●長編 #0028の修正
★タイトルと名前
親文書
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
コンビニで買った傘はもう役には立たなかった。強い風と雪で、傘の骨組みは ボロボロに折れ曲がってしまっている。しょうがないと、葵は傘をさすのをやめ る。 11時を過ぎた頃だろうか、葵の耳に何かの金属音が鳴り響いてきた。 なんだろうと思う暇もなく、音はおさまってしまう。 が、しばらくすると再び同じ音が鳴り響く。 葵にはどこかできいたことのあるような音でもあった。 しかし、音源の方向がわからない。遠くから響いてくるような音なので、特定 が難しいのだ。 なんだろうな。そう思った瞬間、再び音が鳴る。 今度は、鮮明に鳴り響いた。澄んだ金属音。 鐘? 葵の記憶が、それと同じ音のものを引き出す。 『この鐘は、人々を幸せに見守るために鳴り響くのだと』 あの時、美凪はそう言っていた。 でも、どこから響いてくるのだろう。近くにそんなものがあったとは思えない。 葵は考える。 風が強くなり、音の間隔はだんだんと縮まってくる。 教会? それしか葵には考えられなかった。だが、教会は少し前に火事で焼失している はず。 そういえば、塔の上の鐘の部分だけ焼け残ったという噂を聞いたことがあった。 もしかして、そういうことなのか。葵は簡単に頭の中で考えをまとめる。 焼け残っている場所があるということは、雨風をしのげる場所があるかもしれ ないということだ。神父の事件も解決されているので、仮に立ち入り禁止となっ ていたとしても、警備の目は緩くなっているはずだ。 もしかして。 葵の中に再び希望が生まれる。 それと同時に彼女は走り出した。 鐘はさっきからうるさいくらい鳴り響いている。 もし、彼女が最初からそこにいなかったとしても、この街にいたとしたらあの 音に気づかないわけがない。 葵は顔に降り注ぐ雪を右腕で庇のようにして遮りながら美凪に教えてもらった 道を歩いていく。 「御陵クン」 途中、西原に呼び止められる。たぶん、彼も同じ事を考えていたのだろう。 「先輩もやっぱり気づきましたか?」 「ああ、これでビンゴならいいけどな」 西原は疲れた顔をしながらも少しだけ微笑んだ。 教会につくと、鐘の音と、それを支えている塔の骨組みに圧倒される。 火事でほとんど骨組みだけになった塔と、未だに澄んだ音色を奏でる鐘。 無人の教会で鐘がなる仕組みはとても簡単なことであった。誰かのいたずらと も葵は最初に考えたが、たいしたことではなかった。火災で骨組みだけとなった 塔は、支える骨組みの耐久性に問題が生じた。そこに強い横風が吹き付け、塔全 体を揺らすかたちになったのだ。そのおかげで、振り子のように鐘が揺られ、そ して鳴り響いているだけなのだ。 「もうちょっとファンタスチックな結末の方が僕は好きだったんだけどな」 鐘の鳴る仕組みを理解したかのように西原はぽつりと言った。 「先輩、そんなことよりあそこ」 葵は、その鐘を見つめるもう一人の人物を指さした。 そこには一人の少女が塔の鐘を見つめている。そう、彼女は美凪に間違いなか った。 「美凪!」 力強く西原は彼女を呼ぶ。しかし、彼女はずっと鐘を見つめているだけだ。 「美凪ちゃん」 たまらなくなって葵も彼女の名を呼ぶ。 風の強さが増したような気がした。鐘の音が再び鳴り響く。 葵は、西原に視線を向けた。 悲しそうな顔。涙こそ流れてはいないが、そこにはいつもの彼の表情はない。 この兄妹の隙間を埋めるものはないのだろうか、葵はそう思うと胸が苦しくな る。 悴んだ手をコートのポケットに入れると何かが触れた。瞬間、それが何である か、何のために美凪を探しているかを改めて思い出す。 「先輩、これ」 葵はポケットの中から、美凪のペンダントを取り出した。 「え? ああ……」 西原はぼんやりと彼女の手の中にあるペンダントを見つめている。 「先輩?」 「ああ、返さなければいけないな。御陵くん頼む」 西原らしくない自信のない言葉。「そんな先輩見たくないよ」葵はそう言い返 したかった。でも、今はそんな事言ってる場合じゃない。 「先輩、これはお返しします。先輩から返した方がいいですよ」 葵はペンダントを西原に渡すと、背中をぽんと軽く叩いた。そして優しく「そ ばに行きましょ」と囁く。 美凪はこちらに気づいているのだろう。しかし、気づいていても振り返る気に はなれないのかもしれない。だったら、彼女のそばにいくしかない。 「美凪。落とし物だ」 西原は彼女の目の前へとペンダントをぶら下げる。 「あなたが持ってたの?!」 ひったくるようにそれを取ると、美凪は胸にそれを抱きしめ、彼の顔を睨むよ うにそう言った。その言葉には少し怒りの感情が込められているようだ。 「美凪ちゃん。玄関先でそれ落としたでしょ。先輩はそれを拾ってくれたんだよ」 葵はなるべくおだやかに言う。 「……」 彼女は何も答えない。 「美凪……」 西原は伝わらない呼びかけに悲しみを抱いているような表情をしている。 「美凪ちゃん風邪ひくよ」 「美凪、御陵クンの言う通りだ。家に帰ろう」 「嫌!」 目をつぶってペンダントを抱きしめたまま彼女は叫ぶ。まるで全てのものを拒 絶するかのように。 そしてふいに彼女は、教会の敷地内へと走っていってしまう。 西原は何も言えず唖然としていた。 「先輩、ここで待っててください。美凪ちゃんをすぐ連れてきますから」 そう言って美凪の後を追いかけようとした葵を西原は「待て」と引きとめる。 「どうしてです?」 彼女は振り返って彼をまっすぐ見つめた。 「もういいんだ」 「何がいいんですか? せっかく美凪ちやんが見つかったんですよ」 「押し付けの家族ごっこなんて、あいつが納得するわけない。人間はもともと孤 独な存在だ」 西原は自嘲気味に呟く。 「でも、家族じゃないですか」 「見せかけのな」 「先輩、それ以上言ったらわたし怒りますよ」 「キミの怒った顔も見てみたいな」 「先輩! こんな時に冗談言わないでください」 「どっちにしろ僕たちの問題だ。それ以上干渉されたら……困る」 葵はすうーっと息を吸い込む。 「干渉したら怒りますか?」 「ああ、いくら御陵クンでもな」 まじめな西原の顔を見て葵は微笑む。 「先輩の怒った顔、わたし見てみたいです」 「御陵クン……」 「これでオアイコですね」 「まったくキミって奴は……」 先輩はため息混じりにそう呟いた。 「わたしはわたしです」 葵は微笑みを維持する。 「キミには負けたよ」 「すぐ戻りますから待っててくださいね。絶対ですよ!」 「キミはお節介焼きだな」 彼にそう言われて、葵は少しだけ恥ずかしくなる。 「誰にでもってわけじゃありませんよ」 言ってしまってから彼女は、さらに恥ずかしさが増したような気がした。 葵が美凪を追って教会の敷地内に入ってすぐ、ちょうど礼拝堂があった場所に 彼女は佇んでいた。 「美凪ちゃん!」 その呼び声に彼女はゆっくりと葵の方をふりかえる。 「葵……ごめん。私の事ずっと探してくれたんだよね」 美凪の第一声は涙に嗄れていた。 「西原先輩もだよ!」 葵は少しだけ怒った表情を浮かべると、美凪は少しだけ瞳を開いてこう言った。 「あ、葵の怒った顔初めて見た。前から見てみたいと思ってたんだ」 彼女のその反応に葵は少しムッとくるが、それと同時に西原の事を思い出し複 雑なおかしさがこみあげてくる。やはり血の繋がった兄妹なのだろう。 それでも葵は表面上は怒ったままでいた。 「西原先輩、ものすごく心配してたんだから!」 「そんなのわかってる」 ぼそりと美凪は答える。 「わかってないよ!」 「葵には悪いと思っている」 「違う! わたしのことなんてどうでもいいの。西原先輩の」 彼女のその言葉を遮るように、美凪は落ち着きながらも強く呟く。 「葵。あの人の心配は義務感のようなもの。戸籍上は、いちおう家族だからね」 美凪は、何を悲観しているのだろうか。そう葵は考える。 やはり彼女の問題の解決には、時間をかけるしか方法はないのか。 でも……。葵は思う。そんな二人を見ているのはつらい。本人たちだってそう に決まっている。だからおせっかいと言われても彼女はなんとかしてやりたかっ た。 「美凪ちゃんは多分、『家族』ってことにこだわりすぎているんだと思う。親だ とか兄妹だとかそんなの意識する前にお互いが理解し合うことが大切だと思うよ。 だって一緒に暮らしているんでしょ。朝、目を覚ましたら「おはよう」って言い 合うのが自然でしょ」 「それができたら苦労しないよ」 「美凪はわざわざ苦労する道を選んでると思うよ」 「そんなこと言われても……」 「あのね。言ったでしょ。お互いを理解する事が大切だって。本当に分かり合え ないっていうのなら「分かり合えないことがわかるまで」とことん話合うべきだ とわたしは思う。なんの為に言葉はあるの? 伝えることをやめちゃったら、そ れはどうあがいたって何も伝わらないに決まってるじゃない」 「そんな気になれないんだから……しょうがないじゃない」 美凪との会話は平行線。意地を張っているのはわかっていた。だからこそ葵は おせっかいを焼きたかったのだ。 「でもね。西原先輩は美凪の事をものすごく気を遣ってくれていると思う。こん な言い方良くないけどね、ほんとだったら先輩の方が辛いと思うよ。もし、美凪 ちゃんが先輩と逆の立場だったらどうしてた? 先輩の事を優しく受け入れてく れた?」 「それは……」 「卑怯な例えかもしれないけどね。でもさ、先輩って変わってるけどねじ曲がっ た考えを持つ人じゃないでしょ。美凪ちゃんにはそれがわからない? そうだね ……たぶん、わからないんだよね。怖いんだよね。だから、話し合おうとしない んだよね」 「怖い……?」 「相手がどんな人かわからない。わたしだってそれは怖いんだ。例えば、最初美 凪ちゃんと親しくなる前は、わたしはあなたが怖かったんだよ。でもね、それは 美凪ちゃんをよく知らなかったからだと思う」 「そうなの? そういえばそんな感じだったかもね葵は」 「だから、美凪ちゃんと話すようになって、美凪ちゃんのことをどんどん知って いくうちにわたしは美凪ちゃんのことを好きになっていくことができたんだ。こ の気持ちわかる?」 「わからなくはないけど……でも、私は葵のこと怖くはなかったよ」 「でも、初めてお話したとき美凪ちゃん言ったよね。『私の敵かも』って。今の 美凪ちゃんにとって私は敵?」 「それは違うけど……」 「そう、ありがと。もしまだ『敵』とか言われちゃったらどうしようかと思った よ」 葵は下を向いてくすりと笑う。そして、真面目な顔で向き直り話を続ける。 「敵じゃないってことは、少なくとも昔の美凪ちゃんは私のことを何にも知らな かったからでしょう? だけど、わたしと話すことによってそれは変化した。つ まりそういうことなんだよ。あのね、美凪ちゃんと先輩……お兄さんのことって いうのは、何度も言うようだけどものすごく単純な問題だと思うんだ」 「……」 美凪は黙り込むが、葵はそれを気にせず彼女に語りかける。 「問題が複雑になっているのはね。みんながみんな現状を維持し続けようとして るからだと思う」 「維持?」 「先輩はね、美凪ちゃんに遠慮してなるべく干渉しないようにしているの。でも これは美凪ちゃんにこれ以上嫌われるのがイヤだからだと思う。必要以上に干渉 したら問題が悪い方向へいってしまうんじゃないかって恐れているんじゃないか な」 「……」 「で、美凪ちゃんの方は、先輩の事を知ろうとしない。知ってしまったら、今よ りももっと嫌いになってしまうんじゃないかって。……違う? 美凪ちゃんはそ れが怖いんでしょ?」 「私は怖くなんか……」 「嘘。美凪ちゃんは怯えている。じゃあなんでこの場所にいるの? なんで逃げ たりなんかしたの?」 「だって、教会がなくなって……お母さんの形見のペンダントまでなくしちゃっ て」 「そんな状況になって不安なのはわかるよ。でもそれは、後から付け足した理由 なんじゃないかな?」 「違うよ」 「西原先輩も美凪ちゃんのお父さんも美凪ちゃんの事を追い出そうとした?」 「違うけど……」 「じゃあ、西原先輩とかお父さんの事とか大嫌いなの?」 「たぶん……」 このままではいつまでたっても話は終わらないだろう。 葵はすぅっと息を吸い込む。
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