●短編 #0087の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「食べ過ぎやない?」おばちゃんはアルミのタンクから突き出た蛇口を捻って、俺の 丼にツユを注ぎながら言った。学校帰り、セルフのウンド屋。玉は好きなだけ入れてい い。刻んだ青ネギと天カスも、入れ放題だ。野菜の掻き揚げや竹輪の磯部揚げは50 円、生卵30円、肉ウドン用の牛肉・ゴボウは100円、エビ天は150円。もちろん 俺は、いつも、すうどんだった。240円。 「好きなだけ入れていい書いとるやん」俺は張り紙を見ながら言う。「あんた、七玉 も入れたやろ。ウチの七玉は普通の四玉にはなるで。惜しいて言いよんやないんよ。太 るで。ウドンは太るんよ。だいたい、全部食べれるん?」「……」「残したらイカン よ」 「うん」俺は、おばちゃんの矛盾した論理に如何反応していいか解らず俯く。太って真 っ黒なおばちゃんは、そのデップリした腰に手を当て仁王立ち、ニコニコしている。汗 で顔がテカテカしている。ぎっちり肉の詰まっていそうな真ん丸の頬にエクボが出来て いる。 俺は空いている席に腰を下ろし、ウドンをたぐる。ダシは利いているが、ぬるめのツ ユ。ドッサリ入れすぎて、ふやけながら麺にこびりついてくる天カス、荒く刻んだネギ の臭い。最初の一口は、コシの強い麺を噛まずに嚥下してみる。喉の内側をヌルリと膨 らませ、愛撫しつつ通り抜ける。(裕美が言よった〈女の感覚〉って、こんなんかな )。体の内側を異物に摩擦されるなんて、想像するのも恐ろしいが、裕美は平気で「そ れがエェんよ」と言っていた。やはり女は、俺たちとは別の生き物らしい。二口目から は、適当に噛む。 食い終わった丼を、返却口に持っていく。「E高の子?」「うん。それが、どした ん」制服だから隠しようがない。「ううん」おばちゃんは、それ以上何も言わず、丼を 洗いだす。 あれだけ存在感があったのに、案外おばちゃんの体は小さかった。俺に四度も欲望を 吐き出させた汗ばんだ体からは、肉の臭いがした。「彼女おるん?」華奢な声だった。 「……」「おるんやろ。初めてやなかったみたいやもん」「……おるよ」「いかんが ね。こんなことしたら」おばちゃんは、共犯者めいた上目遣いの笑いを見せる「でも若 い子にはキツイやろね、太いもん」。「ほやけど、エェって言うで」無闇に俺は反論し た。「ふふふふふっ、彼氏のやけんよ。無理してでもエェって言うもんよ。こんなん、 若い子やったら、痛いだけやん」「……」俺は気の利いた言葉が見つからず、おばちゃ んの柔らかい脇腹に抱きついた。 あれからウドン屋に足が向かず、おばちゃんにも会っていない。二十年経って行って みると、店はあったものの、おばちゃんはいなかった。おばちゃんはパートだったのだ から、いるはずもないのだが。 何故おばちゃんに誘われてアパートに行ったのか、あのときは自分でも解らなかっ た。今となってみても、はっきりとは解らない。恐らく、甘えたかったんだろう。俺の 家庭は厳格で、反発しながらも何となく進学校とやらを歴て大学にも行き、サラリーマ ンに納まってしまっている。家庭は、俺に義務を負わせる場だった。特に母親は、理を 説き無謬性を纏いたがる女だった。「男」である俺の、甘えを決して許さなかった。一 方で我の強かった俺は、恋人に対しても優位に立ちたがり、甘えることが出来なかっ た。本当は、甘えたかったのに。 いまでも、おばちゃんのことは、時々思い出す。 (お粗末様)
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「●短編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE