●短編 #0542の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
共通の友達から神藤和奈恵《じんどうかなえ》と田中磨律《たなかまりつ》が喧嘩し たと聞かされ、僕・八木敦彦《やぎあつひこ》は声を上げるほど驚いた。 その日の昼休み、隣のクラスへ“遠征”し、いつものように一緒に弁当を食べようと したのだが、二人がばらけて座っているので、変だなと感じてはいたんだ。そのときに 察するべきだったのだが、たまには別々に食べる場合もあるよなと理解して、自分は立 ち去った(どちらか一人だけと一緒にお昼を食べるのは忍びなかったため)。 神藤と田中はものの捉え方や考え方がほぼ正反対なのに、何故か馬が合ったらしく、 高校に入学して知り合って以来、二人仲よく行動することがほとんどだった。 二人の違いを簡単に言い表すなら、論理と直感、だろう。神藤は合理主義で、非科学 的なことは疑って掛かる。それでも占いや縁起担ぎについては周りに合わせるくらいの 柔軟さも持ち合わせていた。 田中は逆に何でもとりあえず受け入れる。盲目的に信じるのではないが、非科学的な ことでも楽しまなきゃ損、と考える方だ。実際、運や勘がいいタイプだと思う。 そんな二人が親友になれたのは、自分のないものを持っているという相互補完の関係 なのかもしれない。 「一体何があって喧嘩したんだ? 知ってる?」 その友達に重ねて聞くと、苦笑いが返って来た。 「知っているよ、うん。ちょっとこじれただけだから、放っておいても大丈夫とは思う が。心配なら、八木君が取りなせばいい」 「そうしたいのはやまやまだが、原因が分からないんじゃあな」 「聞いたら、八木君でも放置しておこうと思うかもよ」 「そんなしょうもない理由なのか」 「だね。本人達にとってどうかは置くとして、第三者的にはくだらないと思う」 「うーん、信じられん。あの仲のよさが仮に一時的にせよ壊れるくらいだから、よほど 深刻な事情があるかと思ったのに。逆に気になってきた。聞かせてほしい」 「じゃあまあ、あっさり教えるのも何だから」 そう前置きして、友達は昨日の放課後及び今朝、目撃した神藤と田中のやり取りを話 してくれた。 放課後の教室。神藤の席の前に田中が陣取る。 『カナちゃん、さっき小耳に挟んだんだけど、カナちゃんて第六感、あるって?」 『え? ええ。第六感なら持っているわよ』 『えー、知らなかった。凄いね』 『そう? まあ、凄いと言えば凄いと言えるかしら』 『凄いよー。じゃあさ、これ、当ててみて』 神社のおみくじみたいにきゅっと結んだ紙を四つ、机に置いた田中。 『はい?』 『この四つの中に、一つだけ、文字が書いてあるの。その紙がどれかを当てて、さらに 文字まで当てられないかな』 『どうして私がそんなことを……無理よ』 『そんなこと言わずにやってよ、ねえ。外れてもいいから』 やってやらないの繰り返しが何度か続いたあと、神藤が席を立つ。 『用事があるから帰るね』 『そんなあ。どうしてやってくれないのよー?』 得意になって話してくれている友達に、僕はストップを掛けた。 「あのさ。声色、うまいけど、やめろ。ちょっと気持ち悪い」 「いや、やめないよ。こうしないと気分が乗らないもんで。それよりも、ここまでで何 か気付いたことは?」 「うーん? そうだな、会話が噛み合っているようで噛み合っていないような、微妙な ずれを感じなくもない」 「お。もしや、原因にも気が付いてるんじゃあ?」 「確信はないが。田中さんは“第六感”とは直感がよく当たるってな意味のつもりで使 っているのに対し、神藤さんは“第六感”を単なる当て推量のことだと想定していて、 よく当たるかどうかまでは考慮していないんじゃないか?」 「なかなかいい線を行っていると思う。だけど、外れ。続きをどうぞ」 「声真似、する気満々だな……」 翌日の朝(今日の朝)の学校。教室で田中の席の前に、神藤が立つ。朝の挨拶はかわ したものの、あからさまに不機嫌な田中に、神藤が鞄の中から出した物を見せる。 『昨日のことだけれども。私が言っていたのはこれだったのよ。分かる?』 その物を見た田中、一瞬で赤面して恥ずかしがったかと思うと、次に怒り出す。 『何でこんな? 私が言ってるんだから、第六感て意味、分かるでしょっ?』 『それを言うなら私だって。私が非科学的なことは鵜呑みにしないってこと、マリは知 ってるでしょうに。そんな私が、よく当たる第六感を持っているはずがないって、聞く までもなく分かるでしょうが』 『そんなの分かんないよっ。他人の不思議体験は全然信じなくても、自分が体験したこ とだけは信じるって人だっているはずだよ』 このまま堂々巡りになり、喧嘩別れに。 「そして今に至るってわけ」 「状況は理解した。だが、肝心の原因はまだ見えてこないな。神藤さんが見せた物がポ イントなのは分かるが」 「今の話だけで当てるのはさすがに厳しいから、ヒント。神藤さんが持って来たのは古 いCDだった」 「CD? 珍しいな。ていうことは、昔の曲が第六感と関係しているんだ?」 友達が頷き返すのを見て、僕はあれこれ連想してみた。その中に“大ロック感”なん て駄洒落が含まれていたのは内緒だ。 「考えるよりも検索した方が早いし、確実だよ。正確に言い当てるには、いくら考えた って無理だろうし」 「……悔しいが、古い音楽に造詣が深い訳ではないしな。えっと、“第六感”“音楽” “歌曲”ぐらいで……うん? 『第六感』という曲はあるが、割と今の時代の曲だな」 「あ、忘れてた。そのCDはアルバムだったよ」 「じゃあ“アルバム”を追加して……ああ、これか」 条件に合いそうな結果が表示された。日本の歌手でイニシャルK・S、愛称Jの異名 でもよく知られた人が『第六感』というアルバムを出していた。 「これを持っていたから、神藤さんは『第六感がある』と答えたのか。なるほどな」 たったこれだけの行き違いで、こうもこじれるなんて。 「どう? 仲直りに骨を折る気になったかい?」 友達に問われ、僕は考えた。その最中、検索結果の画面の片隅に、歌手の代表曲の一 つが表示されているのに気付く。 「どうもこうも……『勝手にしやがれ』って言いたくなるわな」 おしまい
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