●長編 #0306の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
午後六時になり、全参加者はホテルに移動した。ただし、第一関門を既に勝 ち抜けた美月と村園は、他の十一人との接触が行えないように措置が講じられ ている。 銘々が食事を摂ったあと、第一関門に挑戦中の十一人は、現在の心中を語る というお題目で、インタビューを個別に受けた。当然、テレビカメラに収めら れ、適宜編集の後、電波に乗って流れる。 安孫子藤人 「何か、有名人が多いのと、テレビの雰囲気に飲まれてしまって……。実力の 一割も発揮できてません。本当は、もっと喋るタイプだし。このあと、じっく り考えて、推理を組み立てて挽回します。特にマークする人? 今の僕が誰そ れと名指しするのは、おこがましいですね。全員です」 小野塚慶子(編み物をしながら) 「この部屋に戻ってきて、やっと落ち着けた感じ。それに、これ(編み物)を していると、思考が進む気がするわ。ねえ、第一関門を突破できたら、次から はこれ(編み物)を持ち込んでもかまわないかしら。え、一番のライバル? そうですねえ……当たり前に過ぎますが、村園さんでしょう。第一関門を争う という意味で言うのなら、八重谷先生の策略には注意が必要でしょうね」 更衣京四郎(オーバージェスチャーを絶えずしながら) 「特に語ることはない。不機嫌なんだ。全関門、一位通過してやる気概でいた のだからね! だいたい何だい、村園さんは! 実質一位通過でいい気になっ ているかもしれないが、それもこれも、元はと言えば、私が名推理によって、 容疑圏外に置いてやったからだ。それを忘れないでもらいたい。ん? マーク する相手か。いないね」 郷野美千留 「やだ何、お化粧直しどころか、髪をいじる時間もくれないの? まったく、 テレビは時間ばっかり優先して……ううん、こっちのことね。それで? ああ、 現在の心境は、そうね、特に焦りも油断もしていないってところ。始まったば かりなんだから、様子見よ。今後、誰と親しくして情報を引き出すのが有効な のか、見極めたいし。ライバルはねえ、現時点だと、美月さんかしら。自分の 意見を堂々と表明する一方で、意外と計算高いのかなって。あと、番組の主旨 のライバルというのとは違うけど、村園さんは私と正反対で、興味あるわよ」 沢津英彦 「皆のいる場では、強がっていたが、やはり、元刑事という肩書きは結構プレ ッシャーになるものだと分かった。何か喋るにしても、一瞬、考えてしまう。 そんなことに神経を使ったおかげで、推理に集中できなかったと思う。だが、 もう慣れた。これからが本番だ。ライバル視する相手は――これ、他の連中が 見るのは、全部終わってからだよな? なら、言ってもいいか。気に食わない 輩はいっぱいいるが、手強そうなのは天海だ。ああいうタイプは、取り入るの がうまい。手品で人の心を開くこともできる。俺の中では、要注意人物だ」 天海誠 「誰もイニシアチブを取らないようなら、自分がと考えていましたが、更衣さ んが大いに語ってくれて、私は楽でした(笑)。彼をきっかけに、八重谷さん を始め、何人かの手の内が少しだけ、見えた気がします。逆に、村園さんの美 月さんは、勝ち抜けが早過ぎなんじゃないかなと、他人事ながら心配ですね。 参加者を観察できる折角の機会を、自ら手放すなんて。特に村園さんは、本職 のはずなのに……あ、本職だから実は自信があるのかも。ライバルと見る人で すか。まだ誰というのはありません。今の時点で実力の片鱗すら見せていない 人が、不気味ではありますね」 野呂勝平 「なんつーか、勝手が違うってのが俺の第一印象。自由に取材できないんだも んな。取材力というか情報収集能力が重要になる関門、あるんだろうな。その ときこそ、俺の腕の見せ所。おっと、それも第一関門を突破しなきゃ、始まら ねえ。勝算はあるよ。堀田のじいさんは正直だ。占い師も保険調査員も、いい ヒントとをくれたと思ってる。この借りは、返さないといけないのかねえ。デ ィテクティブバトルが終わったあとなら、返してやってもいいが(大笑)。さ て、あとはライバルだっけ。俺の経験から言って、その道の専門家ってのは侮 れない。沢津のおやじさんが本気出したら、かなり嫌な感じだろうな」 堀田礼治 「そろそろ眠りたいので、早くしてくれんかの。待ちくたびれた。大方、更衣 君辺りが、長い演説をぶったのだと思うが。うん? 眠るのは余裕の表れか、 だって? まあ、そうじゃな。正解の見当は付いておる。解答の順番がきたら、 夜中であろうと電話でたたき起こしてくれるんじゃろ。ただ、朝方まで、解答 権が巡ってくるかどうか。わざと答えないでいるような意地の悪いお人も、何 人かいるようだからね。特に注意する相手は、やはり、村園さんだの。一足早 く、真相に気付いた訳だし、その結果、今のところ、審査員のポイントも最も 高いのは確実であることだしの」 八重谷さくら 「トップ通過できないのは、最大の不覚。でも、始まったばかりだし、悲観は してない。現状で一番有利なのは、私でしょ? 探偵の能力どうこうじゃなく、 次に解答できるのは、私が一番なんだから。私がぎりぎりまで粘ったら、他の 人達は焦るに違いない。それに、村園さんに教えてもらった美月さんみたいな 幸運が、私にも訪れるかもしれないじゃない。ふふふ。注意する人? いる訳 ないじゃないの!」 律木春香 「常に採点されている気がして、一つ一つの言動が、いつもの自分じゃないみ たい。観察や分析される立場って、初めてなのよ。失点を取り返そうとして、 ばかなことを言った気もする。でも、これからは大丈夫。もっと戦略的になる わ。審査員には、できれば、さっきまでの私を忘れてもらいたいくらい。強敵 だと注意しているのは……あくまで、さっきのやり取りを元にするけれども、 美月安佐奈さん。彼女を打ち負かさないと、私のイメージは悪いままという気 がするわ」 若島リオ 「ねえねえ、外部に電話できないのって、辛いよ〜。そりゃあ、他の人の脳み そを借りたら、公平なバトルにならないっていうのは、分かるんだけどさあ。 もう、盗聴してもいいから電話させてって感じ。えっと、何だっけ? 感想? 別にカメラの前でわざわざ喋るような、面白い話はないよー。面白くなくても いいと言われたって、一応、リオはタレントでもあるんだしぃ。あ、視聴者の 皆さーん。これも作戦の一つかもしれませんよー。あほキャラを演じて、油断 させるってやつ。えっ、ライバル? キャラクター的には更衣さん、村園さん、 郷野さんかな。探偵的には、そうね――(以下、話の途中でフェイドアウト)」 一部の多弁な人は、編集で見事に短くまとめられた。ただし、若島リオが長 いのは、所属事務所の意向が働いた。と、これは余談。 決戦はこの状態のまま、翌日の午後三時まで持ち越された。八重谷さくらが インタビューでコメントした通り、解答権を行使しなかったためである。 「最終解答が目前ですが、何人かにお聞きしたいことがありますし、全員、舞 台に上がってください」 新滝の軽やかな声に、出遅れた名探偵候補十一名がステップを上がり、横一 列に並んだ。例のごとく、右端から五十音順である。各人の手には、文章にし たためた最終解答の用紙が認められた。 司会進行の井筒と新滝は、今日は下にいる。ちなみに、審査員の姿はない。 第一関門で必要とされるかどうか、未確定だからだ。 「まず、個人から。八重谷さくらさん」 井筒が言った。半歩ほど前に出る推理作家。 「あなたはこの中で最初に答えられるにも拘わらず、そうしなかった。他の人 全員から、解答権行使願いが出ていたのに。これは作戦か? それとも、推理 に自信が持てなかったのか?」 「当然、前者よ。そりゃあ、折角時間があるのだから、自分の推理にミスがな いか、ぎりぎりまで見直しをしましたけれども」 「なるほど。もう一つ、あなたには、美月さんに対する村園さんのような存在 は、現れなかったのかな?」 「どうかしら。どうぞご自由に想像してください」 尊大さを演じたような笑みを覗かせ、八重谷は答えた。 「では、念のため、他の十名に聞いてみよう。八重谷さんに『答を教える代わ りに、早く解答してほしい』と頼んだ人は、いるかい?」 両隣に視線をやるといった仕種が数人に見られたが、言葉による具体的な返 事はない。井筒は苦笑顔になった。 「結構、結構だね。探偵として、同じ手は使わないというプライドの表れなん だと解釈しておこう。最後に、全員への質問。挙手で答えてほしい。ホテルに 帰ってから、ずっと一人で考えたという人は?」 更衣、八重谷、沢津が手を挙げた。 「残りの八名は、揃って一つのグループで推理を進めたのだろうか?」 これには、天海が「いいえ」と首を軽く振りながら答える。 「私は堀田さんとだけ、話をしました。ポイントを確かめる程度でしたね」 「さよう」 うなずく堀田。二人が同じ答えに達したかどうかは不明だが、ともに自信あ りげだ。 「他は」 井筒が促す。残る六名が、ちらちらと互いの顔を見合い、やがて若島が手を 挙げながら、元気よく答えた。 「リオは、電話できなくて寂しかったせいもあって、年齢の近い人を誘ってみ ましたぁ。最初に安孫子君で、彼は賛成してくれた。次に更衣さんを誘ったん だけれど、断られちゃった。最低三人にはなりたかったから、仕方なく、次に 年齢の近い郷野さんのところへ行ったら、乗ってきてくれたわっ」 「仕方なくって、リオちゃん、そんな風に思っていたのね」 膨れっ面をしてみせる郷野。それを真似る若島。この二人を相手させられた 一回の大学生は、さぞかし疲労したに違いない。 「その三人で終わり?」 「ええ、そうよ」 郷野と若島がハモった。 「じゃあ、残りの三人で、最後のグループだ」 律木、野呂、小野塚らは銘々に首肯した。 「野呂さんからゴシップ話を聞くことが、大半でしたけれどね。いつの間にか、 時間が過ぎてしまってました」 そう嘆きつつも、小野塚は満足そうだ。まるで、ここで敗退しても家族によ い土産話ができた、といった体である。 「あんまりおおっぴらにしないでくださいよ。中には、完全オフレコのネタも あるんだから」 野呂もまた上機嫌で、そんなことを小野塚に頼む。 唯一人、律木だけは、げんなりした表情になっていた。 井筒は時計を、そしてテレビ局のスタッフの動きを見てから、締め括りに入 った。 「なかなかユニークな推理談義が展開されたようで、私も羨ましくなってくる よ。それじゃあ、そろそろ解答を提出してもらうとしよう。諸君の解答は速や かに判定され、合否が告げられる予定だ」 井筒が話す間、新滝が集めて回る。俳優が本職の彼女だが、アシスタント役 も板に付いていると言えよう。 「出し忘れはないね? 名探偵候補達は席に戻り、しばらく待っていてほしい。 緊張をほぐすために、雑談でもどうぞ。録音はしないよ」 そう言い残すと、井筒は新滝とともに、舞台裏へと姿を消した。 待たされること、約三十分。十一人の前のステージに、井筒と新滝が再び姿 を見せた。新滝の手には、光沢のある白い封筒が握られている。 「『プロジェクトQ.E.D./TOKIOディテクティブバトル』、第一関 門・ばば抜きの最終結果を発表する。最初に、諸君達十一名の内、不正解者は 一名のみだったことを断っておく。大変優秀だと感心する。と同時に、この関 門では審査の必要はなくなった、つまり不正解者イコール脱落者になる訳だ」 話の中途で、決して小さくないざわめきが起きたが、井筒はかまわなかった。 むしろ、反応を楽しむかのような節がある。 「それでは、舞台に上がってください」 新滝が言い、司会二人と挑戦者達は位置を入れ替わった。 改めて舞台上に整列した十一名に、新滝が見上げながら手順を説明する。と いっても簡単に、「名前を呼ばれた人は、一歩前に出てください」これだけ。 彼女から白い封筒を受け取った井筒は、それを横長になるように持ち直し、 もったいを付けるかのようにゆっくりと開封した。そうして、確認のニュアン スか、小さくうなずく。 「では、発表する。――安孫子藤人。更衣京四郎。天海誠。八重谷さくら。律 木春香」 五名が前に出たところで、封筒の書面から顔を起こした井筒。舞台上の緊張 した面持ちを見つめるが、喋るのは新滝。 「名前を呼ばれなかった方、第一巻突破です。控室でお休みください」 後方の六名が、程度の差こそあれ、ほっと息をつき、表情を緩める。沢津す ら、厳めしさを保ちつつも、手で密かにガッツポーズを作っていた。 対照的なのは、名を呼ばれた五人。合格者が退場する間、複雑な表情をなし たり、どう反応していいのか困惑している様が見られたりした。 「さて、残された五人の中に、不正解者がいる」 井筒が念押しした。 「賢明なる諸君はお気付きと思うが、この五人は、単独で推理したという二人 と、三つに分かれたグループからの一人ずつという構成になっている」 八重谷の目付きが、それが?と言いたげな、きついものに急変する。井筒は 先を急いだ。 「天海さん」 「はい」 「あなたの解答は素晴らしかった。論理的であることはもちろん、簡潔さでも 群を抜いていた。十一名に限って言えば、最高点を取った。合格だ」 「ありがとうございます」 一礼し、新滝に目で確認をしてから、天海は退場した。 「更衣さん」 「はいっ」 俯きがちであった更衣が、元気よく面を起こした。 「君は途中、推理を披露していたが、それを捨てたね。どうして?」 「間違いを改めるのを恐れていては、名探偵にはなれません」 「間違いに気付いたきっかけは?」 「それは……やはり、村園さんと美月さんの言葉が大きいかと」 声が小さくなる。更衣にとってこれを認めるのは、屈辱なのかもしれない。 井筒はまたうなずき、一気に喋った。 「君の解答も、その喋りに比べると、だいぶまとまっており、悪くはなかった。 合格だ」 「――感謝します」 更衣は左胸の上に右手を当て、天を仰ぎ見る仕種をした。そして足早に立ち 去る。 「次は、八重谷さん」 「――」 推理作家は息を飲んだようだ。無言のまま、特に求められてもいないのに、 前に進み出る。 「あなたは策に走りすぎのようだと、個人的に思う。序盤から敵を作ることに、 抵抗感はない?」 「……それでも勝てると信じていますから」 「その自信の表れなのかな、解答文が長い。十一人の中で最長だった。さすが に文章はお上手だから、読みにくくはなかったが」 「次から注意します」 殊勝な態度だが、この物言いでは、既に勝ち抜けを確信していることになる。 井筒は苦笑をこらえ、結果を告げた。 「ぜひ、そうしてもらいたい。合格だ」 「――どうも」 澄まし顔で受け、悠然と退場した八重谷。 ステージにはあと二人。律木が前を見据えた姿勢を崩さないのに対し、安孫 子は落ち着きなく、きょろきょろする。 「さて、残すは二人だけだ。一人ずつ、話そうか。安孫子君」 「は、はい」 声が裏返っている。未だに安孫子は慣れないらしい。 「インタビューでも答えていたが、君は周りの名のある人物達に圧倒されて、 緊張しているようだ。実力を発揮できていないのでは」 「だと思います」 「たとえば小野塚さんも一般の主婦だが、特に緊張もせず、のびのびやってい るように見受けられる。あのくらいリラックスできたら、実力を出せるかな?」 「多分……」 「次に進めたら、もう大丈夫かい?」 「そうなるように努力します」 短い返事に終始した安孫子。井筒は律木の方に目をやった。 「律木さん。あなたはテレビ出演の経験があり、緊張はしなかったが、それが 逆に気負いにつながったように見える」 「それは……あったかもしれません。自分では分かりませんが」 「具体的に名前を挙げると、美月さんの存在が気になった?」 「ええ……インタビューで答えた通りですね」 これについては多くは語りたくない、そんな含みのある口調だ。 「なるほど。さて……頃合いだ。発表と行こうか」 今一度、文書に視線を落とす井筒。下を向いたまま、低い声を発した。 「律木さん」 「は、はい」 「――おめでとう、合格だ」 ふーっと肩で息をする律木。安孫子はしばし天井を仰ぎ見、そのあと身体を 折るようにして、両膝に手をついた。 律木はそんな安孫子に近寄ると、何やら声を掛け、激励する仕種を見せた。 安孫子は礼を返し、退場する律木を見送る。 「今、話を聞いても大丈夫かな」 「ええ、大丈夫です」 ここに来て、スムーズに受け答えする安孫子。 「組んでいた若島君や郷野さんが正解して、君が不正解に終わったのは、どう してだい? 答を教え合わなかったんだろうか」 「互いに、重要と思えることを列挙しただけで、最終的な推理は自分で組み立 てようという約束でしたから。同じ手掛かりを得ながら、あの二人は正解し、 僕は間違えた。それだけです」 「安孫子君は、村園さんと美月さんの言葉そのものを疑ったんだったね。ジョ ーカーは第一関門の内容全てを、予め知っていた。だから、ステージでの撮影 が始まる前に、目的の人物に話を持ち掛け、共犯関係を作っておく。全員での 議論の場も、自分に都合のいいようにコントロールした、と。それらを総合し て、村園さんこそがジョーカーであると推理した訳だが、今でも自信を持って いる?」 「外れと言われたあとも自信を持っていたら、ばかでしょう」 自嘲気味に笑うと、安孫子は真顔に戻った。 「そう言えば、正解は教えていただけるんですか。放送があるまで、お預けで すか」 「君次第だ。あくまで自力で解きたければ、聞かずに去るのもよし。知りたけ れば、この場で教えよう。無論、放送があるまで、この正解に限らず、番組の 具体的な内容を第三者に口外するのは、契約義務違反になるから注意すること」 選択を迫られた安孫子は、しばらく考え込んだ。が、やがて口を開く。 「……僕は、制限時間内に解けなかった。今さら解いても、それは負け惜しみ 程度の慰めにしかならないと思うので、正解をすぐに教えてください。解き方 を会得するために」 「よかろう」 井筒は文書を封筒に仕舞うと、新滝に渡した。代わりに、より長文の印刷さ れた用紙を受け取る。それをちらちらと見やりつつ、正解の発表を始めた。 「覚えているだろうか、第一関門のテーマを告げる直前のことを」 「直前……」 見当が付かず、不安の色を濃くする安孫子。井筒は言った。 「私はこう言った。『先程、私は十三名の参加者を紹介した訳だが……実は、 この中に一人、嘘つきがいる』と」 「それなら、何となく覚えています」 「ではこの台詞のあと、しばらく間を取ったことは記憶にあるかね」 「ええ。随分と間延びするなあ、台本を忘れたのかこの人、なんて感じたくら いですから」 今度は喜色満面で肯定したが、井筒に対して失礼に当たると気付いたか、安 孫子はすぐに静かになってしまった。 「実は、あれこそが最大のヒントだ。正解そのものと言ってもいい」 「どういうことなのか、まだ……」 「『嘘つきがいる』云々と、それからあとの台詞は別物と考えろという合図だ ったんだよ、あの間は」 「別物……合図……ってまさか、これ、叙述トリック?」 口を開けっ放しにし、何とも言えない表情をする安孫子。やられたという感 じが全身に出ている。 「さよう。正確には叙述ではなく、朗読トリックかな。経歴を見ると、君の得 意分野だと思ったのだが」 「……詳しい説明を、お願いします」 「『私は十三名の参加者を紹介した訳だが……実は、この中に一人、嘘つきが いる』という台詞に、錯誤を誘発する仕掛けがある。『この中に』とは君達参 加者十三人に加え、この私、井筒隆康も含まれる」 「なるほど、ね」 安孫子は薄笑いを浮かべた。あとは彼自身が正解を語っていく。 「あのたっぷりの間以降は、井筒隆康は嘘をついても許される立場に立った訳 だ。事実、あなたは僕らの質問に答えるとき、嘘を混ぜていた気がする。あな たがジョーカーなら、僕ら全員が別々の名前を答えたのに、誰も合格者が出な かったことにも納得がいく。そうか! 村園さんの言っていた全員協力のメリ ットがなくなるという話、こういうことだったんですね。十三人の誰もジョー カーでないのなら、ジョーカーだけを脱落させるというメリットが消滅してし まうんだ……。美月さんの言った記憶力の意味も、ようく理解できました」 悔しがっていたのが、いつしか得心し、ついにはだまされる快感を味わった とばかりに、笑顔になった。 「これは推理小説ではない、だから、まさか叙述トリックはないと思い込んで いた僕が甘かった。完全な負けです」 安孫子は改めて敗北を認め、きびすを返した。そうしてステージを去る。 * * 予告:次回の『プロジェクトQ.E.D./TOKIOディテクティブバト ル』は……。 井筒「第二の関門は運試し。名探偵の持つ運がテーマだ」 「何でこんな仕打ちを、私が受けなくちゃならないのよ」 「現実でも、ここまでのアンラッキーはあり得ない!」 「もう、手掛かりの方から勝手に飛び込んでくる感じ。笑いが止まらないね」 「そんなのありかよ! 聞いてないっ」 「頭の中、ぐちゃぐちゃ。一からやり直さないと……」 お楽しみに。 ――1stステージ.終了
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「●長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE