●短編 #0367の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ほんの数ヶ月前まで、寺木田良人はテレビ番組で引っ張りだこの人気を誇っ ていた。 プロのマジシャンである寺木田は、技術をしっかりと身に着け、顔は二枚目、 スマートな体つき、甘い声という好条件が揃いながら、なかなかブレイクでき ないでいた。経験不足もあっただろうが、それ以上に、個性を打ち出せないで いたのが大きかった。 そんな彼が一躍、人気者となったきっかけは、執事マジシャンというスタイ ルの案出。文字通り、執事――日本人がイメージする――の格好をして登場す ると、主人を迎え、客をもてなすシチュエーションで、ステージを組み立てる のだ。 行うマジックそのものは、以前とさほど変わり映えしなくても、大いに受け るようになった。特に女性からは、黄色い歓声を渦のように送られることもし ばしばである。 テレビで特番が組まれるようになって一年近く経ち、人気が落ち着き出すの を感じ取った寺木田は、次の展開を模索し始めていた。その折も折、ライバル が出現した。寺木田に比肩する二枚目マジシャンで、須藤礼悟といった。 二番煎じだったなら、恐れることはない。須藤は、大掛かりなイリュージョ ンを決め技に持っていたのだ。特に、棺からの脱出マジックは、同業者すら唸 らせる、スピードと意外性あふれる演目として完成していた。 須藤の出現を機に、寺木田の方はテレビへの露出が徐々に減っていき、早く も過去の人という世評が生じつつある。とは言え、出番が全くなくなった訳で はない。バラエティ番組などにちらっと出演し、マジックを二つ三つ披露する ことが増えた。その数少ない露出のチャンスに、新しいスタイルを試したいの が本音だが、テレビ局サイドは、相も変わらず執事マジシャンでとリクエスト してくる。このままではじり貧だと焦りを感じ、もがいているのが寺木田良人 の現状だった。 バラエティ番組での出番を終え、帰り支度を済ませた寺木田に、顔見知りの 女性プロデューサーが声を掛けてきた。 「西島さん、何ですか」 西島咲子は、かつて執事マジシャンの売り出しに力を注いでくれた、ある意 味、寺木田にとっての大恩人。反面、人気がわずかに下降したと見るや、次の マジシャンを探しに掛かり、須藤礼悟を発掘してきた変わり身には、文句の一 つや二つ、言いたくもなる。 「単刀直入に言うわ。須藤礼悟と対決してみない?」 「対決と言われても、どのような形式なのか。それが分からない内は、返事の しようがありませんよ」 「お互いにマジックを披露して、審査員が採点する――なんてのは、人気投票 になりがちで、いまいち面白味を欠く。そこで、マジック見破りバトルってい うのを考えたんだけれど、どう?」 薄茶色のサングラスの奥で、得意そうな目が光っている。 説明を聞かずとも、その呼び名から当たりを付けた寺木田は、へし口を作っ た。 「アイディアは悪くないと思いますよ。でも、我々プロのマジシャンは、一部 のよくあるマジックを除いて、種明かしはしない。ましてや、同業仲間の手の 内を公の電波に乗せて暴こうだなんて」 「そんなことをしたら、商売あがったり? でも、一度きりなら、たいしてダ メージないでしょう。評判を呼んで、名前を売るメリットの方が大きいんじゃ ないかしら」 「今さら、名前を売るために」 そう口走ったものの、続きは口を噤んだ。確かに、メリットはある。飛ぶ鳥 を落とす勢いの須藤礼悟と絡むだけでも結構なものだが、その上、もしもあい つのマジックの種明かしに成功したら……。 「須藤さんは何と言ってるんですか。彼がやる気なら、自分も受けることにや ぶさかでありません」 「打診したら、乗り気だったわ。彼もあなたの返事待ちみたいなことを言って いた」 「じゃあ、基本、受ける方向でかまいません。ただ、どんな対戦形式になるの かだけは、前もって教えていただかないと」 「もちろん。本決まりじゃないけれど、今、腹案にあるのは、三本勝負。二本 目までは、互いに見破ることに成功する。最後のマジックだけは、どちらも見 破れない」 「ああ、そういう演出で」 一応、真剣勝負も想定していた寺木田だったが、こうもはっきり言われると、 拍子抜けする。 「お互い、本気を出したら、全く見破れないまま、終了ってこともあり得るで しょう。それじゃあ番組が盛り上がらない。最低でも一つずつ、見破られるた めの捨てネタを用意して欲しいわね」 いや……と心の中で否定する寺木田。本気を出しても見破れないマジックな んて、そうそうない。たいていは基本技術の応用であり、少なくとも原理の推 測は付くだろう。色々な可能性が浮かんで、どれを解答とするかに迷う場合だ ってあるかもしれない。 一つや二つならいいとしても、あまりに多くのマジックに関して、種明かし めいた言及をするのはまずい。同業者から睨まれるどころか、恨まれかねない。 やはり、演出が必要だ――寺木田はそう判断した。 「西島さんの演出でかまいません。番組の主役は須藤さんでしょうから、最後 は彼の脱出イリュージョンで締めですね?」 「まあ、方々の意向を勘案すると、そういうことになりそうとだけ」 「気を遣ってもらわなくていいですよ。確認したかったんです。自分もそれに 見合うだけのマジックを用意しないといけないな、ってね」 「それは楽しみ。じゃあ、会場を決めたら、いち早く知らせて」 「あれ、聞き違えた? こちらで決めていいんですか」 「聞き違えじゃないわ。二本目まではスタジオ収録、三本目は二元中継にしま しょう。須藤さんの脱出マジック、演じられる会場は自ずと絞られてくるの。 だったら、あなたも自由に会場を選べるようにしないと、フェアじゃなくなる じゃない」 寺木田は「ふうん」と聞き流した素振りをしながらも、一瞬、息を飲んでい た。発言した当人は気付いているかどうか知らないが、これは脱出マジックを 見破るためのヒントになる。 出来レースだから、仮に見破れたとしても、公言はできないだろう。それで も、業界内の多くが知りたがる脱出マジックの秘密を掴めれば、今後の活動に おいて、心理的に随分有利に立てる。それどころか、新たなマジックの創出に つながる可能性だってある。 無論、抜け穴を利用しているに違いないという憶測は、以前から囁かれてい た。舞台上から姿を消し、ごく短時間で会場内の全く別の場所に出現するのに、 定番のやり口だ。 その憶測に加え、予め会場が分かっていれば、見破る確率は一気に上がるの では。そんな期待を秘め、寺木田は提案を重ねる。 「二元中継だと、大げさすぎやしませんか。種を見破ろうっていうのに、それ ぞれが現場にいないのもおかしな話だし」 「費用面はノープロブレムなんだけれど。まあ、確かに、見破りバトルでお互 いが離れているのは、絵にならない」 納得した風に頷く西島。ここぞとばかりに、寺木田は畳み掛けた。 「自分の方で合わせます。会場を教えていただいたら、下見に行って、考える としますよ。時間の余裕、ある程度はもらえるんですよね?」 「それはまあ」 とりあえず、話はまとまった。 額に浮かんだ汗は、やがて大きな玉となり、程なくして一筋、また一筋と流 れていく。 (そんな馬鹿な……) 寺木田の焦りは最高潮に達していた。 マジックバトルの会場が決定したとの報を受け、早速、下見に訪れた。もち ろん、須藤の脱出マジックの種を見破ってやろうという意図は隠し、飽くまで、 自分自身のマジックを考えるためを装って。 その演技のため、鼻歌交じりにあちこち見て回っていたのだが、じきに鼻歌 は消え、代わりに汗が浮いてきたという有様だ。何せ、抜け穴の類が一切見当 たらないのだ。ステージ上にも奈落の設備はない。会場の係員や管理者にも問 い合わせたのだから、間違いない。 (わざとか?) 心の中で呟く寺木田。 (わざと、抜け穴のない会場を選び、脱出マジックをやっているというのか、 須藤の奴は。業界内の人間に、完璧さを見せつけるために) そんな気がしてきた。ぞくりとする。あいつは正真正銘、本来の意味でのマ ジック――魔術なのを使えるのではないかと。 (このままでは、見破れやしない。つまり、こちらの勝利はない……引き分け に持ち込むのが精一杯? ならば、絶対に見破られないマジックを用意するこ とに、力を集中させるべき……しかし、須藤と対決する折角のチャンスを、そ んな受け身の状態で迎えたくはない。失地回復が掛かってるんだ) 考えれば考えるほど、迷いが生じ、焦りが増幅する。 (このままでは袋小路だ。敵情視察してみるか) 寺木田は、攻めるべきか守りに徹するべきかを決めるため、須藤のショーを 密かに観に行った。 * * 「また来られています」 万雷の拍手を浴びつつ、舞台をあとにする。毎度のことだ。須藤礼悟は、受 け取ったタオルで汗を拭いながら、マネージャーの話に耳を傾けた。内容を理 解すると、表情が曇る。 「また? 今、どこに」 「控え室の隣が空いていたので、そこで待ってもらっています。外見はいつも 通りですから、誰にも気付かれていないとは思います」 「うん、分かった。着替えてから行く。勝手に出歩かないよう、もうしばらく 相手をしててくれるかな」 マネージャーは黙ったまま首肯し、静かに歩き去った。その後ろ姿を見送り、 ため息をつく須藤。タオルを握る手に、一瞬、力がこもった。 会いたくはないが、見捨てる訳にもいかない存在。しかも、須藤礼悟はこの 悩みを誰にも相談できない立場にあると言えた。 「普通なら、マジシャンとして喜ぶべきなんだが……」 呟いてから、もう何度目の独り言だろうかと、自嘲する須藤だった。 * * 寺木田は腰を上げられずにいた。 地方の公民館、その古そうな外観に比して、シートのクッションが思いの外 よくて、座り心地はよかった。つまらないショーなら、熟睡するに適している だろう。 だが、さっきまでステージで繰り広げられたショーは、一級のエンターテイ ンメントとして完成していた。居眠りなんてとんでもない。同業の寺木田でさ え、須藤のマジックの数々には目を奪われ、意識を集中した。 (いや、ショーの完成度の高さは分かっていたことだ。問題は、ラストの) そう、脱出マジック。これを見破るヒントを掴めればという望みを持って、 神経を集中していた。が、結果は、このマジックの素晴らしさを改めて思い知 らされただけ。この会場に抜け穴の類があるか否かは確かめていないが、須藤 は抜け穴を使わずに、やってのけるのだ。そうに決まっている。 舞台に置かれた棺桶から密かに抜け出し、身を隠す方法なら、寺木田にも思 い当たる。だが、そのあとが問題だ。どうやって、会場の真ん中に出現できる のか。それも短時間で。 手をこまねいて、呆然と見守っていた訳ではない。複数名のスタッフの協力 で、半ばどさくさ紛れのように出現する方法を使うのではと推測し、須藤が現 れるであろう地点を凝視していた。出現地点の推測は多少外れたため、須藤が 現れる瞬間は目撃し損なったが、それでもスタッフらしき人物の怪しい動きは なかったと断言できる。 (一体どうやって……) 疎らになった観客席を見回し、ようやく立った寺木田。一応の変装用にと持 って来た帽子を目深に被り、通路に出る。ぐずぐずと居残っていると、須藤側 の関係者に気付かれるかもしれない。マジックバトルのことがなければ、挨拶 がてら、控室を訪ねてもいいのだが。 (もう一度か二度、観ないことには、とても解明できそうにない。いや、何度 観ても、解明できるかどうか) ホールのドアを通り、さらに玄関から会場外へ。休日の昼公演だったため、 まだ明るい。ただ、空模様は若干下り坂のようだ。 そのままバス停に向かいかけた寺木田だったが、途中で気が変わった。足先 の向きを、ぐるりと今来た方角へと戻す。念のため、会場の周りを見ておこう と考えたのだ。 再度、帽子を深く被り直してから、公民館の周囲をゆっくりと歩く。最前の 公演がここでの最終なので、関係者は撤収作業に忙しい頃合いだろう。須藤も すぐに外に出て来るとは思えないため、安心して見て回れる。 そう判断していたのだが、建物の周囲を半周ほどした地点で、寺木田はぎょ っとした。裏口らしきドアから現れた人物がいる。気付かれぬよう、足を止め た。少し引き返して角に隠れようかとも思ったが、その人影は、背を丸くして こそこそと足早に遠ざかる。隠れる必要はない。寺木田は建物外周の観察を続 ける代わりに、その人物の追跡を開始した。何故なら――。 (ちらと見えた、あの男の横顔……まさか) 再確認のため、小走りになって、遠くから横に回り込む。 (見間違いじゃない。そうか、これがあいつの秘密か!) 青色の古臭いジャンバーを羽織ったその男性の顔は、須藤礼悟に瓜二つであ った。 超一流のイリュージョニストの中には、一卵性双生児の存在を囁かれる者が 何名かいる。マジックには、入れ換えや脱出、瞬間移動等、一見不可能のよう でも、マジシャンと顔のそっくりな人間がいれば容易く実行できる演目がある ためだ。 (須藤の奴も、双子がいたのか。何だ、蓋を開けてみれば、大したことじゃな い。あいつの生まれがたまたまよかっただけじゃないか) そこまで考え、自信を取り戻した寺木田だったが、次の瞬間にはまた疑問が 湧いた。 (あの男が須藤本人ではないと、どうして言い切れる? 華やかさというか、 オーラのようなものがないから、須藤とは別人だと判断したが、そういう曖昧 な理由で決め付けていいのか? ……ここは一つ、思い切って) 寺木田は唾を飲み込むと、意を決してまた走った。問題の男との距離を、ぐ んぐん縮める。あと三メートルほどになって、相手も寺木田に気付いた。 その振り向いた目は、寺木田の知る須藤の眼差しとは、やはり異なるように 感じられた。まあ、どうでもいい。ここまで来たら、直接対話だ。 「失礼。須藤さんでは?」 帽子を取り、単刀直入に問い質す。 「あ……いや、俺は太田って言うんだ」 返事する声の質は、須藤礼悟のそれと似て非なるもの。じっくり聴けば、イ ントネーションの差がはっきりするのではないだろうか。 「太田? ああ、須藤礼悟の本名は確か、太田某だったっけ。ねえ、あなた、 須藤礼悟の身内でしょう? 今し方、そこの会場でマジックをやった」 逃げられるような気がしたので、質問を畳み掛ける。脱出マジックの尻尾を 押さえ、須藤にその事実を伝えれば、こっちが優位に立てる。その一心から、 必死になっていたかもしれない。 「あ、ああ……そのことについちゃあ、俺は何も知らない」 「知らないって、あなた、さっきあのドアから出て来たじゃないですか。あれ は関係者以外立入禁止では?」 「だから、俺は関係者と言えば関係者だけれど、マジックとは関係ないんだっ て」 「何を言ってるの。須藤礼悟の兄弟か何かですよね? これだけ顔が似てるん だ、違うとは言わせない」 「答えられないんだよ。口止めされてるから」 邪険になった口ぶりで答え、立ち去ろうとする男。寺木田は食い下がった。 口止めと聞き、確信を持った。 「ほら、やっぱり。マジックに協力してることを口止めされてるんだ。いいん だよ。私はマジシャン、須藤礼悟とは同業者です。マジックの種を明かしても、 問題ない。一般の人にばらしやしませんて」 「勘違いしてもらっちゃ困る。俺はマジックなんて、全然できねえの」 「嘘だ。そりゃあ、あなた一人ではマジックをしないのかもしれないけれど、 須藤に協力はしてるでしょ?」 「してない。協力も何も、俺はしてないよっ」 邪険さが身振りにも現れた。伸ばした手を荒っぽく振り払われたのだ。 「ちょっと。行かないでください。じゃあ、引き返して、私と一緒に、須藤礼 悟の部屋を訪ねようじゃありませんか。それではっきりする」 「さっき、行ったばかりで、また行ったら、あいつに嫌われる……」 訳の分からない理由で断られる。そう受け取った寺木田の両腕に、つい、力 が入った。 「そう言って誤魔化そうとしても、もう遅いんだっ」 男の左腕を取り、強引に連れて行こうとした。 が、男の抵抗は予想外に弱々しく、呆気なくバランスを崩すと、後ろ向きの まま、転倒してしまった。 「あ――。あの、すみません。大丈夫ですか?」 ひやりとしたものを背筋に感じながら、寺木田はしゃがみ込んだ。仰向けの まま、ほぼ大の字になって横たわる男の顔を、斜めに見下ろす。反応がない。 怒っているのだろうかと、もう一度、同じような台詞を繰り返して呼び掛け る。それでも反応はなく、寺木田は男の顔を真上から覗き込んだ。 眼球が一点を見つめたまま、固まっている。 (ま、まさか、な) 相手の肩に手を掛け、揺さぶる。先程聞いた名前を呼んでみる。だが、男は ぴくりとも動かない。 * * 「居場所さえ決めてもらえたら、こちらから金を送ると、毎度毎度言っている のに、奇矯な方ですね」 マネージャーの、遠慮がちだが、批判的かつ呆れた口ぶり。須藤はつい、調 子を合わせた。 「ああ。基本的に、根なし草生活が性に合っている人だから、兄は。自分でも 言っていたしね」 「どうでしょう、次に会ったときには、携帯電話を差し上げてみては。いくら かまとまった額をチャージして」 「チャージ……そうか、財布代わりになるんだっけな」 「ええ。後払い方式はさすがに問題ありましょうから、先払いのチャージで。 会わなくても、お金を補充できますし」 「コンビニでの買い物だけは、これを使えと教えればいい訳か。……だけど、 機械に強いんだろうか。ずっと一緒に暮らしてきたのなら、そういうことも把 握できてるんだろうけど」 自分の声が、意外なほど寂しげに耳に届き、須藤は少しびっくりした。 「そもそも、兄がマジックに関心があるかどうかも、怪しいもんだ。一度ぐら い、始まりから終わりまで、観ていってくれればどんなに嬉しいか」 素直な感想を吐露したところへ、マネージャーが言う。 「仮に興味がなかったとしても、一度、ショーを一通り見せれば、きっとその 凄さや魅力を理解されると思います」 「だといいんだが」 「大丈夫ですよ。次にお兄さんが来られたら、ショーが終わったあと、改めて やりましょう。お兄さん一人を観客としたショーを」 「感動物のドキュメンタリーのようなシチュエーションだねえ」 苦笑いを浮かべる須藤だが、それも悪くないなと思っていた。マネージャー はさらに続けた。 「その上で、ですね。こんなことを提案するのは釈迦に説法になりますが、い っそ、スタッフとしてお雇いになってはいかがでしょう?」 「双子の欺瞞を使わなくても、僕はこれだけのことをやれるのにかい?」 「双子がいることを利用すれば、もっと素晴らしいマジックができるかもしれ ませんよ」 「確かにそうなんだが、今まで一人でやって来ただけにね。拘りがあるし。逆 に、今から双子の兄をスタッフにして、それが業界内だけにでも知れ渡ったら、 なーんだってことにならないかな。あの脱出も双子が種だったんだな、と」 「それは分かりませんが……」 相手の困り顔に、須藤は兄をスタッフとして雇う件を前向きに検討すると約 束した。 「ほんの一時期、嫌な考えがよぎったこと、あるんだよ。兄が姿を現して、金 をせびりに来るようになった最初の頃さ。こいつの存在がもし世間に知られた ら、自分がこれまで築いてきた名声は一気に地に墜ちる。いなくなればいいの に。最悪の事態が起こらない内に、整形をさせるか、外国に行かせるか、それ とも見捨てて死ぬのを待つか……ってね」 ――終
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