●短編 #0551の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
※小説投稿サイトのお題に応じて書いたものになります。 「約束したわよね。もう浮気はしませんて」 僕は妻の前で正座をさせられていた。 「あなたって人は、何度言ったら分かるのかしら」 「申し訳ない……」 頭を垂れる。すぐには上げないで待っていると、さらなるきついフレーズが降ってき た。 「聞きたいのはそんな言葉じゃないの。今のは質問よ。答えて。これで何度目になるの かなー?」 「えっと」 これはマジな質問、いや詰問だなと察知した僕は、指折り数えてみた。えーっと、彼 女と結婚してから五年になるから、単純計算すると……でも年末年始はしないことが多 かった気もする。 いや、そもそも問われているのは、彼女にばれた回数なのだろうか? それとも洗い ざらい白状しろという命令として受け止めるべきか。僕は考えあぐねて、結局は黙って 手のひらを広げて示した。 「そんなものじゃないんじゃないの? あなたの立場からすれば、そうねえ、週一ぐら いやっていても全然不思議じゃないんだけどっ?」 「ま、まさか、そんなには行かないよ」 「本当かしら。そういえばあなた、前にワイドショーを一緒に見ていたとき、浮気と本 気は違うとかどうとか、言ってたわよね。もしかして浮気の数だけを申告したってこと なのかな?」 「い、いや。その……僕は……常に……」 これを言ったらぶっ飛ばされるか、それと同等の罵詈雑言が突き刺さってくると分か っている。分かっていても、僕は嘘をつけない。立場上というのもある。約束を破るの はいけないことだが、それ以上に嘘をついてはいけない場面もあるのだ。 と、心の中で理屈なのか言い訳なのか判然としないことをもごもごとやっている内 に、妻からは「え、何、聞こえない。常に何?」とやや挑発的な響きの声。僕は意を決 した。 「僕は常に本気だ」 「この――頑固者がー!」 妻の怒声に顔を起こすと、スリッパの底が見えた。ぐんぐん迫ってきて、当たる!」 という刹那に軌道が逸れ、耳をかすめるようにして床をドン!」と踏みしめる。彼女の 細くて綺麗な足のどこに、こんな野生のカモシカみたいな脚力が秘められているのだろ うと不思議になる。 「すべて本気だったと。譲らないのね」 はあはあと乱れた呼吸を整えようとしながらも、妻は聴取をやめないでいる。 顔面に蹴りを入れないでくれた気遣いに感謝しつつ、僕は立ち上がると、妻を真正面 から見つめた。 「あ、ああ。そこだけは譲れない。だって、本気にならずに怪人・怪獣・侵略者その他 諸々を倒せやしないよ」 「……約束したのに」 妻は不意に俯いたかと思うと、涙声になっていた。 そこから先は、僕も聞くのが辛い。というか、正直、激しく後悔してしまうのだ。あ んな約束、しなければよかったと。 今を遡ること、十五年ほどになるだろうか。妻がまだ小学校中学年ぐらいの頃に、僕 は彼女と初めて出会った。一人で留守番していたところを怪人に襲われ、絶体絶命の窮 地に陥った彼女を、颯爽と現れた“マスクド燕尾服マン”こと僕が救出、怪人どもをな ぎ倒して退散させたのだ。そこで切り上げて、さっさと巨大化して、飛び去っていれば よかったのだけれど、泣き止まない彼女を見てつい、色々と話し込んでしまった。挙げ 句、 「私だけのヒーローになって!」 とせがまれ、何の気なしにオーケーした。 それがまさか、十年ほど経って、彼女と結婚することになるとは運命なんて分からな い(ちなみに僕の年齢は変身巨大化ヒーローによくある何万何千歳レベルだから、地球 人は誰であろうと物凄く年下になるのは確定事項。決してそういう性癖なんかではな い)。 その上、彼女が約束をきっちり覚えていて、僕が正義の務めを果たすべく、他の人達 を助けに出動することが許せないなんて。 「本気にならずに悪者を倒せるようになってよ〜、お願いだから」 参ったな。 おしまい
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