●短編 #0060の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
弟の背後で姉が溜息をこぼした。 「あのねえ、テレビばっかり見てると頭が莫迦になるわよ」 弟は振り返りもせずに画面を食い入るように見つめている。 天気予報は日本全国が今日は晴天だと告げている。 「いやねえ、たまには雨でも降らなきゃ商売あがったりだわ」 姉がこぼしても、弟はかまわない。 『天気予報に続きまして、景気予報をお届けします。九州内陸部で発達中の低気圧は次 第に勢力を増し、完全失業率の上昇に歯止めがかからない状態です。また北海道は高気 圧が勢力を弱めたため、停滞前線が北上することなく、土砂降り状態がしばく続きそう です』 アナウンサーは一息つくと、日本各地の失業予想を始めた。 「面白いの?」 姉の問いに弟はうなずく。姉は大きく溜息をつく。 『今入りました情報によりますと、東京都で土石流が発生した模様です』 画面がアナウンサーから国会議事堂前の中継へと切り替わった。 『失業率の上昇にともない生活保護の申請も右肩上がりに増加していましたが、さきほ ど国会で保護の打ち切り法案が可決される結果となり、国会前に集まっていた反対派、 推定30万人が雪崩的に暴動を起こした模様です」 画面は無数の人が拳を突き上げ群がる姿を映していたが、やがて商店を襲う暴徒が商 品を強奪するシーンに切り替わった。 姉は首を振ってから、テレビの電源コードをコンセットから抜いた。 弟が口をとがらせて振り返る。 「そんなものばかり見てないで、ちゃんと鬼太鼓の手入れでもしなさい!」 姉が仁王立ちのまま怒鳴るので、わかったよ、と捨てぜりふを残して立ち上がった。 「今日はマンハッタンに出かけるんだからね。世界中の仲間が集まって雷を落とすんだ から、そそうはできないわよ。わかった?」 弟は手を振ることで返事にかえた。 「まったく人間世界の何が面白いんだか。とくに日本なんか環境破壊のせいで雷を落と す日が少なくなったんだから。このままいったら私たちだってリストラされるかもしれ ないのに……ホント、莫迦なんだから」 姉は虎縞のビキニを指先で弾くと、背負った鬼太鼓を雲から下に投げたい衝動にから れた。「私たちだってね、許されるなら景気よく雷を落としたいのよ。ホント、もっと 景気が良くならないかしら。ストレスたまっちゃう」 姉は地上に向かって舌を出したが、地上の人間は気がつくことがない。 昔、怖いものは地震雷火事親父だったが、今ではリストラ賃金カット職探しなのだか ら。のんきに空を見上げる余裕なぞ誰も持ってはいなかったのだ。 *** アナウンサーが低音を響かせ、記事を読み上げている。 「ツクシランからマゼラン星経で発生した巨大磁気嵐はしだいに勢いを失い、現在、星 間航路も通常運行へと復旧の見通しがたったようです。なおG1で発生した中性子爆発は 次元振動を伴い、近隣諸惑星は引き続き警戒を怠らぬよう気象台では注意を呼びかけて います。 ――今日の星間天気予報に続きまして、リビオングで開催中の評議会を中継したいと思 います」 テレビカメラが演台に立つ三本足の巨人にピントを合わせる。広大な空間には何万人 という諸惑星を代表する人々が固唾を飲んで巨人の言葉を待っていた。 「……これらの映像を見て分かるとおり、ヒトと呼ばれる存在は精神の階梯をのぼるこ となく、戦争や破壊に明け暮れているのが現状です。ましてや仲間の首を切るなど高等 生物とは思えない仕打ちをする始末です。我々自然保護団体は地球生態系にとって有害 なヒトをリストラ――つまり生態系の再構築及びそれに関連する諸法案を提案しまし た。最近、地球ではリストラが流行みたいですし、彼らも素直に受け入れてくれること でしょう。ぜひ皆様の賛同を!」 トランスレーターで各言語に翻訳された演説は圧倒的な拍手をもって可決された。 *** 地球に向かって伸びる巨大な雷の触手があるとは雷様も気がつかなかった。人間から 空を見上げる余裕が消えたように、雷様にも宇宙を見上げる余裕がなかったのだ。 そしてひときわ大きな雷がマンハッタンに落ちた。アース出来ない雷は火力発電所を 崩壊へと導き、都市に闇が訪れた。燃えさかる炎とサイレン灯が付近をゆるゆらと照ら している。 「すごい雷だねえ。ビルくらいの太さはあったよ。私たちも負けてられないよ!」 姉のバチさばきにも力が入る。弟もそれに呼応して奇声を張りあげる。 「今日は祭りだ! 祭りには花がなくちゃねえ」 「おうよ」 弟も一人前にこたえる。 雷が地球を包み、放電した火花は地球を恒星のように煌めかせる。やがて祭りが終わ り静寂がおとずれた。 朝日が昇ろうとも、語ることが出来るヒトは誰もいない。ただ雷様だけが、満足した ように高笑いを響かせていた。 --終わり--
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