●長編 #0596の修正
★タイトルと名前
親文書
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
●6 ボイラー室の斉木は制御盤を計器をチェックしていた。循環している湯の温 度が41度になっていた。設定値も41度だ。 (あと15分で開店だから、ちょっと風呂場を見てくるかな。昼飯は昼休みに は食わないで、14時から18時までの仮眠時間に食うかな。しかしそうやっ て休憩時間がやたらとあってその時間は賃金が発生しないんだからひでーよな あ。特に18時から一人勤務になるのに、8時間も休憩時間があって賃金が出 ないのはひでー。それでも、客は24時間有人管理だと思っているあら用をい いつけてくるし。まあ、いいや、ここをやめる時に、そういうのも全部労働時 間だと言って労働審判を起こしてやるから) 斉木は、ボイラー室から出てラウンジに向かったが、ふと、清掃準備室の前 で止まった。 ノックをして開けると覗いてみる。 額田、大石悦子、泉の3人が遠赤外線ストーブにあたっていた。 「お、あったかそうだな。ミッションコンプリートだな」 「なに、なに?」と大石と泉。 「じゃあ、今回のミッションについて、説明するよ」斉木はドアを閉めて遠赤 外線ストーブの横に立った。「今回のミッションは、清掃グループの独裁者山 城を追放し、自由と民主主義を回復するというものであった。 このミッションは2つの作戦行動により完了する。 まず最初のミッションは、清掃準備室を綺麗にするというものだったんだよ。 俺は、清掃員の為にあの部屋を綺麗にする、と宣言して、小汚いモップにビ ニール袋を掛けたりした。 そうすれば蛯原が犬のマーキングで真似をすると思ったから。いやもっと大 掛かりな事をするだろうと期待して。 そうしたら蛯原は、まず、清掃準備室の清掃用具をボイラー室へ移動させた 。わざわざ本通リビングの許可を得て。 そうやって、一度清掃用具がボイラー室に移されて、清掃員の出入りが自由 になると、ボイラーを焚いている時には暖かいものだから、だんだんそこに屯 するようになるし、しまいには休憩もそこでとるようになる。 それが昨日までのあんたらだよ。独裁者からの解放はまず移動の自由からだ 。まあ、ボイラー室は難民キャンプみたいなものだよ。 だけれども、あんたらは故郷に帰らないといけない。それがミッションその 2」言うと斉木は人差し指と親指の2本立てた。外人みたいに「蛯原には風説 を流布する悪い癖があるんだよ。誰々がこう言ってましたよーって。額田さん が、清掃準備室は寒いって言ってましたよー、隣の農家の豚小屋には、ここが 建ったら日当たりが悪くなったからといってストーブが入ったのに、ここの更 衣室には何にもない。俺たちゃ豚以下だ、俺たちは豚以下だと連呼して、」 「俺、そんな事、言ったっけ?」 「実際に言ったかどうかはどうでもいいんだよ。現代戦は情報操作だから。と にかく蛯原がそう言って、とうとう遠赤外線ストーブをせしめただろう。本通 リビングから。これで、ミッション2がコンプリートだよ。 まぁ、みんながボイラー室で昼飯を食う様になった段階で独裁者山城はハブ にされた様なものなんだけれども。一人で清掃準備室で食っていたんだから。 今度は大通リビングがストーブを買ってくれたんだから、みんなは清掃準備 室で昼飯を食わざるを得ない。そうなると今度は独裁者が追い出される番だ。 山城のおっさん、どこいっているの?」 「2階の休憩スペース」 ●7 斉木が2階休憩室に行くと、山城がソファーに座って、見るでもなくテレビ を眺めつつ、弁当を食っていた。 「あれ、こんなところで飯食ってんの? もうすぐ居住者様が来るんじゃない の?」 「何で俺の居場所が無いんだ。ボイラー室はお前が仮眠しているし、清掃準備 室では額田らが飯を食っている。あいつらは俺の兵隊じゃなかったのかよ」 テレビのチャンネルは地元のケーブルテレビ局だった。飯山の新幹線新駅が 映し出される。 山城は、弁当を持ったまま身を乗り出した。 「俺はあの近所に2ヘクタールの田んぼを持ってんだ。売れば億になるが売ら ない。米も売らない。みんな親戚に配るんだ。皆にそう言ってやった。それで 皆、俺を妬んでいるのかも知れないな。いや、額田だって、土地を持っている ものな。やっかむとしたら、大石悦子、泉、公団住まいの蛯原、あと、24時 間管理員のぷーたろーどもだろうな。特に、おめーだよ。おめーなんて、飯山 から更にバイクで20分も行った原野でアパート暮らしをしているんだろう。 おめーみたいな持たざる者が人民主義者の扇動家になったりするんだよ」 「ふん。まあ、俺と鮎川は近い将来ユーチューバーで成功して、ユーチューバ ー長者になるかも知れないけれどもな」 「ああ、精々頑張んな」 (ムカつくな、死ねばいい)そう思って斉木は踵を返した。 ●8 「本当に土地持ちっていうのはムカつくよな」 管理室に入るなり、斉木は弁当を食っている蛯原に言った。アルマイトのド カベンに満杯のご飯、その上に、ワラジみたいに大きいメンチカツを卵でとじ たものがあふれんばかりに乗っている。12時から1時間蛯原が休み、13時 から1時間高橋明子が昼休みだった。だから今はフロントに立ってそば耳を立 てている。 「なに、なに」と弁当を食いながら蛯原が言った。 「蛯原さんの事も、公団住まいの貧乏たれって言っていたぞ」 「なんだって」 「俺とかも、どっかから流れてきた馬の骨とでも思ってんだろう」 それからしばらく斉木の愚痴が始まった。 「全く、あのジジイは最初っからそうだったからなあ。思い出すなあ、ここが 竣工した頃、AM社の懇親会も兼ねて、飯山雪祭りを見物に行った事があった じゃん、あの時、俺と山城が、管理員と清掃員をそれぞれ代表して、早い時間 に行って場所取りに行ったんだよね。山城の野郎、もう、電車の中で、ワンカ ップと柿ピーで一杯やっていた。だから言ってやったんだよ、こんなに混んで いるのに、目の前に子連れの妊婦が立っているのに、つーっと飲んでんじゃね えよ、丸で朝マックの時間帯に、朝刊を広げる散歩帰りの年金生活者みたいじ ゃないか、とかね。 そうしたら、俺の方が先に座っていたのに何で譲らないといけない、とか言 って、それにあの女は豊野駅で急行から乗り継いできたので県外のよそ者なの だ、それが証拠に、ガキの鼻水を拭いたティッシュをそこらに捨てて行ったじ ゃないか、とか。それを拾って、ワンカップの空き瓶と一緒に捨ててたけどな 、掃除夫が。 会場に着くと、雪中花火大会に備えてジジイはビニールシートを広げて場所 取りをしてよお、夜になるとだんだん混んできて、押すな押すなになって来て 、後から来た奴が羨ましそうに見ていたが、あれは、俺の畑の周りに住んでい る団地族の視線だとか言っていたよ。その内、子供を抱っこしていた母親が、 すみません、ちょっとここに座ってもいいですか? 気分が悪くなって、とか なんとか言ってきたら、あんたら甘いんだよ、こっちは昼間っからここで頑張 っているのに、今更のこのこ出て来て座れると思ったら大間違いだ、とかなん とか言ってよぉ。だから俺は言ってやったね、おーい、みんな、ここは誰の土 地でもないんだぞー、って。そうしたら、周りに居た群衆がざーっとなだれ込 んできた、ぐじゃぐじゃ状態になったな。それでも、結局、みんな、飲んだり 食ったりしたものを片付けて行かないで、最後に山城が一人で掃除をしていた から、あいつな天性の掃除夫だぜ」 ●9 (こりゃあ、空気が悪い。ここから歩いて200メートル、車で数分のところ に、ペンション兼喫茶があって、ベジタリアンフードとケーキを出している。 昼はそこに行こう)と高橋明子はフロントで思っていた。 昼休みになると実際ジムニーでペンション喫茶に行く。 ソイパティ(モスかよ)のハンバーガーとヴィーガンバナナケーキ、コーヒ ーなど食べてまったりしていたら、いきなり、本社から電話が入った。 「高橋くーん、居住者名簿をエクセルに打ち込んで、こっちにメールしてくれ ない?」 「えー、そんなの入居する度に本社に送っているんじゃないんですか?」 「それが、メールに書かれているだけで、エクセルになってないんだよ」 「えー、それをこっちで打ち込むんですかぁ?」 「頼むよぉ」 「何時までに」 「急がないから」 「コンシェルジュの仕事はどうするんですか」 「それは、蛯原さんにやってもら様に電話しておくから」 高橋明子は管理室に帰ると、室内のデスクの上にある古いFMVにバインダ ーにファイルされている居住者名簿を1枚ずつ入力しだした。 フロントの内側に新しいレノボがあるのだが、蛯原が立っていると、バイタ リスの強烈なニオイが漂ってきて耐えられない。髪の毛がイノシシ並に濃くて 、自分でカットするから、毛足が豚毛歯ブラシみたいになっている。 集中しているとすぐに時間が経過した。 3時頃にフロントに泉がきて、何か蛯原に指図されている。 「さっき助けてやったから、かわりに…」 そっから先は、こちらに聞こえない様に小声で話す。 (何を指図したんだろう)耳をそばだてて聞いていても分からなかった。 明子は、PCを見つつ、防犯カメラのモニタを見ていた 数分後、駐車場屋上の映像に泉が出てきた。 屋上出口を出てすぐ左手に止めてある理事の車の周りの雪かきを開始した。 最初プラの雪かきでやっていたが、その内、柄の方で突っつきだした。9分割 のディスプレイでも見える。 それから、スロープの方へ歩いて行った。スロープに入ると死角になって消 えた。そのまま歩いて降りるならば、直ぐに、駐車場3階の映像に出る筈だが 、映らなかった。3階駐車場の映像で映っているのは、駐車場の真ん中の通路 と左右に駐車してある車のトランクあたりまでだ。もし、スロープから降りた らすぐに、駐車している車の影に入って、そのまま、リアバンパーのあたりを しゃがみ歩きしてくれば映らないですむ。そうやってエレベーターのところま で行って、エレベーターに乗ればエレベーターカメラに映るから、非常階段で 降りてきて、居住棟エリアに入って、共用棟の裏口からラウンジあたりに行け ば、次に映るのは、今蛯原がつったっているフロントの前あたり。 居住者名簿を電子化しながら、ちらちらと防犯カメラを見ていたら、突然フ ロントの映像に泉が現れた。 ●10 リアルのフロントに泉が来て、蛯原に何か言っている。 「え、本当かっ」と蛯原は強い調子で言った。「それじゃあ」 と言ってチラッとこっちを見ると、管理室の中に入ってくる。 (おいおい、何しにくる)と思ったが、入ってすぐ左に置いてあるスチールキ ャビネット下部の事務用品の引き出しから何かを出すと、フロントに行った。 それを泉に渡して、「これで…、その後で…、分かったか」と小声で、しか し強い調子で言っていた。 (何を言っているんだろう、つーか、何を渡したんだろう) 明子は、わざとらしく「あ、そうだ、定規で押さえないでポストイットを使 えば便利だわ」というと、キャビネットのところに行ってしゃがみ込むと事務 用品の引き出しを開けた。 ボールペンだのマジックだのの引き出しは特に変わりはない。その下の引き 出しを引いてみる。ホッチキスの弾やPiTが入っているのだが、すかすかだ。 (ここに何が入っていたんだろう) デスクに戻ると、又、PCを見ながら防犯カメラのモニタを見る。 やっぱり、泉が屋上出入口左の理事の車のところに来た。しかし、しゃがみ 込んで何かをしているので、何をしているのだか分からない。 ちらちら、モニタを見ていると、30分ぐらい経過してから、泉は、スロー プの影へと隠れていって。それからどこに行ったのか、分からない。もう蛯原 のいるフロントには戻って来なかった。 「コーヒーでも飲もうかなあ」明子はわざとらしく言うと、キッチンの方に行 った。 ふと気になって、しゃがみ込むと、レジ袋に入っている割れたガラスカバー を見てみる。 よーく見ると割れた断面にセメンダインみたいなものがついている。(もし かしたら山城さんが割る前に誰かが割って養生していたのでは)
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