なんだね。聞いてみたいね」
「池袋のガイシャですが、あれは「母へのおねだり」的欲望を持ったまま
大人の世界に入って失敗したんじゃないかと思うんですが」
「「母へのおねだり」?」
「「母へのおねだり」というのは、
幼児は言葉を持っていませんから、
母親に「おっぱいが欲しいのかな、オムツが濡れているのかな、
それとも何かな」と、あれでもない、これでもない、と、
想像してもらいたいんですね。
あれも、これも、全ての愛を欲しがる、みたいな感じですが。
何を与えられても、泣き続ける赤ん坊の様な感じですが。
だって、何が欲しい訳ではなく、母親の無限の愛がほしい訳で、
それが万能感なのですから。
それは、エロスというよりかはタナトス的な愛です」
「なんだね。フロイトかね」
「そうです」
「フロイトが池袋の事件と関係があるのかね」
「だって、アネロスを持っていたのですから。肛門性愛ですから」
「そうか。まあ、続けて」
「エロスというのは、おっぱいとかうんちとか、母の脂肪とか、
ぽちゃぽちゃしたもので、適当でいい加減で人間的なものなんですね。
一方タナトスというのは、もっとカクカクした完璧なもの、
まだへその緒がつながっていて、永久に栄養が流れてくる様なもの、
人間も微細なレベルでは原子ですから、
原子だったら、元素の周りを電子が規則正しく回っているから、
そういう規則正しさを求める、みたいな欲望がタナトスです。
そういうタナトス的なものを、エロス的なぽちゃぽちゃした母親に求める、
タナトス的な乳児だった」
「池袋のガイシャが?」
「ええ」
「そういう乳児だったと」
「ええ」
「それで」
「だから、当然エロス的母親は人間ですから完璧なものは与えられない。
そこで、このタナトス的な子供は愛されなかったと思う。
愛を得ないまま大人になった。
そして大人の世界に参入する。
大人の世界とは、例えば、伊勢丹メンズ館でスーツを作って、
どこかこ洒落たレストランでランチをする、みたいな世界ですが。
ところがこのガイシャの免許証の写真を見ると、顔が歪んでいるんですね。
シンメトリーじゃない。イケメンじゃない。
となると、伊勢丹メンズ館でもこ洒落たレストランでも笑われる訳ですよ。
ドレスコードに引っかかって入れてもらえないみたいな感じですかね。
ここで、乳児の頃、母親とエロスのやりとりがあれば、
エロス的に、あの店員変な奴だな、ぐらいで済むのですが。
たまには自分の歪んだ顔をバカにする人間もいるだろうが、愛してくれる人もいる、
とエロス的に考える。
でも、エロスを拒否したタナトス的な乳児ですから、
タナトス的に拒否されたと感じて、万人に笑われていると思う。
自分が醜いから愛されないのだ、と。
シンメトリーじゃないから受け入れられないのだと。
そして完璧なものを求める訳です。女なら、すっぴんを捨てて何回も整形を繰り返す。
男だったらボディービルをやって鍛えるような。
ここで、愛がエロスからタナトスに変わるんです。
ぽちゃぽちゃした女性のおっぱいや性器を求めているのではなく、
そんなのは否定して、
つまり女性的なものへの勃起、射精というものではなくなり、
肛門性愛の様な反復的なものになるんです。
何故肛門性愛かというと、女性性器じゃないからですが」
「ふーん。じゃあ、そこで肛門性愛に走ったとして、
何で死なないとならないのかね」
「肛門性愛に走るのは、伊勢丹メンズ館の様な“世界”から母子関係に戻ってきて、
そこで、肛門をいじられるみたいな感じですから、
その先には、へその緒が直結している胎内に戻りたいという欲望があり、
更には受精前の死の状態に戻りたいという「死への欲動」があると思われます。
その「死への欲動」を体現したい訳ですから、
肛門で悶える感じです。
丸で拷問でも受けているみたいに」
「君はそんな事をどこで学んだんだね」
「大学時代、心理学科で」
「どこの大学で」
「中央大学です」
「あの田舎の私立大学かい」と斎藤警視は言った。
#1156/1158 ●連載 *** コメント #1155 ***
★タイトル (sab ) 22/10/14 16:53 ( 70)
ニューハーフ殺人事件20 朝霧三郎
★内容 22/10/20 11:48 修正 第2版
副題:脳科学的に肛門性愛と「死への欲動」を考える
「私は東大で認知心理学を学んだが、別の解釈が出来る。
それは脳科学的な解釈だが」
「はぁ」
「聞きたい?」と如何にも言いたそうに聞いてきた。
「はぁ」
「ちょっと最初はとっつきにくいが。
脳には、というか、大脳辺縁系と大脳基底核には海馬と尾状核というところが
あるんだが。
海馬は空間把握をするところで、
尾状核は反復記憶みたいな場所なんだけれども…。
海馬は空間認識だから、海馬がでかいと空間認識に優れるんだ。
だから、ロンドンのタクシードライバーは海馬がでかいんだけれども。
タクシーの運ちゃんに限らず、ネズミでも、
迷路、よくネズミの実験で使う迷路ね、実験心理学とかでも使ったでしょう、
その迷路の真ん中に餌をおいておいてネズミを放すと、
海馬があれば、餌の位置を俯瞰的に一発で当てるんだね。
ところが実験で、ネズミの海馬を損傷させると、尾状核を使う様になる。
そうすると、迷路の角から入っていって、たどり着けないと戻ってきて、
又次の角、というように、トライ&エラーを繰り返す」
「海馬だと俯瞰的に見るけれども尾状核ではトライ&エラーを繰り返す」と明子巡査。
「その通り。
又この実験では、尾状核は反復性障害にも関係あるとされている。
何回も何回もガス栓を確認しないとダメなガス栓恐怖症などだが。
あれは実際には見えていないんじゃなかろうか。
海馬が健全なら一発見て閉まっていると確認できるが、
尾状核だと、迷路の角から餌を見る感じだから、ちらちらしていて
よく見えていないんじゃないのか」
「フロイト博士の反復強迫、嫌な事を反復するというのに似てますね。
拒食症患者がリスカを繰り返すとか」
「フロイトは脳科学の発達していない時代に、
脳科学的な事を言い当てたかも知れないね。
エロスとタナトスは、そのまま海馬的と尾状核的に置き換えられるから。
こういう海馬から尾状核への移行は、ストレスによって
引き起こされると言われているが、
現代の様なストレスの多い社会だと、摂食障害になってリスカを繰り返したり
するのかも知れないね。
昔みたいに、ぽちゃぽちゃした、有機的な世界にいれば、
海馬の世界だから、まったりとしていられたけれども、
現代の様に、カクカクした、幾何学的な、化学系床材で出来たような空間にいたら、
ストレスが溜まって、ヒステリーになるのかも知れないね」
「それは、昔の教室が、だるまストーブに木の床だっのが、
空調がエアコンになって床も化学系床材になったんで、
ストレスがたまる、って感じですか?」
「だるまストーブに木の教室だったら、オナラぐらいしても平気だが、
エアコンに化学系床剤だと、そういうのもNGになるかもね。
身体的にストレスを与えるから、尾状核的になる。
尾状核は1か0かの幾何学的な脳だから、
無機的で秩序を好み、ぽちゃぽちゃした有機なものを、嫌う。
なんつーか、ロハスを嫌う。
有機的なものを嫌う。
フロイト的に言えば、エロスを嫌う。
それとは反対のタナトス的反復を求める。
射精ではなく肛門性愛。
エロスな女を求めている訳じゃないから、
対象は肛門になり、相手の肛門は自分の肛門でもあり。
…なんとなく分かるかね」
「なんとなくは。でも、尾状核だと何で「死への欲動」が発動されるんですか?」
「尾状核は反復性障害に関係するから、フロイトの反復、
つまり死の欲動と…」
「えっ、フロイト博士にかえるんですか」
「さっき話したハッピーメールの看護師Xだが、そいつが、
尾状核の死にたくなる気持ちを誘発させたんじゃないか、
という説も出てきている。
まあ、あの件に関しては、犯人はホームレスで処理されたが、
真犯人は看護師と睨んでいるがね。
池袋の事件も誰か京都の看護師の役どころの人間がいるんじゃないかと
想像している訳だよ」
#1157/1158 ●連載 *** コメント #1156 ***
★タイトル (sab ) 22/10/14 17:00 (109)
ニューハーフ殺人事件21 朝霧三郎
★内容 22/10/24 14:04 修正 第5版
副題:シニフィアンに跳ね飛ばされると最後はアナルに走る。
まず、何故シニフィアンに跳ね飛ばされるのか。
警視に会って緊張したから、どっかこ洒落たカフェでリラックスしていこう
という事になって、
丸の内1stのパーキングエリアに警察車両を駐車すると、
三菱UFJ信託銀行本店の1階にある「DEAN & DELUCA カフェ丸の内」に入った。
天井が高いガラス張りの空間。
入り口のカウンターで、ブレンドコーヒーとパンプキンチョコチップケーキを
トレイに乗せて窓際の席へ。
「すごーい、お洒落」と明子巡査はきょろきょろしていた。
「私は本当にこういう、お洒落な空間が苦手で、
一昨日の現場のタリーズみたいなカフェですら苦手なんですよぉ。
大学も中大で田舎ですから、お洒落な都市空間が苦手で、
就職の時にも品川のオフィス街とか、ミクシィのある渋谷スクランブルとかにも
行ったけれども、
それこそ、だるまストーブと木の床ではない空間だから、
もう、自分の身体、特に胃腸が、そういうお洒落な空間を苦手にしていたんですよ」
店のカウンターの方を見ると、若いOL3人が財布だけもって買い物に来ていた。
カフェラテにクッキーを買うと、テイクアウト。
「三菱UFJ信託本店のOLさんですかね」と明子巡査。
「いやー、3時だから銀行員って事はないんじゃない?
どっか、近所のOLだろう」
タイトなスカートでお尻ぷりぷりで、高いヒールを履いている。
「私、ああいうお姉さんにコンプレックスがあるんですよ」と明子巡査。
「こんな化学系建材の都市空間に居て、
コーヒーとクッキー食べて、うん○もぶりぶり平気でする、という。
自分の身体というエロス的なものと、
化学系建材というタナトス的なものの調和に優れているという感じがして。
だって、すごいと思いません?
大理石みたいな柄の化学系建材に囲まれた空間で、
コーヒーとクッキーを買って、
おちょぼ口から胃腸に流し込んで、
今度はTOTOのウォシュレットのあるトイレに行って肛門から出すというのは」
と繰り返した。
「ああいうOLが、表参道のブランドショップでブランド品を買うんだ、
と思いますね」
「俺も似た様な経験をした事があるよ」と光男は言った。
「俺は埼玉のJ大学というFラン大学にいたんだが、
Schottのムートンジャケットを着ていたんだな。何故か。
Schottならブランド品だと思って。
それを着て、埼玉のJ大学から電車で、伊勢丹メンズ館まで行って、
クロムハーツのショップで、革ジャンを見ていたら、
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、60万円?
店員が出てきて「手が出ないでしょう」と言ってニヤついていやがって。
チャラ男の店員が。
「そのジャケット、豚革?」と俺のジャケットを指さす。
「豚革でしょう」と俺の顔に向かって豚革、豚、豚と連呼する。
俺には豚革が似合いだとでも?
ふざけやがって。ショップの店員の癖に。
あのクロムハーツの革ジャンは松本人志とかが着ているのかなぁ。
それ以来伊勢丹メンズ館的なものが苦手になったよ。
それは、明子君の表参道のブランドショップみたいなもの?」
「そういう伊勢丹メンズ館とか、このディーンアンドデルーカとか、
三菱UFJ信託のオフィスとか、そういう都市空間の事を、
シニフィアンって言うんですよ。専門用語では。
それでその中で消費生活に戯れている限りは安定しているんですね、
精神分析的には。
でも、私はダメでしたね。私は胃腸が信じられない、という感じで。
タナトスな空間で自分のエロスな身体を維持するのに自信がなくて。
おちょぼ口でクッキーを食べてコーヒーを飲んで、
肛門から排泄して綺麗にウォシュレットで洗浄するという。
なんでミツさんはダメだったんですか?」
「俺はニキビだな。あの時、ニキビが出来ていた」
「そういうのも、精神分析的には、「母へのおねだり」なんですよ」
「俺は、母親に何もねだっていないよ」
「「母へのおねだり」というのは、おっぱいが出たり出なかったり、
うん○が出たり出なかったり、ニキビがあったりなかったりで。
つまり、身体とか脂肪とか、ぽちゃぽちゃぽちゃしたもの、エロス的なもの
に関わる事なんです。
都市空間に行くとそういうのが気になっちゃって。
そういうのを無くすために拒食症になる。
脂肪を全て無くせば、あったりなかったり、というのはもう起きないから。
母の愛があったりなかったり、というのはもう無いから。
斎藤警視の言葉で言えば、海馬的ではない、という感じで、尾状核的ですかね」
「ところで、品川のオフィス街とか行ったのに、何で警察官になったの」
「それは、都市空間はタナトス的で、エロスな身体が不安定だったから、
だから、桜田門に就職したという…」
「何で桜田門だと堂々としていられるの?」
「それは例えば
大東亜共栄圏の旧日本陸軍みたいなもので、「神の死」がないというか、
ナチスの親衛隊だったら軍服自体がアイデンティティになるから自信満々ですよね」
「よく分からないが」
ずずずずーっとコーヒーをすする明子巡査。
(30代、大宮ハリウッド座に通っている頃、ホリエモンとか酒鬼薔薇とか、
へー、どこの誰?という感じだった。
その頃、素人もやらせるどうかと思って素人にも手を広げて行って、
5、6人と付き合っていた。
そうしたら、なんとこの俺の誕生日をアンナミラーズで祝ってくれた、女が3人で。
俺一人の為に。
その時、面倒くさいな、大宮ハリウッド座でジャンケンに勝ちさえすれば
すぐにただまんにありつけるのにこんな素人と絡んでいるのは、と思った。
その頃は伊勢丹メンズ館もなんとも思わなくて、ポロショップで、
試着が出来ない筈の被り物のシャツなど、何枚も着散らかしても平気だった。
なんたって、桜田門だからなあ。
桜田門の警察手帳を内ポケットに入れていれば、
ナチスの親衛隊の軍服を着ている様なもので、
伊勢丹メンズ館なんて屁とも思わなくなるのかもな。
しかし、今も桜田門だけれどもそんな元気はない。
加齢によって、シニフィアンとやらに弱くなるのかな。
或いは、金さえあれば、銀座の天ぷら屋や寿司屋に行ったりするのかもな、
小津安二郎の映画に出てくるジジイみたいに)
「つまり」と光男は言った。「シニフィアンというのは都市空間みたいなもので、
それはタナトスな空間だから、エロスに自信の無い人には居心地が悪い。
胃腸に不安があるとか肌が荒れているとか。そういう事か?」
「そんな感じですね。それでシニフィアンに跳ね飛ばされて引きこもる」
明子巡査はずーずずずっとコーヒーをすすった。
#1158/1158 ●連載 *** コメント #1157 ***
★タイトル (sab ) 22/10/25 13:56 (109)
ニューハーフ殺人事件22 朝霧三郎
★内容
副題:シニフィアンに跳ね飛ばされると最後はアナルに走る。
何故シニフィアンに跳ね飛ばされたのにシニフィアンを気にするのか。
「だったら、静かにアパートに引きこもっていたいのに、何で気になるの?」
「何が、ですか?」
「さっき、ミクシィ本社の入っている渋谷スクランブルとか言っただろう」
「はい」
「そう聞いただけで、ミクシィだけじゃなくて、
「渋谷で働くアメーバーブログの社長」とか「はてな」とか、
そういうのが、びびびびびーっと連鎖するのだけれども。
それは、西武が気に入らないとか、野田秀樹が気に入らないとかと
同じ感覚で、何でそんな事が起こるんだろう。
シニフィアンに跳ね飛ばされたのなら、
静かにアパートに引きこもらせてくれればいいのに」
「それはそういうものなんですよ。
私は都市空間がダメで、
就職の時に品川のオフィス街で目が回ったんですけど、
それより4年前、受験の時に、代ゼミに行ったんですけど」
「代々木ゼミナール?」
「ええ。
夏休みに抜け駆けして、友達には黙って、代ゼミに行った事があったんです。
そうしたら、すごいストレスで。
山手線なんて乗車率190%とか。
教室もすし詰め状態で。
それで嘔吐恐怖症になったんですね。
吐くんじゃないかという強迫観念に襲われたんです。
それで、近所の心療内科に行って、
それは1週間ぐらいで落ち着いたんですけれども。
1週間ぶりに駅前に行って、当時はまだ駅前に啓文堂とかあったんですけど、
書棚を見たら、新潮文庫の100冊とかがずらーっと並んでいたんですね。
それを見て、自分は新潮文庫の10冊も書かなければならないと漠然と思ったんです。
それと同時に、マザーテレサとか神谷美恵子とかジョン・レノンみたいに、
世界平和の為に活躍しないといけないと思えてきて」
「おいおい、それが、「渋谷で働くアメーバーブログの社長」となんの関係が
あるんだよ」
「だから、ミツさんだって、伊勢丹メンズ館でバカにされて、
埼玉の田舎に引きこもった時に、
西武が気に入らないとか野田秀樹が気に入らないとか出てきたんでしょ?」
「ああ」
「その時に、何かにハマったものありません。
オタク系のものでも、私の新潮文庫の100冊みたいなものでも」
「そういえば、俺、今でもボクシングジムに通っているだろ」
「はい」
「ボクシングに最初にハマったのは、あの頃だなあ。
ボクシングマガジンの別冊のボクシング年鑑にハマって
ボロボロになるまでページをめくったよ。
特にヘビー級のボクサーが好きで、
フレージャー、フォアマン、スピンクス、ホームズとかね」
「へー。正にそういう感じですよ。
シニフィアンに跳ね飛ばされた時にデータベースにハマるんですよ。
それがお経だとカルトにハマる。
ところが、新潮文庫の100冊にしろ、ボクシング年鑑にしろ、
そういうのは、ラインナップとして用意されたデータベースではなくて、
人間の脳が尾状核的だから、連鎖していってしまうものだと思うんですよ」
「おいおい、尾状核なんて斎藤警視の言っていた事じゃないか」
「でも、ああいうネズミの実験とか、心理学科でも結構有名で、
認知心理学も認知科学も似ているから知っているんですよ」
「へー」
「だから、ミツさんが、ミクシィ、とか、
「渋谷で働くアメーバーブログの社長」とか「はてな」とかが連鎖しちゃうのも、
尾状核的な人間だからですよ」
(俺が尾状核的な人間か。
そうかもな。
何しろ夕べアリスに感じちゃったんだから、
池袋や京都のガイシャに近いのかもな)
「渋谷といえば、渋谷系の音楽ってあるじゃないですか。
「フリッパーズ・ギター」とか「ピチカート・ファイブ」とか。
知ってます?」
「知ってるよ。時代だもの」
「あれって、リミックスサンプリングって言われるじゃないですか。
なんかのデータベースからカットアンドペーストしてきているって。
あれって、90年代になると、色々なストレスが増えたから…、
それこそ、だるまストーブや木の床から、化学系建材の建物になった、とか、
だから、尾状核的になって、それで連鎖しているだけじゃないかと思って」
「そんなに難しい事じゃないよ。
俺は61年生まれで90年代に30代だったが、
その頃給料も増えてきたから車も買って、
カーラジオはFMで、
J−WAVEが流れてきて。
タワーレコードが井之頭通りからファイヤー通りに移ってきた頃だけれども。
あの頃に金、土、日と遊んで
夕方に「サウジサウダージ」を聞きながら帰ってきたんだよ。
あの頃を忘れられる訳がない。
それが今や、J−WAVE、六本木ヒルズ、滝クリ、JAL「サウジサウダージ」が
セットになって、陰のシニフィアンになっているんだからなぁ。
シニフィアンに陽と陰があるなら」
「そりゃあ、一見セットになっている様に感じますが、
実は、ミツさんが尾状核的だから連鎖しているだけなんじゃないんですか?」
「じゃあ聞くが。
90年代、大宮ハリウッド座にハマっていた頃、
ホリエモンとか酒鬼薔薇とか、社会を騒がせている存在が、どこの誰ですか?
って感じだったのは何故?
何で尾状核的に連鎖しなかったの?」
「そりゃあ、そのストリップ劇場で、まったりとしていれば、
海馬のニューロンの受容体にまったりイオンが流れてきて、
受容体をふさいでしまうから、
もう、尾状核的なイオンは流れないんですよ」
「ふーん」
「私、池袋や京都のガイシャも、ミツさんの言う陰なシニフィアンに
尾状核的にびりびりしていた奴じゃないかと思うんですよね」
突然明子巡査は事件の話をしてきた。
「池袋のガイシャはA/X ARMANIで、京都のガイシャはメンズビギ
ですからねえ。そういう感じがしますね」
(池袋のガイシャは大宮ハリウッド座からリブレ高田馬場に行っている。
俺もガイシャも尾状核的な人間なのだろう。
何しろ、昨日アリスに感じちゃったんだから。
というか、どうして尾状核的な人間だとアナルで感じるんだろう)