●長編 #0230の修正
★タイトルと名前
親文書
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
■Side B 今日、帰り道に美咲の母親を見かけた。 少し疲れた感じで、やつれ気味だったのが気になる。ゆかりは心配になって その姿を追いかけていた。そしたらふいに目が合って挨拶をされてしまった。 葬式に参列したことを覚えていてくれたみたいだ。 「美咲のクラスメイトの方ですよね。この間はありがとうございました」 参列者はクラスメイトだけじゃなくて、他にも大勢の人がいた。なのに、ゆ かりのような目立たない子を覚えてくれるなんて、と少し驚いた。 「いえ、こちらこそ。何もお手伝いが出来ずに申し訳ありませんでした」 こういう時、ゆかりは何を言っていいかわからなくなってしまう。上辺だけ の大人の言葉は嫌だし、かといって気の利いたことを言えるほど彼女は大人じ ゃない。 「あの、少しお話をさせていただけないでしょうか? あの子の話を少しでも 聞かせていただけたらありがたいのですが」 ふいにそんな事を言われて戸惑ってしまう。ゆかりはそんなに親しかったわ けではない。でも、美咲の母親の顔を見ていると、些細な事でも話してあげる 方がいいのではないかと思えてくる。 「はい。ゆかりでよければ」 ゆかりは川島家へと招待される。立ち話もなんだからお茶でもどうかと、家 へ上がるように促されたのだ。 居間に案内され「お茶を入れてきます」との事で、美咲の母親は奥の方へと 行ってしまった。 目の前には仏壇があり、美咲の遺影が飾られている。 ゆかりはその前に座り目を瞑って、両手を合わせて彼女の冥福を祈る。信仰 のない彼女にとっては形だけの儀式ではあるけど、それでも祈らずにはいられ なかった。 どんなに祈っても彼女には届かないかもしれない。けど、それでも彼女は言 い訳のように美咲に対しての謝罪の言葉を呟く。気が付いてあげられなくてご めんなさい、と。 お通夜の時も葬式の時もずっとゆかりは謝り続けていた。 自然と涙がこぼれる。 (だめ。だめだよ……お母さまの方がもっと辛いんだから。なんでゆかりはこ んなにも弱いんだろう) 「香村さん。はい、どうぞ」 気が付いたら美咲の母親が近くにいて、ハンカチを差し出してくれた。 それがきっかけで堰を切ったかのようにぽろぽろと涙が流れていく。 ゆかりは、ほんの些細な美咲との関わりを丁寧に話した。それはまるで懺悔 をするかのようだ。 声をかけてくれてうれしかったこと。友達になりたかったこと。そして、何 もできなかった自分。 「あの子はね。昔っから気性の激しい子だったのよ」 美咲の母親は、ぽつりぽつりと彼女の事を話してくれた。 「機嫌がいいときは何がうれしいかわからないほど有頂天になったり、落ち込 んだ時はひどく元気がなかったりしたの。朝、ものすごく気怠そうにしていて 学校を休んだかと思うと、部活の練習にだけ行くこともあったわ。わたしはそ んなあの子にちょっと手を焼いていたのかもしれない。自分の仕事が忙しい事 もあって、半ば放任していたところもあったと思うの。そこが今でも悔やまれ るわ。わたしは本当にあの子のことは何もわかっていなかったのではないかっ て」 穏やかな語り口。でも、すべてをあきらめてしまったかのようにも感じる。 「それはしょうがないですよ。ゆかりのお母さんもゆかりのことをすべてわか ってくれているわけじゃないですから」 それが気休めにしかならないことはわかっていた。 「ありがとうね。そう言ってくれると少しは心が楽になるわ」 美咲の母親は気丈に微笑んだ。その顔がとても痛々しく思えてくる。 「……いえ」 「そうそう、そういえばよく喧嘩もしたわ。『お母さんはわたしの事、全然わ かってない』って、よくあの子は言っていた。あの日もね、些細な事で喧嘩し て、家を飛び出してしまったの」 「え?」 そんな事があったのだとゆかりは驚く。ということは、彼女が公園で出会っ た時、美咲は家を飛び出した直後だったのか? 「夜中になっても帰ってこないから心配していたら、あの子から電話があって ね「しばらく頭冷やすから」って言っていたの。わりと楽しそうな口調だった から、誰かの家に泊まりに行っているのだと思って安心して眠りについたわ。 そしたら朝方に学校から連絡があって……」 美咲の母親の言葉はそこで閉ざされる。言われなくてもその後の事はわかっ ていた。 ゆかりは、わざとらしくならないように別の話題を持ちかける。美咲のもっ と過去の話、学校の話、そしてよくある世間話。 娘の話を続けるのは苦でしかないだろう、そうゆかりは勝手に判断した。そ れ以上は美咲の母親の痛々しい姿を見ていられなかったからだ。 話を切り上げて家を後にする。結局、母親には事件の噂は話さなかった。殺 されたとかそんな話をするわけにはいかなかった。それが真実かどうかはゆか りにはわからない。無責任な事は言いたくなかった。 次の日の放課後、ゆかりは由衣に声をかける。 こちらから声をかけるのは初めてなので、とても緊張した。 「ねぇ、ちょっと話があるんだけどいい?」 その言葉だけで鼓動が高まる。なんでこんな事でドキドキするのだろう、と ゆかりは自分自身が滑稽に思えてくる。 「え? 私?」 案の定、由衣は驚いた顔をしている。 「うん。帰り道、どっか人のいないトコで」 自分で言っていて恥ずかしくなってしまった。ちょっと意味を取り違えると とんでもないことになりそうだ。 「わかった。ちょっと待ってて、帰りの支度しちゃうから」 そう言って彼女は、ごそごそと机の中の物を取り出すと廊下にあるロッカー に行き、乱雑にその中に詰め込んでいく。結局、持ち帰る鞄の中には巾着が一 つ入っているだけだ。外見は整った顔立ちをしているから、一見性格もきちん としていそうに見えるが、大雑把なところはゆかりと重なる部分もあり、なん だか親しみが湧いてくる。 用意ができた彼女と一緒に帰るも、何を話していいのかわからない状態だ。 事件の話は人がいない所でないとできないし、かといって彼女と親しいわけで はないので普通の世間話が難しい。 「今日、天気いいね」 由衣がぎこちなくそう言った。 ゆかりはそれに対して「うん」としか答えられなかった。 「明日も天気だといいね」 ゆかりはそれに対して「うん」としか答えられなかった。と「なぜか付き合 い始めのカップルみたいになってるぞ」とゆかりは心の中で一人ツッコミを入 れる。 とても気まずい雰囲気が流れる。妙に意識してしまっている自分も変ではあ るのだが。 「森*剛くんってさ、かっこいいよね」 興味のない名前を出されたので聞き取れない。芸能人の名前かもしれない。 「そうなんだ」 と、答えるしかなかった。さらに気まずい空気。無言のまま歩く二人。 端から見たら怪しい二人にしか見えないだろう。 本当はどこかのお店に入ろうかとゆかりは思った。でも、手近な公園で済ま せるべきだと考える。無邪気に遊ぶ子供達だけなら、話を聞かれることもない だろうから。 たしか、この近くに小さな公園があった事を思い出す。美咲と会ったあの公 園でもある。 砂場とベンチがあるだけの小さな公園。といっても、手入れとかされていな いので雑草とかごみが散らばっている。古い公園なので、あの砂場も野良猫の トイレにしか機能していないのかもしれない。 公園に着いてゆかりたちはベンチに腰掛ける。 どこから話そうかと悩んでいると、由衣の方から聞いてくる。 「何か情報が入ったのですか?」 「うん。もしかしたら聞いているかもしれないけどね。川島さん、事件の会っ た日の前の夜、お母さまと喧嘩して家を飛び出した見たいなの。あとね、これ は言いそびれてたんだけど、その時にここの公園で彼女に会ってるの。でも、 これといって変な様子はなくて……ううん、もしかしたらゆかりが気付かなか っただけかもしれないんだけどね。それでその後、どこに行ったのかはゆかり は知らなくて。で、夜中に川島さんからお母さまのところに電話があったらし いの。『頭冷やしてくる』みたな事を言ってみたい。でも、楽しそうに喋って たから、もしかしたら近くに友達がいたのかもしれないって」 「ということは、彼女は誰かの家に泊まったって事?」 「それはわからない。けど、それでお母さまは安心して寝られたというから、 何かの事件に巻き込まれたとかそういう状況ではなかったみたい」 「その後、友達と喧嘩になったとか。うーん……いちおう聞いておくけど、香 村さんは川島さんを泊めてはいないよね」 「まさか、ゆかりはそんなに親しくないって。あの日だって、たまたま出会っ て、ほとんど話を聞いていただけだから」 「そう、ありがと。別に疑っていたわけじゃないから安心して」 「うん。あ、今の話は誰にも言わないでね。お母さまがかわいそうだから」 「わかったわ」 「で、堀瀬さんの方はどうなの? 真犯人の目星はついてきたの?」 「それが、まだぜんぜん」 「犯人の動機とかは?」 「それ以前の問題かも。校内への侵入経路さえ見つからないの」 「でもそういう場合は、とりあえず動機から探って犯人に目星をつけてからア リバイとかを切り崩していくんじゃないの」 ゆかりの素人考えではそう思えた。 「うん、まあね。でも、今の段階で動機だけで考えると、一番疑わしいのは水 菜さんになっちゃうから」 「恨みとかそういうのは?」 「嫌いっていう人がいても、恨んでいる人はいないと思う。気性が激しいけど カラッとしているから、性格的に根に持たれそうなタイプじゃないし……まあ、 本当のところはわからないけどね」 そう言って由衣は一冊のノートを取り出す。 「なにそれ?」 「一応ね、私が今まで調べてまとめたデータ。香村さんの意見を聞かせてくれ ると嬉しいな」 彼女からノートを受け取ると、中身に目を通す。細かい丸っこい字。そこに は、事件があった日の各部活のタイムスケジュールと現場の簡単な見取り図、 犯行推定時刻、それから川島美咲に関する詳細が書かれていた。 初めは簡単なプロフィールから始まり、彼女の性格分析が推測のもとに書か れている。 ********************************************************************** 川島美咲。家族構成は祖母、母との三人暮らし ○○○○年7月30日生まれ 獅子座 O型 二年C組 交友関係は広く浅く、陽気な性格の為か男女関係なくすぐにでも仲良くなれ るタイプのようだ。気性が激しいので長く付き合うには難しいという子もいた。 気性が激しいと言っても明るくなるか暗くなるかというだけだ。基本的には根 に持たないタイプらしく、恨みを買うような事もないだろう。 親友と呼べる友達は今のところ確認していない。もしかしたら、そのように 呼べる友人はいないのかもしれない。 よく授業をサボることもあったが、部活だけは真面目に来ていた。 ライバルの水菜香織とも深刻なトラブルもなく現在に至る。二人は部活以外 での交友は少ないため、トラブルを起こすこともなかったようだ。部活以外の 交友があったとしても私:堀瀬由衣やその友人たちが関与している場合が多い ので八割方は把握していると思われる。(例:部活が休みの日にみんなでショ ッピングに行った事もあった) ただし、水菜香織以外とのトラブルに関しては今のところ確認がとれず。 もし彼女がトラブルを起こすとしたら、やや自信過剰なところがあったとこ ろか。でも私:堀瀬由衣にはその傾向は窺うことはできなかった。 ********************************************************************** ゆかりはそれを読んでいくうちに何かに引っかかった。 由衣から視た川島美咲。 母親から視た川島美咲。 学校での川島美咲。 そしてゆかりから視た川島美咲。 みんな同じで何かが違う。ひっかかる部分に心当たりはあった。 ■Side A ゆかりに会った後、由衣はその足でさっそく香織に会うことにしました。こ の時間ならあの運動公園で練習しているに違いありません。 ゆかりの話を聞いて一つだけ確認したいことがあったのです。 公園に着くと案の定、香織を見つけることができました。 前みたいに練習に集中しているようなので、頃合いを見計らって声をかけて みます。 「水菜さん」 「あ。ああ、堀瀬か。どうしたの?」 彼女は汗だくになっていたようで、いったんタオルを取りに柵のところまで いくと、再びこちらへと戻ってきます。 「ちょっと聞きたいことがあってね」 「なに?」 「川島さんて仲の良い友達いなかった?」 「友達?」 「うん、気軽に泊まりに行くことができるような友達がいなかったかなって」 「いないんじゃない」 考えるまでもない、との感じでした。 「やっぱり」 「堀瀬も部活一緒にやっててわかったと思うけど、あいつ表面的な付き合いし かしないんだよ。うわべは陽気な奴だから話は盛り上がったりするけどな。で も自分のことは絶対喋ろうとしないだろ」 「それはなんとなく気付いていた。でも、私の知っている彼女が全てじゃない から。だから、部活中だけでも一番近くにいた水菜さんの方がわかると思って」 「ライバルとしてね。そうすることがお互いの技術の向上を促すと思っていた だけ。それ以上の事はあたしにもわからない」 「……」 由衣は一番確認したかったことを彼女に問います。 「一応聞いてみるけど、川島さんを泊めた事はある?」 答えはわかっていました。 「ないよ」 彼女は即答します。嘘をついているようには思えません。いえ、嘘をついて いても今の由衣にはそれが見抜けないでしょう。 だから、検証する為に可能性を一つ消します。もしも真実に辿り着かなかっ た時は、再びここに戻ってくることになるでしょう。効率は悪くなりますが、 今の由衣に出来る精一杯の事です。 そして残る問題は誰が水菜さんと行動を共にしていたのか。 考え事をしながら家に戻ると、門の前で見知った顔を見かけます。成美と慶 子と浩子の三人でした。 「あれ、どうしたの?」 由衣はいつものように親しげに声をかえました。 「ほら、ほっちゃんはあんな感じだからさ」 成美はなぜか苦笑いをしています。 「でもさ、いちおう謝っておかないと」 「そうだよ」 慶子と浩子が由衣の前へと立ちます。 ただ、当の本人には状況が把握できていません。 「あのね、ほっちゃん。あたしたち謝りたいんだよ」 「そうそう。こないだ怒らせちゃったじゃない」 「うん。わたしたち反省してるから」 「ん?」 由衣は首を傾げます。 「悪かった。軽々しく噂だけで人を判断しない」 「あたしも誓います」 「同じく誓います」 そこまで言われてようやく由衣は気付きました。この間、頭にきてつい怒り 出してしまったことが原因のようです。 「うん。まあいいよ」 彼女は気軽にそう言いました。謝ってくれるのなら、それ以上は言うことは ないのですから。 「許してくれるの?」 「ありがとう」 「まあ、そう言うと思ったよ」 三人は一様に胸をなで下ろしたかのように……若干一名違う人もいますが。 由衣はちょっとだけ意地悪心をくすぐられて、提案をしてみることにします。 「許してあげるから、一つだけなんかお願いを聞いてもらうってのはどう?」 「……」 成美は呆れて黙り込んでしまいましたが、慶子と浩子は軽く「いいよ」と言 ってくれます。 「ほっちゃんってさ、なんか腹黒いよ」 やはり一人不満げな成美です。 「ねぇ、せっかくだからお茶しない? 私、小腹空いちゃったからファースト フードにでも行こうか」 せっかく四人で揃ったのだからと由衣はみんなを誘います。 「ほっちゃんてさ、なんか間違っているよね」 慶子がそうぼやきます。 「なんで?」 「家の真ん前なのに、どうして中に入ってお茶を出さないの? って意味だよ ね。ま、招待されるわたしたちが言うのも変なんだけど」 いつものように浩子が補足します。 「あ、うち散らかっているから」 由衣は即答しました。 「そういえばレギュラー決まったよ」 駅前のバーガーショップで、シェイクやらアップルパイやらを買い込んで禁 煙の三階席へと上がっていき、いつものお喋りです。 「そう。で、やっぱり水菜さんは外されちゃった?」 どうやら、由衣が部活をサボっている間に決まってしまったようです。 「まあ、でも控えには入っていたみたい」 「誰が決まったの」 「三年生のいつもの主要メンバー五人に加えて一年生の矢上さんが大抜擢」 「すごい!」 「まあ、あの子結構実力あるもんね」 ふと、由衣は頭に引っかかることがありました。そのせいか話に加わりなが ら、全然違う事を考えてしまいます。 誰かを疑うことはよくないことだと、由衣は自分でそう言いました。でもど うしてもその可能性を考えてしまいます。 美咲が亡くなって得をしたのは誰か? 少なくとも香織は得をしていない。得をするだろうという推測だけで、結果 的には損をしている。 ならば、誰が得をしているか。 結果的には矢上紗奈もそれに加わることになります。 だけど、ここで一つ問題があるのです。 彼女は由衣と一緒に現場を見ています。あの音を聞いた時、彼女は隣を歩い ていました。第三者に頼まない限り犯行は不可能です。 「例えばさ。……全然関係ない話をしていい?」 由衣はみんなの話を遮ってそう言いました。 「いや、いいけど」 成美は諦めたようにそう呟き、他の二人は苦笑いです。 「ある現場でね、人が高いところから落ちて亡くなったの。近くを通りかかっ た人が落ちた音を聞いて現場に駆けつけた時にはもうすでに遅かったの。こう いう場合、目撃者が犯人って事は可能?」 「つまり、ほっちゃんが犯人なわけだ」 成美の容赦ないツッコミが入ります。 「違うって!!」 冗談としてもきつすぎます。 それを見かねて浩子がフォローしてくれました。 「まあ、落ち着いて。ほら、いつもの成美の冗談だから」 それはわかっています。が、『ほんとツッコミには容赦ないなぁ』と由衣は 心の中でぼやきます。 「可能なんじゃない。二人で共謀して『音がした』って言えばいいんだから」 成美の推測はそういうことでした。 でも由衣は犯人ではありません。だからもう一つの可能性を口にしました。 「二人が共犯じゃない場合は?」 「一番手っ取り早いのが第三者に頼むこと」 「第三者に頼めない場合は? ほら人一人殺すわけだし、頼まれた方だってそ う簡単に引き受けられないでしょ」 「被害者が亡くなることで二人とも得をするのであれば問題はないんじゃない。 まあ、でもそういう可能性も考えてみようか」 成美はそう言ってノートを一枚破って、テーブルを上へと置きます。そして、 目撃者AとBを簡単なイラストで描きました。髪の長い目撃者Aは由衣の特徴 を掴んでおり、浩子が「似てる似てる」とけらけら笑っていました。 「あたしこういう話を聞いた事があるよ。落ちた音イコール被害者が亡くなっ た時刻とは限らないって。予め殺しておいて、何かダミーのようなものが落ち るようにする方法もあるらしい。そういう仕掛けを作っておいてね」 慶子が話に加わりながら、テーブルを上に置かれたノートの切れ端にかわい らしい死体の絵と、ダミーらしき袋のような物を描きます。 「なるほど、そうすれば相手も騙せるね。完全なアリバイも作れるか」 由衣は感心して頷きました。 「けどさ、それってタイミング難しくない? ほっちゃんが何時に来るかって 矢上さん知っていた?」 浩子はそう言ってノートの切れ端に時計の絵を描きます。 「ううん」 由衣は否定しました。紗奈とは待ち合わせをしていたわけではありませんか ら、来る時間など予想はつかないはずです。 「今って簡単に死亡推定時刻が特定できるわけでしょ。多少の誤差はあれど、 早く殺してしまっては不都合だし、遅すぎても誰かに見つかってしまうよ」 成美はいつもながら的確な指摘をします。 「うん。たしかにそうだね。でも、朝練の開始時刻は六時半以降だから、きっ ちり計算すれば騙せるよ。だって一緒に目撃するのは私である必要はないもの」 由衣は『6時半以降』と文字と『朝だよ』という意味でニワトリを描きまし た。他の三人は首を傾げます。 「話は戻るけどさ、ほっちゃんて矢上さん疑ってるの?」 成美が核心に迫ります。例え話のつもりが、他の三人にはとっくにバレてい たようです。 「へ?」 「誰かを疑うのは良くないんじゃなかったっけ?」 「そうだよ。でも、私は噂だけを鵜呑みにしないで、きっちり検証するつもり だもん。検証して間違いだったらその可能性を消していくだけだよ。今の私に はこれくらいの事しかできないから」 それは言い訳ではありません。でも他人から言わせれば言い訳以外の何者で もないのでしょう。でも、由衣は探偵の真似事をすると決めた時から、事実を 検証するためにはすべてを疑う、ということを決めていました。だからそれが 例え香織であろうとそのつもりである事には変わりません。もちろん、今はそ の時期ではありませんが。 「いちおう考えてはいるんだね。ごめん」 成美はそれに気付いたのか、謝ってくれます。 「そういえば、お願いを一つだけ聞いてくれるって言ってたよね。明日頼んで もいい?」
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