●長編 #0029の修正
★タイトルと名前
親文書
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「美凪ちゃんさぁ、自信ないんでしょ? 家族を嫌うことが」 「え?」 「もし美凪ちゃんが本当に家族の事を嫌いなら、はっきりと言ってやればいいじ ゃない。それであの家を出てけばいいだけの話だよ。美凪ちゃんはどうして寮に 入らなかったの? お父さんに反対されたから? 嫌いだったらどんな手段を使 ったって家を出るべきだったと思うよ」 強い口調で葵はそう言った。だが、葵自身本当にそう思っているわけではない。 「それは……」 「それが、挙げ句の果てに自暴自棄になって家出? 家族のこと嫌いだって自信 が持てるんなら、自分だけ辛い目に遭うなんてバカげた話だよ。迷惑かけたって いいじゃない。こんな一人でバカなことやるくらいなら、最初っから迷惑かけれ ばいいじゃない!」 「あ、葵……?」 めずらしくたじろぎがちの美凪を、葵は一気にまくしたてる。 「家族に借りを作りたくない? 違うよね。例えばさ、寮に入らないのはお金が 余計にかかるからなんて言い訳だもんね。借りは返せばいいんだもん。わたしは そのつもりだよ。夏江さんにはこれ以上借りは作らないし、ちゃんと返すつもり だもん! わたしみたいな弱い人間だってそれくらいのことはやろうとしている んだよ!」 「……」 「美凪ちゃんは甘えてるんだよ。何もしない、何も話さないことで、状態が悪く ならないとでも思っているんだよ。でもね、そんなの間違ってるよ!」 美凪は葵の顔を見ていられなくなったのだろうか、ふいに身体を逸らして背を 向ける。そして駆け出そうとして、葵に腕を掴まれる。 「また逃げるの!? 家族からも逃げて、そのうえわたしからも逃げるの? そ のうち美凪ちゃんはすべての人から逃げないと気が済まなくなるよ」 「……私はどうすればいいの?」 美凪のか細く弱々しい声。学校での彼女はどんなに孤独でいようが、こんな寂 しそうな声は出さなかった。 葵は掴んでいた腕を優しく放す。 「簡単なことって言ったでしょ」 葵は高ぶっていた感情を抑えて、なるべく柔らかい口調で言った。 「簡単?」 「問題は簡単だって言ったでしょ? まずは一人一人と話し合うことから始めな いと」 「……」 「もしその結果、相手のこと『嫌い』になったりしたら、そんときは改めて考え てみればいいんだよ。自分の居場所を」 葵はそう言って美凪の正面へと回り込み、彼女の瞳を見つめて微笑む。そして 今度は両手を優しく握って話を続けた。 「『嫌い』なら堂々と迷惑をかけちゃえばいいんだよ。子供を養うのは保護者の 義務だから、自活できるようになるまで寮にでも入ればいいよ。お金とか出して もらうことにためらいがあるようなら、わたしみたいに返すってことを前提に生 きていけばいいんだよ」 美凪は微かに口元に笑みを浮かべる。 「葵は強いよ。私なんかより」 「敵に回さなくて良かったでしょ?」 「ふふ、そうかもね」 ようやく美凪の顔にわずかな笑みが戻る。 「でもね、美凪ちゃんもその気になれば私なんかよりずっと強くなれるよ」 その言葉に、美凪はちょっとした疑問を込めてこちらを見る。 「……葵はどうしてそうまっすぐなんだろうね」 「え?」 「そう。こっち恥ずかしくなるくらいまっすぐ。でもね、わたしはそれが羨まし い」 美凪の優しげで彼女にしては珍しい穏やかな眼差しを葵に向ける。 「そう? それはやっぱり、その……家庭環境が普通じゃなかったからかな?」 どう反応してよいかわからなかった葵は思わずそう答えた。 「なにそれ?」 「冗談……冗談だよ。たぶん……」 「うふふふ……なにそれ?」 どうやら美凪の感情も落ち着いてきたらしい。葵の言葉がどこまで通じたかは わからないが、いつもの冷静な彼女に戻ってそこから彼女なりの答えを出すだろ う。 葵はふぅっと安堵の吐息をつくと、今度はゆっくりと自分の中の想いを紡ぎ出 す。 「わたしはね。ほんとはひねくれ者でまっすぐな心なんて持ってないんだ。けど ね、まっすぐ生きることへの憧れみたいなものだけは持ってるから。この先ずっ とまっすぐなんて生きていけないかもしれないけど、でも、まっすぐ見つめるこ とぐらいはできるんじゃないかって思ってるの」 「それは保護者の夏江さんのおかげ?」 「うん。それは大きいかもしれない。それは夏江さんの家に居候する条件でもあ ったし。あ、でもそれを苦に思ったことなんてないよ。わたしがここまで生きて これたのはそのおかげもあるんだから」 「やっぱり葵は強い子だよ」 「ううん。たぶんね、わたしがやってきたことはそんなに難しいことじゃないの。 わたしはね、人の話を聞くのも好きだったし、話すことも大好きだったから」 「人と話すこと? それって関係あるの?」 「わたしは『話せば誰とでも分かり合える』なんて夢みたいなことは思ってない し、『嫌いになるから話さない』なんて弱虫になりたいとも思わない。わたしは ね、誰かと『分かり合えない』ことを恐れたりしたくないだけなの。誰かを知る ことを怖がりたくないの。まっすぐとその人を見つめたい。ずっとそう思ってい たかったから」 葵はまっすぐと美凪の瞳を見つめる。 「なんか葵って、なにげに凄いこと考えてるんだね」 「えへへへ。実は単なる好奇心の塊のお喋りさんなだけで、『分かり合える』『 分かり合えない』とかいう前の単なる『雑談』の方がホントは好きなんだけどね」 「それも葵らしいのかな」 「うふふふ」 「ふふふふ」 なぜか二人で笑い合った。そんなにおかしいわけではないけど、でもなんだか 葵は心地のよい気持ちがした。 「あ!」 ふいに葵は何かを思い出す。 「どうしたの?」 「西原先輩まだ門の前で待ってるんだ。わたし何が何でも待っててくださいみた いなこと言っちゃってたから」 「そっか」 美凪はそう呟くと、ふわりと正面から葵に抱きついてくる。 「え?」 「ありがと。おせっかいさん」 耳元でそっと囁かれる。 「あ、はははは……」 葵は苦笑する。 「あとは私達の問題だから。……あの人たちとは話し合ってみるよ。どんな結果 になろうとも」 「うん。答えは美凪ちゃんが出すべきだから。あ……なんかあったら寮に来てい いよ。今週は寮の当直、皆川さんだから。あの人結構話せる人だし無断で泊まっ てっても大丈夫」 「わかった。ありがと」 「でもね。わたしは先輩と仲良くなって欲しい。これは美凪ちゃんの友達として、 西原先輩の後輩としての希望。だって、美凪ちゃんも先輩もわたしは大好きだも ん。理由はそれだけだけどね」 「まあ、長期戦になるかもしれないけど、結果は出すよ」 「そうだね」 葵は美凪の背中へ手をまわし、ぽんぽんと優しく叩いた。 「じゃあ、あの人……兄さんのところに戻るよ」 抱擁をゆっくりと解くと美凪はくるりと背を向ける。 「じゃあ、またね」 「うん。……そうだ」 美凪は何かを思いだしたかのように再びこちらへと向き直る。 「言い忘れてた。誕生日おめでとう」 「ありがと」 「ごめんね、ひどい誕生日になっちゃって、おまけにプレゼントも用意してなか ったし」 「いいよ。覚えててくれただけでも嬉しいよ。それにね、わたし明日は抱えきれ ないほどのプレゼントをもらうの」 「ああ、明日だったね。姉妹三人でクリスマス祝うの」 「うん。だから気にしなくていいよ」 「そっか。わかったよ。じゃあ、よいクリスマスを」 「うん。美凪ちゃんもできればよいクリスマスを」 「努力してみるわ。じゃ」 「またね」 葵は美凪の背を見送ると夜空を見上げた。 さっきまで吹雪いていた天候もようやく落ち着き、今はちらほらと舞うだけと なりつつある。 天を仰ぎながらあと数十分でクリスマスなんだなと考え、ふとその先に存在し ているかもしれない何かを見つめようとする。信仰心があるわけでもないし、奇 跡が起きたわけでもないけれど、葵はなんとなく感謝したくなった。 彼女は両手を胸の前で組み、目を閉じて心の中で呟く。 『わたしたちが出会えたこと、わたしたちが再会できたこと、わたしたちがこれ からいろいろな人たちに巡り会えること、あなたに意図や意志があるのかはわた しにはわからないけど、わたしは生まれてきたことを感謝します。生きてこれた ことを感謝します』 最後にもう一度、目を開いて雪が舞い降りてくる天空を見つめ、今度は声に出 して言葉にする。 「Merry Xmas」 (TRUE END)
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