●短編 #0547の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「――という訳で、刺殺された被害者は、血文字で『88』と書き遺していました。い わゆるダイイングメッセージなる代物です。間違いなく本人が書いており、また、何者 かが手を加えた可能性もありません。 冒頭お伝えの通り、荒天で警察本体の到着が遅れています。事件関係者は、パーティ 出席者である招待客やゲストタレント、会場スタッフを含めると、総勢九十名に上る。 現時点で手掛かりはダイイングメッセージのみですが、本体到着前に少しでも容疑の枠 を絞り込むことを目的に、メッセージに関係ありそうな方をピックアップし、話を伺う ことにします。次に名前を呼ぶ方々、こちらに出て来てください。八十八に関連付ける 理由も併せて説明します。 最初は、八十八歳になったばかり、この集まりの主役である白石初太郎《しらいしは つたろう》さん。お願いします。 二人目は、米寿とくれば次は米に着目しない訳にいかないので、米田規世《よねだの りよ》さん。さらにグレッグ・ライスさん、オール・ベーカーさんも。――あ、ベー カーさん、意味が分からないと思いますが、こちらで部下に説明させます。ご辛抱くだ さい。 米作りという観点から、田上《たうえ》さん。漢字が違いますが、念のため。同様に 稲垣《いながき》さん、穂積《ほづみ》さん、俵《たわら》さん、糠田《ぬかた》さ ん。下の名前にも注目して、油井耕作《あぶらいこうさく》さんも含めましょう。 続いて、一九八八年生まれの加藤友助《かとうともすけ》さん。平成二十五年生ま れ、昭和に換算すると昭和八十八年になる徳森未来《とくもりみらい》君も、お母さん 同伴で結構ですからお願いします。 え? 生まれ年まで関連付けるのは無茶苦茶だ、ですと? そりゃあね、普通なら 我々だってここまで含めやしませんよ。でもさっき皆さんが言ったじゃありませんか。 米寿の祝いの席上で、八十八に関係する事柄を出し合って、盛り上がったと。その際に 徳森未来君が昭和で言えば八十八年生まれになることを見付けて、大いに湧いたそうで すね。そういったことどもが被害者の印象に残っていたのかもしれない。そういう可能 性を無視する訳にはいかないし、公平を保つ意味でもご協力願います。いいですね? 続けます。次は星野《ほしの》すばるさん。もう言う必要はないかもしれませんが、 星座です。全天にある星座は八十八個。 それから芸人の木売麻里《きうりまり》さん。ラジウムの原子番号八十八にちなんだ ものです。あなたの芸名の元になったマリー・キュリー、ラジウムの発見者の一人なの はご存知でしょう。 次、那智伸也《なちしんや》さん。自分は初めて知ったんですが、88はアルファベ ット八番目の文字Hを並べたHHを示唆し、これはハイル・ヒトラーの隠語だそうで。 ご不快でしょうが、その話題もパーティで出たとのことなので、何卒。 あと、チェスチャンピオンとオセロチャンピオンのお二方。そもそもが8×8の盤上 で競うゲームのチャンピオンというだけの理由で、ゲストに呼ばれたと来ました。ご面 倒でしょうがお付き合いください。 次は誰だったかな。そうそう、8×8は64、虫に通じるということで、昆虫博士の 野呂昭彦《のろあきひこ》さん。 心苦しいのですが、被害者のお母さんとおばあさんにも出て来てもらいましょう。8 8は“はは”“ばば”にも通じますので。 そう、察しがよくて助かります、馬場《ばば》さんも候補に入っています。どうぞ。 次は、無限二真流《むげんにしんりゅう》の師範、蜂須賀八雲《はちすがやくも》さ ん。流派のシンボルが、8を寝かせた形に似た無限大のマーク二つを並べた物ですし、 お名前を略すと『はちはち』と言えなくもない。 似た理由になりますが、八重島英人《やえじまえいと》さん。八重は“はちじゅう ”、英人はエイト、8の英訳に通じますので。 茶道の家元である万代《ばんだい》さんも。“夏も近付く八十八夜”と唄われるのは 茶摘みのことだとか。 88をかけ算の九九と捉えると、はっぱと読める。草津葉一《くさつよういち》さ ん、あなたのことかもしれません。おいでください。木漏れ日写真で名をなしたカメラ マンの大黒雅実《おおぐろまさみ》さん、同じ理由でお越しを。 この調子だと時間がいくら合っても足りなくなるので、スピードアップしていきま す。 末広がりの八が二つということで、末広双樹《すえひろそうき》君。 第八十八代のプロレスNWCヘビー級王者、的場雷剛《まとばらいごう》選手。 今年で創業八十八年になる老舗漬物屋さん、上地高秀《かみじたかひで》さん。それ から――」 先乗りの刑事はこんな調子で名前を読み上げていった。 「最後、これが最も広範囲の網になりそうですが……ベージュ色の服やアクセサリーを 身に付けている人は、前に出てください」 ざわつく会場。それでも抗議の声は上がらず、該当者がぞろぞろと指示された側へと 歩いて行く。 というのも、名前を読み上げられた人数がとうに過半数を超していたからである。多 数派にならないと不安を覚えるのかもしれない。そして今、少数派だった自分がベージ ュのアイテムをに見付けていたことで多数派に転じられて安心した、といったところ か。 「以上です。カウントしていたのですが、出て来てもらった方の総数はなんと、八十八 になりました。偶然とは言え恐ろしい。 そして、計算するまでもなく、この会場を見れば分かることですが、ダイイングメッ セージとの関連性が見当たらないのは、たった一人」 関係者は全部で九十名、被害者が一人。前に出てきてもらったのが八十八人。90− 1−88=1。 「九十九《つくも》七五三太《しめた》さん、あなただけはどう想像を膨らませても、 八十八とは結び付けられなかった。だからお帰りになって結構ですよ、と言いたいとこ ろですが、天気はまだ荒れ模様だし、一人だけ除外されるというのもかえって怪しく見 えなくもない」 「そんなあ」 「もしかすると被害者の方は、あなただけが八十八に関係しないことを把握した上で、 『88ではない者が犯人』とでも書き遺したかったのかも」 「まさか。いや、もう、一人だけ特別視されている感じが、凄く嫌なんですが」 「だったら、がんばって八十八に関連付けてみては?」 「それでそちらに仲間入りさせてもらえるのでしたら、努力します。……計算してもい いですかね?」 「計算、とは」 「私の名前の数字99753の間に四則演算の記号を入れて計算するんです。たとえ ば、9×9+7と5+3に分ければ、前者は88、後者は8になる」 どうです?と迫らんばかりに目を見開く九十九。 刑事は顎に片手をやり、少しの間、沈思黙考。程なくして口を開いた。 「惜しいけれども、やっぱり無理」 おしまい
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