●長編 #0190の修正
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星一つ見えない曇天の夜だった。 だが、墨を流したような闇に覆われているはずの太平洋は、眩い燐光と無数の炎に彩 られていた。 海面のそこかしこに、灯明のような炎が点されていた。一帯を覆う薄煙ごしに、それ らは本物の燈籠の炎のように頼りなげに揺れ動き、瞬いている。そして周囲の海面に蹲 るように横たわった影からは、閃光とともに無数の光球が打ち上げられていた。 時折、空中で炎の色をした花が咲き、煙と炎の尾を引きながら海面へと落下して灯明 の群れの仲間入りをしていく。 ──いや、炎の中で散った若者たちにとっては、それは文字通り季節はずれの彼岸へ の送り火であった。彼らは、空間を飽和させんばかりの密度で飛来する炎の驟雨に晒さ れながら、自分たちが到達すべき目標──米海軍第三八任務部隊に向かって報われぬ前 進を続け、炎に焼かれ、次々と冥府へ旅立っていった。 陸海軍混成の夜間雷撃航空隊として編成され、比島での決戦に投入されるはずだった T部隊。その陸上航空戦力の結晶とも言うべき一団は、本来想定されていなかった戦場 で鉄量に砕かれ、灰と消えつつあった。 一式陸攻三三機、銀河二二機、天山二三機、飛龍二一機。合計九九機の攻撃隊のうち 帰還したもの僅かに二十機。あとには未帰還率八十パーセントという惨憺たる数字だけ が残っていた。 「反復攻撃は中止する」 福留第二航空艦隊司令長官の言葉に、司令部には「やはりか」という空気が流れた。 昨夜おこなわれた米空母機動部隊への夜間攻撃の結果は、二航艦司令部に頭から冷水 を浴びせるような衝撃を与えていた。昨夜一晩だけで、陸攻三一機、銀河十五機、天山 十七機という膨大な数の機体と、基地航空隊の最精鋭を選りすぐった三百人以上の搭乗 員が失われた。加えて、帰還を果たした数少ない生き残りの戦果報告も、 「海面に爆炎発生を確認。敵艦に命中弾の可能性あり」 「敵艦らしきものに至近弾を得る」 「艦種不詳の大型艦らしきものに火災発生するを見ゆ」 といった明確さを欠くものばかりであった。ただでさえ少ない報告の内容がこのよう なものばかりでは、実際の戦果のほどは甚だ心許ない推定しかできない。最精鋭のT部 隊が夜間攻撃を掛けてすらこの有り様であるのだから、それより技量で劣る他の航空隊 が昼間強襲を掛けたところで結果は火を見るよりも明らかだ。そう判断しての、攻撃中 止の決断だった。 「弔い合戦に意気込む搭乗員には気の毒だが、ここで徒に戦力浪費の愚は犯せない」 かくして、翌日からの台湾・沖縄方面における基地航空隊の活動は、もっぱら迎撃に 力点を置いたものが主体となった。ハルゼー機動部隊は約一週間にわたって悪鬼のごと く西太平洋を暴れ回ると、行きがけの駄賃とばかりに哨戒に出ていた伊号潜一隻を撃沈 し、中部フィリピン方面に対して航空撃滅戦を行うべく南進していった。 十月十四日。 「一航戦も連れて行く」 小沢治三郎中将は、そう決断を下した。 「雲龍、天城とも訓練未了ですが……」 「承知の上だ。だが、細かいのを何杯も添えたところで大物は食いつかん」 「母艦はともかく、搭載機の確保はどうされるおつもりですか?」 先の台湾および沖縄近海で繰り広げられた航空戦によって、第三艦隊は二航艦の要請 で陸揚げしていた母艦航空隊の少なからぬ数を失っていた。行動開始までに確保の見込 みが立っている機数は、相当に無理をしても一九〇機弱。瑞鶴二隻分に少々余る程度に 過ぎない。しかも、その大半は戦闘機だ。 「我々の任務は囮だ。肝腎なのは、空母がここにいるという事実だ。死んでいく乗組員 たちには申し訳ないが……」 捷一号作戦計画において、小沢機動部隊はフィリピン東方の米空母部隊主力を釣り出 すための囮だった。本来は三航戦と四航戦──すなわち、瑞鶴・瑞鳳・千歳・千代田・ 隼鷹・龍鳳の六隻のみを投入する予定だったのだが、瑞鶴の他は小兵ばかりで、機動部 隊としては小粒だ。そこで白羽の矢が立てられたのが、内地で編成中の一航戦だった。 新造空母の雲龍と天城で構成され、秋にはさらに同型艦の葛城と超大型空母信濃を編入 する予定となっている海軍期待の戦力だったが、実際にはマリアナで損耗した母艦航空 隊の再建には半年は掛かると見られており、一航戦は搭載機のあてもつかないまま慣熟 訓練だけを行っている状態だった。 十月二十四日の朝日が昇る。空模様は一面の曇天だった。大和・武蔵を中核とする第一 遊撃部隊第一群と分離してから、二日が過ぎようとしていた。 「……なのに空襲も敵潜の攻撃もなし。そろそろ比島も見えようかというのにな。はた して見つかっていないのやら無視されているのやら……」 訝り半分、苦笑い半分といった表情を浮かべる西村中将。彼の麾下兵力は、戦艦扶 桑・山城、重巡最上、駆逐艦満潮・朝雲・山雲・時雨というわずか七隻の小勢に過ぎな い。もしも機動部隊から本格的な空襲でも受ければ、ひとたまりもなく殲滅されてしま うだろう。 もっとも、西村艦隊よりも米軍が食いつく率の高そうな目標は、フィリピン海域に二 つは存在しているはずだった。小沢機動部隊がうまく囮になれればいいのだが、もしも 敵が栗田艦隊のほうに向かってしまった場合は、小沢艦隊との共同作戦となるだろう。 「そのときは、我が扶桑・山城が突入の主役だ……栗田長官からは何も言ってきておら んか?」 「は。今のところまだ」 「そうか。対潜警戒は引き続き厳にな」 スル海は、不気味なほどの静けさを保っていた。 「前方に島影。ネグロス島です」 「レイテまで、あと一日か……」 「シブヤン海に?」 索敵爆撃スコードロンのSB2Cが送ってきた敵艦隊発見の報告は、合衆国海軍第三 艦隊を率いるハルゼー大将にとっては意外な情報だった。戦艦五隻を中心とする大規模 な水上艦部隊が、シブヤン海を東進しているというのだ。陣容から考えて、昨日潜水艦 ダーターとデースが報告してきた艦隊に間違いない。 「ルソン海峡を抜けて、本国からの空母部隊と合流するんじゃなかったのか」 「駆逐艦の航続力に不安があるのでしょう。日本軍は、ここ数ヶ月の間に艦隊随伴型の 高速タンカーを少なくとも七隻は失っているはずです。できるだけ近いルートを選択し たいと考えるのも無理はないかと」 参謀長の発言に、ハルゼーは頷いた。 「どっちにせよ、ロクに身動きも取れない内海に大型艦がひしめいているんだ、これは 絶好のチャンスだと考えていい。ミッチャーに連絡だ。攻撃隊発進かかれ! 十五分で 全部上げるんだ!」 ただちに、ミッチャー中将率いる第三八任務部隊に連絡が飛び、F6F艦戦二一機、 SB2C艦爆十二機、TBM艦攻九機の第一次攻撃隊が放たれた。続いて、彼らが第二 次攻撃隊の発進準備に掛かろうとしたまさにそのとき、ルソン島東方海域を捜索してい たSB2Cが至急報を送ってきた。 「エンガノ岬東方約二〇〇マイルに敵艦隊を発見。空母八隻、戦艦二隻、巡洋艦以下約 十隻。ベクター一六〇、十六ノット」 それを耳にするなり、ハルゼーの顔色が変わった。 ハルゼーは直感していた。 北の空母部隊こそが日本軍の本命である、と。 一面においてそれは事実であった。捷一号作戦の原案においては、空母部隊はその搭 載機の攻撃力を以って敵艦隊制圧の任に就くと同時に、主力に不測の事態が生じた場合 には、これに代わってレイテ湾の輸送船団および上陸部隊に対する攻撃をおこなうもの と定められていた。 だが、十月十日から一週間余りに渡って繰り広げられた南西諸島方面での航空戦の結 果、陸揚げされていた母艦航空隊は百機をゆうに超える損失を出していたのだ。このた め第三艦隊は著しくその戦力価値を減じていた。搭載機そのものはまだ一八〇機以上残 ってはいるが、このうち雷爆撃機は瑞鶴と隼鷹が搭載する二九機のみでしかない。つま り、母艦航空隊の対艦・対地攻撃力は、事実上消滅したに等しかった。 無論、ハルゼーにしてみればそんな事情を知る由もない。彼にとっては、開戦以来 散々わが身に叩き込まれた日本海軍母艦航空隊の攻撃力こそがすべてであった。四ヶ月 前のマリアナ沖で大きなダメージを与えたと思っていたが、今回また八隻もの母艦を繰 り出してきたところを見ると、どうやらこの短期間で空母機動部隊の再建に成功したら しい。 「敵ながらさすがの手腕だと言っておくぜ。だが、今度こそ終わりだ。一隻残らず海に 叩き込んでやるから、首を洗って待ってろよ!」 ハルゼーの口元にうっすらと笑みが浮かんだ。好敵を前にした興奮の表出だったが、 偶然それを目にした幕僚の一人は、蛇の視線に射られた蛙のような気分になっていた。 いっぽう、当の小沢艦隊ではちょっとした問題が持ち上がっていた。 「燃料が?」 「残念ですが、一駆連は帰すしかありません」 当初の計画では、隼鷹と伊勢・日向から駆逐艦に燃料を補給する予定だったのだが。 「内地配備の泣き所はこれなんだよなぁ……」 もともと、軽巡多摩および駆逐艦桑・槇・杉・桐で構成された第一駆逐連隊は、訓練 部隊として編成されたGF直轄の小艦隊を出撃直前になって急遽編入したものだ。五五 〇〇トン型でも最古参の旧式軽巡と二線級の松級駆逐艦という構成からも、この戦隊が 戦力としてカウントされていなかったことがわかる。訓練部隊であるからして、当然練 度も低い。 「油槽艦の損失が響いていますね」 南方資源ルートを航行する輸送船舶の損害は、ここ半年ほどの間に猛烈な勢いで上昇 曲線を描いて増大している。特に油槽船の損害は著しく、内地では燃料不足のために、 訓練すら思うに任せない状態だった。 小沢艦隊は、この影響をもろに被っていた。ただでさえ当初計画よりも重油の割り当 てを減らされていたところに、正規空母を二隻も増やしてしまったのだ。戦艦から駆逐 艦に補給できる燃料も、極めて限られた量となってしまっていた。随伴駆逐艦が半分に なってしまうのは痛いが、無い袖は振れないのだから仕方がない。 「やむを得ん。多摩に信号を送れ」 多摩艦長の山本大佐はずいぶんと渋っている様子だったが、やがて折れたのか松級駆 逐艦四隻を連れ、高雄に向かって退避していった。 小沢艦隊の直衛艦は、戦艦二・巡洋艦二・駆逐艦四となった。 「で、我々は結局どうすればいいんだ?」 志摩清英中将率いる第二遊撃部隊。重巡那智以下巡洋艦三隻、駆逐艦四隻を擁する軽 快部隊であったが、現在は完全な遊軍と化していた。いくら遊撃部隊と銘打っていると はいえ、本当に遊んでいては洒落にもならない。一応、事前の行動計画通り左手にミン ドロ島を見ながら南下を続けている。 場合によってはそのままシブヤン海に突入しなければならないポジションだけに、最 初のうちは司令部にも緊張感が漂っていたのだが、内地を出てから一週間近くにも渡っ て敵からも味方からも事実上の音沙汰なしでは、いくら精強を誇る日本海軍といえどい い加減空気も緩み始める。 「事前の命令に変更を行うとの連絡は入っておりません」 「結局、『レイテに突入せよ。方法は任せる』ってことか?」 「そうするより他はありませんなぁ」 「とはいえ、栗田隊は随分と先に行ってしまったしなぁ……よし、このまま南下して西 村隊を追求。スリガオ海峡を抜けてレイテ湾に向かおう。航海参謀、計算を頼む」 多少遠回りになってしまうが、鈍足の西村隊にならスリガオを抜けたあたりで追いつ けるかもしれない。そう思って下されたこの判断が後にどのような効果を生むか、志摩 艦隊の誰も気付いてはいなかった。 「被害はどの程度だ?」 「武蔵に魚雷が一本命中しました。バルジで食い止めており、航行には支障ない模様で す。あとは、本艦と長門に至近弾が数発あった程度です」 伝令の混雑の割には情報の伝達は迅速だった。第一遊撃部隊と第一戦隊、二つの司令 部が同居する大和の艦内は、定員を大幅に上回る人間によってごったがえしている。 小柳参謀長の報告に、栗田中将は胸をなでおろした。さっき武蔵に水柱が立ったとき にはどうなることかと思ったが、やはりそこは大和級戦艦、この程度の打撃では小揺る ぎもしないようだ。 「対空警戒態勢を維持。今の一波で終わりということはあるまい。このままシブヤン海 を突っ切るぞ。一隻の脱落も出すな」 「宜候」 だが、栗田艦隊への空襲は、第一波の四二機だけでぱったりと止んでしまった。日が 傾き始める頃にはマリンドゥク島を指呼の距離に収めようかと言う海域にまで差し掛か ったが、空には飛行機どころか海鳥一羽飛んでいない。 「来ないな……一体どういうことだ」 「罠とも思えんが……」 「連中、弁当でも食べているとか……いや、まさか」 あまりといえばあまりに拍子抜けの事態に、小柳参謀長からまで似合わない冗談が飛 び出す始末。 「とにかく、対空対潜警戒を厳にせよ。敵陣で何があったかは知らんが、いずれにせよ 必ず敵は現れるぞ」 栗田中将が、白け始めた場の空気を引き締めるように命じた。 ハルゼー艦隊は、敵襲の真っ只中にあった。ヘルキャットの防衛ラインをかいくぐり 猛烈な対空砲火を突破して来たのは、液冷エンジンの急降下爆撃機と大型の雷撃機。中 には、双発の中型爆撃機まで含まれている。彼らは二航艦の基地航空隊だった。 次々と火網に絡め取られながらも、日本軍機は進撃を止めなかった。落としても落と しても、次々と湧いて出てはしゃにむに突入してくる。目標は、シャーマン少将の第三 任務群。 「いいぞ、どんどん撃て!奴らを寄り付かせるな、マリアナ沖の二の舞にしてやれ!」 五インチ両用砲が、四十ミリ機関砲が、唸りを上げて砲弾を送り出す。横殴りの吹雪 と称して相違ない密度で飛び交う各種の火箭。輪形陣に突入しようとした彗星や銀河が 片っ端から炎に包まれて海面へ突っ込み、あるいは空中で爆発四散して果てる。マリア ナ沖で猛威をふるった射撃管制レーダーと近接信管は、ここでも存分に本領を発揮して いた。 だが、砲弾の威力そのものが上がったわけではない。突入してくる攻撃機に致命傷を 与えることはできても、時速三百キロ以上で突進する重量数トンの物体を完全に粉砕す ることはできなかった。 この隙を突いて、一機の銀河が突っ込んできた。左主翼が半ばから吹き飛び、機首の キャノピー部は無残に叩き潰されている。両翼のプロペラは、もはや空気抵抗によって 空転しているだけだ。三名の搭乗員も全員戦死し、完全に死に体の鉄塊。だが、その落 下する先にはしっかりと軽空母プリンストンが捉えられていた。 「敵機一、プリンストンに突入──あぁっ、神様!」 見張り員の報告は、途中で悲鳴に変わった。 「何だ、何が起きた!」 突如輪形陣の中で上がった火柱。それに伴う衝撃波が、シャーマン少将を高揚状態か ら現実へと引き戻した。 たった今までプリンストンの存在していた位置には、巨大な火柱が発生していた。 八百キロ航空魚雷を抱えた銀河は彼女のアイランド脇の飛行甲板に斜めから着艦する ような角度で激突し、飛行甲板に半ば埋もれるような位置で弾倉に抱えていた魚雷を炸 裂させた。 なんとも間の悪いことにプリンストンの甲板上では、栗田艦隊への第二次攻撃隊とし て出撃準備中のTBMアヴェンジャー雷撃機四機が雷装のまま待機していた。飛行甲板 とギャラリーデッキの両方で発生した爆風は、瞬く間にこの四機を巻き込み、ここから 生じた新たな爆炎は、排水量一万トンの艦全体を呑み込んだ。そして格納甲板でも連鎖 的に誘爆が発生するに及んで、哀れな軽空母の上構は完全に吹き飛ばされた。露天甲板 と化した格納庫から猛烈な勢いで火災炎と黒煙を噴出しながらプリンストンは燃え続け た挙句、三十分後に雷爆弾庫の誘爆が発生。消火と生存者救出のために横付けしていた 巡洋艦バーミンガムの上構中央部を巻き添えになぎ倒し、真っ二つに折れて沈んでいっ た。 ハルゼーは、決断を迫られていた。 現在のところ、叩くべき相手は二つ。ルソン北東沖の空母部隊と、シブヤン海を東進 してくる水上部隊だ。 彼の脳内では、猛烈な勢いで判断材料が積み重ねられていた。猪武者の代名詞のよう に言われるハルゼーだが、それは上辺の性格だけのこと。実際の彼は、頭脳明晰で決断 力と闘志に溢れた優秀な指揮官だ。 シブヤン海を東進してくる水上艦部隊には、戦艦五隻が含まれているという。だが、 この艦隊には航空機の上空援護がない。ジャップが何を考えているかは知らないが、仮 に本気でレイテまで突っ込ませるつもりなら、戦闘機を積んだ軽空母の二、三隻は随伴 させているはずだ。 いっぽう、北からやってくる空母部隊。連中の空母はこっちのものよりも若干搭載機 数が少ないらしいが、八隻もいるというからには、艦載機総数は常識的に考えれば三百 機はくだらないはずだ。これだけの機数に殴りかかられては、いくら我々が大軍を誇る といえど無事では済まない。現に、シャーマンはプリンストンを失った。ましてやレイ テ湾の輸送船団のことを考えればなおさらだ。結論。倒すべき相手は決まった。 「本命は北から来る奴だ。サンベルナルジノには水上砲戦部隊を残置して本隊はこのま ま北上、ジャップの空母部隊を叩く。今日中にカタをつけるぞ、全員気を抜くな!」 ハルゼーは将旗を戦艦ニュージャージーからマッケーン隊の重巡ボストンに移すと、 戦艦六・巡洋艦四・駆逐艦十二の兵力をサンベルナルジノに残して指揮をリー中将に委 ね、全速力で北上を開始した。 第七艦隊のキンケイド長官は、正直なところ困り果てていた。 手持ちの兵力をどう配置すべきか、まったく判断がつかないのだ。 彼の手元にあるのは、オルデンドルフ少将麾下の第七七・二任務群(戦艦六、巡洋艦 八、駆逐艦二一)およびトーマス・スプレイグ少将麾下の第七七・四任務群(護衛空母 十六、駆逐艦二一)。合計して戦艦六、巡洋艦八、空母十六、駆逐艦四二といえば第三 艦隊に匹敵する大艦隊だが、その内実はお寒い限りだった。 まず、戦艦群は対地支援砲撃を重視して榴弾ばかりを積んで来たため、徹甲弾を用い た対艦戦闘はせいぜい一会戦が限度だった。 護衛空母にしても、商船に毛が生えた程度の低速小型艦ばかりで、搭載機はTBM雷 撃機はともかくとして戦闘機は一世代前のF4F、おまけに搭乗員は技量未熟な新米が ほとんどであり、対艦攻撃力としてはほとんど期待できない。 「シブヤン海からの出口は、リーの戦艦部隊が抑えている……スリガオ海峡の動向が掴 めれば結論も出せるんだが」 ちょうどそこに、索敵機からの情報がもたらされた。 「……戦艦だと? こっちにもいたのか!」 『ボホル島南南東二十マイルに敵艦隊を発見。戦艦二、巡洋艦一、駆逐艦五。ベクター 二七〇、十四ノット』 キンケイド中将は、さらに判断に迷うこととなった。戦艦が南からやってくるとなれ ば、手持ち兵力はスリガオ海峡に張り付けた方が得策だ。だが、サンベルナルジノの方 はそれで大丈夫なのだろうか。キンケイド中将の脳裏を、一抹の不安が掠めた。 一五二〇時、二航艦からの第二次攻撃に合わせて小沢艦隊も攻撃隊を放った。瑞鶴と 隼鷹が搭載していた攻撃機は、彗星艦爆十三機、天山艦攻十六機の計二九機。これに、 護衛として零戦三四機(うち爆装二十機)が随伴することになっていた。 だが、日本という国家の力がこの時期大々的に地盤沈下を起こしていることを象徴す るかのように、彗星四機と天山一機、零戦二機が発動機の故障で出撃できず、彗星一機 と零戦二機が機体の不調によって進撃途上で引き返す羽目になった。最終的に米艦隊に 到達したのは、彗星八機、天山十五機、零戦三十機だった。これに、二航艦が送り出し た一式陸攻二八機、銀河十二機、天山七機、紫電十三機、零戦十九機が加わる。昼前の 第一次攻撃で三七機を失っていたものの、空母一隻撃沈の戦果を挙げたことが幸いして 士気は依然高かった。 いっぽう、これとクロスカウンターの形でハルゼー艦隊も攻撃隊を出していた。こち らは艦戦四七機、艦爆五八機、艦攻六四機。合計一六九機の堂々たる戦爆雷連合だ。 「今度こそ決着をつけるぞ!存分に戦って来い!」 旗艦ボストンの艦橋から、ハルゼーは出撃する搭乗員達を親指を立てて見送った。 米海軍航空隊の通例に漏れず、彼らは艦隊上空で形ばかりの緩い編隊を組むと、飛行 隊単位での進撃を開始した。 大空に放たれた攻撃機たちは、まだ目的地上空で何が自分たちを待ち構えているのか 予測していなかった。 スル海を東進する西村部隊が米軍機による二度目の触接を受けたのは、いいかげん日 も傾きかけた一五五五時のことだった。 「この調子なら、日没までに二波というところか」 西村中将も、いささか拍子抜けといった風情だ。レイテまでの最短コースを突進する ルートを選択していただけに、道中で戦艦の一隻も空襲で失うくらいの覚悟でやってき たのだが。 ところが、そこからの展開はまたしても不可解なものとなった。 「敵機来襲ー!」 見張り員の叫び声に、対空戦闘の喇叭が鳴り響く。北東の空にぽつぽつと現れた黒い 点のような単発の機影は、まぎれもなく米艦載機の証し。 しかし、それにしては様子が妙だった。 「おい……連中、太陽を背にする程度の基本を知らんのか」 山城の高射長が憮然とした顔でぼやいた。 「戦雷連合、雷撃機はアベンジャー。戦闘機は……グラマンですが、古いほうです!」 扶桑の対空見張りの表情にも、若干の緩みが見られた。 おまけに、どう見ても敵機の編隊はあきらかに統制を欠いていた。編隊の機体間隔は ムラが多いし、全体に密度が薄いのだ。 「どういうことだ?」 山城の艦橋では、全員が顔を見合わせていた。 いっぽうそれとほぼ同じ頃、第三八任務部隊が放った戦爆雷連合一六九機は、小沢艦 隊の上空へと到達しかかっていた。だが、そこで彼らは、小沢艦隊の上空直掩戦闘機隊 七七機と正面衝突した。お世辞にも練度の高い編隊ではなかったが、なにしろ数が多 い。数群に分かれた米軍の攻撃隊にとっては、これだけの機数が一度に殴りかかってく るとどうにもならなかった。 第一波として突入したのは、F6F艦戦十四を露払いとするSB2C艦爆十三、TB M艦攻九の一群だったが、たちまち乱戦に巻き込まれて散り散りになってしまった。そ の後も五月雨式に来襲する米軍機は、直掩隊の層に阻まれて効果的な接敵ができずにい た。 もっとも、攻撃の効果がなかったわけではない。雲龍と天城にそれぞれ魚雷一本が命 中。雲龍のほうは若干の浸水と速力低下程度の被害で済んだが、天城は当たり所が悪 く、速力が二二ノットに低下。同時に、左舷に四度の傾斜を生じて艦載機の発着が不可 能となった。 このほか、千歳の飛行甲板前部に五百ポンド爆弾一発が命中。彼女も一時的に艦載機 の発着ができなくなったが、なにしろ小沢艦隊で攻撃機を搭載しているのは瑞鶴と隼鷹 のみ。他の母艦は、全艦爆弾庫を空にして出てきている。故障で居残っていた零戦が火 災のあおりを受けて炎上したが、内務班の対応が迅速だったために早期消火に成功し、 危険な事態とはならなかった。 「緒戦は最小被害で切り抜けたな。あとは攻撃隊が頑張ってくれればいいんだが……」 小沢中将は、南の空を見上げて呟いた。 ハルゼー艦隊は、この日二度目となる空襲を受けていた。 来襲したのは、陸攻と銀河合わせて四十機、彗星・天山が三十機、戦闘機が六二機。 むろん、この全機が一度に来襲したわけではなかったが、合計一三〇機以上の戦爆雷 連合の攻撃力は決して侮れるものではない。 いっぽう、過去数次に渡る空母戦によって磨き上げられた米艦隊の重厚な防空網も、 その真価を発揮していた。電探管制による直掩戦闘機隊の効率的運用は、同時期の日本 軍には到底真似のできない芸当だ。まず、先陣を切って飛び込んだ彗星の一群が瞬く間 に直掩のF6Fたちが織り成す十二.七ミリの火網に絡め取られて散った。続いて低空 から侵入を試みた四機の銀河も、高度一千で待ち構えていた一個飛行隊の毒牙に掛かっ た。 だが、それと時間差気味に突っ込んできた一式陸攻の一団は止められなかった。彼ら は、電探の覆域より低い高度を突進してきたからだ。ようやくスコープが彼らの姿を捉 えたときには、既に警報の発令すら間に合わなくなっていた。狙われたのは、ボーガン 少将率いる第二群。対空砲火によって三機が撃墜されたが、残る六機が軽空母インディ ペンデンスを狙える雷撃位置への占位に成功し、魚雷を投下した。左舷に水柱。命中魚 雷は一本だったが、場所が悪かった。左舷艦尾付近に突き刺さって炸裂した魚雷は、爆 圧で推進軸二本をへし折ったのだ。おまけに、それでなくとも復元性に難を抱えていた クリーブランド級巡洋艦の船体に嵩張る空母の上構を載せたこのクラスの弱点が、はっ きりと出てしまった。浸水量自体はたいしたことはなかったのだが、それでも彼女は左 舷に六度の傾斜を発生。艦載機の発着ができなくなった。 「ジャップめ、嫌なときに空襲を仕掛けてきやがる。すぐに反撃するぞ、準備できた奴 からどんどん上がれ!」 攻撃を終えた日本軍の航空隊が引き上げていくのを見ながら、ハルゼーは顔をしかめ た。インディペンデンスの状態は思ったよりも悪く、ウルシーに廻航してドック入りさ せる必要があると言ってきた。昼過ぎの空襲で爆沈したプリンストンとあわせて、これ で第三艦隊は空母二隻、およそ八十機分の攻撃力を喪失した計算となる。ここはなんと しても、カウンターパンチを放って空母の一隻も仕留めなければなるまい。 米艦隊から放たれた二の矢は、艦戦五二・艦爆四九・艦攻七十。計一七一機の大編隊 が、五群に分かれて大挙北上していった。攻撃隊を送り出した各空母の艦上は、続いて 燃料補給のローテーションで降りてくる直掩隊の交代機を送り出す作業で大混雑となっ た。 そこに、ルソンの基地航空隊が放った三の矢が飛び込んできた。陸攻十一、銀河六、 彗星八に零戦十六という小勢だが、彼らはちょうど、交代時間が迫って気の緩みが生じ た直掩隊の隙を突く絶妙なタイミングで突撃を開始した。 半ば不意を討たれた形の直掩隊は効果的な迎撃が行えず、二五機の攻撃機のうち半数 以上が突入に成功した。米艦隊にとっては最悪の状況だった。攻撃隊は発艦直後の直掩 機と入り乱れる形になったため、対空砲火も満足に撃つことができない。攻撃隊のうち 最終的に離脱に成功した機体は九機に過ぎなかったが、彼らはマッケーン隊の正規空母 ワスプに五百キロ爆弾二発を叩きつけることに成功。これが甲板上に並んでいたF6F の燃料に引火し、ワスプは艦首からアイランドにかけてを猛火に包まれた。 幸い、ワスプの火災は二十分ほどで鎮火した。三十名ほどの死傷者が出たものの、戦 闘力発揮に問題はなかった。格納庫の機体にも被害はない。だが、甲板上で消し炭とな った戦闘機の処理と爆弾による被害の応急処置のため、ワスプの飛行甲板は二時間に渡 って使用不能となった。彼女は正規空母であるだけに、ハルゼーにとっては実に頭の痛 い状況だ。 「ええい、くそっ!忌々しい奴らだ!こっちが陸上基地にまで手を出してる余裕がない ことを知ってやがるのか?」 ハルゼーの言う通り、第三八任務部隊の現状は日本空母への攻撃で手一杯だった。と てもではないが、ルソン各地に散らばった航空基地を叩いている余裕はない。 だが、それらの基地に展開している兵力の素性を知ったとすれば、ハルゼーの血圧は さらに上昇していただろう。彼らは、一週間前に第三艦隊が攻撃を行った台湾と沖縄の 基地航空隊の生き残りから再編成された部隊なのだ。言うなればハルゼーは、先日の食 べ残しからしっぺ返しを食らったようなものだったのである。 ──畜生、奴らを甘く見ていたか。 ハルゼーは思った。今日中にカタをつけるつもりだった空母部隊への攻撃だが、これ で明日にずれ込むことは確実だ。これではまるで、ジャップの思う壷じゃないか。くそ ったれ。 各空母の艦上では、アクシデントによって遅延された直掩隊の交代作業が大車輪で続 けられていた。直掩機の中には、空戦によって燃料を浪費したことで不時着水を余儀な くされたものも少なくなかった。 その頃、西村艦隊もスプレイグ空母部隊の空襲を受けていた。ところが、はるか北方 で繰り広げられているものとは対照的に、こちらの戦いはどうにも締まらない様相を呈 し始めていた。 まず、米軍機の編隊……というか集団は、西村艦隊に到達した時点で、既に編隊とし ての統制を半ば失いかけていた。彼らは、海岸線の沖合数十キロから発進して地上の防 御陣地や補給拠点を各個に叩くような任務の経験はそれなりにあったが、島嶼群を飛び 越えて長駆数百キロを進出し、敵艦隊を攻撃する任務はこれが初めてだった。 また、彼らの中で最大の対艦攻撃力を持つTBM飛行隊は、護衛空母部隊にとっては 虎の子ともいえる雷撃部隊だったが、彼らはこれまでの任務上出撃回数そのものがそれ ほど多くなく、航法や編隊維持をはじめとする基本的な操縦技術の点でかなりの不安が あった。 さらに直衛のFM−1は、原型機であるF4F譲りともいえる空力特性の悪さと、武 装強化による大々的な重量増が祟って巡航速度が極めつけに遅く、TBMに随伴して進 撃するのも一苦労だった。このため、ただでさえ練度の低い搭乗員に操られている編隊 が、さらに拡散する結果となってしまった。 しかも攻撃機の多くは、艦隊接近の報を受けてとるものもとりあえず飛び出してきた ために、吊下している爆弾は小型のものがほとんどで、中には陸用爆弾を積んでいるも のまでいた。これでは対艦攻撃力には期待できない。 かくして対空戦闘は、お互いに低威力で当たらない攻撃を闇雲に繰り出す形で終わっ てしまった。米軍の挙げた戦果は、駆逐艦満潮に陸用小型爆弾の命中一発だけだった。 「被害知らせ」 「艦尾に爆弾一を被弾、爆雷投下軌条が使用不能です。小規模な火災が発生しましたが まもなく鎮火の見込みで、機関・舵とも損傷ありません。人員は戦死なし、負傷者六」 上がってきた報告に、満潮駆逐艦長の田中少佐は安堵の息をついた。 既に太陽はずいぶんと西へ傾き、水平線は橙色に染まりつつある。空襲を仕掛けてき た米軍機があらかた西村艦隊の上空から姿を消し、三十分が過ぎようとしていた。 「今日の空襲はこれで打ち止めかな。これ以上遅いと、帰艦が日没後になるだろうし」 田中少佐は、北東の空を見上げた。深い藍色に染まりつつある空には、気の早い一番 星が光を放っていた。 「スリガオ海峡突入の予定時刻ですが、ずいぶんとずれ込みました。正確なところはま だ出ておりませんが、おそらく明朝〇六三〇頃になる見通しです」 「昼過ぎから空襲を受けっぱなしでしたからなぁ。幸い被害らしい被害もありませんで したが、回避運動に思ったよりも時間を食われてしまいました」 航海参謀の報告に、砲術参謀がぼやいた。 「すると、昼間砲雷戦を覚悟せねばならんか」 西村中将は腹を括った。味方の航空偵察によれば、スリガオ海峡からレイテ湾にかけ ての海上には戦艦六・重巡九を含む優勢な敵艦隊が控えているという。この小勢でどれ だけ戦えるかは分からないが、今はとにかく一隻でも敵を討ち減らすことを考えるのみ であった。 小沢中将は、直立不動で無言のまま左舷の海上を見詰めていた。そこでは、二十分前 まで空母天城であったものが、箱型の篝火と化して海面下に没しようとしていた。 ハルゼーが放った第二波攻撃隊は、攻撃目標分散の愚を冒した第一波の失敗を踏まえ てか、左翼に位置していた一航戦に攻撃を集中した。具合の悪いことに、一航戦は第三 艦隊でもっとも練度が低い部隊だった。直掩の零戦隊も奮戦して少なくとも十機以上の 撃墜を記録していたが、一二〇機以上の攻撃機を全て食い止めるには至らなかった。稚 拙な回避運動をあざ笑うかのように爆弾と魚雷を次々と叩きつけられた天城は、あっと いう間に五発以上の直撃弾と無数の至近弾を浴び、消火不可能な大火災と十度以上の傾 斜を生じて海上に停止。加えてダメージコントロールに失敗し、機関室への火災延焼を 許したことが致命傷となって、僅か二ヶ月余りの短い生涯にピリオドを打たれた。 また、僚艦の雲龍も、第一波で受けた損傷に加えて千ポンド爆弾二発と魚雷一本を被 弾し、火災とさらなる速力低下に見舞われている。 「雲龍は台湾にでも避退させたいところなんだが……護衛に割ける艦が居らんしなぁ」 やはり、一駆連を引き返させたのは失敗だったか。苦渋の表情を浮かべる小沢中将の 耳に見張り員の報告が届いた。 「天城、沈没します!」 「各艦、溺者救助を急げ。日没まであまり時間がないぞ」 小沢中将はそう命じると、未練でも残したかのように海面に突き出したままなおも数 分間粘っている天城の舳先に向かって、見事な敬礼を送った。 すっかり日も暮れようかという一八一〇時、ハルゼー艦隊はこの日四度目の空襲を受 けた。水平線に落ちかかった西陽を背にしての薄暮攻撃である。夕暮れ時の赤光を闇色 の海面が乱反射するという状況は、低空を進撃する攻撃隊の視認には最悪のコンディシ ョンだった。米艦隊は電探によって攻撃隊の接近を察知することはできたが、肝腎の直 掩戦闘機隊が攻撃隊の発見に手間取り、またしても日本軍機は輪形陣への投弾に成功し た。 今回来襲したのは、陸攻四・銀河六・天山六および零戦・紫電合わせて八という小編 隊。第一、第二両航空艦隊の搭乗員から天測航法に長けた腕利きを選抜しての一発勝負 だった。中には、T部隊の生き残りまで混じっている。 昼間の攻撃で無傷だったデビソン隊に襲い掛かった彼らは八機を撃墜されたものの、 軽空母サンジャシントに五百キロ爆弾の直撃一、至近弾二および魚雷命中一の戦果を挙 げた。サンジャシントは飛行甲板こそ大きな被害を免れたが、アイランドへの直撃弾で 艦長以下首脳部人員のほとんどを失ったため、一時的にダメージコントロール機能が麻 痺。このため浸水に対して有効な対策が打てずに被害が拡大し、結局隊列から脱落して ウルシーへ逃げ帰る羽目になった。 この一撃を最後に、後の戦史書にて第一次エンガノ岬沖海戦と呼ばれる戦いは一段落 した。だが、戦況そのものはここから急激に動き始めていた。フィリピン海域全体に散 らばっていたホット・スポットが、一点に収束しようとしていたのだ。場所は、サンベ ルナルジノ海峡。両軍最有力の水上砲戦部隊が、正面から相見えようとしていた。
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