●短編 #0544の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「僕、時々思っていることがあって」 「何だ、こんなときに」 「二つのことに挑んでいる人を、報道などでは二刀流と言い表す場合が多いですよね。 あれってちょっと変な印象受けてしまうんです」 「どこに。二つのことに挑戦しているのなら二刀流でいいだろう、単純明快だ」 「二つのことで優れた実績を出した人なら、二刀流と呼んでもかまわないと思います。 けれども、二つのことに挑んでどちらもたいした結果を残せていないのであれば、それ は器用貧乏、虻蜂取らず、二兎追うものは一兎をも得ずというやつではありませんか」 「そりゃまあ言われてみれば、確かにそうだが。しかし世間には二つ挑んで、どちらか 一つで実績を残している人だっている。ああいうのはどうなる?」 「そのような方達は単に、成果を上げられていない方の事柄に関して、向いていなかっ ただけの話です」 「身も蓋もない言い方だな」 「別に気にしなければいいんでしょうけれども、どうしても気になるというか。何でも かんでも二刀流と表現する風潮に飽きたといったところでしょうか。そもそも、何で刀 なんでしょうね。二丁拳銃じゃいけないのかな」 「そこはほれ、日本は刀だろ」 「英語圏では二丁拳銃と言い表すかというと、そうではないみたいですよ。武器やス ポーツ選手の場合によって色々ありますから、興味があったらあとで調べてみてもいい かもしれません」 「覚えていたならな。って、結局何の話をしてるんだ? 捜査の邪魔をするなら、引っ 込んでいてもらおう」 「あ、すみません。言いたかったのは、ダイイングメッセージに“ニトウリュウ”とあ ったからといって、被害者が伝えたかったことが『二刀流』であるとは限らないのでは ないかって話です」 「それくらいなら、我々警察だって考慮している。検討を重ねた上で、他に解釈のしよ うがないから、関係者の中で二刀流と関連付けられそうな三名をピックアップしたん だ。総合格闘技とキックボクシングでチャンピオンになった日代鳥英美里《ひよどりえ みり》、仕事は平凡なサラリーマンで二刀流とは縁もゆかりもないが、いかにもな名前 の大谷武蔵《おおたにたけぞう》、名前の読み方が同じ仁藤龍《にとうりゅう》。この 三人の中に犯人はいるはずだ。三日前の夜、片桐《かたぎり》氏を後ろから刺した奴が な」 「えっと、僕が思っている人が抜けているのですが」 「何だと。誰だ?」 「瓜生《うりゅう》さんです」 「瓜生? あんなひょろひょろには、柔道重量級だった片桐氏をやるのは困難だろ。他 の容疑者達はそれぞれ、女性ながら格闘家、二メートル超の巨漢、アクション俳優と対 抗できる要素が備わっている」 「背後から刺されているのだから、不意を突けば何とかなりそうな気もしますが」 「そこは何とも言えん。片桐氏は犯人の顔を見たからこそ、メッセージを遺したんだ。 少なくとも相対する瞬間はあったはず。刺されたあとだとしても、ひょろひょろの犯人 なら片桐氏は死に物狂いで確保するなり、爪痕を残すなりしたに違いなかろう」 「可能性は認めますけど、その決めつけはどうかと……」 「君こそ、どうして瓜生の名を挙げる? 何か知っているのか」 「いえ。ただ、ダイイングメッセージの中にウリュウって含まれているじゃないです か」 「ああ? まさか、片桐氏は最初、“ウリュウ”と書き遺していたのだが、気付いた犯 人が頭にニトを付け加えたと言いたいのか? 残念だが、それはない」 「断言するんですね」 「もちろんだ。捜査上の方針で皆さんには伝えていなかったが、絞り込めてきたことだ し、絶対確実なアリバイのある君には教えてやろう。遺体発見現場にはちょうど防犯カ メラのレンズが向けられていたんだ。当夜、現場一帯は真っ暗闇だったが、赤外線カメ ラの優秀なやつで、被害者がメッセージを書くところが、ばっちり収められていた。そ の後、書き加えられたり、一部が消されたりといった細工が施されたなんてことはあり 得ない」 「えっと、現場がカメラに映っていたのなら、犯人も移っているのでは?」 「残念ながら、片桐氏は刺されたあと逃げてきて、遺体発見現場で倒れたんだ。犯人の 姿はまったく映っていない。まあ、だからこそ犯人は自らを示唆するメッセージを遺さ れたなんて知らずに、そのまま放置したんだろうがな。ともかく、瓜生を容疑者に入れ るのはナンセンスだってことは分かったろう」 「うーん、それでも僕は入れるべきだと思います」 「やれやれ。見た目と違って頑固だな」 「理屈もあります。映像があるのなら、被害者の手や指の動きを拡大して、血文字の形 とともに詳細に解析することをお願いしたいのですが」 「やっているよ。時間が掛かるんだ」 「じゃあその結果待ちになりますね。僕が考えたのは、二人による犯行なんです。瓜生 さんともう一人。あるいはもしかしたら瓜生さんにはそっくりな双子がいて、ずっと隠 れているのかもしれない」 「はあ? どこからそんな突拍子もない考えが」 「紙と鉛筆を借りますよ。――被害者は、こう、“二人ウリュウ”と書いたんじゃない かと思うんです」 「……“二人”が“ニト”に読めたってか。まあ、“ト”の字がちょいと前に傾けば“ 人”に似てはいるが」 「でしょう? 二人による犯行だとすれば、瓜生さんのような細身の方でも可能性が出 て来る、と思いませんか」 「……」 「それに、刑事さんが最初に挙げた三人も、瓜生さんとそんなに差はないと思います。 巨漢の片桐さんを殺すつもりで襲うのなら、背後から不意を突くのが成功確率が高い。 暗闇で相手の顔ははっきりしなくても、シルエットでだいたい分かるし、的は大きいか らまず外しはしない。ところで片桐さんの立場から見てみると、どうでしょう? 暗い 夜、背後からいきなり刺されて、その場から逃げた。後ろを振り返る余裕があったかど うか。あったとしても犯人の顔を確認できたかどうか」 「待て。君の言う仮定を認めると、片桐氏は犯人を知らないまま亡くなったことになっ てしまう。つまり、メッセージを書きようがない。事実とそぐわないじゃないか」 「そうなんです。でも、瓜生さんを含む二人による犯行だとすると、どうでしょう? 瓜生さんが片桐さんの前に立ち、話し掛けて注意を引く。その隙を狙って、共犯者が片 桐さんの背後に忍び寄り、刺す。この状況であれば、片桐さんが逃げて地面に倒れ伏し たあと、犯人の人数と片割れの名を示すために、“二人ウリュウ”と遺したとしても不 思議じゃありません」 「……分かった。君の意見も一つの説として取り入れるとしよう」 その後、防犯カメラの映像を解析したところ、瓜生が犯行に関わっていた可能性が強 まった。ただし、それは血文字を書く指の動きから判断されたものではない。 被害者の口が、「ウリュウ」と書くのに合わせて同じく「ウリュウ」と動いているら しいことが認められたためである。 終
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