●長編 #0231の修正
★タイトルと名前
親文書
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
■Side B 気になった事があって、ゆかりは図書館にやってきた。 事件の事で調べたい事があったのだ。 関連のある文献を見つけて、それを何冊か手に取り閲覧室に入る。 この時期、受験生が多いので見知った三年生の先輩に出会うこともよくある だろう。 ただ、こんな時に貴耶子先輩に会ってしまったらどうなるだろう。泣き出し て先輩に迷惑をかけてしまうかもしれない。それだけは避けたかった。 席につき、深呼吸をしながら専門書のページをめくる。最初の本は難解で理 解するのに苦労した。 そこで、入門書と書いてある本から読むことにする。 専門的な用語が多いが、なんとなく読みとる事はできた。さきほどの難解な 書物の用語もこれで少しはわかってくる。 数時間、そうやって活字と格闘をして、重い内容の本をなんとか理解した。 後は裏付けをとるだけだ。 でも、自分は何をやっているのだろうと空しくなる。こんな事を証明しても 何もならないのかもしれない。 彼女はもう戻ってこないのだ。 図書館から出ると日も暮れていた。黄昏の柔らかい光に身を任せて、しばら くぼんやりとする。 そして憂鬱な気分のまま、ゆかりは帰宅した。 次の日の放課後、行くべき場所は決まっていた。でもそこに行けば真実が見 えてしまう。だから、ゆかりは躊躇していた。 誰もいなくなった教室で窓の外を眺めている。 問題はゆかりが考えているほど単純ではなかった。そして、それが真実なら ば彼女がどうすることもできない問題でもあった。 でも、ゆかりは思う。 もう少し早く美咲と出会っていて、もう少し早く気付いてあげることができ たのなら……。 仮定の話はやめよう。ゆかりはそう決心して歩き出す。 ノックをして扉を開ける。 「失礼します」 「どうした香村? 気分でも悪いか? そういえば顔色も良くないな」 保健の館花養護教諭が心配そうに近づいてきて、ゆかりのおでこに手を当て る。 二十代後半の女性で、気が強い面もあるが基本的に病人には優しい。 「あ、いえ。そういう訳じゃないんです。お話があってきました」 ゆかりが入ってきてすぐに名前を呼んだところから、大抵の生徒の顔は覚え ているだろう。とくに保健室にやっかいになる回数が多い生徒ほど、覚えられ やすいのかもしれない。 「どうした? そんな改まって」 「二年生の川島さんて人を覚えていますか?」 「ああ、川島美咲だろ。覚えているが、なんでだ?」 「ここに通っていたんじゃないかって」 「よく知っているな。朝、登校しても気分が優れないって、ずっとベッドに寝 ていたこともあったぞ。夕方になると回復して部活だけ出て行くって事も何回 かあったな」 「やっぱり……」 「何を一人で納得しているのだ?」 館花は不思議そうにゆかりを見る。 「先生はお気付きになっていましたか?」 ゆかりは上目遣いに彼女の表情を窺う。 「……香村は川島美咲の何を知りたい?」 彼女の顔つきが急に険しくなる。何かを知っている顔だった。 「気付いていたんですね」 鎌をかけてみる。もしそうなら軽々しく他人に教えないはずだから。 「コーヒー飲むか? 立ち話もなんだから、そこ座っていてくれ」 そう言ってベッドの上を指差す。 「すいません。コーヒーは苦手なんでそれ以外にしてもらえますか?」 「わかった紅茶を入れてやろう。いいアッサムが手に入った。ちなみにミルク ティは飲めるな?」 「はい。お願いします」 椅子に座って数分で、ゆかりの手に飲み物が渡される。ブタのかわいらしい イラストが入ったマグカップだ。 「熱いから気をつけろ」 「はい」 そう言って、一口すする。 「熱ぅ!」 「ほら言っただろうが。それで、香村は何が知りたい? それを知ってどうす るのだ」 館花の視線が痛かった。それは自分が興味本位で他人のプライバシーを覗こ うとしていると自覚していたからだ。 「真実です。先生は噂をご存じですか?」 「ああ、あのくだらない噂か。本当にくだらないな」 「そうですね」 館花はすべてを理解している口ぶりだった。 「真実と言ったな。それを知ることで香村は何を得る」 「何も得るものはありません。でも、真実が知らされないで悲しむ人はいます」 「ああ、嫌な噂だったな」 「だから、嘘でもいいから事故だったと学校のみんなが納得できればいいなと 思いました。でも、しょせん嘘は嘘でしかないんです。ごまかしが効かないの であれば、真実を公表するしかないと思うんです」 「それは本心か?」 「いえ、ゆかりは真実なんてどうでもよかったんです。ただ後悔しているだけ です。でも、悲しんでいる人がいて、それに対して一生懸命になっている人が いて、だから、真実を見つけることしかゆかりにはできないから」 「おまえも無理はするな。そういう傾向はある。ただあの子とはだいぶ違うが な。責任を感じることはないのだ」 「……」 「責任があるとしたら、私にもある。担任や顧問にも言っておいたが、養護教 諭という身分で強引な事はできない。私ができるのはアドバイスだけだったか らな」 「先生。はっきりと真実を教えてください。ゆかり自身が納得するために」 「言っておくが、これは真実とは違う。今となってはもう誰にも真実はわから ない。だから、これは現段階で一番可能性の高い推測でしかない」 「でも、先生はそれが一番真実に近いと納得なさっているのでは?」 「そうだな。だが、香村自身も同じ推測に辿り付いているのだろう? それで も残酷な言葉を他人から聞きたいのか?」 「ゆかりの知識は付け焼き刃だから曖昧な部分も多いんです。だからきちんと した人の意見を聞いて確認したいだけなんです」 「そこまで言うなら話そう。少々専門用語が出てくるが、ついてこられるか?」 「お願いします」 ゆかりは深呼吸をする。 ■Side A 「怒られないかな」 浩子がちょっと心配そうです。 「だいじょーぶだよ。バレなきゃ」 成美は相変わらず肝が据わっているようです。 「まあ、やるしかないでしょ」 慶子は少しあきらめ気味。 「ごめんね」 由衣はいちおう謝っておきました。これから、屋上への扉を塞いでいる板を 取り除いて、そこから出ようとしているのですから。 多分、教師に見つかったら大目玉を食らうに決まっています。見つからない ことを祈りつつ作業へと入りました。 浩子は見張り役で、残り三人でバールを使ってこじ開けます。 作業自体は五分ほどですみました。 鍵は壊れているらしいので、そのままノブに手をかけます。 「いい? 開けるよ」 由衣はみんなに合図をします。 「せーの」 軽く扉を内側に引くと簡単に開きました。外からの風がふわりと頬を撫でて いきます。 一歩屋上へと踏み出すと、そこには青空が広がります。遮蔽物があまりない ので、爽快な気分になれます。 「あ、風が気持ちいい」 慶子がそんな第一声を上げます。 「あ、タバコの吸い殻発見」 床に落ちていたそれを成美はあざとく見つけます。事件が起きる前はそうい う場所だったのでしょうか。 「浩子、もうちょっと待っててね」 由衣は階段下の踊り場で見張っている彼女に声をかけます。 「ねぇねぇ、ベンチがあるよ」 なぜか屋上にはベンチが数箇所設置されていした。 「昔はさ、屋上でお弁当とか食べられたそうだよ。一般生徒にも開放していた らしい。その名残だね」 物知りの成美がそう説明してくれます。 「ここに寝転がるとホント気持ちいいよ。一面に空だ」 慶子がベンチのところで仰向けになり、空を仰いでいます。 「さて」 由衣は美咲が転落したと思われる場所に向かいます。西側のコの字に窪んだ 所が中庭の方向でしょう。 建物の端から三メートルほど手前に金網がありました。下から見て金網に気 付かないのはこのためでしょう。金網の高さは二メートル以上、有刺鉄線等は ついていませんが、向こう側に行くためにはよじ登らなければなりません。彼 女は念のため、屋上の金網をぐるりと一周して穴などが開いていないかどうか 確かめました。 結果的には人が通れるような部分はなく、意図的に乗り越えない限り建物の 端までいくことはできない状態です。 「よし!」 こうなったら試しによじ登ってみるまでです。由衣は気合いを入れて金網に 手をかけます。 「わ! ほっちゃん何やってんの?」 慶子の驚きの声が聞こえてきます。それを無視して乗り越えると、恐る恐る 建物の端まで行ってみます。 とはいっても、そのまま平らな状態なのではなく、建物の端には段差があっ て、欄干のようにちょうど由衣の胸あたりの高さまであります。 ふと下を見ると、段差の手前に何かチョークのようなもので書かれた痕があ りました。たぶん、美咲はここから落ちたのでしょう。 段差の部分を手すりのように押さえながら、真下を見ます。高いところがあ まり得意ではない彼女は、目眩を感じてすぐに身体を手前に引きます。 「!」 ここで由衣はようやく気付きました。段差の部分が自分の胸あたりまである ことの意味を。 もし彼女を落とした犯人がここから下を覗いていたとしても、胸から下の部 分は見えません。かなり身長がある人でなければスカートが翻るような事はな いでしょう。 もちろん、見間違えたのだと目撃者が言えば、それまでの事です。追求する ことなどできません。 頬に手を当てながら由衣は考えます。香織が犯人だという噂は、本当に状況 を知らない誰かが作り出したのでしょうか? 由衣は「一つだけ確認したいことがある」と紗奈をこの場所に連れてきても らうことにしました。大人数で話すと彼女も怯えてしまうと考え、自分一人が 残ることにします。 紗奈が来る間、頭の隅で引っかかっていたことを整理してみます。 目撃証言がなければ、自殺か事故と処理されていたかもしれないこの事件は、 もし犯人がいるとしたら念入りに計画が練られていたはずです。でなければ、 わざわざ朝練で部活の生徒たちが何十人も来るような時間帯に犯行を行わない でしょう。 例えば、なんらかの事件性があり、それに巻き込まれた美咲が屋上に呼び出 されたとしてもあの金網を越える事を彼女は承知するでしょうか? 無理矢理 であれば悲鳴や言い争いの声が周りに聞こえないはずがありません。早朝の静 かな時間帯ですから、わずかな物音でさえ由衣たちは気付いたでしょう。 あの日、落下音以外は物静かな朝でした。それが何を物語るのか。 可能性は二つです。一つは美咲がすでに殺されていたということ。あの時聞 いた落下音はダミーで、綿密に練られたトリックであるという仮説。 もう一つは……。 「堀瀬さん」 由衣はその声で振り返りました。 そこに立っていたのは由衣と同じ髪の長い少女、香村ゆかりでした。なぜ彼 女がここにいるのでしょう?
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「●長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE