●短編 #0549の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
7は幸運の数と、小さな頃から教わってきた。 無邪気だった頃の俺は微塵も疑わずに信じたものだ。何かを選ぶときに、選べるので あれば7を取りに行った。ただただ愚直なまでに。 結果、どうなったか。ちっとも幸運じゃなかった。 たとえば幼稚園のとき。八つに分けた先生手作りのケーキを九人でくじ引きして、一 人だけ食べられないというゲームをやった。園の全員が参加して、最後の一人になるま で繰り返し行われたのだが、俺は悉く外れを引いた。みんなが7を選ばないのをいいこ とに、常に7を採っていったら、この有様だ。結局、俺一人だけがケーキにありつけな かった。 小学生のときは、班分けだった。林間学校と修学旅行、それぞれで班分けのためのく じ引きが行われた。俺はどちらの場合も7を選んだが、思い通りの結果は待っていなか った。というのも同じクラスに片思いしている女子がいて、その子と一緒の班になりた いと強く願っていたのだけれども、まったく当てが外れてがっかりした。 中学のときも修学旅行。ただし、班分けは機械的に出席番号順に前から数名ずつに分 けられたから関係ない。泊まったホテルの部屋番号が777だったのだ。これは御利益 ありそうだと期待が膨らんだが、修学旅行中、特にいいことが起きるでもなく、淡々と 進んだ。自分には関係ないが、引率の先生の一人が夜、宿を抜け出してパチンコをして いたのがばれ、何らかの処分を食らったというおまけが付いた。 高校では三年間、出席番号が7だった。今度こそ、高校生活はラッキーセブンの恩恵 に与れるかも、と期待を抱いたのだが、甘かった。出席番号7は何の因果か、各教科の 先生からやたらと当てられる順番だった。数学の先生は素数番目を当てていくのを好 む。英語の先生は七番目と言えば日曜日、日曜日は学校が休みで当てられることが少な いだろうからという謎理論を持ち出して、公平を保つためにと出席番号7を多めに指名 する。国語の先生は教卓に張ってある座席表の上で右手人差し指を構え、目を瞑って、 えいやと下ろしたところにある番号を指名するのだけれども、この人の癖なのか、7が 当たる確率が滅茶苦茶高かった。とまあこんな具合に、高校時代はサボれる授業が一つ もなく、少なくとも予習だけはバッチリこなしておかねばならず、大変だった。 そして今年迎えた大学受験。本命校の受験番号が7777だった。 この頃になるともうラッキーセブンを当てにするのはやめよう、と考える気持ちも大 分大きくなっていたが、それでもなお信じてみようという気持ちも残っていて。それだ け大学受験という関門は、人生にとってかなり重要だってことなのかもしれない。 そんな大事な試験の直前になって、不思議なことが起きた。 周囲が暗転したかと思うと、他の人達の気配が消えた。同時に、目の前に、といって も7メートルくらい離れた先に、赤ん坊くらいのサイズの人型が浮かんでいるのを認識 する。その人型にどこから来たのかスポットライトが当たり、俺からもはっきり見え た。 何というか、外見は古代ギリシャの哲学者って風貌なんだが、若い人が付け髭や白髪 のかつらを被って、がんばって年寄りを演じていますという雰囲気があった。 「未成年の内は助けてあげてたけど、今日からは自分で判断してね」 人型がいきなり言った。俺は辺りを横目で見やったが、誰からも反応がない。という か、ずっと人の気配、ざわつきが消えたままだ。 「勉強ばかりしてきて、ぴんと来てないのかな? これよくあるパターンなんだけど」 続けて人型の台詞。 いや、俺だって暗転の瞬間から少しして、思わないではなかったさ。でもまさかとい う頭もあったし、仮に“例のアレ”だとしても、そっちが説明を始めるのが筋だろう と。 「えっと。あれか。あなたは神様か何かで、ここは異空間、みたいな?」 「そう、分かってるじゃないの」 ちっちゃい神様は手を叩いて喜んだ。 「で、試験の直前に邪魔して悪いんだけど、手っ取り早く終わらせるから少しの間、辛 抱して聞いて頂戴。さっきも言った通り、これまで僕はあなたが間違った道に行かない よう、サポートをしてきた。特に、7という数が関わるポイントで」 「……サポートって言った?」 物事の理解を急速に進め、次に相手の言葉の意味を飲み込もうとする。 「サポートって普通はよくなる方に導いてくれるんじゃないの? 俺、7でいい思いを した覚えが一個もないんだが。ラッキーセブンを信じるのをやめようかと思うくらい、 縁がなかったぞ」 「かもしれない。けど、それはそういう結果だから。あと、僕が言うサポートって、よ くなるとか凄くよくなるに限らないんだ。あくまでも、悪くならないように持って行く のがメイン」 「……よく分からないな。じゃあ、そうだな、幼稚園のとき、俺だけ先生の手作りケー キを食べられなかったことあったが、あれって何だったんだよ」 「あー、あれね。もしあのときあのケーキを君が食べていたら、そばアレルギーの激し い反応が出て、命に関わっていたから」 「はい?」 「あのケーキには、ほんのちょっぴりだけど、そば粉が混じっていたんだ。もちろん幼 稚園の先生がわざと入れたんじゃあないよ。自宅でケーキを焼く前日、手打ちそばを作 ったんだ。そのときの粉がごく微量だけど、ボールやめん棒などに残っていて、意図せ ずしてケーキに混入した。ちょっぴりと言ったって、当時、そばアレルギーを完全には 克服していなかった君にとって、危険な量だったんだよ」 「まさかそんな。だったら、小学五、六年のとき、好きな女子と同じグループになれな かったのは何でだ? 絶対に一緒になれた方が楽しい」 「あれは君の将来を見越してのこと。もしもあのとき同じ班になっていたら、君と彼女 はどんどん仲よくなっていた」 「ほら見ろ。どうして邪魔を――」 「待った。最後まで聞いてよ。小学生のときは分からなかっただろうけど、彼女はとん だわがままなんだよ。君を彼女の好み通りに仕立てようと強制してくるんだ」 「そ、それくらい受け入れる。仮に俺の趣味と多少ずれていても、我慢するさ」 「よくないよ、そういうのって。それに中学以降の彼女について、噂は耳に入ってない のかい?」 「それは……まあ、ちょっとは。悪い噂だから信じたくなかったっていうか」 中学は同じだったが、高校は別々になった。だから本当に噂話でしか知らないのだ が、高校二年の時にその女子は付き合っていた男子とトラブルになり、通学途中の駅 で、彼氏をホームからレール側へ突き飛ばそうとしたらしい。そのあとどうなったのか は知りたくもなかったので、聞いてない。 僕は気持ちを切り替える意味も込めて、話題を換えた。 「中学の修学旅行で、部屋が777だったのに何もなかった。あれは?」 「ああ、僕的にはあれが一番苦労した。あのときはいいことが起きる寸前だったんだ。 それを食い止めるためにそれなりに力を使ったからね」 「いいことを食い止めた? 何で」 「いいことと言ったって大した話じゃない。777のプレートを見た先生が、その部屋 の君達男子を誘ってくるんだ。パチンコに連れて行ってやろうか、と」 「はい?」 「旅先で高揚していたせいか、誘いに乗った君達、というか君はパチンコで大勝ちす る。それだけだ。直後に見付かって、こってり絞られて、休学させられるよ」 「それじゃああのとき、先生が一人だけで行って、一人だけ処分を食らったのは」 「そう、僕の尽力のおかげ」 「それが事実なら助かったけど……あんまりありがたみを感じないな。実際には体験し てない訳だから」 「実際に起きてしまったら、僕程度のクラスの力ではどうにもならないからね。ついで に高校三年間の件にも答えようか。出席番号7になったばっかりに、授業で当てられる ことが激増したっていう」 「あ、ああ」 「あれは逆に僕は何もしないでよかった。だって、君にとって確実にプラスに働いたん だから」 「……もしかして、勉強に熱心に取り組んだこと?」 「そうそう。そのおかげで成績が上がり、やりたいことを学ぶために、こうして高いラ ンクの大学を狙えるところまで来た。でしょ?」 「……確かに」 そこは認めざるを得ない。高校生活を通じて、勉強量が半分以下だったとしたら、進 学を選んでいたかどうかすら怪しい。 「分かってくれた? ならよかった。僕も嬉しい」 「ありがたい神様が今日このタイミングで姿を現したのは、どうして」 感謝の気持ちが少々沸いてきて、言葉遣いが若干丁寧になっていた。と同時に、疑問 をぶつける。 「いい質問だね。けど、最初に答を言ったようなもんなんだけどな」 「未成年とかどうとかってやつ?」 僕に限らず、大多数の受験生は十八歳になっている。 「そう。なんやかんやと手助けできるのは、未成年のときだけなんだ。だから今日のテ ストの受験番号が7777と7揃いであることをどう受け止めるかは、君の自由。ラッ キーセブンなんてないんだと無視してもいいし、僕の話を聞いて過去の7にはそれなり の意味があったんだなと解釈するもよし」 「それって……正解とか間違いとかあるのかな」 迷う気持ちを素直に出す。答が返ってくると期待はしてないが、念のために聞いてみ た。 「もう僕は何もしないから」 小さな神様は淡々と返事する。が、続けてこうも言った。 「ただ最後に一つアドバイスを送るとしたら、前向きでいること、だね。僕が何の神様 か分かる?」 「さあ……」 「7に関わること全般扱っていることから、想像付くんじゃないかな。その中ではまだ まだ下っ端なんだけど」 「7に関わる、ねえ」 7といえばやっぱり、ラッキーセブン。てことは。 「福の神?」 「正解。その調子で試験に臨むといいよ。笑う門には福来たると言うしね」 そう言って満面の笑みを作った福の神さまは、徐々にフェードアウトしていった。 終わり
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